『タルピオット-イスラエル式エリート養成プログラム』(石倉洋子/ナアマ・ルベンチック、トメル・シュスマン監修、日本経済新聞出版社、2020)を読了。ひさびさにイスラエル映画を見たついでに、この機会につづけて読む。
イスラエルが「スタートアップ・ネーション」であることは、いまや日本のビジネスパーソンにとっても「常識」となっていると思うが(・・まだその認識のない人は時代遅れですよ!)、なぜイスラエルがそうなったのか、そのイスラエルではどのような教育システムが行われているのか、手っ取り早く知るには好著である。
そのカカギが本書のタイトルになっている「タルピオット」(Talpiot)にあるというのは、本書のテーマである。
周囲を敵に囲まれているイスラエルが徴兵制の国で、しかも男女ともに兵役義務がある(男子は3年、女子は2年。さらに予備役も)ことも「常識」だと思うが(・・同様の環境にあるシンガポールも徴兵制だが、兵役義務は男子のみ)、国防軍(IDF)がハイテクベンチャーの起業家養成のゆりかごとなっている。サイバー諜報部隊の「8200部隊」が、イスラエルを世界最先端のセキュリティ技術国としている。
じつは私もこの本をリアル書店でも見つけるまで「タルピオット」については知らなかった。
「タルピオット」とは、1979年に開始された、兵役期間中に実行される「エリート養成プログラム」である。高校卒業後の18歳から3年間訓練が行われる。 軍事訓練を行いながら徹底的な理工系の教育とリーダーシップ・トレーニングが行われる訓練コースだ。4人に1人が脱落する厳しさだという。
だが、そんな過酷な訓練をクリアした卒業生たちの連帯感が強いのは当然だろう。訓練終了後は6年間の兵役義務があるが、この人間関係が、つぎからつぎへとハイテク・ベンチャーを生み出す源泉となっているのだ。
詳しくは本文を読むとわかるが、なるほどこれはすごい教育だなと思う。徹底的に自分のアタマで考えて考え抜き、しかも仲間と徹底的な議論をつうじ、協同して問題解決にあたる濃縮された環境。どんな状況にあっても、未来を切り開いていくイノベーション力が培われるのは当然だ。
日本も昔はそういう側面があったと思うのだが、甘ったれた「ゆとり教育」の普及でダメになってしまっているような気がしてならない。もちろん、日本とイスラエルとでは、おかれている条件も違うが、18歳という若くて可塑性の高い時期に、濃縮された教育訓練を行うことの意味は、強調しても強調しすぎることはない。
とかく易きに流れがちな現在の日本社会だが、「コロナ後」の世界では、自分を律して、自分に厳しい態度で生き抜いていく必要があると思うのである。
目 次
はじめに
第1章 「中東のシリコンバレー」イスラエル第2章 「スタートアップネーション」の誕生第3章 イス ラエルを支える「エコシステム」の秘密第4章 なぜ、日本企業にイスラエルのスタートアップが必要なのか第5章 イスラエルスタートアップと組むヒント第6章 イスラエルとの協働から日本を変える
おわりに参考文献
著者プロフィール石倉洋子(いしくら・ようこ)一橋大学名誉教授。バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院経営学博士(DBA)修了。1985年からマッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルティングに従事した後、1992年青山学院大学国際政治経済学部教授、2000年一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授、2011年慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材ナアマ・ルベンチック(Naama Rubenchik)1992年イスラエル生まれ。高校を卒業後、3年間イスラエル国防軍のトップ情報収集部門の「8200部隊」で勤務。国防軍では、情報収集コースのインストラクターに選ばれる。退役後テルアビブ大学で経済及び東アジア研究を行い、2016年に卒業。在学中、コンサルティング会社のGTM戦略部門でマーケターと戦略アソシエイトとして働いた。2016~18年の間、在イスラエル日本大使館に勤め、2018年に文科省の奨学金で京都大学大学院経済学研究科に留学。2019年からイスラエルに戻りフリーのコンサルタントとして活躍。トメル・シュスマン(Tomer Shussman)イスラエル国防軍のエリート教育集団、タルピオット・プログラム元チーフインストラクター兼副司令官。テルアビブ大学物理学修士。2012年度タルピオット・プログラム最優秀士官賞受賞。イスラエル国防軍シニア・リサーチャー兼プロジェクト・マネージャーを経て、2018年7月までタルピオット・プログラムチーフインストラクター兼副司令官としてプログラムを統括。現在ヘルスケア分析関連スタートアップ企業を設立中。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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