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2022年1月7日金曜日

書評『宇宙災害 ー 太陽と共に生きるということ』(片岡龍峰、化学同人DOJIN選書、2016)ー 太陽系の惑星に生きる地球人は、太陽の圧倒的影響を受ける「宇宙環境」に生きているのだ

 

『宇宙災害-太陽と共に生きるということ(DOJIN選書)』(片岡龍峰、化学同人、2016)を読んだ。1976年生まれの宇宙空間物理学の専門家が書いた教養書である。 

太陽系の惑星に生きる地球人は、太陽の圧倒的影響を受ける「宇宙環境」に生きているのだということを、つねに意識していなくてはならないと、あらためて考えさせられる。

「宇宙災害」とは、本書に付録としてつけられた「用語集」によれば、以下のようになる。

太陽フレア、太陽プロトン、コロナ質量放出といった宇宙環境の大きな変動が地球へ作用することで生じる、経済、社会、国家の安全に必要不可欠な電力、健康、交通などへの重大な悪影響のこと」である。 付け加えれば、通信途絶、衛星墜落、宇宙デブリ事故、隕石落下、オゾン層破壊、放射能被ばく、世界停電なども「宇宙災害」に含まれる。 

「あとがき」にも記されているが、米国はオバマ政権時代の2016年10月13日に大統領令で「宇宙災害」に取り組むことを表明ている。その後、トランプ大統領時代には「宇宙軍」が創設されていることは記憶にあたらしい。 

著者の整理に従えば、宇宙から攻めてくるのが、宇宙塵、紫外線、宇宙線地球サイドで受けて立つのが、地球の大気、地磁気、そして太陽風。地球は太陽系の惑星であり、そのメリットとデメリットの両面を考えなくてはならないのだ。 

この本は、「宇宙災害」のそれぞれについて解説したうえで、「宇宙天気予報」や「宇宙利用」について、著者の研究歴を踏まえて、豊富な図表とともに、マンガやSF映画の話題をたくさんからめて語っている。高校生が読むと、宇宙への意欲がかき立てられるだろう。もちろん元高校生も同様だ。 

最後の章では、文理融合の観点から、過去の「宇宙災害」について研究する方向を示していて興味深い。「3・11」後に活発してきた過去の大地震や大津波の研究だけでなく、オーロラなどについても藤原定家の日記の記述など、歴史学との共同研究が進展中なのだ。 

個人的には、もっと早く読んでおけばよかったなと思う。太陽黒点が観察されず、太陽活動が異常なまでに停滞していた17世紀の「マウンダー極小期」にかんする使える図表が掲載されていたからだ。拙著『世界史から読み解く「コロナ後」の現代』にぜひ引用したかったところだ。 

副題にある「太陽と共に生きるということ」を日々意識して生きるべきなのだ。

恒星の太陽は、惑星の地球に恵みをもたらしてくれる慈愛に満ちた存在だが、一方では災害をもたらす荒ぶる神という存在でもある。両義的な存在なのだ。

太陽と地球の関係は、太陽が消滅しない限り、続いていくのである。 


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目 次
はじめに 
第1章 宇宙災害
 通信途絶
 衛星墜落
 デブリ事故
 隕石落下
 オゾン層破壊
 放射線被ばく
 世界停電
第2章 大地から太陽系の果てまで
 第一の槍:宇宙塵
 第二の槍:紫外線
 第三の槍:宇宙線
 第一の盾:大気
 第二の盾:地磁気
 第三の盾:太陽風
 オーロラと三つの盾
 放射線帯の電子
 磁気嵐の陽子
 太陽の心拍
第3章 宇宙天気予報
 太陽に邪魔された実験
 宇宙天気予報の現場へ
 宇宙の寒冷前線と台風
 地下の水に守られた日本
 オーロラと日本の間に
 太陽の爆発に次ぐ爆発 パイロットの被ばく
 電子の集中豪雨
第4章 宇宙と生命
 動物と磁場
 マウンダー極小期と魔女狩り
 大量絶滅
 宇宙線雲仮説
 星雲の冬
第5章 宇宙利用
 宇宙就活
 スペースデブリの撃墜
 月面基地
 アポロの教訓
 テラフォーミング
  塵の悪魔
 伊達政宗の羅針盤
  将来の宇宙災害に向けて
 あとがき
 さらにくわしく知りたい人へ
用語集


著者プロフィール
片岡龍峰(かたおか・りゅうほう)
1976年、宮城県仙台市生まれ。 2004年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。 情報通信研究機構、NASAゴダード宇宙飛行センター、名古屋大学太陽地球環境研究所で学振特別研究員、 理化学研究所基礎科学特別研究員、東京工業大学理学研究流動機構特任助教を経て、 現在、国立極地研究所准教授。 専門は、宇宙空間物理学。 2015年、文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。 著書に『オーロラ! 』(岩波書店)がある。


<関連サイト>

・・奇しくもおなじことを考えていた投資家が、しかもおなじ日に「宇宙天気予報」の話を書いていたことを後から知った(2022年1月12日 記す)


(項目新設 2022年1月12日)


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