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2022年6月23日木曜日

書評『ANTHRO VISION(アンスロ・ビジョン)人類学的思考で視るビジネスと世界』(ジリアン・テット、土方奈美訳、日本経済新聞出版社、2022)ー「見えないもの」を視る、「聞こえない声」を聞くための思考のフレームワークとは

 

たいへん面白い本だった。知的ビジネスパーソンのためのビジネス書というべきだろう。昨年2021年に原書から出版されるのを知って、ぜひ読みたいと思っていた。そうこうしているうちに、ことしの1月に日本語訳がでたので、翻訳版で読むことにした。 

帯には、「なぜ経済学やビッグデータ分析は問題解決に失敗するのか。」という問いが書かれている。その問いに対する著者の答えが「ANTHRO VISION」すなわち「人類学的思考」である。 

「ANTHRO」とは「Anthropo-logy」(人類学)の略称であるが、もともとはギリシア語で「人間」を意味する「Anthropo」からきている。「Anthropo-cene」は「人新世」、「Anthropo-sophy」は「人智学」である。 データの背後にある「人間」を見よ、というメッセージでもある。

全体を「俯瞰」する「鳥の目」だけでなく、個別具体的な事象を「観察」する「虫の目」の必要性である。この両者が必要なのだ。 

「アウトサイダー(=外部観察者)であって、かつインサイダー(=中の人)」である。あるいは、「インサイダーでありながら、アウトサイダーとして距離をとって見る」という視点でもある。 

「相異なる2つの視点」を持ち合わせることなのだ。 

(英国版の副題は、How Anthropology Can Explain Business and Life)


人類学の博士号をもつ著者は金融ジャーナリストとして長銀破綻を本にしている

著者は、英国のFT(フィナンシャル・タイムズ)の記者で、現在はFT米国版の編集委員会委員長を務めている。30年の経験をもつベテラン・ジャーナリストである。 

そんな著者がこのような本を書いたのは、ケンブリッジ大学で「社会人類学*」で博士号(Ph.D)を取得した人でもあるからだ。

ソ連崩壊前、中央アジアのタジキスタンでのフィールドワークがその出発点にある。 小さな村に3年暮らして、社会主義政権下のムスリムたちの婚姻慣習を観察して博士論文を書き上げた。そんなバックグラウンドの持ち主なのである。

*英国では「社会人類学」、米国では「文化人類学」という。先日亡くなった中根千枝博士は「社会人類学者」を名乗っていた。

この本は、人類学者として出発した著者の半自叙伝といった形をとっているが、読者もまた著者とともに、この30年間の激変を振り返ることにもなる。 

ソ連崩壊とグローバリゼーション、リーマンショックなどの金融危機、インターネットが社会基盤となってスマホとSNSが普及、地球環境問題が待ったなしの状態となり、パンデミックにも襲われた。ビジネスと社会をめぐるコンテクストの変化はすさまじい。

そんななかでも、「第10章 モラルマネー-サステナビリティ運動が盛り上がる本当の理由」は読み応えがある。ソ連崩壊によって東西問題が終わり、環境問題の観点から南北問題が浮上したのが1990年代のことだ。持続可能性(サステイナビリティ)が中心テーマとなってきた。 

著者の名前を知ったのは、2003年に出版された『Saving the Sun: A Wall Street Gamble to Rescue Japan from Its Trillion-Dollar Meltdown』というノンフィクションを読んでからである。  

その後、『セイビング・ザ・サン-リップルウッドと新生銀行の誕生』というタイトルで翻訳されたこの本は、バブル経済崩壊後の日本の金融危機を、長銀(いまは亡き日本長期信用銀行。R.I.P.)を中心に描いたものだ。著者は、FT記者として5年間日本に駐在経験をもっている。  

そう考えると、著者は金融ビジネスを中心に日本社会をフィールドワークしていたこのになるわけだ。ただし、その時点では著者は人類学者としてのバックグラウンドは公にしていなかった。


■「異文化マネジメント」と重なる問題意識

「第2章 カーゴカルト-インテルとネスレの異文化体験」には、ネスレ日本の「キットカット」の事例が登場する。「きっと勝つど」である。この事例は、日本のビジネスパーソンにとってはなじみ深いものであろう。 

この例でもわかるように、著者のいう「人類学的思考」は、ある意味では「異文化コミュニケーション」や「異文化マネジメント」と重なり合う部分がある。

「第5章 企業内対立ーなぜGMの会議は紛糾したのか」などは、その最たるものだ。

「会議」の意味づけがことなる出身者があつまった合弁企業における事例だが、おなじ会社のなかでもよく経験するコミュニケーションギャップである。 部門による違いは、ときにコミュニケーションを阻害する要因になりかねない。

(米国版の副題は、A New Way to See in Business and Life)


■欧米企業では人類学者を多用している!

読んでいて驚かされたのは、米国を中心とした欧米企業では人類学者を雇用しているケースがじつに多いという事実だ。 

「見えないものを視る、聞こえない声を聞くため」に人類学の専門教育を受けた研究者を雇用しているのである。ハイテク企業の設計者やエンジニアの直線的思考の盲点を補うための手段だという。 

日本企業でも、かなり昔から顧客を知るため、現場レベルでさまざまな手法を工夫し実践してきたが、さすがに人類学で博士号を取得した研究者を雇用する習慣はないようだ。 

欧米社会と日本社会では、「博士号」という「学位」の意味合いと位置づけが異なるためだろう。これじたいが社会学や人類学の研究テーマになりうることだ。「センスメーキング」のテーマでもある。 

個人的には、1980年代の社会科学系の大学で学生時代を送ったわたしは、当時流行していた「ニューアカ」(・・ニューアカデミズムの略。中心にいたのは浅田彰や中沢新一)の影響もあって、文化人類学者の山口昌男の本を中心に、人類学関連の本はかなり読んできた。専攻は社会人類学にするか、社会言語学にするか迷ったくらいだ。最終的に社会史(歴史学)にしたのではあったが。 

大学卒業後は、自分自身は研究者ではないので論文は書かないが、マインドセットとしては、ビジネス社会をフィールドワークしてきたつもりだ。「インサイダー」でありながら「アウトサイダー」の視点をもちながら。

そんなこともあって、本書に登場する人類学者の名前や人類学の専門タームにはなじみがあって、大いに楽しみながら読んだのだが、おそらく一般のビジネスパーソンにとっては、はじめて聞く名前や概念ばかりだろう。 

分が知らない「未知」の遭遇は、それじたいが「異化」効果をもたらすものだ。とはいえ、人類学的思考をビジネスと社会を理解するためのツールとして、使いこなすには不親切というべきではないか。 

日本語版には「人名解説」や「用語解説」を付加価値としてつけるべきだったのではないか。日本語訳がこなれた訳文になっているのに、もったいないことだ。


■「データ分析と人類学」の組み合わせも必要に

スティーブン・ジョブズの「テクノロジーとリベラルアーツの接点」が重要だというフレーズは、もっぱら製品開発にかんするものだが、変化のスピードが激しい「VUCAの時代」には、ビジネスと社会を理解するためには、著者がいうように「データ分析と人類学」の組み合わせも必要となる。 

もちろん、かならずしも「人類学」でなくてもいい。著者もまた、広い意味での「社会科学」として、「社会学」や「人類学」、「エスノグラフィー」をあげている。個々の人間を見ることが必要であり、「人間と人間の関係性」を見る視点が重要なのだ。 

ビジネスもまた、広いコンテクスト(=文脈)に位置づけて考える必要がある。社会のなかの一つの構成要素として存在しているからだ。 

「応用人類学」ともいうべき本書を読んで、ビジネスを異なる視点で見る習慣を身につけるキッカケにしてほしいものである。 

と、ここまで書いて、わたしの著者デビュー作『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』(こう書房、2012)のテーマがまさにそれであったことに、あとから気がついた。自分が実践してきたことは、ジリアン・テット氏の主張とまったくおなじではないか!


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目 次
まえがき もうひとつの「AI」、アンソロポロジー・インテリジェンス 
第1部 「未知なるもの」を身近なものへ 
 第1章 カルチャーショック-そもそも人類学とは何か
 第2章 カーゴカルト-インテルとネスレの異文化体験
 第3章 感染症-なぜ医学ではパンデミックを止められないのか
第2部 「身近なもの」を未知なるものへ
 第4章 金融危機-なぜ投資銀行はリスクを読み誤ったのか
 第5章 企業内対立-なぜGMの会議は紛糾したのか
 第6章 おかしな西洋人-なぜドッグフードや保育園におカネを払うのか
第3部 社会的沈黙に耳を澄ます
 第7章 「Bigly」-トランプとティーンエイジャーについて私たちが見落としていたこと
 第8章 ケンブリッジ・アナリティカ-なぜ経済学者はサイバー空間に弱いのか
 第9章 リモートワーク-なぜオフィスが必要なのか
 第10章 モラルマネー-サステナビリティ運動が盛り上がる本当の理由
結び アマゾンから Amazon へ―誰もが人類学者の視点を身につけたら
あとがき 人類学者への手紙
謝辞
参考文献
原註


著者プロフィール
ジリアン・テット(Gillian Tett)
ケンブリッジ大学にてPh.D.取得(社会人類学専攻)。1993年から “フィナンシャル・タイムズ” 紙にて記者として活躍、ソ連崩壊時には中央アジア諸国を取材した。1997年から2003年まで同紙東京支局長。その後、英国に戻り同紙の名物コラム「LEXコラム」の副責任者。現在はFT紙アメリカ版の編集長であり、FT紙有数のコラムニストでもある。2007年には金融ジャーナリストの最高の栄誉「ウィンコット賞」を、2008年には「ブリティッシュ・ビジネス・ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を、また2009年には『愚者の黄金―大暴走を生んだ金融技術』で「フィナンシャル・ブック・オブ・ジ・イヤー賞」を、金融危機の報道でイギリス新聞協会の「ジャーナリスト・オブ・ジ・イヤー賞」を受賞している。そのほか、ベストセラーになった『サイロ・エフェクト』がある。(各種資料をもとに編集)。


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