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2018年1月14日日曜日

書評 『大村智-2億人を病魔から救った化学者-』(馬場錬成、中央公論新社、2012)-「旬」を過ぎた本にも価値はある


2015年度のノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士の実録伝記を先週読んだが、じつに面白かった。読んで元気が出る内容だ。

タイトルは、『大村智-2億人を病魔から救った化学者-』(馬場錬成、中央公論新社、2012)。著者は、読売新聞社の科学記者だった人。知財や産学連携などに詳しいようだ。

出版年に注目してほしい。出版は2012年、ノーベル賞受賞は2015年。先読みをしたわけではない。独創的な研究を行い、世界のトップレベルの研究をリードし、日本ではいち早く知的財産の重要性に着目した研究者で、産学連携モデルと特許収入によって研究室の独立採算性を確立した人について、ぜひ世に知ってほしいという熱意から生まれた本なのである。

そんな本を、さらにノーベル賞受賞で世の中が湧いていた時から2年もたった後に読む。つまり出版から5年もたっている。だが、「旬」を過ぎた本にも価値はあることが読むとよくわかる。というのも、この本は、ノーベル賞受賞というニュースから生まれた便乗本ではないからだ。

ニュース報道されていたので、農家の長男で、そもそも大学に行く予定がなかったという大村博士の非エリートのジグザグ人生のあらましはだいたい知っていたが、それでも285ページの単行本でディテールまで知ると、人生の岐路でいかなる選択を行ったか、その動機や意志決定の中身も詳しくわかる。また、趣味や寄り道がいかに発想の幅を拡げてくれるかについても納得がいく。専門×雑学が「アタマの引き出し」の源泉になることをよく示している。

大村博士の専門である化学(ケミストリー)にかんする話は出てくるが、著者がかみくだいて説明してくれているので心配することない。ブユが媒介するオンコセルカ症という失明を招く眼病から、アフリカの2億人を救ったのがイベルメクチン。このように、どうしてもカタカナの化学物質名がたくさん登場するが、それは説明のために仕方ないことだ。

とにかく読んで元気の出る本。50歳を超えたこの歳で読んでも面白いのだから、若い人が読んだら、元気だけでなく勇気ももらえるはずだと思う。





目 次

プロローグ
第1章 自然と親しんだ小学生時代
第2章 スポーツに明け暮れた青春時代
第3章 高校教師から研究者に転身
第4章 北里研究所に入所して鍛えられる
第5章 アメリカの大学での研究生活
第6章 企業から研究費を導入して研究室を運営
第7章 エバーメクチンの発見
第8章 大村研究室の独立採算制
第9章 研究経営に取り組む
第10章 活発な研究活動と外国での評価
第11章 北里研究所メディカルセンター病院の建設
第12章 北里研究所とコッホ研究所
第13章 科学と芸術の共通性から女子美術大学の理事長へ
第14章 人材育成で社会貢献する大村研究室の活動
あとがき
大村智略歴

著者プロフィール
馬場錬成(ばば・れんせい)1940年東京都生まれ。東京理科大学理学部卒業後、読売新聞社入社。編集局社会部、科学部、解説部を経て1994年から論説委員。2000年11月に退職後、東京理科大学知財専門職大学院(MIP)教授、早稲田大学客員教授、特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、文部科学省・科学技術政策研究所客員研究官、産学官連携戦略展開事業推進委員会委員、学佼給食における衛生管理の改善に関する調査研究協力者会議委員などを務める。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)





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書評 『「できません」と云うな-オムロン創業者 立石一真-』(湯谷昇羊、新潮文庫、2011 単行本初版 2008)-技術によって社会を変革するということはどういうことか?

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「史上空前規模の論文捏造事件」(2002年)に科学社会の構造的問題をさぐった 『論文捏造』(村松 秀、中公新書ラクレ、2006)は、「STAP細胞事件」(2014年)について考える手助けになる

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世の中には「雑学」なんて存在しない!-「雑学」の重要性について逆説的に考えてみる



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2010年11月1日月曜日

書評『グラハム・ベル空白の12日間の謎 ― 今明かされる電話誕生の秘話』(セス・シュルマン、吉田三知世訳、日経BP社、2010)― 電話発明の真相と特許出願制度をめぐるスリリングな歴史探偵ノンフィクション





電話発明の真相と特許出願制度をめぐるスリリングな歴史探偵ノンフィクション

 電話といえばグラハム・ベルが発明したもの、「ワトソン君、ちょっと来てくれたまえ」が第一声となった電話開通の瞬間、これは米国だけではなく、日本も含めて世界中で "常識" となっている発明物語のひとこまだ。

 ところがこれが真実ではなかったということになれば、いったいどうなるだろう。

 著者自身、この発明物語がもしかしたら真実ではないのではないかと疑問を持ち始めた瞬間から、当惑にみちた思いがなかなか払拭できなかったようだ。

 そりゃそうだろう、電話のベル(bell)と同じつづりのベル(Bell)であってこそ、電話発明の物語にふさわしいのだが、これがほんとうの発明者であるグレイ(Glay)であったとしたら・・・。

 米国では巨大企業 AT&T はグラハム・ベルの特許がベースになってできたベル・テレフォン・カンパニーがその出発点にある

 ベル研究所を有する、この巨大企業の米国経済社会にしめてきたプレゼンスの大きさを考えれば、グラハム・ベル以外に電話の発明者がいたというストーリーは当然のことながら容認されざるものであっただろう。

 著者以前にもグレイの名誉回復を図るべくさまざまな試みがあったのにもかかわらず、本書の出版後も現在にいたるまで歴史の書き換えが行わるように見えないのは、ある意味では仕方がないといわざるをえないのかもしれない。

 本書は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のディブナー研究所という、科学技術史専門の研究所で一年間の研究生活を送ることになったジャーナリストが、電話の発明者ベルと発明王エジソンについて調べ始めたところ、ふとしたことからベルの電話発明にかんする疑惑を知ったことから始まる物語だ。著者自身の真相探求と発見のプロセスを、ベルによる電話 ”発明” とパラレルに描いた推理小説のようなノンフィクション作品である。

 技術史においては発明品である技術とその製品のみならず、特許出願制度が濃密にからんでことを考慮にいれなければならない。知的財産である技術を特許という制度で守ることによって、技術をカネに替える仕組みを保証しているのが資本主義である。ここにこそ、「グラハム・ベル空白の12日間の謎」のすべてが隠されているのだ。発明家ベルの思惑とは別に、その特許出願にかかわっていた、カネにたいする嗅覚の鋭い弁護士こそ、ベルの婚約者の父親なのであった!

 本書は人物を中心とした歴史真相探求ものであり、また発明そのものと知的財産を保護する特許出願制度、技術の商業化と一般への普及、そして特許をめぐる法廷闘争もまたその主人公である。ドキドキしながら読める、スリリングな技術史の本としてぜひ薦めたい。

 歴史のもつ醍醐味を十分に味あわせてくれるエンターテインメントにもなっているすぐれたノンフィクション作品である。


<初出情報>

■bk1書評「電話発明の真相と特許出願制度をめぐるスリリングな歴史探偵ノンフィクション」投稿掲載(2010年10月29日)
■amazon書評「電話発明の真相と特許出願制度をめぐるスリリングな歴史探偵ノンフィクション」投稿掲載(2010年10月29日)


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目 次
伝言ゲーム
突然の飛躍
やっかいな問題
ベルの生い立ち
五里霧中
策士の加担
評判の良い剽窃者
密かな思い
抵触
先立つ発明者たち
電話を盗む
よからぬつながり
一本の糸でつながった名声
延期された発表
チームプレー
討論への招待


著者プロフィール
セス・シュルマン(Seth Shulman)
サイエンス・ライター。ハーバード大学卒業。The Atlantic, Discover, Nature, Parade, Rolling Stone などに記事を寄稿(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



<書評への付記>

 なんと驚くべきことに、MIT の「ディブナー研究所」(The Dibner Institute for the History of Science and Technology)は、著者の「謝辞」でも言及されているように、2006年に閉鎖されたらしい。

 現在は、ライブラリーと特別奨学金プログラムはカリフォルニアのハンチントン・ライブラリーに移管されたとある。

 閉鎖の理由はわからないが、継続して研究所運営に必要な予算確保ができなかったということだろう。

 「歴史じゃ食えない」ということか。残念なことだ。

The Burndy Library has moved and the Dibner Institute has closed.


PS 読みやすくするために改行を増やした。 (2014年2月5日)


<関連サイト>

AT&T(旧社名 The American Telephone & Telegram)公式サイト(英語)

AT&T 日本語サイトはカリフォルニア州のみ(中文や韓国語は適用州多数)


<ブログ内関連記事>

書評 『ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語-』(ヴィトルト・リプチンスキ、春日井晶子訳、ハヤカワ文庫NF、2010 単行本初版 2003)・・技術史物語としての機械部品「ねじ」の歴史

書評 『国家と音楽-伊澤修二がめざした日本近代-』(奥中康人、春秋社、2008)-近代国家の「国民」をつくるため西洋音楽が全面的に導入されたという事実
・・「特筆すべきは、伊澤修二が電話の発明者グラハム・ベルから「視話法」を学んだという事実だ。日本語の発音統一のために、音声としての言語に注目していたためである。音声学に基づいた日本語の発音の統一を行うことを想定していたからだ」 グラハムと日本人(伊澤修二と金子堅太郎)の話は『グラハム・ベル空白の12日間の謎』にも登場する

シリコンバレーだけが創造性のゆりかごではない!-月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2012年1月号の創刊6周年記念特集 「未来はMITで創られる」 が面白い
・・「MITメディアラボ全面協力」の特集。

(2014年2月5日 情報追加)


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