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2022年5月11日水曜日

映画『AK-47 最強の銃 誕生の秘密』(2020年、ロシア)― カラシニコフという根っからの技術屋の半生

 

ことし2月のことになるが、映画『AK-47 最強の銃 誕生の秘密』(2020年、ロシア)を amazon prime video で視聴。原題は「カラシニコフ」(ロシア語)。 

旧ソ連で開発され、現在でもテロリスト御用達の自動小銃が AK-47。その開発ストーリーと根っからの技術屋だったミハイール・カラシニコフの半生を描いた映画だ。 

中央アジアのアルタイ出身のロシア人生まれ故郷はカザフスタンのアルマトイ近郊の農村。つまり、エスニシティはスラブ系のロシア人で当時はソ連国民であったが、現在ではロシアとは別の国となったカザフスタンの人ということになる。

「大祖国戦争」とスターリンが命名して「愛国心」をかき立てた「独ソ戦」。その最前線で負傷し、いやというほどドイツ製兵器の優秀さを痛感させられたカラシニコフ軍曹。愛国心がつよく、専門教育は受けてないが根っからのメカ屋であった彼は、連発式の自動小銃の製作に執念を燃やし、完成するまでは故郷に帰ることもしない。




「故郷に錦を飾るまでは帰郷しない」という、明治時代の日本人のようなメンタリティの持ち主であったのだ。この映画が昭和30年代に製作されて日本で公開されていたなら、間違いなくヒットしたのではないかな?

戦場という実践(いや実戦)の場で扱いやすく、耐久性のある自動小銃を開発することが祖国ソ連のためになるという信念を貫き、失敗を重ねながらもついに AK-47 を完成させたのは1947年のこと。すでに戦争は終わっていた。 総計2,600万人(!)も戦死したとされる「独ソ戦」には間に合わなかったのだ。

ソ連崩壊後も使用され続けているので、「AK-47 といえばテロリスト」という連想が働くが、この映画ではそんなことは一言も触れられない。あくまでもロシアの「愛国映画」なのだ。 

とはいっても、よくできたエンタメとして楽しめる戦闘シーンはほとんどなく、設計と試作品つくりの繰り返しが映画の内容だからだ。エンジニアの開発ストーリーに恋愛をからめたヒューマンドラマでもあった。 





*******

以上、視聴後に記した感想に加筆修正したのだが、映画を視聴したのが2022年の「2月24日」以前のことであり、アップするタイミングを失してしまっていた。

隣国ウクライナに軍事侵攻したロシアは、いま国内で「愛国心」を喚起すべくさまざな政策を行っているが、「独ソ戦」とは違って「ウクライナ侵略」は、祖国防衛戦争でも正義の戦いでもない。むしろ、攻め込まれた側のウクライナでこそ、侵略者ロシアに対する「愛国心」がかき立てられている。あるいはナショナリズムといっていいかもしれない。
 
「禍福は糾える縄の如し」というわけではないが、ロシアの行為はまさに「天につばする」ものにほかならない。愛国心をかきたてただけに、そのしっぺ返しは取り返しのつかないものになるのではないか?
 
ただし、この映画『AK-47 最強の銃 誕生の秘密』という映画は、開発者のヒューマンドラマとして視聴したらいい。とくにイデオロギー色はないエンテメ作品である。


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2014年12月30日火曜日

『前田建設ファンタジー営業部』(前田建設工業株式会社、幻冬舎、2004)で、ゼネコンの知られざる仕事内容を知る


「前田建設ファンタジー営業部」というのは、準大手ゼネコンの前田建設工業株式会社(MAEDA CORPORATION)の一部門という設定だが、もちろん架空の部署である。前田建設のウェブサイトにのみ存在するバーチャルな部署である。

大型の建設工事現場そのものは目にすることがあっても、「関係者以外立ち入り禁止」になっているので、たいていの人は中で何が行われているか見たことはないだろう。

しかも、建設工事全般を仕切っているゼネコンの仕事じたい、ある種の固定したイメージ(・・それもかならずしも好ましくないもの)がまとわりついている割には一般人にはあまり知られていないのは現在でも変わらないと思う。

その外からはわかりにくいゼネコンの仕事を、アニメの名作に登場する構造物の予算(=工費)と工期にかんする「見積もり」を行う作業をつうじて、理解してもらおうという趣旨の「プロジェクト」である。ただし、「受注」から先の「工事」そのものまで扱われていないのは、残念ながらじっさいに発注した者がいないからだ。

その第一弾が、ロボットアニメの名作「マジンガーZ」に登場する「地下格納庫」建設の見積もりである。結論は、予算72億円、工期6年5ヶ月(ただし機会獣の襲撃期間を除く)というものだが、この見積もりを作成するまでのプロセスが、じっさいに受注して工事を開始するまでのゼネコンの主要な仕事の一つなのである。

キャラ化されマスコット化された社員たちによる、おもしろおかしい会話をつうじて土木と建設にかんするウンチクが語られるという構成になっている。見積もり完成というゴールにむけてのプロセスが面白いのだ。

(前田建設ファンタジー営業部の公式サイトより)

ファンタジー営業部による「プロジェクト」は好評のため、すでにシリーズ化されて「PROJERCT5」まで進展している。プロジェクトのキックオフ以降の歴史を、ウェブサイトに掲載されている年表を引用してみておこう。

2003年
 2月 Project01 昭和47年作品「マジンガーZ」格納庫検討
 10月 Project02 昭和57年作品「銀河鉄道999」地球発進用高架橋検討
2004年
 11月 書籍Project01(日本語版)出版
 11月 Yahoo! Internet Guide主催「Web of the Year 2004」ノミネート
2005年
 6月 Project03 平成17年作品 PS2「グランツーリスモ4」サーキット検討
 7月 日本SF大賞 星雲賞 ノンフィクション部門 受賞
 7月 書籍Project01(韓国語版)出版
2006年
 6月Project04 「世界初!ロボット救助隊を創ろう」(組織実現概略検討)
2007年
 7月 書籍Project02(日本語版)出版
2009年
 5月書籍 Project02(韓国語版)出版
2010年
 4月Project05 昭和54年作品「機動戦士ガンダム」地球連邦軍基地ジャブロー検討
2012年
 3月Project05 出版



すでに、「マジンガーZ」の地下格納庫、「銀河鉄道999」の高架橋、「機動戦士ガンダム」の巨大基地、のプロジェクトが単行本化され、文庫本化されている。しかも韓国語版も出版されているらしい。



わたし自身は、世代的にはガンダム世代にかかっているものの、子ども時代にもっとも心奪われたロボットアニメが「マジンガーZ」だったので、第一弾となった『前田建設ファンタジー営業部』をここでは取り上げることにしたい。なんせ、「マジンガーZ」も「グレート・マジンガー」も、わたしにとっては、カラオケなしのアカペラで歌えるアニソンである!!

さて、本書の内容だが、アニメに描かれた世界を、その当時にじっさいに視聴していた社員もそうでない社員も、真剣にビデオを解析して検討し、現在の技術(・・マジンガーZのケースでは2003年段階)で対応可能なものを徹底的に検証している。その作業を踏まえて「積算」によってコスト計算を行い、「見積書」が最終的に完成するわけだ。

内容については、「目次」をご覧になっていただくのが手っ取り早いだろう。

目 次

まえがき
プロローグ 架空の建造物を思い描いた、すべての方々へ
PART. 1 ファンタジー営業部颯爽登場
PART. 2 汚水処理場の夕陽に咲くマジンガー
 [COLUMN.1] 地下水と建設工事
PART. 3 兜博士の遺産
PART. 4 グシオスβ3の歌が聞こえる
 [COLUMN.2] 東京湾アクアライン 
PART. 5 立坑の掘り方教えます
 [COLUMN.3] 薬液注入 
PART. 6 掘削法面は立っているか
 [COLUMN.4] マジンガーZが前田建設に配備されたら
 ・建設機械図鑑
 [番外編] この人に聞く①
PART. 7 水槽300t の水圧
 [番外編] この人に聞く②
 [COLUMN.5] 大きかったり小さかったり 
PART. 8 ジャッキアップ超特急
 [番外編] この人に聞く③
 [COLUMN.6] 各場面の実現 
 [COLUMN.7] 転倒防止機能 
PART. 9 積算はいかが
 [COLUMN.8] 切り盛りのバランス 
 [番外編] この人に聞く④
PART. 10 ファイルProject01を提出せよ
エピローグ
附録 「マジンガーZ格納庫・模型」
あとがき

もちろん「受注」できるかどうかは、また別の話。金額は大きいが、見積もり段階で終わってしまうプロジェクトはじつに多い。競争入札であればなおさらだ。

「受注」できて「工事」が始まる際には、さまざまな下請け(=サブコントラクター)や外注先をマネジメントするという仕事が待っている。コスト管理しながら、安全第一で工期までにプロジェクトを完成させるという施工管理の仕事である。これはプロジェクト・マネジメントである。

この本は、土木と建設にかんする技術的なウンチク、機械設計にかんする技術などなど、ゼネコン関連で仕事をする人、これからゼネコンを目指している就活生にも、役に立つ内容になっていると思う。下手な就活本よりも面白くてためになるのではないかな。

シリーズのうち好みの一冊を手元においておけば、ゼネコンの仕事ガイドブックとしても役に立つだろう。





<関連サイト>

前田建設ファンタジー営業部 - 前田建設工業
・・「ファンタジー営業部」は、アニメ、マンガ、ゲームといった空想の世界に存在する特徴ある建造物を当社が本当に受注し、現状の技術および材料で建設するとしたらどうなるかについて、工期、工費を公開するコンテンツです」。



<ブログ内関連記事>

書評 『モリナガ・ヨウの土木現場に行ってみた!』(モリナガ・ヨウ、溝渕利明=監修、アスペクト、2011)-独特の細密イラストによる「関係者以外立ち入り禁止」の「現場」探訪記

「サンダーバード博」(東京・科学未来館)にいってきた(2013年7月17日)

解体工事現場は面白い!-人間が操縦する重機に「人機一体」(=マン・マシン一体)を見る
・・あたらしい構造物の建設の前には解体という作業が待っている

マンガ 『いちえふ-福島第一原子力発電所労働記 ①』(竜田一人、講談社、2014)-廃炉作業の現場を作業員として体験したマンガ家による仕事マンガ
・・原子炉関係の建設も、もちろんゼネコンの仕事

タダノの大型クレーンの商品名ピタゴラス-愛称としてのネーミングについて

『新世紀 エヴァンゲリオン Neon Genesis Evangelion』 を14年目にして、はじめて26話すべて通しで視聴した

書評 『大倉喜八郎の豪快なる生涯 』(砂川幸雄、草思社文庫、2012)-渋沢栄一の盟友であった明治時代の大実業家を悪しき左翼史観から解放する ・・ゼネコン大手の大成建設は大倉組の中核事業にさかのぼることができる

(2015年7月23日 情報追加)




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2014年1月27日月曜日

自動小銃AK47の発明者カラシニコフ死す ―「ソ連史」そのもののような開発者の人生と「製品」、そしてその「拡散」がもたらした負の側面



昨年2013年12月23日、自動小銃AK47の発明者カラシニコフが死去したというニュースが流れた。カラシニコフとは世界でもっとも有名な自動小銃 AK47 の開発者の名前である。人名が製品名となった事例でもある。

自動小銃のカラシニコフが人の名前であることを知らなかった人もいるかもしれない。社会主義イコール集団主義と思い込んでいるからだろう。戦闘機スホーイや大型輸送機アントノフなど、ソ連時代に開発された兵器には開発者の個人名がついている。じつはソ連は突出した個人を優遇したエリート主義の国でもあったのだ。

カラシニコフというと、いまから十数年前、すでにソ連崩壊後のことだが、ロシア関連の仕事をしたとき、一緒に仕事をしていたカラシニコフという名前のロシア人男性に聞いたことがある。

わたし:「あのカラシニコフか?」
カラシニコフ氏:「そうだ。だが親族ではない」

まあ、そんなことも思い出したニュースであった。

カラシニコフについて簡単に入手できる関連書を紹介しておこう。

●『カラシニコフ自伝-世界一有名な銃を創った男-』(エレナ・ジョリー聞き書き、山本和子訳、朝日新書、2008)
『カラシニコフ Ⅰ・Ⅱ』(松本仁一、朝日文庫、2008 単行本初版 2004/2006)

前者は、ミハイル・カラシニコフ(1919~2013)の娘と親しい女性ジャーナリストが聞き出したロングインタビューの記録。フランスで2004年に出版されたもの。ソ連史そのもののような開発者の人生と開発品について自らが語った貴重なドキュメント。価値判断抜きで、開発ストーリーと開発者のライフストーリーを楽しめる本だ。

後者は朝日新聞の中東アフリカ担当で現地経験も長い記者が新聞連載をまとめたもの。Ⅰではアフリカのテロと紛争におけるカラシニコフがテーマ。カラシニコフ氏へのインタビューも収録されている。Ⅱでは麻薬と武器がからむコロンビアと(中国の人民解放軍系の武器メーカーの関与) アフガニスタンとイラクという大英帝国の負の遺産である「人工国家」がテーマとなる。

この3冊を読めば、カラシニコフ氏が開発した自動小銃がいかなる経緯を経て完成したか、そして開発者の預かり知らぬところで拡散し、問題を起こしていることを知ることができる。

まずはカラシニコフ氏による「開発」そのものについて簡単にみておこう。



カラシニコフ氏による「開発」とは?

カラシニコフという自動小銃は、それをつかう人にとっては「ユーザーフレンドリー」なマシンだといえる。

殺傷兵器をユーザーフレンドリーとは不謹慎ではないか(!)とお叱りを受けそうだが、価値判断を棚に置いて技術という側面から見れば、自動小銃としてのカラシニコフが個人能力を拡張したマシン(機械)であるということは否定できない

その点においてはパーソナルコンピュータ(PC)というマシン(機械)と共通しているのである。Ak47 が文字通りの「武器」であるなら、PCは比喩的な意味で「武器」であった。

機械いじりが大好きで、ピストルを分解して目覚めてしまったカラシニコフという「ソ連人」は、独ソ戦の最中に自動小銃の開発の没頭し、第二次大戦後の1947年に完成した自動小銃はソ連軍の正式銃器として採用され量産体制が開始されることになる。

AK47の「47」とは1947の略称。AKとはロシア語で「アフタマート・カラーシニコヴァ」(ローマ字表記で Avtomat Kalashnikova)の頭文字をとった略称である。英語でいえば、Automatic Kalashnikov 47 となろう。




カラシニコフはそれまで存在した銃器を敵軍のドイツのものもふくめて徹底的に研究し、「使い勝手の良さ」を追求する設計思想のもと最終的にAK47に到達する。

だから、まったくあたらしいコンセプトによる「発明」ではない。だが、徹底的に改良につぐ改良を加えた末に到達した「開発」ということはできるだろう。

マシンガンは、使用後は分解して掃除することがメンテナンスのために不可欠だが、部品点数を徹底的に絞り込むことによって使用者の負担を減らした。これはモジュール化にもつながる発想だ。

もっとも重要なポイントは、どんな過酷な状況でも簡単に故障しないことにある。このためにカラシニコフが採用したのは、それまでの常識であった精密性の真逆の発想であった。『カラシニコフⅠ・Ⅱ』の著者・松本仁一氏の表現を借りれば「スカスカ設計」である。ゴミが入らないように密閉性を追求してきた発想ではなく、部品と部品のあいだに空間をおくことでゴミが入っても作動するようにした。これがイノベーションととなったのである。

若き日のカラシニコフ氏は、スターリン時代にシベリアに強制移住させられた家族としての過酷な人生を生き抜いた人だ。天職としてつかんだ銃器設計も、至れり尽くせりの環境のなかで行われたわけではない。この点もまた、ガレージから生みだされたジョブズとウォズニアックのアップル誕生物語を想起させるものがある。日本の本田宗一郎もまた同類のエンジニアであったといえるだろう。

両者に共通するのは、人間の個人能力を拡張するマシン開発のビジョンと不屈の情熱

カラシニコフはドイツとの戦いを、ジョブスたちは巨人IBM との戦いをミッション(使命)として開発の没頭していた。1940年代のソ連のシベリアと1970年代のアメリカのカリフォルニアが交差するが、本質においては同じなのだ。まさにエンジニア魂ここにあり!




『カラシニコフ自伝』はフランスの女性ジャーナリストによる聞き書きの「自伝」だが、たまたまカラシニコフ氏の娘と親しい関係にあったから実現したのだという。原著のタイトルは Ma Vie en Rafales(ライフル人生)。ピアフのシャンソン La Vie en Rose(バラ色の人生)にかけたものか。

カラシニコフ氏の人生は、まさに「生きたソ連史」そのもののような人生である。「ロシア革命」後の混乱、「富農」のレッテルを張られてのシベリア送り、スターリンによる大粛清、独ソ戦で負傷。

AK47開発の歴史は失敗に次ぐ失敗であったこと、それでもあきらめずにすいに栄冠を勝ち取り、開発の功績により「労働英雄」になる。

武器開発者であるため、ロシア中部ウドムルト共和国イジェフスク市という「閉鎖都市」での人生であった。経済的には大成功とというものではないが、ソ連のなかでは恵まれた生活を保障されていたわけであり、なによりも開発者としての名誉に包まれたものであった。だが、ほんとうのことはクチにはできなかった。ソ連崩壊後に行われた著者によるインタビューは、その思いを吐露する機会になったようである。

インタビューが行われた2004年時点で84歳であったカラシニコフ氏は、みずから開発したAK47を誇りこそすれ悔いはいっさいないようである。みずからの預かり知らぬところで「拡散」したAK47だが、もちろん武器である以上、功罪がつきまとうのは当然だ。銃器もまた「諸刃の剣」という本質は同じである。

「ユーザーフレンドリー」のカラシニコフの功罪の「罪」の最たるものは、子どもでも操作が容易で簡単に故障しないということに起因している。この点については『カラシニコフⅠ・Ⅱ』を読む必要がある。



自動小銃としてのカラシニコフの「拡散」がもたらしたもの

カラシニコフことAK47は、1947年にソ連軍に正式採用されてからすでに67年もたっているのにかかわらず、現在にいたるまでもっとも人気が高い自動小銃である。

スミソニアン博物館の銃器の歴史の専門家エゼルは「銃器の分野において、ソ連で偉大な発明fが生まれた。カラシニコフの銃は、おそらく2025年、ひいてはそれを超えるまで使われるだろう」と述べているそうだ。

ではなぜカラシニコフが世界中に拡散したのか?

カラシニコフ拡散は核拡散に比すことができると『カラシニコフ』の著者・松本仁一氏は指摘している。たしかに自動小銃の拡散は大量破壊兵器の拡散に比すことができるものだ。

だが、わたしは先にみてきたようにパーソナルコンピューター(PC)以降の情報技術(IT)のアナロジーで考えたほうが、カラシニコフが世界中に拡散した理由を理解しやすいのではないかと思う。

操作の容易さ、故障しない(上記に共通)はすでに確認したが、「拡散」の原因となったのはソ連がそのメインプレーヤーであった「冷戦構造」にある。

操作が簡単で過酷な状況でも簡単に故障しないからこそ、カラシニコフことAK47は世界中に拡散してしまったのである。もともとはソ連軍の武器だったのだが、冷戦構造のなかソ連の衛星国に「フリーライセンス」で製造技術が無償供与され、しかもその後は「違法コピー」によって「海賊版」が製造され、密輸によってとして拡散していったのである。




武器を使うものと武器を買うものはかならずしもイコールではない。武器を買うのは、使用者よりも使用させたいものである。

紛争当事国においてカラシニコフが拡散したのは、それを使わせたい勢力が存在するからだ。そしてそういった存在が消えることがない。まことにもって残念なことである。




開発者の思惑とは関係なく世界中に拡散してしまったカラシニコフことAK47。その結果、ソ連の援助を受けた紛争当事国では、紛争をエスカレートさせる大きな原因となってしまっている。



アフリカとアジアにおける「失敗国家」は植民地帝国の「負の遺産」

中東・アフリカをカバーする特派員として現地体験と現地取材の豊富な松本氏は、『カラシニコフ Ⅰ』では、「失敗国家」の典型であるソマリアとシエラレオネアパルトヘイト撤廃後に治安が悪化した南アフリカを取材というフィールドワークによってくわしく取り上げている。

独立はしたものの、結局は近代国家が成立せずに失敗した「失敗国家」(failed state)は「崩壊国家」(collapsed state)ともいう。

ソマリアというと現在では海賊の代名詞のようになっているが、ソマリアもまた英仏伊によって分割統治され、独立後の国家形成に失敗した「失敗国家」だ。

ソマリアの領土内でにあるが、国際的には未承認の「ソマリランド」では治安が回復し、「事実上の国家」(de facto state)として機能している。その理由は、部族の長老の説得に成功し「国家」が武器を回収し武力の一元管理が成功したことにある。

松本氏は触れていないが、ソ連崩壊後のロシアにおいても、国家警察機能が機能不全になっていたためにマフィアが治安維持機能を代行していた。武力の一元的コントロールは、「近代国家」の重要な機能である。

武力の一元管理ができないのは国家ではない。逆にいうと、武力を一元管理できた主体が国家として機能するのである。そういった原理的な思考を促してくれるのが、このすぐれたノンフィクションの功績だろう。

「治安と教育」こそ国家の「失敗度」をはかるカギ、ポイントは「兵士と教師の給料をきちんと払えているかどうか」にあるという指摘はきわめて重要だ。

わたしなら、「治安」とはいま現時点の安心感をもたらすための費用(コスト)「教育」とは長期的な安定をもたらすための投資(インベストメント)、と言い換えておこう。

「治安」の確保なくして「教育投資」は有効に機能しない。「失敗国家」を防ぐためには、まずは治安確保がなによりも重要なのである。



アメリカとソ連、大英帝国、そして中国というプレイヤー

『カラシニコフ Ⅱ』では、大英帝国の「負の遺産」であるアフガニスタンとイラクが取り上げられている。

AK47を「密造」するアフガニスタンに隣接するパキスタン国内のパシュトゥン族の村のルポが興味深い。すでに普及してデファクト化しているという理由でAK47の使用を現地軍に認めるアフガン駐留米軍。本来なら本国の兵器産業のビジネスチャンスを側面支援すべき軍隊がそのような方向性を打つ出している点が面白い。

イラクもそうだが、アフガニスタンもまた大英帝国の「負の遺産」である。互いに関係のない諸民族を一つの国のなかに組み込んで独立させた「人工国家」は、大英帝国の統治方針であった「分割して統治せよ」(Divide and Rule)の「負の遺産」である。マレーシアやミャンマーも例外ではない。

中米のコロンビアで麻薬と武器がからむ取引がまず取り上げられている。

カラシニコフの模造品がアメリカから密輸されているが、その資金源は麻薬取引にあること。そしてカラシニコフの模造品はノリンコ製品だという。

改造ライフルを製造するノリンコ(Norinco)とは、中国の人民解放軍系の武器メーカー、北方工業公司(North Industries Corporation)のことだ。中国共産党もコントロールできない闇がそこにある。

ソ連とアメリカ、大英帝国だけでなく、中国というプレイヤーの存在についても無視できないことは、近年のアフリカ情勢を見ていれば理解できる。

「拡散」してありがたいのは良い情報、「拡散」して困るのは放射能と自動小銃だ。

「拡散」して飽和状態にあるのにもかからず販売価格が下がらないカラシニコフ。その理由は売る人間が少ないからなのだという。つまり中古市場にはあまりでてこないということだ。それがまたカラシニコフの供給がいっこうに減らないという悪循環。

経済メカニズムで考えると、すでに拡散してしまったカラシニコフを回収することがいかに困難な課題であることを知り、ため息をつくばかりだ。



カラシニコフ氏はAK47のもたらした惨禍を懺悔していた

カラシニコフ氏は最晩年には、AK47がもたらした惨禍を懺悔していたようだ。

「AK47の開発者が生前に懺悔、ロシア正教会宛てに書簡」(2014年1月14日 ロイター) には以下のようにある。

[モスクワ 14日 ロイター] -旧ソ連の銃器設計者で、カラシニコフ自動小銃 AK47 を開発したミハイル・カラシニコフ氏が生前、ロシア正教会宛てに懺悔の書簡を送っていたことが明らかになった。同国のイズベスチヤ紙が報じた。
カラシニコフ氏は書簡の中で「心の痛みは耐え難いもの」と心情をつづり、「私の生み出した銃は多くの人を殺した。たとえ敵であったとしても、彼らの死に私の責任はあるのだろうか」と悔いた。
ロシア正教会のスポークスマンが同紙に明かしたところによると、書簡が届いたのはカラシニコフ氏が昨年12月23日に死去する約半年前だったという。
94歳で亡くなった同氏はこれまで、 AK47 の開発に誇りを持っていると語っていた一方で、犯罪者や少年兵に使用されたことについては後悔の念を語っていた。

「ソ連人」を絵に描いたようなカラシニコフ氏であったが、最後は教会に救いを求めたのだろうか。

今回とりあげた『カラシニコフ自伝』と『カラシニコフ Ⅰ・Ⅱ』のいずれも、インタビューが行われたのはいまから10年前の2004年のもので、カラシニコフ氏が84歳のときのものだ。

カラシニコフ氏も、いよいよみずからの死期を感じて心が痛むようになったのだろうか・・・。

なんだかホッとするような、しかし開発エンジニアにとっては苦渋の心境だったかと思うと、気の毒な気もしてくる。そもそも祖国を救うために邁進した開発だったのだから。



『カラシニコフ自伝-世界一有名な銃を創った男-』(エレナ・ジョリー聞き書き、山本和子訳、朝日新書、2008)

目 次

地図
凡例
はじめに-恐怖と栄光の日々
第一章 隠された悲劇
第二章 一介の兵士から銃器設計者へ
第三章 AKの誕生
第四章  唯一の銃器
第五章 ソ連・ロシアの指導者たち
第六章 祖国と外国
第七章 雑記
訳者あとがき
カラシニコフ略歴


『カラシニコフ Ⅰ』(松本仁一、朝日文庫、2008 単行本初版 2004)

目 次
はじめに
第1章 11歳の少女兵
第2章 設計者は語る
第3章 護衛つきの町
第4章 失敗した国々
第5章 襲われた農場
第6章 銃を抑え込む
あとがき


『カラシニコフ Ⅱ』(松本仁一、朝日文庫、2008 単行本初版 2006)

目 次
第1章 ノリンコの怪
第2章 ライフル業者
第3章 流動するAK
第4章 AK密造の村
第5章 米軍お墨付き
第6章 拡散する国家
あとがき
文庫版へのあとがき

著者プロフィール  
松本仁一(まつもと・じんいち)1942年、長野県生まれ。東京大学法学部卒。68年、朝日新聞社に入社。82年よりナイロビ支局長。90年、中東アフリカ総局長としてカイロに駐在。93年から2007年まで編集委員。94年、ボーン上田国際記者賞、97年、『アフリカで寝る』で日本エッセイスト・クラブ賞、2002年、『テロリストの軌跡』(草思社)で日本新聞協会賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




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[人と技術と情報の界面を探る] カラシニコフの死とAK-47と核兵器(ITPro 日経コンピュータ  2014年1月10日 松浦 晋也=ノンフィクション作家 (筆者執筆記事一覧) 出典:PC Online 2014年1月6日

"悲惨な現場" を求めるNGOの活動がアフリカで招いた不都合な真実 (橘玲の世界投資見聞録 ダイヤモンド ZAI 2014年1月16日)
・・『カラシニコフⅠ』で取り上げられたシエラレオネの「手足を切断された人々」をカネに変える "NGOビジネス" の実態



<ブログ内関連記事>

■銃器というマシン(機械)

書評 『傭兵の二千年史』(菊池良生、講談社現代新書、2002)-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ③
・・近代ヨーロッパ史とは銃器発達の歴史でもある

『歴史のなかの鉄炮伝来-種子島から戊辰戦争まで-』(国立歴史民俗学博物館、2006)は、鉄砲伝来以降の歴史を知るうえでじつに貴重なレファレンス資料集である

書評 『鉄砲を手放さなかった百姓たち-刀狩りから幕末まで-』(武井弘一、朝日選書、2010)-江戸時代の農民は獣駆除のため武士よりも鉄砲を多く所有していた!

書評 『ねじとねじ回し-この千年で最高の発明をめぐる物語-』(ヴィトルト・リプチンスキ、春日井晶子訳、ハヤカワ文庫NF、2010 単行本初版 2003)-「たかがねじ、されどねじ」-ねじとねじ回しの博物誌
・・種子島で鉄砲を知った日本人は初めて「ねじ」の存在を知った

電気をつかわないシンプルな機械(マシン)は美しい-手動式ポンプをひさびさに発見して思うこと
・・駆動と制御に電気を使用するエレクトロニクス以前のシンプルな機械(マシン)

書評 『誰も語らなかった防衛産業 増補版』(桜林美佐、並木書房、2012)-国防問題を国内産業の現状から考えてみる

クレド(Credo)とは
・・アメリカ海兵隊のThe Rifleman's Creed (ライフルマン信条)について解説してある。アメリカのライフルはM-16


ソ連

『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?


コピーと海賊版

書評 『海賊党の思想-フリーダウンロードと液体民主主義-』(浜本隆志、白水社、2013)-なぜドイツで海賊党なのか?


「失敗国家」としてのソマリア、その他アフリカ諸国

映画 『キャプテン・フィリップス』(米国、2013)をみてきた-海賊問題は、「いま、そこにある危機」なのだ!
・・ソマリアに海賊が発生したのは

コンラッド『闇の奥』(Heart of Darkness)より、「仕事」について・・・そして「地獄の黙示録」、旧「ベルギー領コンゴ」(ザイール)
・・紛争の絶えないコンゴ(ザイール)


イラク・アフガニスタンという「人工国家」は「大英帝国の負の遺産」

書評 『イラク建国-「不可能な国家」の原点-』(阿部重夫、中公新書、2004)-「人工国家」イラクもまた大英帝国の「負の遺産」

書評 『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)-知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい
・・ウサーマ・ビン・ラディン殺害計画

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②
・・イラクで戦死した英国人傭兵

書評 『巨象インドの憂鬱-赤の回廊と宗教テロル-』(武藤友治、出帆新社、2010)-複雑きわまりないインドを、インドが抱える内政・外交上の諸問題から考察
・・「第8章 AK47の銃眼 カシミール」を参照。インドから分離したパキスタンもまた「大英帝国の負の遺産」

(2014年3月4日 情報追加)


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