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2012年6月21日木曜日

書評『民衆の大英帝国 ー 近世イギリス社会とアメリカ移民』(川北 稔、岩波現代文庫、2008 単行本初版 1990)ー 大英帝国はなぜ英国にとって必要だったのか?


大英帝国はなぜ英国にとって必要だったのか?

人口過剰の解決策としての「棄民政策」と、植民地の経済開発のための人材供給がうまくかみ合ったのが、大英帝国であったのだ!

落ちぶれて貧民となった者たちにとっては、社会問題解決を処理する場として植民地を必要としたのである。それを促したのは、「自発的年季奉公」という17世紀英国の独特の労働慣行であったというのが、『民衆の大英帝国 ー 近世イギリス社会とアメリカ移民』(川北 稔、岩波現代文庫、2008)における著者の見解である。

つまり、ひとことでいってしまえば、棄民と拓殖は背中あわせの存在であったということだ。

当時のイギリスが、犯罪現象やその前提となる失業や貧困といった社会問題の解決を、かなりの程度まで帝国形成のプロセスそのものに押しつけた事は明らか・・(後略)・・(P.150)

いわゆる「囲い込み」で土地を失った農民が新天地へ渡ったわけだが、海を渡ったのは農民だけではない。兵士も、流刑者もまたそうなのであった。

植民地の獲得と開発の過程は、イギリス本国の「社会開発問題押し出し」政策としての意味・・(後略)・・(P.151)

犯罪者は、当時は植民地であったアメリカに移送されていたのであった。独立戦争によってアメリカを喪失して以後は、その役割はオーストラリアが果たすことになる。

本書で興味深いのは、かのロイヤル・ネイビーとしての英国海軍も、草創期においては、まったく栄光も人気もなかったということだ。

海軍は英国にとって、「海洋帝国」形成のために不可欠であったのだが、海軍兵士のリクルートは強制徴募によって行われていたのである。リクルーターによって酒場で捕らえられた酔っぱらいたちは、否応なく軍艦に放り込まれるという、かなり乱暴な人集めが行われていたらしい。

しかも、孤児院もまた海軍兵士の供給源として一石二鳥の活用をされていたというのだ。この背後にあった、捨て子、孤児をめぐるカトリックとプロテスタントの考え方の違いも興味深い。

英国の特徴は、18世紀の重商主義戦争は、英国本土とは対岸のヨーロッパ大陸で戦われたことににもある。このため、戦争の財政負担の問題はさておき、海軍帰還兵問題も発生することになる。

本国で雇用がつくりだせない以上、増大する失業者が社会問題にも発展しかねない。そこで活用されたのが、植民地だったのである。

そして、この基本姿勢は、大英帝国がもはや存在しなくなった現在も続いているのである。

最後の拠り所を植民地に求めるこのような傾向は・・(中略)・・現在に至るまでも、多少形を変えながら継続している。かくてイギリスは、旧帝国各地から大量のイミグラントを受け入れつつ、他方では、相変わらず一旗あげようとする人びとの、アメリカやコモンウェルス各国への出移民をも記録し続けているのである」(P.278~279)

本書は比較社会史ではないので言及はないが、日本の例でいえば、戦国時代が終わり、行き場を失った武士が、シャムにわたって傭兵となった事例や、戦前の日本が国内では食えない人たちを満州に開拓移民として送り出してきたことを想起すべきだろう。

現在もっとも人口過剰、とくに若年層の失業問題に悩んでいるのは中近東諸国であるが、かつての大英帝国や大日本帝国のように、植民地に失業者を大量に送り出すことは、もはや叶わない話である。自国の意のままになる植民地もつことは、21世紀の現在はありえないからだ。

本書で展開されている議論は、英国とアメリカ、英国と英連邦の成り立ちを考えるうで、ぜひアタマにおいておきたい重要な視点である。

研究書ではあるが、文庫化されてハンディで読みやすくなった。ぜひ一読することをすすめたい。





目 次

序 近世イギリス民衆にとって、帝国とは何だったのか
Ⅰ 自発的に年季奉公人となってアメリカに渡った人びと
Ⅱ イギリス近世社会と通過儀礼としてのサーヴァント
Ⅲ 強制されてアメリカに渡った移民たち
Ⅳ 海軍兵士リクルートの問題-「板子一枚の世界」(ウッドン・ワールド)
Ⅴ 囲い込みと移民-帝国を形成する農民たち
おわりに

あとがき
岩波原題文庫版あとがき

著者プロフィール

川北 稔(かわきた・みのる)

1940年生。京都大学文学部史学科卒業。大阪大学名誉教授。京都産業大学文化学部教授。イギリス近代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。




<ブログ内関連記事>

人口爆発と失業問題の解決策

書評 『自爆する若者たち-人口学が警告する驚愕の未来-』(グナル・ハインゾーン、猪俣和夫訳、新潮選書、2008)-25歳以下の過剰な男子が生み出す「ユース・バルジ」問題で世界を読み解く
・・「しかるべきポジションをゲットできず居場所がない野心的な若者たち。過剰にあふれかえる彼らこそ、暴力やテロを生み出し、社会問題の根源となっている。これは現在だけでない、歴史的に見てもそうなのだ。「少子高齢化」ばかり耳にする現在の日本では考えにくい事態であるが、これが世界の現実だ。イデオロギーや主義も、しょせん跡付けの理由に過ぎない」

書評 『中東激変-石油とマネーが創る新世界地図-』(脇 祐三、日本経済新聞出版社、2008)
・・過剰人口、とくに若年層の失業問題をかかえる現在の中近東諸国は、大英帝国とおなじ問題をかかえているのだが、はたして解決策は・・・?

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!

「JICA横浜 海外移住資料館」は、いまだ書かれざる「日本民族史」の一端を知るために絶対に行くべきミュージアムだ!
・・かつて過剰人口問題に悩んでいた日本もまた「移民」送り出しで問題解決を行っていた


「近代システム」と大英帝国の興亡

書評 『砂糖の世界史』(川北 稔、岩波ジュニア新書、1996)-紅茶と砂糖が出会ったとき、「近代世界システム」が形成された!

書評 『イギリス近代史講義』(川北 稔、講談社現代新書、2010)-「世界システム論」と「生活史」を融合した、日本人のための大英帝国「興亡史」

書評 『大英帝国という経験 (興亡の世界史 ⑯)』(井野瀬久美惠、講談社、2007)-知的刺激に満ちた、読ませる「大英帝国史」である

(2014年6月10日 情報追加)


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2010年2月12日金曜日

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年3月号の特集「オバマ大統領就任から1年 貧困大国の真実」(責任編集・堤 未果)を読む




月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 2010年3月号の献本が、「R+ レビュープラス」から本日午後に届いたので、さっそく目をとおしてみた。

 「貧困大国(アメリカ)の真実」の責任編集を担当した堤未果は、『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008)で一躍有名になったジャーナリストである。1991年、米国野村證券に勤務したいたときに9-11に遭遇、ジャーナリストに転身したという。

 この本は著者の顔写真(カラー)のある帯付きで、書店の店頭に山積みになっているので存在そのものは知っており、またアマゾンの書評では本日現在、なんと130本もレビューが寄せられている!が、私自身はこの新書本には目を通してはいない。

 内容を紹介しておこう。基本的にアメリカを中心とした雑誌記事の日本語訳で構成されているので、米国の現状を米国人自身の眼をとおして見ることができる。

堤未果インタビュー 「色褪せたHOPE、もう一つの希望」 
 ブッシュ政権下で米国は「貧困大国化」が進み、
 一握りの富裕層が富を独占し、貧困層が拡大する社会になった。
 「変化」への希望を託されて大統領になったオバマは、
 その流れを止められたのか。堤氏が米国で見たものとは。
Part1 「貧困大国」は変わったか?
 あの日から1年、オバマはアメリカをどう変えたのか
 1日2万人のペースで増え続ける「フードスタンプ」受給者の衝撃
Part2 人間の尊厳を奪う「医療崩壊」
 タイム誌記者の家族が直面した民間医療保険の "不都合な現実"
 「医療破産」が忍び寄るシニア世代の "懐事情"
 国から見棄てられた哀しき「医療難民」たち
Part3 学生を借金漬けにする教育システム
 授業料の高騰がもたらす「大学教育崩壊」の危機
 高金利の学資ローンが学生たちの未来を奪う
「金持ち」を優遇する名門大学の入学試験
Part4 民営化で加速する「刑務所ビジネス」
 営利企業が支配するアメリカの「罪と罰」
 貧困層を死ぬまで搾取する「保護観察」という名のビジネス
Essay 真の「チェンジ」を起こすもの (堤未果)

 奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事や、「刑務所ビジネス」の実態についての記事は、マイケル・ムーア監督の映画『キャピタリズム-マネーは踊る-』でも取り上げられたのでその実態については知っていたが、あらためて活字で読むと暗澹(あんたん)とした気持ちにならざるをえない。

 『キャピタリズム』については、このブログでも、CAPITALISM: A LOVE STORY、および マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える、と2回にわたって書いているので、参照していただきたい。
 また、「医療保険改革」がいかに骨抜きにされたかについての記事は、結局のところ「オバマの改革」とはいったい何だったのか、民間保険会社が儲かるような「改革」となっていったか、その実相について知ることができた。

 現在の米国は、 最貧層からさらに搾り取る、いわゆる「貧困ビジネス」がいかに米国ではびこっているか、そのおぞましい実態を知ることができる。私が米国に滞在していた1990年から1992年にかけての期間においても、すでに中流階層の崩壊が指摘されていたが、この動きはまったく止まることなく、かえって加速しているようだ。日本の状況は、経済アナリストの門倉貴志貧困ビジネス』(幻冬舎新書、2009)で 扱っているが、米国の状況は想像を越えている。

 1981年のレーガン大統領就任以降の約30年間、歴代の政権によって政党に関係なく、金持ちに有利な政策誘導がなされてきたが、行き過ぎた格差を是正すべく選ばれたオバマ大統領も彼一人のチカラではこのアメリカの現実を変えることはできないのだろうか。それとも、この特集で堤 未果が指摘しているように、献金総額の7割が企業献金が占めるという状況から考えれば、そもそもオバマは誰の利害で動いているのかについて疑問をもつのが健全な見方といえるだろう。

 しかし、この特集だけを読んで、これが米国の現実すべてだとは思わない方がいい。私が書いた書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)を読んでいただくのがいいと思う。

 『超・格差社会アメリカの真実』によれば、富が平準化した時代は、大恐慌後の1930年代から1970年代までの期間だけであり、アメリカ史においては、あくまでも例外なのである。一方では、米国は実力ある人間や才能ある人間には広く「開かれた社会」であり続けている。依然として、移民流入による人口増加があり、またそれが要因の一つとしてイノベーションを引き起こし、さらなるな富を創りだしている国であり、「リーマンショック」による金融危機を乗り切った後は、格差をさらに拡大させながらも、国全体としては再び成長軌道に戻ると予想される。

 日本が米国のような「開かれた社会」でない以上、また「敗者復活戦」の余地がきわめて小さい社会である以上、少子高齢化によって人口減少の方向にある「下り坂社会」を乗り切るためには、格差是正はかけ声だけで終わってはならない。とくにカギとなるのは教育問題である。

 日本は米国をそっくりそのままモデルとするのではなく、米国の負の側面から大いに教訓を学ぶ必要がある。そうでないと、日本全体の国力が大幅に低下してしまうことになる。

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 さて、総特集以外の記事では「サザビーズジャパン社長と考えた アート市場からみる世界経済」という特集が面白かったが、このほかも面白い記事が多い。「クーリエ・ジャポン」はひさびさに読んだが、かなり読み応えのある記事が多かった。

 ただ翻訳記事が大半なので、たとえ翻訳文はうまくできているといっても、正直なところ最初から日本語で書かれた、もう少し読みやすい文章もあったほうがいいのではないかとは思う。しかしそれでは、この雑誌のコンセプトに反してしまうかもしれないのだが・・・。


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<関連サイト>

大学進学はペイする投資なのか 高卒職場に大卒者がなだれ込む米国の苦悩 (太田智之、日経ビジネスオンライン、2014年6月12日)
・・奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事

Student Debt Threatens the Safety Net for Elderly Americans (Bloomberg BusinesWeek, August 12, 2014)
・・奨学金ローン返済問題は50歳代以上にも及び始めている

(2014年6月12日 項目新設  2014年8月13日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

(2014年6月12日 項目新設)





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2009年7月21日火曜日

書評『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子著・装画・挿画、理論社、2008)ー カネについて考えることはすごく大事なことだ!




■カネについて考えることはすごく大事なことだ!■

 カネについて考えることはすごく大事なことだ、と私はつねづね思っている。

 しかしそういうことを口に出すと、すべてをカネ、カネで考えるイヤなヤツだという誤解を与えてしまうこともあって残念だ。

 そんな誤解に苦しむ人にも、カネの大事さを身にしみて知り尽くしている漫画家サイバラのこの本を読むことをすすめたい。また読んでからぜひいろんな人にも推薦してほしい。

 カネになる漫画を書くことで、貧乏の「負のループ」から抜け出すことに成功したサイバラは、私なんかよりもはるかにうまく、具体的に説明してくれるはずだから。

 本田健の「小金持ち」とは趣が大きく異なる語り口だが、いわんとすることは同じである。

 カネを稼ぐということは、男女を問わず、人間として自立することだ。

 カネに使われないようカネを使うこと、つまりキチンとした金銭感覚をもつことは、人生そのものなのだ、と。

 サイバラはこの本の最後のほうで、マイクロクレジットによって貧困層の自立を支援している、バングラデシュのグラミン銀行の話を書いている。サイバラがねーというかんじもしたが、いやいやよくぞ触れてくれた、と思いたい。

 ところで、在日バングラデシュ人の起業家ユヌス・ラハマンも 『おカネを取るヒト 取られるヒト』(H&I、2005)という本で、カネの重要性と人間の生き方について書いている。




 これらすべてに共通するのは、人間としての「自立」そして「自律」である。

 「ロスジェネの叫び」が最近かまびすしいが、人間として生きる以上、「食わせろ」と声を大にする前に、道を開いて自分で食っていかねばならないのではないか?

 世界の最貧国出身のバングラデシュ人にできて、なんで日本人にできないというのだ!

 サイバラの漫画は絵がキタナイし、フキダシに手書きで文字がギッシリ書き込まれているから読みにくくてキライだ、という人には、「この本は漫画じゃなくて、活字がキチンと整列した単行本ですよー」と伝えておこう。

 とくに若い人たちに薦めたい本だ。若い人たちからこれ以上泣き言は聞きたくないから。


■bk1書評「カネについて考えることすごく大事なことだ!」(2009年7月21日掲載)

   




<ブログ内関連記事>

内村鑑三の 『後世への最大遺物』(1894年)は、キリスト教の立場に立つが「実学」と「実践」の重要性を説いた講演である
・・「後世へわれわれの遺すもののなかにまず第一番に大切のものがある、何であるかというと金(かね)です。・・(中略)・・金(かね)を遺すものを賤(いやし)めるような人はやはり金(かね)のことに賤しい人であります。吝嗇(けち)な人であります」(内村鑑三)

Bloomberg BusinessWeek-知らないうちに BusinessWeek は Bloomberg の傘下に入っていた・・・
・・西原理恵子の『太腕繁盛記』を取り上げている

シンポジウム:「BOPビジネスに向けた企業戦略と官民連携 “Creating a World without Poverty” 」に参加してきた
・・バングラデシュのユヌス博士とグラミン銀行について

「三度目のミャンマー、三度目の正直」 総目次 および ミャンマー関連の参考文献案内
・・『どこへ行っても三歩で忘れる鳥頭紀行-くりくり編-』(西原理恵子/鴨志田譲/ゲッツ板谷、角川書店、2001 現在は文庫化 2004)を参考文献の一冊としてあげておいた


PS その後執筆した西原理恵子関係のブログ記事を「ブログ内関連記事として掲載することとした。 (2013年12月18日)









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