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2025年3月9日日曜日

韓国で読み継がれてきたロングセラーの連作小説『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ、斎藤真理子訳、河出文庫、2023)をようやく読了。絶望的な超格差社会の最底辺で生きる人びとの声は過ぎ去った過去のものではない

 


昨年8月以来、断続的に読んでいた『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ、斎藤真理子訳、河出文庫、2023)という連作小説をようやく読み終えた。  

ふだん小説はほとんど読まないわたしだが、この小説を読んでみたいと思ったのは、斎藤真理子氏の『韓国文学の中心にあるもの』(イーストプレス、2022)を読んで、気になっていたからだ。 

「維新時代」すなわち朴正熙(ぱく・チョンヒ)政権のもと、「戒厳令」が敷かれていた1970年代に書き継がれた奇跡のような連作だという。韓国では現在も「ステディ・セラー」として読まれており、累計140万部になっているのだと。 

この連作小説の主人公の「こびと」とその一家は、1960年代に始まった資本主義化する韓国、急速な工業化による高度成長が推進されていた時代に、超のつく格差社会の最底辺で生きぬいている人びとだ。 

そんな出口のない過酷な状況で生きることを強いられ、蹴散らされるがままの人びと。そして封建領主のような財閥企業の経営者とその家族。そんな両極端に生きる人たちにかんするリアリティある描写に寓話的なナラティブ。さまざまな声が多層的に響き合う世界。けっして救いのある小説ではない。 

それにしても不思議なタイトルの小説だ。このタイトルの意味は、4番目におかれたおなじタイトルの短篇小説を読めばわかる。 

1970年代の韓国が舞台であるが、そういった過ぎ去った一回性の出来事に終わらない普遍性がある。近代化を邁進していた時代の日本もそうだし、いまでも発展途上国では現在進行形の設定なのではないか。 

いや、ふたたび格差社会が深刻化している現在、アクチュアルなテーマなのかもしれない。だから現在の韓国でも読まれているわわけだし、また日本をふくめた諸外国でも受け入れてきたのだろう。韓国語を学び始めた大学時代にこの小説に出会ったという訳者の思いもまた伝わってくる。 

「この悲しみの物語がいつか読まれなくなることを願う」と著者は述べているが、そんな日がくることは、残念ながらなかなか来ないのかもしれない。それが良いことなのか、悪いことなのか、わたしにはわからない。


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2018年8月9日木曜日

中流社会が崩壊に向かい格差社会が進行している現代ドイツの状況を知る3冊 ―『そしてドイツは理想を失った』/『メルケルと右傾化するドイツ』/『ドイツ帝国の正体ーユーロ圏最悪の格差社会』



そもそも、もともと私はドイツがあまり好きじゃないし(・・大学学部時代の第二外国語はフランス語)、2011年の「3・11」の東日本大震災の津波と原発事故以来、ドイツは大嫌いになった。原発事故の際に日本人に対して示されたドイツ人の反応に強い感情的反発を感じたからだ。

簡単に説明すると以下のような感じになろうか。 たしかに、原発事故の発生にかんしては情状酌量の余地はないし、1980年代前半にソ連のチェルノブイリ原発事故を体験しているドイツ人が核に恐怖心を感じているという指摘はアタマでは理解できなくもないが、日本と日本人に対しての高飛車な批判的言動に対しては、「そんなこと、おまえらに言われたくはねーよ」(怒)と強く反発を感じたのである。こういう感情をもった日本人は、じつは少なくないと思う。 

そんな私ではあるが、ドイツ製品のクオリティの高さは大いに評価しているし、19世紀ドイツロマン派の音楽は大好きだ。ヘッセやユングやシュタイナーなど「戦前ドイツ」の知的遺産は大いに尊重している。ドイツ語も第3外国語として勉強したので、現在でも多少は理解できる。

現代世界においてドイツの存在感が大きいことを否定するつもりはないし、ドイツ情勢を把握することは現代人にとって必要不可欠なことだと考えている。 

そこで、今回は現代ドイツにかんする本3冊を取り上げてみたい。読んだのは先月のことだが、読んだ順に列挙しておこう。いずれも、かつての「戦後ドイツ」が象徴していた理想社会からほど遠くなりつつある「現代ドイツ」の現状について語っている。

読んだ順にあげておこう。


『そしてドイツは理想を失った』(川口マーン惠美、角川新書、2018)
『メルケルと右傾化するドイツ』(三好範英、光文社新書、2018)
『ドイツ帝国の正体ーユーロ圏最悪の格差社会-』(イエンス・ベルガー、岡本朋子訳、早川書房、2016)


最初の2冊は、主に政治状況について第三者である日本人が距離を置きつつ書いたもの。そのうち1冊目はドイツ人と結婚してドイツで子育てをし、現在もドイツに暮らしているがゆえに「愛国的」になっている著者によるもの実体験をベースにした内容には、主観的バイアスがあるものの説得力がある。

2冊目は、ドイツに駐在経験のあるジャーナリストによるもの。ドイツ社会へのコミットメントの度合いは、1冊目の著者よりは低い。基本的にアングロサクソン社会との比較で、ドイツの特性をあぶり出そうとしている。この比較の仕方はわかりやすい。 

3冊目は、ドイツ人ジャーナリストによる著書の日本語訳。経済全般というよりも格差状況についての論考。原題は、Wem Gehört Deutschland ? (=ドイツは誰のもの?)。1980年代から1990年代にかけて進行した「シュレーダー改革」による、アングロサクソン的な「新自由主義」の弊害が格差社会化の原因とする。かつて「アングロサクソン型資本主義」に対して「ライン型資本主義」なるものがあると礼賛されたが、そんな時代はいまいずこ、といった感想をもつことになる。




政治状況を理解するには、国内の有権者の状況を知らなくてはならない。中流社会が崩壊に向かい、格差社会が進行しているドイツの状況が、まさに政治に反映していると考えるべきであろう。

いずれにせよ思うのは、日本人もいい加減に「ドイツ礼賛」は辞めたほうがいいということだ。ましてや、同じ「敗戦国」だからといってドイツを引き合いに出して日本を批判するなど論外だというべきだろう。第一次世界大戦では日本は「戦勝国」であり、ドイツが「敗戦国」であったことも銘記しておくべきだ。 

以上、独断と偏見に基づいて現代ドイツについて書いてみた。




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(2023年8月23日 項目新設)


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書評 『ドイツリスク-「夢見る政治」が引き起こす混乱-』(三好範英、光文社新書、2015)-ドイツの国民性であるロマン派的傾向がもたらす問題を日本人の視点で深堀りする

ドイツを「欧州の病人」から「欧州の優等生」に変身させた「シュレーダー改革」-「改革」は「成果」がでるまでに時間がかかる

書評 『驕れる白人と闘うための日本近代史』(松原久子、田中敏訳、文春文庫、2008 単行本初版 2005)-ドイツ人読者にむけて書かれた日本近代史は日本人にとっても有益な内容

フォルクスワーゲンとヒトラー、そしてポルシェの関係


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2013年4月16日火曜日

なぜいま2013年4月というこの時期に 『オズの魔法使い』 が話題になるのか?



なぜかいま 『オズの魔法使い』(The Wizard of Oz) が言及されることが多い。

先日お亡くなりになったサッチャー元首相は、在職中に発揮したリーダーシップによって「英国病」を完治し、衰退する英国に活を入れた日本ではもっぱら称賛する人が多いが、当事者である英国人のあいだには、その強引なやり方のために中流階級が弱体化したと批判している人も存在します。

サッチャーの批判勢力が「祭り」(?)を引き起こしているとTVで報道されていました。批判勢力の呼びかけで、『オズの魔法使い』の「鐘を鳴らせ 魔女が死んだ」という歌が、猛烈な勢いでダウンロードされ、英国のヒットチャートでナンバーワンになっているいうのです。

オリジナルのタイトルは、 "Ding Dong The Witch is Dead" YouTubeで映像をみるといいでしょう。主人公のドロシーが魔法の国で、アクシデントで「悪い魔女」が死んでしまったから住民が喜んでいるシーン。まさに「祭り」状態。

(DVD映像から筆者がキャプチャしたもの)

このニュースが入ってくる前には、TVの情報番組でコメンテーターをつとめる毎日新聞論説委員の福本容子氏が、『オズの魔法使い』のほんとうのテーマはデフレ経済からの脱却を願う人たちを登場人物にしたものだ、と語っていました。

「子ども向けおとぎ話と信じていた「オズの魔法使い」は何と! デフレ脱却が隠れテーマだった(説がある)というのだ。深い論争が何十年も続いていた。恥ずかしいけど、知らなかった」、と自らが執筆したコラム記事に書いておられます。

元ネタは、金融アナリスト・久保田博幸氏のブログ記事だそうです。検索してみると、「黒田日銀総裁はオズの魔法使いか」という記事がありました。詳しくはその記事を読んでみるといいでしょう。

『オズ はじまりの戦い』というディズニー映画がことしの春に公開されているようだがわたしは見ていません。オルタナティブな物語という形をとったリメイクものであって、上記のブログ記事の内容とは関係ないようです。

「デフレ脱却が隠れテーマ」というのは、やや牽強付会(けんきょうふかい)なこじつけのような気もしますが、1900年に発表された原作がテクニカラーで映画化されたのが1939年ですし、当時のアメリカは1929年の大恐慌からの経済回復期にあったことは確かです。

とはいっても、ニューディール政策による計画経済もさることながら、欧州とアジア太平洋における戦争に参戦したことによる大増産体制を実現するための財政出動によって景気回復がもたらされたのではありますが。

黒田総裁がオズの魔法使いかどうかは、わたしにはまったくわかりません(笑)。すくなくとも、「あなたの魔法だけがこの国を救える」、なんてことをクチにしたり、心のなかで思うのは危険ではないかと思うのですが・・・




『オズの魔法使い』(1939年)をDVDでみる-そのテーマは自己啓発書と同じ?

というわけで、『オズの魔法使い』(The Wizard of Oz)を DVD で見てみることにしました。まずはオリジナルを見てからでないと話がはじまらないですからね。

じつは見たのは今回がはじめてです。もちろん主演のドロシー役を演じたジュディー・ガーランドが歌っていた「虹の向こうに」(Over the Rainbow)は好きな歌なのでくちずさむことも多いですし、中学時代の英語の教科書に『オズの魔法使い』の一部が使用されていたような記憶があります。


映画のあらすじは、こんな感じです。

中西部のカンザス州の農民一家で暮らす少女ドロシー(・・どうやら両親はすでにおらず叔父叔母夫妻に育てられているようだ)は、ある日、竜巻に巻き込まれて魔法の国にいってしまう。「オズの魔法使い」に願いをたのめば家に帰れると聞いたドロシーはエメラルド宮殿を目指して、道中で出合った「知性という脳がないかかし」、「感情というハートがほしいブリキ男」、「勇気がない気弱なライオン」とともに旅をする。数々の試練を乗り越えて、ドロシーは帰宅できたことで「つよく願えばかならず夢が叶う」ことを実感し、連れの三人もみな自分が欲しいと思っていた特性(=知性・感情・勇気)はじつはすでにもっていたのだると気づく。そして「自信」(self-confidence)を取り戻すのであった。こんな内容の話をもとにしたミュージカル映画。そうそうドロシーの飼い犬トトも忘れてはいけませんね。

1939年は昭和14年、この時点ですでにテクニカラー、昔風の表現なら「総天然色」の映画が製作されていたというのはおどろきですね。日本がアメリカに戦争で負けたのは当然でしょう。

「願えばかなう」なんて、なんだか自己啓発書のテーマみたいでありますね(笑) 日本なら、サルとイヌとキジを連れて鬼退治にいってくる桃太郎となるですが、おなじロードムービーとしての成長物語であっても日米ではだいぶ趣味嗜好が違います。

アメリカ人は子どもの頃から『オズの魔王使い』で刷り込まれて育つから、ポジティブシンキング(=積極思考)志向がつよいのかな? 現在の日本人もある意味ではアメリカ色に染め上がっているようですね。



「願えばかなう」というのは一面の真理はありますが、とはいって自分がなにも努力しなければ、棚から牡丹餅というわけにはいかないでしょう。当たり前ですよね。英語で wish とは願いを意味するコトバですが、wishful thinking と熟語になるとネガティブなニュアンスを帯びてきます。日本でいえば「希望的観測」。そうあってほしいが、そうなるかどうかは自分ではコントロールできないこと。

『オズの魔法使い』の「鐘を鳴らせ 魔女が死んだ」という歌は、魔女が死んで魔法が解けるまで、反対の声をあげることもできずにいたフリークスのような小人の国の住民たちが歓喜の表現として歌い踊るものですが、おなじく魔女が死んで「解放」された魔女の館の住人たちがなにを象徴しているか考えてみるのも面白いですね。

従順だったのか、それとも怖くて異議申し立てをしないでいただけなのでしょうか。処世術として、なんらかの「空気」が存在していたようですが、なにやら洗脳とマインドコントロール状態であったような印象も受けます。

「お家がいちばんだわ」(There's no place like home.)というドロシーのセリフは、ほんとうに有名なものですね(下の写真)。「幸せは身近なところにある」というメーテルリンクの『青い鳥』を思い起こさせますが、原作が発表された1900年の時点では、まだチルチルとミチルの『青い鳥』(1908年)は出版されてません。



(1939年の映画公開からまもなく75年!-公式サイトより)

   

もしかすると、アメリカには根強い「内向き志向」礼讃かもしれません。アメリカが日本との戦争を決意した1941年12月以降なら映画は製作されなかったかもしれませんね。

『オズの魔法使い』は、子どものときに見ていたらもっと素直な感想をもったでしょうが、大人になってから見ると、なんだか不思議な内容の話に思えてしまうのでありました。

         **********************************************************

なぜいま 『オズの魔法使い』 が話題になるのか、という問いから1939年のオリジナルを見たわけですが、経済の話とは離れて、違う話になってしまいました。

デフレ脱却をテーマにした経済思想であるかはさておき、ある種のアメリカ思想を表現した作品であることは間違いないようですね。



<関連サイト>

英音楽チャート1位に「悪い魔女は死んだ」、サッチャー氏死去で(2013年04月11日 AFP)

『The Wizard of Oz』ワーナーブラザーズ公式サイト(映画はMGMが製作)

『The Wizard of Oz』フェイスブックページ(英語)

Ding Dong The Witch Is Dead (「魔女は死んだ」 『オズの魔法使い』挿入歌)

Judy Garland - Over The Rainbow (Subtitiles)(「虹の彼方に」 by ジュディー・ガーランド  『オズの魔法使い』挿入歌)





PS 「ここはカンザスじゃないみたいよ」(ドロシーのセリフ)

『続 日本人の英語』(マーク・ピーターセン、岩波新書、1990)の「Ⅱ ここはカンザスじゃないみたいよ」というドロシーのセリフについての解説がある。

英語では、Toto, I have a feeling we're not in Kansas anymore. だが、ここでいう we には飼い犬のトトも入っている。


竜巻で巻きかあげられてマンチキン国に飛ばされてから、モノクロから突然テクニカラーに変わるのだが、LSDにふけっていた1960年代のアメリカ人青年たちは、このシーンに「意識の変容」を見出していたのだという。そういう見方もあるのか、なるほどと思わされる。

アメリカでは年末になると必ず放送されるほど、誰もが知っている映画なのである。

(2013年10月9日 追記)



<ブログ内関連記事>

映画 『マーガレット・サッチャー-鉄の女の涙-』(The Iron Lady Never Compromise)を見てきた

『2010年中流階級消失』(田中勝博、講談社、1998) - 「2010年予測本」を2010年に検証する(その1)
・・金融ビッグバンを英国で体験した著者による予測本

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『新・国富論-グローバル経済の教科書-』(浜 矩子、文春新書、2012)-「第二次グローバリゼーション時代」の論客アダム・スミスで「第三次グローバル時代」の経済を解読

書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版



 
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2012年2月29日水曜日

4年に一度の「オリンピック・イヤー」に雪が降る-76年前のこの日クーデターは鎮圧された(2012年2月29日)



2月29日。この日にブログを書くのは、4年に一度しかできない。
閏年である。オリンピックイヤーである。夏にはロンドンでオリンピックがある。

とくにテーマがあるわけではないのだが、こういう機会を利用しない手はあるまい。なんせ、次回この日に書けるのは4年後である。これから何歳まで生きるのか、またいつまでブログを書くのかわからないが、きょうこの日を逃したら、もうつぎは4年後になってしまう。

けさは未明から雪。関東南部も雪だ。東京だけでなく、千葉県北西部も昼まで降り続けるという。

今年の2012年2月26日は雪ではなかったが、きょうのこの日が雪。

と書いてみて、ふと思うことがあって、1936年(昭和11年)を調べてみたら、なんとその年も閏年だった

そうか、76年前の1936年2月26日、雪の降る東京で始まった二・二六事件は、4日目の2月29日に青年将校たちは自決するか投降してクーデターは鎮圧された。あまり考えてなかったが、二・二六事件は、2月26日に始まり、2月29日に終わったのだ。

そうか、あのときも閏年だったのだ。1936年は、ヒトラーのもとでベルリン・オリンピックが開催された年だったのだ。オリンピックイヤーだったのだ。

この日に雪が降らなければ、思い出して検索してみることもなかっただろう。76は4の倍数。すぐに連想しなかったのがうかつだったのか、それとも二・二六事件を忘れるな!という冥界からのメッセージか??

不思議なことだ。シンクロニシティだろうか。

「格差社会」がふたたび進展する現在の日本。

戦前はいまよりもっと荒々しい資本主義の時代だったから、現在よりも、はるかに貧富の差は大きかった。社会矛盾に怒りを覚え、解決を目指して立ち上がった青年将校たちの気持は忘れてはならない。

1936年もまた、東北の農村は疲弊しきっていたのだ。1929年の世界大恐慌の影響と大飢饉のため、東北では、娘が身売りされるなど悲惨な状況になっていたのだ。

士官学校をでて隊付き将校として着任した尉官たちが「現場」で実感したのは、兵士たちのふるさとである東北の農村の疲弊状況だったのだ。感受性豊かな20歳代前半の青年であれば、何も感じない、ものを考えないというはずがありえない。

基本的にエンジニアである陸軍軍人たちは社会科学の素養を欠いており、その情勢分析はかならずしもただしくなかったし、クーデターに訴えるというやり方も好ましいものではけっしてない。しかもクーデター後の見取り図もないままというきわめて稚拙なものであった。

だが、青年将校たちの熱い思いは忘れてはならないのだ。






<関連サイト>

「昭和維新の歌」(YouTube)・・映画『2・26』(1989年)の映像とともに


<ブログ内検索>

二・二六事件から 75年 (2011年2月26日)

「精神の空洞化」をすでに予言していた三島由紀夫について、つれづれなる私の個人的な感想





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2010年12月1日水曜日

書評 『ゼロから学ぶ経済政策-日本を幸福にする経済政策のつくり方-』(飯田泰之、角川ONEテーマ21、2010)-「成長」「安定」「再分配」-「3つの政策」でわかりやすくまとめた経済政策入門書




「成長」「安定」「再分配」-「3つの政策」でわかりやすくまとめた経済政策入門書

 経済政策の基本をわかりやすく解説した新書版のレクチャー。順を追って読んでいけば、経済政策の素人にもスッキリわかるようなロジカルな構成の本になっている。

 著者の基本姿勢は、国民の一人一人にとっての「幸福度」を高めるための経済政策とは何かということにある。

 「幸福を増やす」政策は、「成長政策」と「安定化政策」(財政政策と金融政策)

 「不幸を減らす」政策として「再分配政策」がある。この「3つの政策」で説明する著者のレクチャーは、非常に明確で理解しやすい。

 結論からいえば、この「3つの政策」をバランスよく、うまく行うことが経済政策の基本である。ぞれぞれの経済政策についての詳しい説明が、時事的なテーマも織り交ぜながら、新書版一冊で説明されている。

 「経済成長政策」はミクロ経済学「安定化政策」は財政政策と金融政策にかかわるマクロ経済学。基本的な経済理論を、時事的な話題を織り込みながら、比喩的な表現も使った説明はたいへんわかりやすい。

 「再分配政策」は、著者の表現をつかえば「不幸を減らす」政策である。この政策にかんする議論は、政策のテクニカルな側面だけではなく、必然的に政治経済思想にまで踏み込まざるをえないので、賛否が大きくわかれるであろう。1975年生まれの著者が属する世代とそれより上の世代とでは、再分配をめぐる利害関係が一致しないからだ。若い世代を不幸にしないための経済政策提案まで踏み込んでいるので、この点にかんしては、さらにより突っ込んだ議論を理解するための前提となろう。

 全体的に非常に明快でわかりやすい経済政策入門書であるが、編集にはもう一工夫ほしかったところだ。最近のビジネス書のように重要用語や重要事項は太字ゴチックで強調したり、本の構成をフローチャートとして一枚入れておくとか、各章ごとに「本章のまとめ」として整理するなどされていると、レファレンスとしても使える本になったと思う。あまり教科書っぽくしたくないというのが著者の意向なのかもしれないのだが・・・

 とはいえ、さらなる政権交代も視野に入ってきた現在、各政党が打ち出す経済政策の理解は、日本国民にとっての基本的教養となったといってもいい。

 経済政策の中身が、回り回って自分の経済的な「幸福」にどうつながってくるのか、これを基礎から理解したい人のための適切な入門書になっている。

 この分野で何か一冊と聞かれたら、迷わず本書を推薦したい。


<初出情報>

■bk1書評「「成長」「安定」「再分配」-「3つの政策」でわかりやすくまとめた経済政策入門書」投稿掲載(2010年11月19日)
■amazon書評「「成長」「安定」「再分配」-「3つの政策」でわかりやすくまとめた経済政策入門書」投稿掲載(2010年11月22日)

*再録にあたって再編集した。




目 次

第1章 幸福を目指すための経済政策
 幸福と経済
 経済政策の3つの柱
 経済政策を考える出発点
第2章 成長政策
 成長政策の基本
 市場の機能と競争政策
 「市場の失敗」にどう対処するか)
第3章 安定化政策
 安定化政策の基本姿勢
 財政政策
 金融政策
第4章 再分配政策
 再分配政策の基本理念
 「セーフティネット」としての再分配政策
 日本の社会保障制度の再分配機能をいかに変えていくべきか


著者プロフィール

飯田泰之(いいだ・やすゆき)

エコノミスト。1975年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得中退。内閣府経済社会総合研究所、参議院第二特別調査室、財務省財務総合政策研究所等で客員を歴任。現在は駒澤大学経済学部准教授を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 あとは直接手にとって読んで下さい、というのではあまりにも不親切なので、私が個人的に面白いと思った点を参考のために書いておこう。

 第1章の、経済学の立場からみた「幸福」とは何かの考察が面白い。

 つい最近もGDPで中国に負けたことが話題になっているが、これは国民一人一人の経済的幸福とは関係ない話だ。「一人あたりGDP」でものをみるクセをつけることが重要

 この指標を「購買力平価」でみたとき日本は24位(!)、なるほど生活実感からいって豊かではないことが理解できる。「満足度」は現状と参照点(レファレンスポイント)との比較に左右されるという、行動経済学による心理学的な説明も面白い。

 第2章の、「成長政策」は、政府による競争政策と企業がプレイヤーである産業組織論(ミクロ経済学)にかんする議論なので、とくにビジネスパーソンにとっては基礎教養として知っておくべき最低限の知識である。

 経済成長の担い手である企業の行動と政府の経済政策の違いを認識しておかねばならない。そして、市場における競争政策のゆがみを解消するために、「安定政策」と「再分配政策」が必要になる。

 第3章の「安定化政策」は、経済の基礎体力を向上させ体調を整えるのが安定化政策であると著者はいう。このように経済学用語にとらわれない比喩的な説明はわかりやすい。

 これはミクロの「成長政策」を補完する、マクロ経済学にかかわる経済政策である。

 また、「財政再建」にかんする著者の議論は傾聴すべきものがある。国内の富の減少をともなわない点において、ギリシアとは問題の性格を異にするが、「3つの政策」がバランスよく実行されないと財政再建につながらないという説明は、俗説にまどわされないためにも重要な指摘である。

 第4章の「再分配政策」は、著者の表現をつかえば「不幸を減らす」政策である。

 民主主義である先進国においては、経済政策を円滑にすすめるためには、経済的な不満層をなくすために、民間の保険では代替できない、国としての「再分配政策」が政治的に必須となる。

 したがって、この章の議論は政策のテクニカルな側面だけではなく、必然的に政治経済思想にまで踏み込まざるをえない

 著者の立場は「パターナリスティック・リバタリアン」、すなわち自由主義的解釈を前提にしながらも所得を「再分配」して公平を期すべしという立場である。これは資本主義経済を前提とした場合、現実的でバランスのとれた見方であると思われるが、この章で扱った政策はきわめて賛否のわかれるものであろう。1975年生まれの著者が属する世代とそれより上の世代とでは、再分配をめぐる利害関係が一致しないからだ。

 若い世代を不幸にしないための経済政策提案まで踏み込んでいるので、さらにより突っ込んだ議論を理解するための前提となろう。



<ブログ内関連記事>

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2011年1月号 特集 「低成長でも「これほど豊か」-フランス人はなぜ幸せなのか」を読む
・・「再分配」にかんして対極の立場にある米国型の「小さな政府」フランス型の福祉重視の「大きな政府」。さて日本は、どちららを選択すべきであるか?

「雷龍の国ブータンに学ぶ」に「学ぶ」こと-第3回 日経GSRシンポジウム「GSR と Social Business 企業が動けば、世界が変わる」に参加して
・・経済成長の真の目的は「幸せ」の実現。ブータン国王が提唱した GNH は、経済成長指標としての GDP に代わりうるか?





(2012年7月3日発売の拙著です)







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2010年2月13日土曜日

『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)という本の活用法について




2008年9月の「リーマンショック」発生からすでに約1年半近く、そして民主党のオバマ大統領が就任してからすでに1年たった。

 『資本主義崩壊の首謀者たち』(広瀬 隆、集英社新書、2009)が出版されたのは2009年4月であるが、いまこの時点で取り上げるのは、米国の金融はすでに健全性と収益性を取り戻しつつあるという議論がでてきているからである。

 もちろん、前政権が政権終了直前に金融業界に多大な資本注入してから脱出したという背景があるが、少なくとも大手金融機関が2009年会計年度(・・米国は12月30日末を会計年度とする企業が圧倒的多数)に、黒字を計上しているというのは事実である。米国の経済の底は2009年9月で、二番底はなさそうだという見解もすでにでているようだ。

 致命的なダメージを受けているのはむしろ欧州のほうで、先週からギリシアの国家財政危機問題がニュースになっているが、ポルトガル、スペインも時間の問題だという。統一通貨ユーロが果たしてもつのかどうか。欧州はさらなる苦境に陥りつつあるといえる。

 こうした状況において、とくに「健忘症の日本人」(・・もちろん私も含め)に、「リーマンショック」とは何だったのか、背後にうごめいていたプレイヤーたちが誰であったのかを忘れないことは重要だ。

 その意味では、この本は読んで非常に面白い。統計データをわかりやすく図表化して掲載されているので理解を助けてくれるし(・・プレゼン用の資料のようで理解しやすい)、米国の新聞に掲載された政治マンガ(Cartoon)の解説が情報量豊富で非常に面白い。
 

 さてもう一つ、この本を取りあげる理由は、ここにきてオバマ大統領が支持率を大きく低下させていることだ。CHANGE をキーワードに選出されたオバマ大統領だが、鳴り物入りで取り組んだ「医療制度改革」は完全に骨抜きと化し、内政にかんしては大幅な軌道修正を開始しているように見えることだ。

 米国人の期待を大幅に裏切っているという事実は、期待度が高かっただけに、失望の度合いもまた大きいということである。支持率回復のために、何かとんでもないことをやらかす可能性がないとはいえない。

 こういう観点からは、本書の「第2章 誰がこのような世界を創りだしたか」に書かれた内容が、実に面白い情報を提供してくれる。

 まず、オバマ政権を支える経済スタッフの筆頭が、ローレンス・サマーズであることだ。彼は、ロバート・ルービンと並んで、クリントン政権の経済政策を一手に握り、金融緩和をなしくずしに実行してきた張本人である(P.118-128)。そしてFED(Federal Reserve Board:連邦準備制度・・日本では FRB というが、米国では FED フェッド という)長官であったアラン・グリーンスパン。この3人がみなユダヤ系であることはいうまでもない。現在の FED 長官のバーナンキも同様にユダヤ系である。

 そして同じく第2章の、オバマの「シカゴ人脈のミステリー」(P.154~163)。誰がオバマを担ぎ出したのか、誰が資金源となっているのか、ここらへんの事情がわかってくると、そもそもオバマが何をするべく期待されて登場したのかがわかってくる。

 その意味では本書は資料として読む価値のある内容といえる。本書の情報をもとに自分で調べてみればよい。たとえば、オバマを支えるシカゴ人脈の一人である女性実業家ペニー・プリツカー(Penny Pritzker)は、ユダヤ系財閥プリツカー家の一員とのことだ。こういう情報は有用でありがたい。


 しかしながら、広瀬 隆はあいかわらず批判一点張りで、しかも主張する内容が限りなく「陰謀史観」に近いので、どうしても距離を置きたくなってしまう。この点にかんしては、このブログでは、書評『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)で触れたとおりである。すべてをロスチャイルドで説明しようとする姿勢は、本書においても健在である。

 帯には「ソ連共産主義崩壊から20年、今度はアメリカ資本主義が瓦解!」というキャッチコピーが書かれているが、前半は歴史的事実だとしても、後半の認識は正しくないのではないか。むしろ今回の金融危機を契機に、アメリカの金融資本主義はさらに強化されるのではないだろうか?

 「100年に一度の危機?」なんて誰がいいだしたのか知らないが、あまり鵜呑みにしないほうがいいようだ。今回の金融危機は、資本主義が健全性を保つための自動調整システムが働いたと考えるべきかもしれない。

 おそらく、この調整プロセスをつうじて、米国ではさらなる「富の集中」と「格差拡大」が同時並行的に進行しながら、米国全体にかんしては国力が増大していくこととなるのではないだろうか。これにかんしては、書評『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)を参照。「富の集中」は米国史を一貫している原理である。中産階層崩壊後は1930年以前の世界に戻るということなのだろうか。

 また、米国の金融支配力、決済通貨支配力が、そう簡単には衰えるとは考えにくい。米国に取って替わって覇権をとれる国が出現すると考えるのは、時期尚早である。  

 また「500年単位の歴史」で考えれば、過去500年のあいだ「世界システム」を主導してきた欧州の没落がさらに決定的となり、次の500年の「世界システム」が、予見しうる将来においては米国主導で動いてゆく(・・もちろん500年つづくかどうかはわからない)であろうことが確実になったといえるのではないか? 


 「日本は米国をモデルとすべきではない」という、広瀬 隆だけでなく多くの論者による主張には、部分的には賛成である。格差社会が進みすぎると日本の国力が全体として弱体化することにつながってしまう。格差社会にかんしては、米国を「反面教師」にしなければならないことは多い。

 しかし一方では、付加価値をつくりだす要素がハードではなくソフトウェアになった現在、イノベーションを起こす人材の育成が最大の課題である。この点に関しては米国には大いに学ばねばならない新しいイノベーションがITや金融も含めて、ほとんどすべて米国発であることは、誰も否定できないのは事実である。

 しかも、米国の社会システムの方が日本よりも、イノベーション人材を生み出しやすいものであることが否定できない。突出した個人を抜擢し、飛び級で大学に入学させ、予算もバンバンつけるという天才の発掘&養成システム。富の創出は突出した個人に依存する米国型システムが有効性が高いことは否定できない。

 果たして日本に米国のようなイノベーション人材養成は可能か?しかし格差拡大は好ましくない・・・。バランスの取りがたい、実に悩ましい問題である。


 こういう本を読んで、米国を批判したところで、あまり生産的とはいえないのではないか。重要なのは、たとえ自分の好みの著者ではなくても、本を批判的に読んうえで「いいとこ取り」することである。

 これは、自分のアタマで考えて、自分で行動するためには必須のスキルといえよう。




PS 2014年1月の追記

この記事を書いたのはいまから約4年前だが、それにしてもオバマ大統領の劣化ぶりがひどい。いや最初から弁説が巧みな弁護士に過ぎなかったというべきだろうか。

第二期目に入った瞬間からすでに「レイムダック」状態が急速に進行している。この大統領がまだ3年も在籍しているかと思うと、日本国民の立場からいってウンザリとしかいいようがない。

ユダヤ系のベン・バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長の後任となるジャネット・イエレン(Janet Louise Yellen)は女性初のFRB議長となるが、彼女もまたユダヤ系の経済学者である。民主党であろうが共和党であろうが関係なく、この流れは続いている。

この4年間のあいだには2011年3月11日のいわゆる「3-11」があった。広瀬隆の本来のフィールドである原発関連でふたたび脚光を浴びたことも記しておかねばなるまい。

改行を増やして読みやすくしました。内容にはいっさい手を入れてません。

(2014年1月15日 記す)



PS2 プリツカー賞について

「建築界のノーベル賞」ともいわれる「プリツカー賞」(The Pritzker Architecture Prize)というものがある。

日本人建築家も丹下健三(1987年)から始まって、安藤忠雄(1995年)だけでなく、2010年代に入ってからは、妹島和世と西沢立衛(2010年)、伊東豊雄(2013年)、坂茂(2014年)と立て続けに受賞しており、建築界以外でも知られる賞となっている。

wikipedia日本語版の情報を引用しておこう。

1979年にアメリカ人実業家でハイアットの事実上の創業者であるジェイ・プリツカーと妻のシンディによって設立された。「建築を通じて人類や環境に一貫した意義深い貢献をしてきた」存命の建築家を対象とする。国籍・人種・思想・信条を問わず、原則として一年に一人表彰している。副賞として10万ドルとブロンズのメダルが授与される。

プリツカーはシカゴのプリツカー・ファミリーのこと。アシュケナージ系のユダヤ系実業家ファミリーのことである。

書評のなかでも触れているが、「オバマを支えるシカゴ人脈の一人である女性実業家ペニー・プリツカー(Penny Pritzker)は、ユダヤ系財閥プリツカー家の一員」である。

ペニー・プリツカーは、二期目のオバマ政権で2013年6月以降、商務長官(United States Secretary of Commerce)をつとめている。全米で263番目の金持ち(2011年度)、全米でもっともパワフルな女性100人の一人。日本語でいえばコネ、英語でいえば political appointee というやつだろう。

こういう重要な人物について、2014年4月2日現在 wikipedia日本語版の情報はない。日本人の情報感度の低さを反映しているというべきか。

建築と資本主義シカゴ人脈とオバマなど、さまざまな意味で注目しておく必要がある。

(2014年4月2日 記す)




<参考記事>
Feeble growth in the euro zone:The sick men of Europe
A lack of demand in the euro area explains why its economy is hardly growing
 Feb 12th 2010 | From The Economist online


<ブログ関連記事>

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年3月号の特集「オバマ大統領就任から1年 貧困大国の真実」(責任編集・堤 未果)を読む

映画 『ウォール・ストリート』(Wall Street : Money Never Sleeps) を見て、23年ぶりの続編に思うこと   

書評 『マネー資本主義-暴走から崩壊への真相-』(NHKスペシャル取材班、新潮文庫、2012 単行本初版 2009)-金融危機後に存在した「内省的な雰囲気」を伝える貴重なドキュメントの活字版

マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える

「宗教と経済の関係」についての入門書でもある 『金融恐慌とユダヤ・キリスト教』(島田裕巳、文春新書、2009) を読む

書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)-エッセイストでドイツ文学者による『物語 ロスチャイルド家の歴史』

「500年単位」で歴史を考える-『クアトロ・ラガッツィ』(若桑みどり)を読む

書評 『終わりなき危機-君はグローバリゼーションの真実を見たか-』(水野和夫、日本経済新聞出版社、2011)-西欧主導の近代資本主義500年の歴史は終わり、「長い21世紀」を生き抜かねばならない

書評 『ユーロ破綻-そしてドイツだけが残った-』(竹森俊平、日経プレミアシリーズ、2012)-ユーロ存続か崩壊か? すべてはドイツにかかっている 

書評 『国家債務危機-ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2011)-公的債務問題による欧州金融危機は対岸の火事ではない!

書評 『ブーメラン-欧州から恐慌が返ってくる-』(マイケル・ルイス、東江一紀訳、文藝春秋社、2012)-欧州「メルトダウン・ツアー」で知る「欧州比較国民性論」とその教訓

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む
・・広瀬隆という人はもともと「反原発」論者としてデビューした人。やや「煽り系」」ではあるが

書評 『やっぱりドルは強い』(中北 徹、朝日新書、2013)-「アメリカの衰退」という俗論にまどわされないために、「決済通貨」「媒介通貨」「基軸通貨」「覇権通貨」としての米ドルに注目すべし

(2014年1月15日、8月13日 情報追加)


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2010年2月12日金曜日

月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2010年3月号の特集「オバマ大統領就任から1年 貧困大国の真実」(責任編集・堤 未果)を読む




月刊誌「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 2010年3月号の献本が、「R+ レビュープラス」から本日午後に届いたので、さっそく目をとおしてみた。

 「貧困大国(アメリカ)の真実」の責任編集を担当した堤未果は、『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008)で一躍有名になったジャーナリストである。1991年、米国野村證券に勤務したいたときに9-11に遭遇、ジャーナリストに転身したという。

 この本は著者の顔写真(カラー)のある帯付きで、書店の店頭に山積みになっているので存在そのものは知っており、またアマゾンの書評では本日現在、なんと130本もレビューが寄せられている!が、私自身はこの新書本には目を通してはいない。

 内容を紹介しておこう。基本的にアメリカを中心とした雑誌記事の日本語訳で構成されているので、米国の現状を米国人自身の眼をとおして見ることができる。

堤未果インタビュー 「色褪せたHOPE、もう一つの希望」 
 ブッシュ政権下で米国は「貧困大国化」が進み、
 一握りの富裕層が富を独占し、貧困層が拡大する社会になった。
 「変化」への希望を託されて大統領になったオバマは、
 その流れを止められたのか。堤氏が米国で見たものとは。
Part1 「貧困大国」は変わったか?
 あの日から1年、オバマはアメリカをどう変えたのか
 1日2万人のペースで増え続ける「フードスタンプ」受給者の衝撃
Part2 人間の尊厳を奪う「医療崩壊」
 タイム誌記者の家族が直面した民間医療保険の "不都合な現実"
 「医療破産」が忍び寄るシニア世代の "懐事情"
 国から見棄てられた哀しき「医療難民」たち
Part3 学生を借金漬けにする教育システム
 授業料の高騰がもたらす「大学教育崩壊」の危機
 高金利の学資ローンが学生たちの未来を奪う
「金持ち」を優遇する名門大学の入学試験
Part4 民営化で加速する「刑務所ビジネス」
 営利企業が支配するアメリカの「罪と罰」
 貧困層を死ぬまで搾取する「保護観察」という名のビジネス
Essay 真の「チェンジ」を起こすもの (堤未果)

 奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事や、「刑務所ビジネス」の実態についての記事は、マイケル・ムーア監督の映画『キャピタリズム-マネーは踊る-』でも取り上げられたのでその実態については知っていたが、あらためて活字で読むと暗澹(あんたん)とした気持ちにならざるをえない。

 『キャピタリズム』については、このブログでも、CAPITALISM: A LOVE STORY、および マイケル・ムーアの最新作 『キャピタリズム』をみて、資本主義に対するカトリック教会の態度について考える、と2回にわたって書いているので、参照していただきたい。
 また、「医療保険改革」がいかに骨抜きにされたかについての記事は、結局のところ「オバマの改革」とはいったい何だったのか、民間保険会社が儲かるような「改革」となっていったか、その実相について知ることができた。

 現在の米国は、 最貧層からさらに搾り取る、いわゆる「貧困ビジネス」がいかに米国ではびこっているか、そのおぞましい実態を知ることができる。私が米国に滞在していた1990年から1992年にかけての期間においても、すでに中流階層の崩壊が指摘されていたが、この動きはまったく止まることなく、かえって加速しているようだ。日本の状況は、経済アナリストの門倉貴志貧困ビジネス』(幻冬舎新書、2009)で 扱っているが、米国の状況は想像を越えている。

 1981年のレーガン大統領就任以降の約30年間、歴代の政権によって政党に関係なく、金持ちに有利な政策誘導がなされてきたが、行き過ぎた格差を是正すべく選ばれたオバマ大統領も彼一人のチカラではこのアメリカの現実を変えることはできないのだろうか。それとも、この特集で堤 未果が指摘しているように、献金総額の7割が企業献金が占めるという状況から考えれば、そもそもオバマは誰の利害で動いているのかについて疑問をもつのが健全な見方といえるだろう。

 しかし、この特集だけを読んで、これが米国の現実すべてだとは思わない方がいい。私が書いた書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)を読んでいただくのがいいと思う。

 『超・格差社会アメリカの真実』によれば、富が平準化した時代は、大恐慌後の1930年代から1970年代までの期間だけであり、アメリカ史においては、あくまでも例外なのである。一方では、米国は実力ある人間や才能ある人間には広く「開かれた社会」であり続けている。依然として、移民流入による人口増加があり、またそれが要因の一つとしてイノベーションを引き起こし、さらなるな富を創りだしている国であり、「リーマンショック」による金融危機を乗り切った後は、格差をさらに拡大させながらも、国全体としては再び成長軌道に戻ると予想される。

 日本が米国のような「開かれた社会」でない以上、また「敗者復活戦」の余地がきわめて小さい社会である以上、少子高齢化によって人口減少の方向にある「下り坂社会」を乗り切るためには、格差是正はかけ声だけで終わってはならない。とくにカギとなるのは教育問題である。

 日本は米国をそっくりそのままモデルとするのではなく、米国の負の側面から大いに教訓を学ぶ必要がある。そうでないと、日本全体の国力が大幅に低下してしまうことになる。

//////////////////////////////////////////////////////
 
 さて、総特集以外の記事では「サザビーズジャパン社長と考えた アート市場からみる世界経済」という特集が面白かったが、このほかも面白い記事が多い。「クーリエ・ジャポン」はひさびさに読んだが、かなり読み応えのある記事が多かった。

 ただ翻訳記事が大半なので、たとえ翻訳文はうまくできているといっても、正直なところ最初から日本語で書かれた、もう少し読みやすい文章もあったほうがいいのではないかとは思う。しかしそれでは、この雑誌のコンセプトに反してしまうかもしれないのだが・・・。


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<関連サイト>

大学進学はペイする投資なのか 高卒職場に大卒者がなだれ込む米国の苦悩 (太田智之、日経ビジネスオンライン、2014年6月12日)
・・奨学金の返済負担が若者に重くのしかかっている記事

Student Debt Threatens the Safety Net for Elderly Americans (Bloomberg BusinesWeek, August 12, 2014)
・・奨学金ローン返済問題は50歳代以上にも及び始めている

(2014年6月12日 項目新設  2014年8月13日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『超・格差社会アメリカの真実』(小林由美、文春文庫、2009)-アメリカの本質を知りたいという人には、私はこの一冊をイチオシとして推薦したい

(2014年6月12日 項目新設)





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