■よく考えれば「当たり前」のことを、「当たり前」だと直球勝負で主張する著者の強み■
著者は、2009年7月に出版された『ジパング再来』(講談社)で、間違いなく日本は一人勝ちするであろうことを主張した。この見解に異論はない。
本書では、より積極的な観点から、日本が国家として取り組むべき事を「国家のグランドデザイン」として提唱している。著者の問題意識の深さと問題分析には大きく同意するとともに、著者による提言内容については基本的に賛成だ。
ダイエー創業社長の中内功(故人)の口癖だった「(小売業においては)売上げがすべてを癒す」ではないが、著者のいうように「経済成長すれば、財政赤字問題は自然に解消する」のである。正論である。
「平気でウソをつく」、「平気で間違ったことを主張する」マスコミ(・・著者にいわせればマスゴミ)のいうことは黙殺し、自らの情報リテラシーを向上させ、数字でものを考えるクセを身につければ、日本人はとてつもない能力をさらにパワーアップさせることになるだろう。
人口減少は衰退への道ではあるが、この事実から眼をそらすべきではないとはいえ、マスコミのいう悲観論を鵜呑みにしていたのでは、さらなる衰退に拍車をかけるだけだ。
著者が次にやるべきことは、「グランドデザイン」に展開された大きな政策方向に基づき、政策のより具体的なブレイクダウンと個々の政策の整合性をつけ、そしてタイムスケジュールを作ることとなろう。
そして、われわれ日本国民の一人一人が、自ら知恵を出し、自ら主体的に行動しなければならないのではないか。国民に課せられた役割は、自らの責任範囲のなかで、最善を尽くすことのみだ。悲観論にはいっさい与(くみ)することなく。
カラ元気ではなく、ハラの底から元気になれる本である。
<初出情報>
■bk1書評「よく考えれば「当たり前」のことを、「当たり前」だと直球勝負で主張する著者の強み」投稿掲載(2010年6月28日)
目 次
プロローグ 世界一の潜在経済力を秘めた日本を「千年王国」に
第1章 日本の繁栄を妨げるものを知れ
第2章 国家のグランドデザインを描け
第3章 文明フェーズを移行せよ
第4章 世界唯一の大衆知識社会を深化させよ
エピローグ 「ハレ晴レユカイ」を踊れますか
著者プロフィール
三橋貴明(みつはし・たかあき)
作家・経済評論家。1994年東京都立大学(現:首都大学東京)卒業。外資系IT企業ノーテル、NEC、日本IBMなどに勤務したあと、2008年、中小企業診断士として独立、2009年、株式会社三橋貴明事務所を設立。インターネット掲示板「2ちゃんねる」において、韓国経済について、公開されたデータを詳細に分析することによって、その実態を暴いたことで注目を集める。企業の財務分析で培った解析力をマクロ経済に応用し、経済指標など豊富なデータをもとに国家経済を多面的に分析する「国家モデル論」が好評を博す(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
<書評への付記>
ただ一点だけ注文をつければ、「電力文明へのシフト」を説くにあたって、発電コストについての議論を精緻に展開してもらいたかったことだ。エネルギー安全保障の観点は著者のいうとおりだが、なぜ石油でなく電力なのか、この点について、経済性も含めた議論が展開されていたならば、さらに説得力を増す議論となったことであろう。
「エピローグ「ハレ晴レユカイ」を踊れますか」で紹介されている、「セカイのハレ晴レ。今日もまた何処かでハレ晴レ。第七版。」(YouTube 投稿映像)。は必見だ。
日本のライトノベルのアニメ版「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンディングで、主人公5人が「ハレ晴レユカイ」にあわせてコスプレ姿で踊るダンスが、なんとアジアだけでなく、欧州を含めた世界中で大人気。
これはスゴイ!こんな世界が存在するのだ。いや世界が日本を模倣しているのだ! 日本のソフトパワーここにあり! この映像をみたら、あなたの世界認識は間違いなく変化するはずだ。
なお、三橋貴明氏は、前回の参院選に自民党から出馬したが落選した。マンガ大好きを公言する麻生元首相を尊敬していつので自民党なのだそうだ。執筆活動は、政治家になるために戦略的に取り組んでいるのだという。
要注目の作家である。
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書評 『ジパング再来-大恐慌に一人勝ちする日本-』(三橋貴明、講談社、2009)・・きわめてまっとうなことが、直球勝負で書かれた本である