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2010年10月7日木曜日

フィリピン(Philippines)とポーランド(Poland)、この「2つのP」には2つ以上の共通点がある!




「2つのP」の直接投資誘致セミナー

 昨日(2010年10月6日)、まったく偶然のことだが、イニシャルがともにPではじまる二つの国の投資セミナーに参加した。
 投資といっても株式投資(ポートフォリオ・インベストメント)ではない、事業投資をともなう海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)のほうである。

 午前9時半からは、「投資セミナー:新生フィリピンへの招待」、午後2時からは、「ポーランド投資セミナー~ポーランドにおけるビジネス展開の可能性~」。前者は、赤坂見附のホテルニューオータニ、後者は、丸の内の東京商工会議所である。

 この「2つのP」で始まる国が、別に示し合わせて投資セミナーを開いたわけはあるまい。私も、とくに考えて参加したわけでもない。スケジュールの空きがあるので入れただけだ。
 しかし、この双方に三菱東京UFJ銀行がかかわっているので、もしかすると銀行内部では偶然の一致に気がついた人がいるやもしれぬ。それぞれ、マニラ支店長、ワルシャワ支店長がセミナーのために帰国しているから。


経済好調な2つのP

 偶然かどうかはわからないが、この「2つのP」のアジアと欧州の国は、現在ともに経済が好調である。ポーランドは、2008年のリーマンショック以降の欧州では唯一の成長経済(!)、一方フィリピンは先日の大統領選でアキノ大統領が選出されて気分も一新されたばかり、2009年に落ち込んだ経済は、2010年には再び成長軌道に戻っている。

 フィリピンはこの手の投資セミナーは日本で何度も開催しているので慣れたものだが、ポーランドは日本での投資セミナーは初の試みであったようだ。フィリピンの投資セミナーでは、長官たちも流暢な英語でスピーチ。日本人出席者は日本語いて。

 ポーランドの投資セミナーでは、ポーランド語によるもので、いまどきにしては珍しく、同時通訳なしでその都度日本語訳する形であった。私は、耳にひっかっかりにくいなので同時通訳レシーバーがキライなので、ちょうどよかったし、またナマのポーランド語を聞ける機会になったのもよかった。もっとも、固有名詞やロシア語から類推できる単語しか聞き取れなかったが。

 ただ、正直いって、ポーランドの中高年はドイツ語はできるが、英語は・・という人も多いようだ。若い世代では英語はあたりまえになりつつあるようだが。
 これは米国の植民地であったフィリピンとの大きな違いである。


もうひとつの共通性とは?

 経済好調の内容についてはまた後述するが、この「2つのP」には、さらに共通点があった。

「2つのPではじまる海外直接投資セミナーに参加していた。一つはアジアのP、すなわちフィリピン。もう一つは欧州のP、すなわちポーランド。ともに、最近好調の経済である。」

 こんな内容のツイート(tweet)をつぶやいたところ、イタリアはローマ在住の日本人の方から、レスポンスがあったのだが、その内容を読んでいて突然の「気づき」があったので、こんな返信を送った。

「そういえば、ふたつのPはともにカトリック国ですね。イタリア発の情報で、いま気がつきました。ありがとうございます! RT @・・・・ フィリピンは頑張ってほしいと思っていました。好調と聞いて安心しました。ポーランドの人は・・・」

 そう、フィリピンはアジア最大のカトリック大国、一方のポーランドも欧州有数のカトリック大国なのであったのだ。イタリアということで、突然(!)気がついたのだ。イタリアのローマといえば、まさにバチカンのお膝元。フィリピンはいうまでもなくアジア最大のカトリック国、ポーランドは先のローマ教皇ヨハネ・パウロ二世の出身国。
 景気が上向きなだけでなく、ともにカトリック国なのだ! おお、なんという偶然の一致。見えない糸でつながっている。

「ローマにはフィリピン移民の人々の教会も、ポーランドの人々のための教会も独立してあるんです・・」

 さらに、こんな返事もいただいた。「2つのP」の、非常に熱心なカトリック信者ぶりが現れている。

 イタリアがキッカケとなって、しかも媒介項となって突然気がついたのは、セレンディピティ、いやシンクロニシティ?? 一昨日から、バチカン銀行がらみの金融スキャンダル関連本を読み始めていたことも、潜在意識のなかで働いたのかもしれない・・・おお、脳機能というのは実に面白い、センス・オブ・ワンダー!


「2つのP」を数字で比較してみる

 では、フィリピンとポーランドと比べてみようかなと思って、The Economosit Pocket World in Figures を開いて見ると、なんと英語アルファベット表記では、Philippines の次に Poland が来るではないか!!
 ああ、面白い。偶然の結果だが、不思議なことがあるものだ。

 さっそく、このともにPで始まる二つのカトリック国の概要を数字で見てみよう。データは2009年現在。

面積はほぼ同じ・・フィリピン:30万k㎡、ポーランド:31.3万k㎡。
人口は・・フィリピン:8,450万人、ポーランド:385万人。フィリピンはポーランドの22倍。
GDPは・・フィリピン:US$118 billion、ポーランド:US$339 billion ポーランドはフィリピンの3倍。
一人あたりGDPは・・フィリピン:US$1,390、ポーランド:US$8,800 ポーランドはフィリピンの6倍

 意外なことに面積はほぼ同じだ。
 だが、経済的にみれば、ポーランドは新興経済国だが、実質的には先進国並である。ちなみに日本の一人あたりGDPは、US$34,080 である。


「カトリックは経済成長の阻害要因」という一般常識はほんとうか?

 カトリック人口については、フィリピンは全国民の 75%(・・キリスト教徒は全国民の90%、残りはムスリム)、ポーランドは全国民の 95%がカトリックで、しかもそのうちの75%が敬虔な信者であるという(・・Wikipedia記述より)。 
 この点にかんしては、フィリピンとポーランドは、それぞれアジアと欧州の双璧をなす。

 ご存じのとおり、カトリックでは避妊を禁止している。つまり産児制限を行ってはいけないのが原則であり、この原則をともに遵守しているのがフィリピンとポーランドである。

 つまり、この二カ国は人口増加傾向にあるのだ。フィリピンについては比較的よく知られていると思うが、実はポーランドは現在の欧州においては例外的な存在で、正確にいうと2000年以降は人口が漸減傾向にあるというももの、若年人口が多い。
 フィリピンの人口推移グラフは一貫した右肩あがり、ポーランドの人口推移グラフは、成長基調ではあるが、2000年をピークにゆるやかな減少傾向も。
 若年人口が多いと言うことは、労働人口が多いということであり、人口学でいう「人口ボーナス」という概念に該当する。つまり、若年人口が多いのはマイナス要因であるどころか、経済成長にとってはプラス要因であることは、日本の高度成長期を引き合いに出さなくても自明の理であろう。人口減少傾向にあり、しかも少子化の進行する日本は、この「2つのP」とは正反対のポジションにある。

 一般的な経済史の常識では、カトリックの国は起業家精神に乏しいとされているが、勤勉な労働力(!)が支える好調な経済という点において、この「2つのP」はともに有望株ということがいえる。
 マックス・ウェーバー流の常識はいったん捨てて、虚心坦懐に経済データを眺めたほうがいいという好事例であろうか。

 フィリピンとポーランドの経済データについて見ておこう。

フィリピン:リーマンショックのあおりを受けて、2009年に 0.9% に低下した以外は高成長を続けている。2010年は 8.0%台の成長に回復している。

ポーランド:2009年のポーランドは、前年度比 1.7%成長と、OECD 加盟国最高の成長率を叩き出している。2009年の第三四半期以降は 3.0%以上の成長を続けており、欧州各国が軒並み低成長に陥ってるなかでは例外的な存在になっている。


ポーランドは内陸国家のイメージが強いが、海に面した海洋国家でもある

 さきにこのブログでは、同じ発展途上国の多島国として、ギリシアとフィリピンを比較してみたが、ポーランドとフィリピンを比較してみるのも面白いことがわかった。

 そういえば、ポーランド出身の船員が英国に帰化してジョゼフ・コンラッドと名乗り、『闇の奥』などの作品によって、現在では英文学の古典になっていることを思い出した。
 また、東欧革命の先駆けとなった「自主管理労組 連帯」(ソリダルノシチ)のワレサ議長は、グダンスク造船所の労働者であった(・・グダンスクはかつてドイツのダンツィヒ)。「連帯」が脚光を浴びていたのは、いまは昔、私の高校時代の話だが。
 ポーランドというとどうしても内陸国家のイメージが強いが、実はバルト海に面した海洋国家の性格ももっているわけだ。

 比較論というのは、イメージと固定観念だけで行うのはいかに危険なものなのかと、あらためて感じている次第。


<関連サイト>

フィリピン投資委員会(BOI:Board of Investment)(英語)

駐日ポーランド共和国大使館 貿易・投資促進部(日本語)

 ちなみに、海外投資誘致機関としてもっとも充実しているのは、アジアではタイ投資委員会(BOI:Board of Investment)、欧州ではチェコのチェコインベスト(CzechInvest)である。

タイ投資委員会(BOI)(日本語と英語)

チェコインベスト(CzechInvest)(日本語)

How Poland Became Europe's Most Dynamic Economy (By Stephan Faris  November 27, 2013 BloombergBusinessweek)
・・2013年現在でもポーランドの成長は著しい!

ポーランドの第2の黄金期:欧州の意外な星 (JBpress、2014年7月2日)
・・ The Economist の翻訳記事。「ポーランドは過去500年間で最高の25年を経験したところだが、その転換はまだ終わっていない」、と。



<ブログ内関連記事>

映画 『イメルダ』 をみる
・・フィリピン戦後史そのもののイメルダ・マルコス

ベトナムのカトリック教会
・・アジアのカトリック国はフィリピンだけではない。韓国とベトナムも。

書評 『ギリシャ危機の真実-ルポ「破綻」国家を行く-』(藤原章生、毎日新聞社、2010)
・・多島国ギリシアとフィリピンの共通性について言及

コンラッド『闇の奥』(Heart of Darkness)より、「仕事」について・・・そして「地獄の黙示録」、旧「ベルギー領コンゴ」(ザイール)
・・コンラッドの『闇の奥』

修道院から始まった「近代化」-ココ・シャネルの「ファッション革命」の原点はシトー会修道院にあった
・・プロテスタンティズムと起業家精神との親和性を説いたマックス・ウェーバーの仮説には、そもそもほころびがある

(2015年6月7日 情報追加)




(2012年7月3日発売の拙著です)










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