■人生に成功したくない人、島田紳助がキライな人は読まなくていい■
誰が見ても文句なしの成功者である島田紳助が、漫才の世界の後輩たちにレクチャーした、熱く、厳しく、かつ心優しい、ホンモノの「成功術」のエッセンスを活字化して一気に大公開したものだ。
2007年に NSC 大阪で開催された、島田紳助の特別講義を DVD化したものが元になっている。あえて活字にすることはないと渋りつづける著者を拝み倒して実現した企画だという。
本書の内容を一言でいってしまえば、単なる努力だけでは成功しない、ということに尽きる。
正しい方向を正確に読み切り、業界内のポジショニングを明確に意識したうえで、戦略的に自己構築しなければ、せっかくの努力もムダに終わってしまうということだ。「勝てる戦」をしなければならないのだ。
帯に記されている成功法則を引用しておこう。エッセンスの数々である。
●頭で覚えるな、心で覚えろ
●自分だけの教科書をつくれ
●「ヘンな人」になりなさい
●直球がダメなら変化球で
●「X+Y」の公式を確立せよ
●他人のシステムをパクる
●負ける戦はしない
熾烈な競争の芸能界で盤石の地位を構築して生きのびてきた著者による、まさに切れば血が出るような内容である。
この本を読んでも、読者がテレビの世界で「第2の島田紳助」となることはまず100%ないだろう。
しかし、読者のそれぞれが、自分が決めたニッチな分野で「島田紳助」になるための方法論として読めば、これほど血肉になりうる内容の本はない。
読者みずからが、芸能界における島田紳助の軌跡を、自分にあてはめて自己構築に応用していけばよい。もし成功しないとしたら、それは本書の内容をキチンと理解していないか、応用の仕方が間違えているか、あるいは努力不足、または運が味方しなかったかのいずれかであろう。
毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい対象である芸人・島田紳助。彼を好きな人間にとっては、またとない教科書であろうが、キライな人にとっては見るのも不愉快な内容であろう。
人生に成功したくない人は読む必要はない。
だが、それではあまりにももったいない。
<初出情報>
■bk1書評「人生に成功したくない人、島田紳助がキライな人は読まなくていい」投稿掲載(2010年5月21日)
*再録にあたって加筆修正を行った。
著者プロフィール
島田紳助(しまだ・しんすけ)
1956年、京都市生まれ。多数のレギュラー番組に出演する一方で、数多くの飲食店ビジネスを展開し成功をおさめる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
・・島田紳助については、あえて説明するまでもなかろう。
<書評への付記>
経営用語でいえば、熾烈な競争の存在する芸能界は、まさに「レッドオーシャン」そのものである。「一将功成って万骨枯る」の世界。華やかに見えて、実は上下関係の厳しい体育会的世界。
この世界で勝ち抜き、生き残っただけでなく、いまだに生き続けているということが並大抵なものではないことは、ちょっとイマジネーションを働かせればわかることだ。
本書は、その「レッドオーシャン」のまっただなかでの生き残りの方法論である。
だが、この方法論を使って、ニッチ分野の「ブルーオーシャン」でナンバーワンになってしまうということも可能だ。その場合にも、島田紳助の方法論は役に立つといえる。
エッセンスを読み取らねばならない。
いくつか島田紳助のコトバを引用させていただこう。みなさんも、この発言の数々からエッセンスをつかみとってください。
僕がよく言うのは、「X+Y」でものを考えろ、ということ。
「X」は自分の能力。自分は何ができるのか。これは自分にしかわからないのだから、自分自身と必死に向き合って必死に探すしかありません。
「Y」は世の中の流れ。これまでどんなことがあって、いまどんな状況で、五年後十年後、それがどんな風に変わっていくのか、これは資料が揃っているのだから、研究することでわかってくるはずです。
この「X」と「Y」がわかった時、はじめて悩めばいい。
・・(中略)・・
「X」と「Y」もわからずにどんなに悩んだって、それは無駄な努力です。(P.29~30)
漫才というものはひとりではできない。
今言った「X+Y」の法則を成立させられるかどうかも相方次第。
そして相方と友達は別です。
「こいつは凄くいい奴で」とか、そんなのは関係ありません。
自分がやりたい漫才に必要な相方を探さなければいけない。
僕の場合はどうだったか。漫才時代の相方だった竜介の話をします。(P.36~37)
そういう風に、同じ価値観を共有して、同じことを考えて、同じところを見ている人間ふたりじゃないと、一個の笑いはつくれないですよ。(P.66~67)
ただし、嘘はいけない。嘘はすぐばれます。
一分野一箇所に詳しくなるなら、その一箇所を本当に好きにならなくてはいけません。
・・(中略)・・
そして「心」で記憶するんです。
本で読んで「頭」で記憶しただけでは、すぐボロが出ます。
・・(中略)・・
僕たち喋り手は、本を読んで「頭」で記憶するのではなく、実際に体験して「心」で記憶しなくてはならないんです。
「頭」で記憶したことはすぐ忘れます。
「心」で記憶したことは一生忘れません。(P.83)
だから、絶えず「心」で記憶できるよう、いつでも「感じ」られるよう、「心」を敏感にしていないといけないんです。(P.87)
もうひとつ。「心」で記憶できるようになるには、やっぱり遊ばないといけません。
その「遊ぶ」っていうのは、風俗に行くことではないし、飲みに行って騒ぐことでもありません。
「遊ぶ」というのは、色々なものに興味を持って、ウロウロすること。もっと言ったら、ヘンな奴でいること。(P.88)
「心」で記憶したことをしゃべると、映像が見えます。
上手い喋り手が話しているのをみんながうんうんって聞いているでしょう。あれは耳で聞いているんじゃなくて、同じ映像を見ているんです。「脳」で記憶したことを喋っても、映像は見えてこない。同じ映像を見ているからこそ、人は共感するんです。(P.94~95)
脳科学についての正しい知識を前提にした話ではないので、アタマとココロの関係は正確なものではないが、言わんとすることはストンと理解できる。それは、紳助が本質論を語っているから。
正確には、島田紳助のいう「心」の記憶とは、五感を全開にして体験したエピソード記憶のことである。だから、言っていることは正しい。自分が体験したエピソード記憶は、キッカケが与えられると再生しやすいのである。
ほかにも、実に鋭い指摘が多数あるが、これは直接、本を読むなり、DVDをみてもらったほうがいい。営業妨害(?)になってはいけないし、自腹切って手間ヒマ惜しまずにやらないと、何ごとも身につきません(笑)。
とくに、「テレビで絶対売れる「企業秘密」を教えよう」(P.67~)は、さすが紳助とうならされる。
すでに活字になっているので「企業秘密」でもなんでもないのだが、この箇所がまさに「アタマの引き出し」つくりそのものといっていい。
その心は何かといえば、19世紀英国の思想家 J.S.ミルの名言 "everything about something" and "something about everything" を地でいったものだ。
紳助の場合は、芸人としての専門能力が前者の "everything about something"(ある何かについてのすべて) 、司会をやる際の知識は後者の "something about everything"(すべてについての何か)である。
芸人としては自分の専門能力は徹底的に研究して実践で磨き上げ、それ以外は人に聞けばいい、という割り切り。この専門能力と、自分の体験と、人から聞いた話をうまく使いこなす相乗効果こそ、島田紳助をして、現在の地位を築き上げた理由の一つであるといえよう。
自分に与えられた枠組みのなかで、いかに120%実力を発揮して実績を出すか。
ほんとうに地(ぢ)アタマの良い人間というのは、こういう人であるという、一つの例証になっている。
勝つとか、成功するとか、そんなエゲツない話は嫌いだ。そういう風に思う人も当然のことながら多いだろう。
なるほど、しかし、食わず嫌いはもったいない。ぜひ一読すべし、といっておく。
いや、一回読むだけではもったいない。あまりにも簡潔にエッセンスしか語っていないので、自分自身の経験の引きつけて、言わんとすることを読み取る必要があるだろう。
そしてその価値のある本である。
<ブログ内関連記事>
書評 『Me2.0-ネットであなたも仕事も変わる「自分ブランド術」-』(ダン・ショーベル、土井英司=監修、伊東奈美子訳、日経BP社、2010)・・ネット時代の「セルフ・ブランディング」(=自己ブランド化)の教科書。基本的に先行する米国の大学生向けの内容
本の紹介 『人を惹きつける技術-カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方-』(小池一夫、講談社+α新書、2010)
・・「キャラ」の立て方と見せ方(=魅せ方)
書評 『知的生産な生き方-京大・鎌田流 ロールモデルを求めて-』(鎌田浩毅、東洋経済新報社、2009)
・・京都出身の島田紳助について言及している
P.S. 島田紳助が芸能界を完全引退(2011年8月23日)
「島田紳助が芸能界を完全引退」というニュースが昨日(2011年8月23日)流れた。暴力団との関係が問題になったようで、よしもとによる実質的な解雇だという。
もともと漫才時代にツッパリキャラで名を売った紳助のことだから、暴力団がからんでいたといわれても不思議でもなんでもないが、それにしても社会的通念に反する行為であると、よしもとが判断したということはきわめて重い。
最近は、芸人としてよりもプロデューサー的な立ち位置となっていた紳助だが、惜しいという気持ちとともに、「アホやあなあ」という気持ちも同時にいだく。
ただし、この本で展開された「成功方程式」そのものは善悪の是非は脇において、参考にすべき価値はあると思われる。
問題は成功してからいかにおごり高ぶらずに生きていくかということだろう。その意味では、紳助の「芸能界引退」は、「反面教師」としても受け取るべきものであるといえよう。 (2011年8月24日 記す)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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