Tommorrow is another day (あしたはあしたの風が吹く)。
ハリウッド映画 『風と共に去りぬ』(Gone With The Wind)ラストシーン、英国人女優ヴィヴィアン・リー(Vivien Leigh)が演じる、スカーレット・オハラがつぶやくセリフ。
「南北戦争」で敗北した側になってすべてを失った南部人女性が、自らの人生の再起もかけてクチにするセリフだ。
日本語に直訳すれば、「あしたは今日とは違う一日」となる。だが、「あしたはあしたの風が吹く」としたのは名訳だ。
英語の another は、使いこなすと、非常に英語らしい表現になる。
たとえば、月曜日の朝には、Another Monday, isn't it ? と、付加疑問文(=タグ・クエスチョン)で挨拶してみよう。意味は、「また月曜日ですね、今週もがんばりましょう」といったニュアンスになる。
英語の付加疑問文は、関西弁の「~ちゃうか?」に似ている。付加疑問文のことをレトリカル・クエスチョンともいうのは、最初から話し相手には肯定的な返事を求めているからである。つまりはレトリックのなせるわざだ。
ところで、私がこの Tommorrow is another day (あしたはあしたの風が吹く)というセリフを覚えたのは、「英語で映画を見てみよう」といったタイトルの本ではなく、『アメリカニズム-言葉と気質-』(坂下昇、岩波新書、1979)という本。高校のときに何度も繰り返し読んでいた本だ。ここでいう「アメリカニズム」とは、アメリカ主義ではなく、アメリカをアメリカたらしめている表現のことである。
すでにこのブログでも Eat Your Own Dog Food 「自分のドッグフードを食え」で紹介したことがあるが、この名著いうべき本が絶版、いや長期重版未定になっているのは実に惜しい。標準米語ではないので一般にはあまり知られることのない南部表現が少なからず収録されているからだ。
たとえば、エルヴィス・プレスリーの Love Me Tender(やさしく愛して) という歌は、標準米語なら tender は tenderly とすべきところだが、米国南部では形容詞をそのまま副詞(adverb)的に使うらしい。こういった知識が満載のこの本は、出版当時は大きな話題になっていた。
『風と共に去りぬ』の舞台となった米国南部、実は私もよくは知らないのだが、どうしても私を含めた日本人が無意識のうちに「北部中心史観」にとらわれているのは、明治維新と同様、米国でも北部側に「勝てば官軍」意識が根強く残っているからだろうか。ちなみに、ヤンキー(yankee)とは北部の人間をさすコトバ、間違っても南部人をヤンキーと呼んではいけない。
「南北戦争」(1861年~1865年)は日本で使われる名称で、米国では The Civil War と呼ばれている。大文字で始まる「内戦」である。
日本は米国の強い圧力で、1853年に「開国」するに至ったにもかかわらず、幕末の混乱期に米国のコミットメントが小さかったのは、米国国内がまさに大規模な内戦状態にあったことも少なからず影響している。米国はこの時点では、かなり「内向き」になっていた。
薩長側のバックに大英帝国、幕府側のバックにフランスがついた、ある意味では英仏の代理戦争となったのが、幕末の日本の「戊辰戦争」という内戦であった。
「戊辰戦争」の結果、とくに長州と会津が犬猿の仲になっていることは、よく知られていることだ。この状況も、米国の南北関係と似ていなくもない。米国にも「敗者の美学」は存在する。
明治維新は1868年に成就したが、10年後には「最後の内戦」といわれる「西南戦争」が勃発した。
米国も日本も、ともに「内向き」志向の強い国だが、歴史を振り返ると、面白いことにパラレルな動きをしていることがわかる。まったく出自の違う国なのだが、こういう共通点は面白い。
After all, tommorrow is another day
(結局、あしたは今日とは違う一日)。
たとえ、一時的に敗者の側に回ったとしても、明日を切り拓くのは心持ち次第なのだ。
gone with the wind(Youtube)
・・ラストシーンで After all, tomorrow is another day. とつぶやいて映画は The End となる。
Elvis Presley - Love Me Tender(Youtube)
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書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)
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■「敗者」の立場から見た歴史
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(2016年6月19日 情報追加)
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