■「むしろ積極的に挫折せよ!」という著者の熱いメッセージを真っ正面から受け止めよう■
日本の大企業のいわゆる「学校エリート」がいかに安全地帯で挫折を避けているか、そしてその結果、修羅場のガチンコ勝負では決定的に弱いかをつぶさに観察してきた著者による「挫折力」のすすめ。
事業再生という修羅場で、当事者として再生対象の企業にかかわってきた著者は、歴史上の人物を引き合いに出しだけでなく、自らの豊富な挫折体験についても率直に語っている。
学校エリートが幅をきかせているのは日本の大企業であるが、守るのに汲々として捨てるのを怖がっているのは、大企業だけでなく、中堅企業のエリートも同じだろう。
しかし、すでに安定した時代は終わって「大競争時代」にあるのが、いまの日本社会である。グローバル競争のもと、不安定で不安定な状況は今後も終わることなく続き、それが当たり前の状態となる。
「一寸先は闇」といったら大げさと笑われるだろうが、著者と同世代で、同じく時代の荒波に翻弄されてきた私には、腹の底から共感できる内容である。私も、勤務先が破綻する経験や、数々の修羅場を経験して現在に至っている。
とくに私が共感したのは、「世の中のいわゆる「成功哲学」の欺瞞について」という一節だ。成功体験を語ったビジネス書があふれている現在の日本だが、後知恵で語った成功哲学など再現性に乏しく、成功物語はレアケースに過ぎないと断言する著者の発言には、まったくそのとおりだと強く同感した。
チャレンジしたら失敗するのは当然だ。失敗から学び、挫折から学ぶ。自分自身の体験から得た教訓だから、他人の説教やアドバイスよりもはるかに身にしみる。数々の失敗がまた人間を成長させる。挫折もまた同じだ。若いうちの挫折は人生の財産である。何よりも挫折に対する免疫力がつく。
本書には「挫折力」のポイントが50にまとめられている。いったん読み終えたあとも、このポイントをときどき読み返してみるといいだろう。
よく言うではないか、「若いうちには積極的に失敗しろ」と。
だから「むしろ積極的に挫折せよ!」という著者の熱いメッセージは、若者と若い心をもったすべての日本人への応援歌なのである。
悔いのない「ほんとうの人生」を送りたいと切望している人には、劇薬だからと敬遠することなく、ぜひ手にとって読むことを強く奨めたい。
<初出情報>
■bk1書評「「むしろ積極的に挫折せよ!」という著者の熱いメッセージを真っ正面から受け止めよう」投稿掲載(2011年1月26日)
■amazon書評「「むしろ積極的に挫折せよ!」という著者の熱いメッセージを真っ正面から受け止めよう」投稿掲載(2011年1月26日)
目 次
第1章 挫折こそが成長への近道
第2章 挫折に打ち勝つ力 (1) ストレス耐性を高め、挫折と折り合う技
第3章 挫折に打ち勝つ力 (2) 人間関係の泥沼を楽しみ、糧にする技
第4章 挫折に打ち勝つ力 (3) 捨てる覚悟を持つための技
第5章 挫折に打ち勝つ力 (4) リアルな「権力」を使いこなす技
著者プロフィール
冨山和彦(とやま・かずひこ)
1960年生まれ。経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長を経て、2003年、産業再生機構設立時に参画し COO に就任。解散後 IGPI を設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり現在に至る。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、朝日新聞社社外監査役、財務省「財政投融資に関する基本問題検討会」委員、文部科学省科学技術・学術審議会基本計画特別委員会委員などを務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<書評への付記>
■本書は「経営権力」論についての考察もある好著である
経営書にしては珍しく、本書の第5章には「経営権力」の本質への鋭く深い考察がある。これは組織の政治学であり、人間学である。「権力」の問題は経営学者は見て見ぬ振りをしているのか、それとも実感としてわからないのか、まともに取り上げているのをほとんど見たことがない。
しかし、経営組織体における「権力」の問題を避けて通ることはできないだろう。「権力」とは英語でいえばパワーである。経営者からみれば行使すべきチカラのことである。従業員からみれば行使されるチカラのことである。経営者ではなくても、組織の各レイヤーごとに権力は存在する。上司と部下の関係もまたそうだ。
「経営権力」は、大企業と中小企業には関係なく存在する。
パワー、影響力、リーダーシップなどの関係については、突っ込んだ考察が必要だが、このためには経営学では対応できないようなので、政治学や社会学による考察が必要なようだ。
むしろ、高杉良などのビジネス小説を読むほうがいいのかもしれない。経営組織体における「権力」については、作品世界のなかでイヤというほど描かれているからだ。
なお、以前bk1に書いた書評があるので、再録しておきたい。
『経営と権力』(松下武義、日本放送出版協会、2000)
■机上の経営書とはまったく一線を画した経営バイブル■
経営者、経営者候補生、起業家のバイブルとすべき実践(実戦)の書。企業のトップとしていかに権力を正しく行使するかについて、著者がその豊富な経営者経験をもとに、実例を交えて、明確に語る。経営とは意思による行為そのものである。本書は、机上の経営書とはまったく一線を画している。こういう人こそが、本来実践(実戦)の学であるべき経営学の教授(現在、多摩大学客員教授)になるのは当然である。超おすすめ。
(2001年3月28日)
残念ながら現在では品切れで入手不能である。
私は組織体における「権力」の本質には、大学時代に体育会合気道部の主将を務めているときに気がついた。
そのとき思ったのは、営利だろうが非営利だろうが、組織体にはかならず権力が存在する。権力というのは目に見えないが、明確なチカラとして存在する。権力は行使されるためにある。ただし、正しく行使されなくてはならない、ということだ。
正しい行使の仕方は、しかしながら権力の本質そのもののなかにはない。権力を行使する個人のバックボーンをなす思想や信念、人生態度によって規定されるものである。だからこそ、理念が重要なのだ。すべての人間に権威が最初から存在するわけではない。
おそらく私は社会学部にいて、マックス・ウェーバーの「カリスマ論」などを読んでいたことも影響があるだろう。マルクス主義の活動家たちもまたこの問題には敏感だろう。
大学時代は活動家であった前官房長官が、自衛隊のことをうっかり「暴力装置」とクチにしたが、暴力も権力もパワーという点において、その本質は共有する。出典がマックス・ウェーバーであることは知っている人は驚くべき内容ではない。
それにつけても、経営学者の経理論に「経営権力」論がないのは不思議でしょうがない。修羅場のガチンコ勝負をしていないから、実感として捉えることができないのだろう。政治学者が政治家になり得ないのと同じことか。
いや逆に、大学のなかで権力闘争を戦う者は、たとえそれを捉え得たとしても、考察対象とはしないだろう。当事者ゆえに客観化できないということもある。嫉妬や妬みという、人間のネガティブな心理に踏み込まざるを得ないのも言及が回避される理由であろう。
しかし、「権力」論不在の組織論は私には不毛に思えて仕方がない。組織とは、明確だろうが不明確であろうが、理由と目的があって、はじめて形成され維持される人間集団のことである。そこには必然的に「権力」が発生してくるのである。
<ブログ内関連記事>
『JAL崩壊-ある客室乗務員の告白-』(日本航空・グループ2010、文春新書、2010) は、「失敗学」の観点から「反面教師」として読むべき内容の本
・・著者の冨山氏は、最近では JAL再建に関与を予定していながら民主党にハシゴをはずされた「挫折」経験をもっている
「幾たびか辛酸を歴て 志始めて堅し」(西郷南洲)・・私の座右の銘
書評 『梅棹忠夫 語る』(小山修三 聞き手、日経プレミアシリーズ、2010)
・・この本もまた挫折につぐ挫折の経験を語ってやまない
このほか「失敗」や「挫折」にかんする記事は多数あるので、これらのキーワードで「ブログ内検索」していただくとよいと思います。
(2012年7月3日発売の拙著です)
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