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2011年2月14日月曜日

書評『アラブ諸国の情報統制-インターネット・コントロールの政治学-』(山本達也、慶應義塾大学出版会、2008)-インターネットの「情報統制」のメカニズムからみた中東アラブ諸国の政治学




インターネットの「情報統制」のメカニズムからみた中東アラブ諸国の政治学

 「インターネットは民主化を促進する」という命題がある。

 この米国発の楽観的な命題は、とくに検証されたわけでもないが日本でも広く受け入れられている。チュニジアから始まって中東の大国エジプトにも波及した「民主化革命」においても、インターネットのチカラを礼賛する見解が多くクチにされたのは、当然といえば当然であろう。

 しかし、この見解はあまりにもナイーブなのではないか? 本書に目を通した人ならかならずやそう思うに違いない。なぜなら、著者の表現を使えば、これは「インターネットの中身をブラックボックス化」した議論であるからだ。

 本書は、中東アラブ諸国に特徴的な、非民主主義的で権威主義的な「独裁政治」を成り立たせてきた情報統制の実態とメカニズムについて、グローバル経済のなかでそれぞれの国家が置かれている政治経済状況とインターネット技術との関係から、フィールドワークも踏まえてその考察したものである。

 インターネットにおける情報統制は、新聞・ラジオ・テレビといった伝統的なマスメディアにおける情報統制と共通するものがあるというと、日本や先進国の状況しか知らないと不思議に思うかもしれない。

 1996年に中東湾岸諸国のカタールで始まった「アルジャズィーラ」などの衛星放送は、簡単に国境を越えてしまうので、国家レベルでの情報統制が難しいのは当然だ。だが、グローバル経済の流れのなか、2000年以降に中東で本格的に普及が始まったインターネットは衛星放送よりも新しいメディアなのに、なぜ国家レベルでの情報統制が可能なのか?

 「インターネットの情報統制」のキーワードは、プロキシサーバと情報通信のツリー構造ネットワークである。情報通信ネットワークは一国単位でネットワークが構築されている。もし国外との通信の出入り口を一つに絞り込み、その運営を政権の息のかかった独占企業体の通信企業にまかせ、しかもそこにフィルタリングを目的としたプロキシサーバを設置すれば・・・。

 答えはもう明らかだろう。アラブ諸国では一部の例外を除いて、ほぼすべてこのパターンでインターネットの情報統制を行っているのだ。インターネット情報の一元的管理による、情報制限、情報検閲、そして情報モニタリング、特定のコンテンツの排除などさまざまな手段で情報統制を行っている。
 イスラームと情報統制は関係あるのか、それともないのかなどのテーマも含めて、詳しい議論は本文に直接あたってほしい。

 「チュニジア革命」と「エジプト革命」においても、ツイッターやフェイスブックなどの SNS 果たした役割を過大評価しないことが必要かもしれない。本書によれば、チュニジアは完全な情報統制国家エジプトはプロキシサーバを設置していないものの、「見かけ上オープンなネットワーク」をもった情報統制国家であることがわかる。

 情報統制を行っている独裁国家で、いかに SNS を使った情報交換やデモ参加への促しが可能であったのか? おそらく今後、革命のプロセスがだんだんと明らかになっていくものと思われるが、現時点ではインターネットが果たした役割については、限定的に受け取るべきではないだろうか?。

 また「民主革命」が成就したあとも、典型的なインフラ産業である情報通信ネットワークが一夜にして変化することは考えにくい。2006年のクーデター後のタイで、軍事政権下の暫定政権が行っていた「インターネットの情報統制」を現地で体験した私には、そう思えてならないのだ。本書は、「民主化」後について考えるヒントも多く提供してくれるといってよい。

 本書は博士論文をベースにした研究書なので、全体的に繰り返しが多くて、やや冗長な面も感じなくもないが、本書で展開されている議論にかんしては、きわめて重要な視点を提供してくれたことを大いに評価したい。

 アラブ諸国の状況だけでなく、アジアの状況についてもきわめて示唆するところが大きいからだ。そういった観点から読むことも可能だろう。



<初出情報>

■bk1書評「インターネットの「情報統制」のメカニズムからみた中東アラブ諸国の政治学」投稿掲載(2011年2月14日)
■amazon書評「インターネットの「情報統制」のメカニズムからみた中東アラブ諸国の政治学」投稿掲載(2011年2月14日)






目 次

序章 インターネット時代の非民主主義国家
第1章 情報化の波に直面するアラブ諸国
第2章 情報統制のパターン
第3章 コード層でのインターネット・コントロール
第4章 物理層でのインターネット・コントロール
第5章 インターネット・コントロール政策をみる視点
第6章 インターネット・コントロール志向型情報統制国家
第7章 インターネット・コントロール放棄型情報統制国家
第8章 アラブ諸国のインターネット・コントロール政策
終章 グローバル化とアラブ諸国
あとがき

参考文献
索引


著者プロフィール

山本達也(やまもと・たつや)

名古屋商科大学外国語学部専任講師。1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。シリア国立アレッポ大学学術交流日本センター主幹・客員研究員、慶應義塾大学COE研究員(RA)などを経て現職。専攻は、国際関係論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

企業レベルでは、セキュリティの観点からフィルタリング目的で普通に導入されているプロキシサーバ

 企業レベルでは、セキュリティの観点からフィルタリング目的で普通に導入されているプロキシサーバ(proxy server)。これを、情報通信の出入り口を一元化した通信会社内に設置して、すべての報通信を監視するという方法論、これはけっして突飛な発想でも、技術的に困難な課題でもない。

 子どもに見せたくない悪質な内容のサイトをブロックする目的でも使用される。

 もちろん、私はインターネット・セキュリティの専門家ではないので、技術の詳細については語る資格はないが、目的と手段という観点から考えてみれば、誰にでもわかる話だろう。企業レベルのセキュリティ対策を、国家レベルで実施したという話である。
 
 国家レベルのセュリティ対策には、米国企業も関与していると言われている。


アジア諸国へのインプリケーションを考えてみる

 本書は、アラブ諸国をケーススタディの対象としているが、その他多くの「情報統制国家」を考えるのに非常に示唆的な内容だ。著者自身は、数行触れただけで、具体的な言及はしていないので、私の理解している限りのことを書いておこう。

 とくにアジアでは、中国、ベトナム、北朝鮮といった「社会主義国」だけでなく、ミャンマーでも、タイ、シンガポールでも同様である。

 たとえば、2006年クーデター後のタイ王国。民政移管までの期間、軍事政権下の暫定政権において「インターネットの情報統制」が行われていた。

 これを現地で実体験していたので、2008年に本書が出版されたとき、大いに知的好奇心を刺激されて購入したのである。クーデター前にタイ政府に協力したことのある日本人の専門家から、タイのインターネット情報統制の仕組みについて話を聞いていたので、ピンときたというわけだ。

 仕組みは、アラブ諸国と同じである。ツリー構造ネットワークによって、タイ国外との情報の出入り口は一元化されている。

 タイの軍政当局は、ある特定のキーワードをリストアップして、無差別にフィルタリングをかけていた(・・現在も程度の違いはあれ、フィルタリングはかけているようだ)。このため、問題ないのに表示できないサイトがでてきてクレームをつけても、問答無用で退けられたというウワサを聞いている。真偽のほどは確かではない。軍政当局はフィルタリング対象のリストは、当然のことながら公開していなかった。

 民政移管までの重要な政治課題であった「憲法改正」を、国民投票(レファレンダム)において僅差でかろうじて乗り切ったのち、軍政下の暫定政権は、かけこみで「治安維持法」を成立させている。

 タイでは、YouTube が遮断されていたことも記憶に新しいだろう。一般に「自由の国」と目されているタイも、一皮むけばこのような「情報統制国家」としての本質が現れてくる。

 タイでは現在でもプリント・メディアに発禁措置が取られることが多々ある。主に海外雑誌についてであるので、輸入禁止という措置である。The Economist が何度か輸入禁止になっている。

 タイを例に出したが、中国はいうまでもなく、ベトナムや北朝鮮といった「社会主義国」だけでなく、シンガポール、ミャンマー・・など、どの国も似たり寄ったりであろう。違いがあるとすれば、程度の差だけである。

 本書では、ドバイの例が興味深い。ドバイ首長国はアラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)を構成する首長国だが、「情報統制」を行っている UAE全体の情報通信政策とはまったく別個に、ドバイ内のフリーゾーンでは完全に自由な情報流通を認めている。IT分野の研究開発においては、情報流通の自由が確保されていないとだめだということを、ドバイ政府はトップレベルで理解しているためである、という。

 著者はこの状態を指して「ダブルスタンダード」といっているが、アジアの現状に則して考えてみれば、これは中国政府が採用している「一国二制度」に該当するといっていいだろう。中国国内は完全に情報統制が行われているが、自治政府のある香港では、原則として自由な情報流通が確保されている。中国本土から撤退したグーグルは、現在は香港で運営している。

 ベトナムや北朝鮮、そしてミャンマーでも初期投資額の小さなIT産業にはチカラを入れており、これらの国では特区のなかではかなりの程度の自由を認めているようだ。

 ざっとこのように、アジアでもアラブ諸国と同様、「インターネットの情報統制」は行われているのが常識と考えるべきであろう。



* なお、この書評(初出)は投稿先の bk1 でも紹介していただいている(2011年2月18日に記す)。
 bk1 書評ポータルにて紹介 2011年2月18日 「国際情勢にお詳しい“サトケン”さんの『アラブ諸国の情報統制』の書評がいつもながらとても参考になりました。ありがとうございます。」



<関連サイト>

「エジプト革命」でソーシャルメディアが果たした役割とは?(「現代ビジネス」2011年02月16日(水)市川裕康)

「NHKスペシャル ネットが革命を起こした-アラブ・若者たちの攻防-」(2011年2月20日放送)
・・面白い番組だった。フェイスブックを舞台にした、若者中心の反政府運動グループと、エジプト内務省との激しい攻防戦。アノニマス(匿名)と名乗る謎のハッカー集団による、エジプト政府への全世界からのハッキング攻撃。ネットの世界で起こっていたことのおおよそは、この番組で描かれていたとみていいのか私には判断できない。
 革命は成就し、そして革命は乗っ取られた。革命という名の破壊は成功し、革命後の再建という仕事は老練な大人たちによって牛耳(ぎゅうじ)られることになる。そして再び「情報統制」が静かに復活することであろう。映画 『アラビアのロレンス』のラストシーンを思い出す。

エジプトにおける「ICT革命」のメカニズムとその含意(山本達也)
・・当局の規制をかいくぐったフェイスブックを利用した「スマート・モブ」(smart mob)についての、本書の著者自身による時評。「スマートモブ」が「創発」(emergence)現象と結びつくことによって生じた「民衆のパワー」。「弱いつながり」が民衆の不満のうねりと同調した。ただし、SNSをめぐる「情報統制」の詳細にかんする論述はない。(2011年3月4日)
 


<ブログ内関連記事>

■中東関連

書評 『中東激変-石油とマネーが創る新世界地図-』(脇 祐三、日本経済新聞出版社、2008)

本日(2011年2月11日)は「イラン・イスラム革命」(1979年)から32年。そしてまた中東・北アフリカでは再び大激動が始まった

エジプトの「民主化革命」(2011年2月11日)

書評 『アラブ革命はなぜ起きたか-デモグラフィーとデモクラシー-』(エマニュエル・トッド、石崎晴己訳、藤原書店、2011)-宗教でも文化でもなく「デモグラフィー(人口動態)で考えよ!

書評 『中東新秩序の形成-「アラブの春」を超えて-』(山内昌之、NHKブックス、2012)-チュニジアにはじまった「革命」の意味を中東世界のなかに位置づける

書評 『エジプト革命-軍とムスリム同胞団、そして若者たち-』(鈴木恵美、中公新書、2013)-「革命」から3年、その意味を内在的に理解するために

書評 『地獄のドバイ-高級リゾート地で見た悪夢-』(峯山政宏、彩図社、2008)・・外国人には「人権」は保証されていないドバイ


インターネットと情報統制

月刊誌 「フォーリン・アフェアーズ・リポート」(FOREIGN AFFAIRS 日本語版) 2010年NO.12 を読む-特集テーマは「The World Ahead」 と 「インド、パキスタン、アフガンを考える」
・・「インターネットは自由も統制も促進する-政治的諸刃の剣としてのインターネット-」(イアン・ブレマー)論文は、インターネット・テクノロジーは「さまざまな野心や欲望を満たす手段でしかなく、そうした欲望の多くは、民主主義とは何の関係もない」と、インターネット楽観論にクギをさす。米国人だけではなく、日本人も心しておくべき重要な指摘である。世界には民主主義を国是とする国家だけでなく、権威主義的で抑圧的な政策をとりながらインターネットを活用して世論をコントロールしている国家もある。「インターネットと相互接続権力の台頭」(エリック・シュミット Google CEO、ジャレド・コーエン Google Ideas Director)論文も注目。」(同記事に書いた文章から抜粋)。

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態
・・「権威主義政治体制のもとにおいては、なによりも国内問題を意識し、体制維持のための財源が必要だからだ。王政のもとにおいては臣民、それ以外の政治体制のもとにおいての一般民衆、かれらをすくなくとも経済的に満足させておけば、体制転換という誘惑を回避させることができる」

書評 『スノーデンファイル-地球上で最も追われている男の真実-』(ルーク・ハーディング、三木俊哉訳、日経BP社、2014)-国家による「監視社会」化をめぐる米英アングロサクソンの共通点と相違点に注目
・・「情報統制」を行っていない自由諸国でも「情報監視」は日常的に行われている

映画 『善き人のためのソナタ』(ドイツ、2006)-いまから30年前の1984年、東ドイツではすでに「監視社会」の原型が完成していた

法哲学者・大屋雄裕氏の 『自由とは何か』(2007年) と 『自由か、さもなくば幸福か?』(2014年)を読んで 「監視社会」 における「自由と幸福」 について考えてみる

Google が中国から撤退!?(その3)・・グーグルが中国に進出しながら、のちに撤退した理由は何か?

「アラブの春」を引き起こした「ソーシャル・ネットワーク革命」の原型はルターによる「宗教改革」であった!?

『動員の革命』(津田大介)と 『中東民衆の真実』(田原 牧)で、SNS とリアル世界の「つながり」を考える

(2016年7月21日 情報追加)



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