公開二日目のきのう(=10月2日)、日本映画 『はやぶさ/HAYABUSA』 をみてきました。いやあ、もうほんとうの感動、感動、おもわず何度も、何度も目頭が熱くなってしまいました。
60億kmの彼方の小惑星まで往復して、小惑星のサンプルを持ち帰るという「サンプルリターン計画」。米国とは違って、予算に限界のある日本が苦肉の策として編み出した計画は、世界初のミッション。限りなく「ミッション・インポッシブル」(=不可能なミッション)に近いミッション。ここでいうミッションは、「任務」の意味を超えて「使命」というべきでしょう。
7年間のあいだ何度も絶望的な状況に陥りながらも、くじけず、あきらめず、最後まやり抜いたチームメンバーたち、そしてものすごい責任の重圧のもと孤独を耐え抜き、決断を下し続けたプロジェクト・マネージャー、そしてこのミッションを支える人たち。これを、ひとりの女性科学者の卵の目をとおして描いた物語です。
ある意味では、ミッションをつうじて、それにかかわったすべての人たちすべてにとって、それはひとりひとりにとって家族や友人も含めたドラマであり、成長の物語なのです。これがすごくよく描かれていると思いました。
「はやぶさ」はもともとは「MUSES-C」というコードネームのプロジェクトだったのですが、途中から「はやぶさ」と命名され、またイラストをよくした女性科学者の卵が広報の一環として、「はやぶさ」に顔を描いたことから「はやぶさ君」となっていきます。
「はやぶさのミッション」は、科学探査が目的でありますが、主に工学系の9つのミッションが課せられたものでした。wikipedia の項目 はやぶさ(探査機)によれば以下のとおりです。
1. イオンエンジンによる推進実験
2. イオンエンジンの長期連続稼動実験
3. イオンエンジンを併用しての地球スイングバイ
4. 微小な重力しか発生しない小惑星への自律的な接近飛行制御
5. 小惑星の科学観測
6. 小惑星からのサンプル採取
7. 小惑星への突入、および離脱
8. 大気圏再突入・回収
9. 小惑星のサンプル入手
「はやぶさ」開発のなかで、居酒屋で居合わせた町工場のおやじが、開発チームに投げかけた一言によって問題解決するシーンが印象的です。
バウンドしない物体のヒントを与えられるシーンなのですが、これはじつはお手玉(おてだま)なのですが、バウンドしないことを物理的に後追いで説明できても、それそのものを思いつくかどうかとは別のもの。理論に基づいて推論し、仮説をたててそれを検証する科学者と、理論には詳しくなくても「ものづくり」の実際に携わっている者との違いを浮き上がらせて面白いと思うシーンです。
「はやぶさ」打ち上げ基地となった、鹿児島県内之浦宇宙・基地。周辺地域の地元漁民たちと飲んで胸襟を開いて、ロケット打ち上げの協力をとりつける泥臭さい根回しのシーン。これは西田敏行演じる的川氏(と思われる登場人物)の役目ですが、映画にはでてこないものの、かつては糸川博士自身も行っていたとを、糸川博士本人が書いた文章で読んだ記憶があります。
「失敗」を「失敗」と受け取って落胆するな、「失敗」もまた「成果」であるという糸川博士のコトバ、科学者にかぎらず、日本という環境で独自性のあるプロジェクトを遂行することの困難さにめげずに突き進むために、勇気を与えてくれるコトバです。
「執着」してはいかない、しかし「ミッション達成」のためにはあきらめないという「執念」は不可欠。「執着」と「執念」は、なにがどう違うのか、そんなことも見ながら考えていました。
それにしても、川口教授(と思われる登場人物)を演じる佐野史郎が、川口教授本人とあまりにも似ているのにはほんとうに驚きです(笑)。女性科学者の卵を演じる竹内結子も、不器用ながらもがんばっている女性を好演していて、すばらしいものがありました。
撮影は、宇宙開発機構(JAXA:ジャクサ)による全面協力のもと行われたこともあり、リアリティのある内容になっています。JAXA相模原キャンパスでもロケが行われ、撮影現場には JAXA関係者が常駐していたとのことです。
マスコミでは全米公開が決定したことが発表されています。来年2012年3月からロサンゼルスなど主要10都市以上で公開されるとのこと。
まあ、米国の20世紀フォックスの製作ですから、最初から全世界公開を想定していたと思いますので、話題作りの一環としてのマーケティング戦略でしょう。とはいえ、全米で公開されたあかつきには、ぜひ米国人観客の感想を聞いてみたいものだとは思います。
予告編だけでも涙がでてくるという話も聞きましたが、映画館でみれば、何度も何度も目頭が熱くなってくるのを感じるはずです。
それは、世界初のミッション達成といった「記録」に残る成果をあげたからということよりも、限られた予算の制約のもと、夢の実現のために多くの人たちが関わってきたからという点よりも、この映画を見ている人の一人一人がまた、「記憶」のなかにある自分の人生を重ね合わせながら自問自答していることに気がつかされるからでしょう。
自分の夢を、自分のミッションを貫いてきたのか? ほんとうに自分がそれを好きで、好きでやってきたのか?、と。
そんな問いかけを自分にしてしまう映画なのです。
<関連サイト>
映画『はやぶさ/HAYABUSA』予告編(YouTube)
『はやぶさ/HAUYABUSA』公式サイト
監督: 堤 幸彦
脚本: 白崎博史、井上潔
製作総指揮: フォックス・インターナショナル・プロダクションズ
主演: 竹内結子、西田敏行、髙嶋政宏、佐野史郎
配給:20世紀フォックス
宇宙研究開発機構(略称JAXA、通称 ジャクサ)
JAXA 小惑星イトカワ関連情報
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惑星探査船 「はやぶさ」の帰還 Welcome Back, HAYABUSA !
・・2010年6月13日
映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
自分のアタマで考え抜いて、自分のコトバで語るということ-『エリック・ホッファー自伝-構想された真実-』(中本義彦訳、作品社、2002)
・・大事なのは希望ではなく勇気!
P.S. この記事で 2011年は200本目となった。
(2012年7月3日発売の拙著です)
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