(日本版ポスター)
台湾映画 『KANO 1931海の向こうの甲子園』(2014年、台湾)を見てきた(2015年2月14日)。台湾で大ヒットしたというこの映画は、日本公開を楽しみにしていたものだ。
ほんとうに感動で泣ける映画だ。映画のあいだじゅう涙が乾くひまもなかったが、エンディングでは流れ落ちる涙を止めることができなかったほどだ。泥臭い内容である。汗と涙の青春映画。
舞台設定は1931年(昭和6年)の台湾南部。当時は大日本帝国の時代であり、1915年からはじまった高校野球の全国大会である甲子園大会には、日本本土からだけでなく、大陸や半島、そして台湾からも代表チームが出場していた。
台湾南部の弱小チーム嘉義農林(かぎ・のうりん、略してかのう=KANO)を率いた日本人監督が甲子園出場という誰もが実現不可能と思っていた「夢」を実現させ、漢人(=客家人)と先住民アミ族、そして日本人の混成チームは旋風を巻き起こし、ついに決勝戦に進出する・・・。
台湾人が台湾人のためにつくった台湾映画なのに、セリフのほとんどが日本語で、日本公開版ではほとんど字幕がない。日本人としては日本映画を見ているような感覚で、180分(=3時間)という長時間に没入してしまう。じっさい、日本での公開劇場のTOHOシネマズでも、映画がはじまる前の予告編では日本映画のみ紹介していたので、日本では観客をそのように想定していたのであろう。
《KANO》六分鐘故事預告(台湾版トレーラー 中文字幕)
「スポ根」(=スポーツ根性)もの青春映画である。最初は誰もが実現不可能と思えた「夢」だが、「夢」を「目標」として設定し、ひたすらその実現にむけて一人一人の選手が、そしてチームとして頑張り抜くという内容である。みずからを徹底的に追い込み、全身全霊で死力を尽くせ! やればできるのだ、と。
映画のなかに何度もでてくるパパイヤの話が台湾らしさを感じさせる。パパイヤが大きくて甘い実をつけるのは、根っこに釘を打ち込まれると、もう死ぬと思って死力を尽くすというものである。ギリギリまで追い詰められて生まれる強い危機意識が、不可能を可能にするのだ、と。
日本では高度成長時代に大流行した「スポ根」ものだが、植民地時代に台湾でも韓国でもこのスピリットが植え付けられたからこそ、植民地からの解放後に大きな経済成長を成し遂げる原動力となったのだ。
こういう映画が台湾で大ヒットしたということは、日本人として素直に喜びたい。これが台湾映画ではなくても、おおいに共感し感動できる内容だからだ。
(台湾版ポスター)
もちろん、それだけが理由ではない。
台湾の近現代史を語るとき、どうしても日本について語らざるを得ない。とはいえ、セリフのほとんどが日本語という映画はこれまでなかったのではないか? こんな映画が実現したのも台湾だからであり、もう「日本植民時代」は台湾人にとっても「歴史」となってしまっているのだろう。
映画の設定はは満洲事変のはじまった1931年なので、いまから84年前になる。これだけの年月がたてば、登場人物のすべてがすでに亡くなってしまっているのも当然である。野球選手だけでなく、台湾では有名な水利技術者・八田與一(はった・よいち)も登場する。可能であればディテールにも注目したい。
この映画は朝日新聞にとっては、またとない宣伝にもなろう(笑) プロダクトプレースメントというわけではないだろうが、映画のなかで朝日新聞の社旗がなんども振られるからだ。というのも、戦前から甲子園をスポンサードしてきたのは朝日新聞なのだ。「戦前」の朝日新聞と「戦後」の朝日新聞では政治色が180度違うのだが、そのことは映画からはわからない。
まあ、そういったことはさておき、エンターテイメントとしておおいに楽しみたい映画である。映画の最初に事実に多少の脚色をほどこしたと但し書きにあったが、それはそれでいいではないか。
台湾人による台湾人のための映画はまた、台湾人と日本人の絆を描いた映画でもある。
監督: 馬志翔
脚本: 陳嘉蔚、魏徳聖、馬志翔
出演: 永瀬正敏 大沢たかお 坂井真紀 伊川東吾 他
音楽: 佐藤直紀
撮影 秦鼎昌
配給: 威視電影
上映時間: 180分
映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』公式サイト
映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』 予告編(YouTube)
第七章 日本殖民統治時期的政治與經濟 (・・
映画「KANO」と台湾アイデンティティ 話題作が問う「日本統治」と「中華意識」再考 (福島香織、日経ビジネスオンライン、2014年4月9日)
・・「なぜ、台湾で「KANO」がこんなに話題になったのか。答えを先に行ってしまうと、この映画の中で描かれる台湾アイデンティティというものが、今の台湾人にもっとも問われているテーマだからだろう。」
なぜ台湾の若者は今「日本統治時代」の映画を好んで観るのか?(黄文雄、Mag2News、2016年12月2日)
(2016年12月2日 情報追加)
<ブログ内関連記事>
書評 『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)-台湾と日本は運命共同体である!
・・『KANO』の日本公開と同時期に出版されたこの本は『KANO』の背景を知る上でおおいに参考になる
■台湾映画
映画 『海角七号-君想う、国境の南』(台湾 2008年)をみてきた
■スポーツ映画
映画 『インビクタス / 負けざる者たち』(米国、2009)は、真のリーダーシップとは何かを教えてくれる味わい深い人間ドラマだ
・・ラグビーのワールドカップ南アフリカ大会
ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作
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■台湾関連
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邱永漢のグルメ本は戦後日本の古典である-追悼・邱永漢
作家・陳舜臣はペルシアの詩人オマル・ハイヤームの『ルバイヤート』の翻訳者でもあった-追悼 陳舜臣さん
特別展「孫文と日本の友人たち-革命を支援した梅屋庄吉たち-」にいってきた-日活の創業者の一人でもあった実業家・梅屋庄吉の「陰徳」を知るべし
・・東京・白金台の台北駐日経済文化代表処公邸「芸文サロン」で開催された特別展
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