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2015年2月19日木曜日

書評『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)― 台湾と日本は運命共同体である!



『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)は、現在 92歳の元中華民国(=台湾)総統が語る自分史としての台湾近現代史を踏まえた日本語読者へのメッセージである。

それは必然的に「台湾近代化」への日本の貢献と、統として実現に尽くした「台湾民主化」について語ることになる。そしてその「民主化」が現在第二段階にあることも。

李登輝氏についてはとくに説明する必要はないだろう。日本の植民地時代に自己形成した「日本語世代」で、民主化後の台湾の数々の危機を乗り越えてきた学者出身の政治家である。現在92歳の李登輝氏は、現在91歳のシンガポールの哲人政治家リー・クワンユー(李光耀)氏と同じく、客家(はっか)の出身である。

本書では、李登輝氏はみずからの出自については語らず、「新台湾人」というアイデンティティを前面に打ち出している。この点は「シンガポール人アイデンティティ」の確立に成功したリー・クワンユー氏と同じといえよう。アジアでは近代化に成功した数少ない国家であるシンガポールは、華人がマジョリティを占めながらも、国民国家としてのアイデンティティがすでに形成された多民族国家という点では台湾とも共通するものをもっている。

『新・台湾の主張』という本書のタイトルは15年前の著書『台湾の主張』を念頭においたものだという。わたし自身は、1980年代後半の台湾の戒厳令廃止と台湾民主化をリアルタイムで見てきた世代で、李登輝氏の言動はつねに注意してきたが、あえて著書を読むことまではしていなかった。だが、この最新著を読んだのは正解だった。

なぜなら、この『新・台湾の主張』は、まさにタイミング的には最高といえるものだからだ。というのも、2014年に台湾で大ヒットした映画『KANO』(2014年)の2015年1月の日本公開にあわせたような出版となっているからである。本書は『KANO』の話題に始まり、『KANO』の話題で終わる。『KANO』とは、日本の植民地時代に甲子園に初出場して準優勝した台湾南部の嘉義農林の実話をもとにした台湾映画だ。当時は植民地からも甲子園大会に出場していたのだ。

李登輝氏は、台湾人を形成した「日本精神」(リップン・チェンシン)とはなにかをテーマにしたこの映画を見て泣いていたという。「日本精神」とは、日本統治時代の日本人がもっていた「誠実」「勤勉」「奉公」「遵法」などの精神である。
 
この「日本精神」があってこそ、小国の不屈の精神である「台湾精神」が生まれたのである、と。台湾人のアイデンティティ確認のため、「台湾人こそこの映画を見るべきだ!」と、李登輝氏は映画を見たあと言ったと本書で語っている。

そして『KANO』のプロデューサーをつとめた俳優の魏徳聖(ウェイ・ダーシヨン)氏との対談内容をページを割いて紹介している。魏徳聖氏は、同じく台湾人アイデンティティ模索をテーマとして日本統治時代を扱った『海角七号』(2008年)や『セデック・パレ』(2011年)の監督でもある。

昨年(2014年)、台中サービス貿易協定の締結によって中国に呑み込まれることに断固NO!を主張した「ひまわり学連」の学生たちが23日間にわたって立法院を占拠した際、メッセージを求められた魏徳聖(ウェイ・ダーシヨン)氏は『KANO』を見てくれといい、占拠中の立法院内で無料で特別上映されたという。

魏徳聖(ウェイ・ダーシヨン)氏の発言をここにぜひ引用しておきたい。この発言を本書で紹介しているのは、李登輝氏自身の思いでもあるからだろう。

台湾はほんとうに小さな国なんです。台湾からみれば、日本は大国ではないですか。なぜ日本は台湾を国として公平に扱わないのですか。日本は外国に管理でもされているのですか。かつて日本と台湾は同じ国だった。そして日本人と台湾人は甲子園優勝という同じ目標を抱いたこともあった。そのことをいま、日本人に知ってほしいのです」(P.196)

1969年生まれの魏徳聖氏と、1923年生まれの李登輝氏の思いは台湾人として世代を越えて響きあいシンクロする。そしてこの発言は日本人をも巻き込んでいくことだろう

台湾の運命は日本の運命でもある。対等の「国家」として、運命共同体であるという認識をもつべきだ。台湾の法的位置づけにかんしてはさまざまな見解があろうが、「実質的に独立国家」であるのであえて独立宣言をする必要もない、という李登輝氏の認識でよいと思う。

日本人はけっして台湾に無関心だったわけではない。日本人は遠慮しすぎていたのだ。「植民地」として支配したという、後ろめたさのような感情をもっていたのかもしれない。だが、映画『KANO』の日本公開以後の日本人は、もうおおっぴらに語っていいのではないか。台湾こそ日本にとってもっとも大事な国なのだ、と。

地政学的条件から大国に翻弄される台湾という小国の運命。台湾は海洋国家であり、日本もまた海洋国家である。ともに大陸国家でもなく、半島国家でもない。歴史的な経緯だけでなく、地政学的な条件の違いもまた大きい。海洋国家どうしの気質が合うのかもしれない。

日本もまたきわめて長い時間にわたってさまざまな民族が融合してできあがったハイブリッドである。台湾は、まさにそのプロセスの渦中にある。アイデンティティ摸索の渦中にいるのだ。

台湾の運命は日本の運命でもある。台湾と日本は、ある意味では運命共同体なのである。激動する東アジア情勢のなかでいかにサバイバルしていくか、その課題は共通しているのである。だからこそ、問題意識は共有しなくてはならないのである。

本書は、台湾と日本の未来に向けての熱いメッセージでもある。日本人なら、しかと受け止めるべきではないか!


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目 次

はじめに
李登輝・関連年表
  
第1章 日本精神に学ぶ
 映画『KANO』のこと
 台湾近代化の基礎を築いた後藤新平
 新渡戸稲造による製糖業発展の基本方針
 「嘉南大・・」の父、八田與一(はった・よいち)
 日本はなぜ台湾を捨てたのか
 匪賊から逃げなかった日本語教師たち
 日本統治下の台湾人の政治運動
 自我意識に苦しんだ少年時代
 旧制台北高等学校に進学私の生き方に影響を与えた本
 「武士道」-日本人の精神の道徳規範
 「決戦下の学徒として」陸軍に志願
 海軍特別志願兵の兄が私に遺した言葉
 青島で初めて中国人の姿をみる
 東京大空襲で奮闘
 戦死から62年後、靖国神社で兄と再会
 日本は英霊の魂をもっと大切にすべき
 近代日本が失敗した原因
 新渡戸稲造と後藤新平に学んだ信仰と信念の大切さ
第2章 台湾民主化への道
第3章 新台湾人の時代へ
第4章 日本と台湾の国防論
 日本の集団的自衛権行使を歓迎する
 なぜ人類は戦争を繰り返すのか-トルストイの箴言
 グローバル資本主義が招く戦争の危機
 武力の必要性
 台湾の地政学的重要性
 残念な日本の姿勢
 日台間に領土問題は存在しない
 日本の最大の課題は憲法改正
 「失われた二十年」の原因
 まやかしの「北京コンセンサス」
 日本の「専業主婦願望」は意外
 女性の活用は台湾に学べ
 東日本大震災での痛恨事
 あまりに嘆かわしい日本政府の対応
 「台湾は中国の一部」がいかに暴論か
 台湾人が感動した安倍首相の「友人」発言
 「台湾加油」「日本加油」
 学生の行動力に感心している
 日台の絆は永遠に
あとがきに代えて
参考文献


著者プロフィール

李登輝(り・とうき)
1923年、台湾・淡水郡生まれ。元台湾総統。農業経済学者。米国コーネル大学農業経済学博士。拓殖大学名誉博士。旧制台北高等学校を卒業後、京都帝国大学農学部に進学。1943年、日本陸軍に入隊。終戦後、台湾大学農学部に編入学。台湾大学講師、米国留学などを経て、台湾大学教授に就任。1971年、国民党に入党。1972年、行政院政務委員として入閣。台北市長、台湾省政府主席、副総統を歴任。88年、蒋経国総統の死去にともない、総統に就任。1990年の総統選挙、1996年の台湾初の総統直接選挙で選出され、総統を12年務め、台湾の民主化を実現(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

戦後70年特別企画 遺言 日本の未来へ 【李登輝】「大切なことは『武士道』にある」 台湾民主化の父を支えた日本の道徳 (日経ビジネスオンライン、2015年7月29日)

台湾地震で恩返しの応酬を繰り返す日本と台湾、政治利用を目論む中国(メルマガ 『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』、2016年2月12日)
・・「今回の台湾南部の地震では、日本から再び恩返しの支援が届きました。こうして日本と台湾がお互いに恩返しの応酬を繰り返していることは、惨事のショックにある台湾人にとって、大いに慰められることだと思います。やはり日台は「一蓮托生」の関係であると痛感します。」

(2015年7月29日 項目新設)
(2016年2月12日 情報追加)



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台湾関連

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現代中国

書評 『中国外交の大失敗-来るべき「第二ラウンド」に日本は備えよ-』(中西輝政、PHP新書、2015)-日本が東アジア世界で生き残るためには嫌中でも媚中でもない冷徹なリアリズムが必要だ

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論 ・・中西輝政氏もこの本を詳しく取り上げている

書評 『語られざる中国の結末』(宮家邦彦、PHP新書、2013)-実務家出身の論客が考え抜いた悲観論でも希望的観測でもない複眼的な「ものの見方」

書評 『中国は東アジアをどう変えるか-21世紀の新地域システム-』 (白石 隆 / ハウ・カロライン、中公新書、2012)-「アングロ・チャイニーズ」がスタンダードとなりつつあるという認識に注目!


日本文明は中国文明とは異なる文明世界

梅棹忠夫の『文明の生態史観』は日本人必読の現代の古典である!
・・日本文明が中国文明ともインド文明とも違う独自の存在であること

書評 『「東洋的専制主義」論の今日性-還ってきたウィットフォーゲル-』(湯浅赳男、新評論、2007)-奇しくも同じ1957年に梅棹忠夫とほぼ同じ結論に達したウィットフォーゲルの理論が重要だ

書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)-「日本文明」は「中華文明」とは根本的に異なる文明である


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2015年2月14日土曜日

映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』(台湾、2014年)を見てきた ー 台湾人による台湾人のためのスポ根もの青春映画は日本人も感動させる

(日本版ポスター)

台湾映画 『KANO 1931海の向こうの甲子園』(2014年、台湾)を見てきた(2015年2月14日)。台湾で大ヒットしたというこの映画は、日本公開を楽しみにしていたものだ。
  
ほんとうに感動で泣ける映画だ。映画のあいだじゅう涙が乾くひまもなかったが、エンディングでは流れ落ちる涙を止めることができなかったほどだ。泥臭い内容である。汗と涙の青春映画。

舞台設定は1931年(昭和6年)の台湾南部。当時は大日本帝国の時代であり、1915年からはじまった高校野球の全国大会である甲子園大会には、日本本土からだけでなく、大陸や半島、そして台湾からも代表チームが出場していた。
  
台湾南部の弱小チーム嘉義農林(かぎ・のうりん、略してかのう=KANO)を率いた日本人監督が甲子園出場という誰もが実現不可能と思っていた「夢」を実現させ、漢人(=客家人)と先住民アミ族、そして日本人の混成チームは旋風を巻き起こし、ついに決勝戦に進出する・・・。
   
台湾人が台湾人のためにつくった台湾映画なのに、セリフのほとんどが日本語で、日本公開版ではほとんど字幕がない日本人としては日本映画を見ているような感覚で、180分(=3時間)という長時間に没入してしまう。じっさい、日本での公開劇場のTOHOシネマズでも、映画がはじまる前の予告編では日本映画のみ紹介していたので、日本では観客をそのように想定していたのであろう。


《KANO》六分鐘故事預告(台湾版トレーラー 中文字幕)


「スポ根」(=スポーツ根性)もの青春映画である。最初は誰もが実現不可能と思えた「夢」だが、「夢」を「目標」として設定し、ひたすらその実現にむけて一人一人の選手が、そしてチームとして頑張り抜くという内容である。みずからを徹底的に追い込み、全身全霊で死力を尽くせ! やればできるのだ、と。

映画のなかに何度もでてくるパパイヤの話が台湾らしさを感じさせる。パパイヤが大きくて甘い実をつけるのは、根っこに釘を打ち込まれると、もう死ぬと思って死力を尽くすというものである。ギリギリまで追い詰められて生まれる強い危機意識が、不可能を可能にするのだ、と。

日本では高度成長時代に大流行した「スポ根」ものだが、植民地時代に台湾でも韓国でもこのスピリットが植え付けられたからこそ、植民地からの解放後に大きな経済成長を成し遂げる原動力となったのだ。

こういう映画が台湾で大ヒットしたということは、日本人として素直に喜びたい。これが台湾映画ではなくても、おおいに共感し感動できる内容だからだ。


(台湾版ポスター)


もちろん、それだけが理由ではない。

台湾の近現代史を語るとき、どうしても日本について語らざるを得ない。とはいえ、セリフのほとんどが日本語という映画はこれまでなかったのではないか? こんな映画が実現したのも台湾だからであり、もう「日本植民時代」は台湾人にとっても「歴史」となってしまっているのだろう。

映画の設定はは満洲事変のはじまった1931年なので、いまから84年前になる。これだけの年月がたてば、登場人物のすべてがすでに亡くなってしまっているのも当然である。野球選手だけでなく、台湾では有名な水利技術者・八田與一(はった・よいち)も登場する。可能であればディテールにも注目したい。

この映画は朝日新聞にとっては、またとない宣伝にもなろう(笑) プロダクトプレースメントというわけではないだろうが、映画のなかで朝日新聞の社旗がなんども振られるからだ。というのも、戦前から甲子園をスポンサードしてきたのは朝日新聞なのだ。「戦前」の朝日新聞と「戦後」の朝日新聞では政治色が180度違うのだが、そのことは映画からはわからない。

まあ、そういったことはさておき、エンターテイメントとしておおいに楽しみたい映画である。映画の最初に事実に多少の脚色をほどこしたと但し書きにあったが、それはそれでいいではないか。

台湾人による台湾人のための映画はまた、台湾人と日本人の絆を描いた映画でもある。


監督: 馬志翔
脚本: 陳嘉蔚、魏徳聖、馬志翔
出演: 永瀬正敏 大沢たかお 坂井真紀 伊川東吾 他
音楽: 佐藤直紀
撮影 秦鼎昌
配給: 威視電影
上映時間: 180分





<関連サイト>

映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』公式サイト

映画『KANO 1931 海の向こうの甲子園』 予告編(YouTube)

第七章 日本殖民統治時期的政治與經濟 (・・

映画「KANO」と台湾アイデンティティ 話題作が問う「日本統治」と「中華意識」再考 (福島香織、日経ビジネスオンライン、2014年4月9日)
・・「なぜ、台湾で「KANO」がこんなに話題になったのか。答えを先に行ってしまうと、この映画の中で描かれる台湾アイデンティティというものが、今の台湾人にもっとも問われているテーマだからだろう。」

なぜ台湾の若者は今「日本統治時代」の映画を好んで観るのか?(黄文雄、Mag2News、2016年12月2日)

(2016年12月2日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

書評 『新・台湾の主張』(李登輝、PHP新書、2015)-台湾と日本は運命共同体である!
・・『KANO』の日本公開と同時期に出版されたこの本は『KANO』の背景を知る上でおおいに参考になる


台湾映画

映画 『海角七号-君想う、国境の南』(台湾 2008年)をみてきた


■スポーツ映画

映画 『インビクタス / 負けざる者たち』(米国、2009)は、真のリーダーシップとは何かを教えてくれる味わい深い人間ドラマだ
・・ラグビーのワールドカップ南アフリカ大会

ボリウッド映画 『ミルカ』(インド、2013年)を見てきた-独立後のインド現代史を体現する実在のトップアスリートを主人公にした喜怒哀楽てんこ盛りの感動大作

ボリウッドのクリケット映画 Dil Bole Hadippa ! (2009年、インド)-クリケットを知らずして英国も英連邦も理解できない!

映画 『マネーボール』 をみてきた-これはビジネスパーソンにとって見所の多い作品だ!
・・統計学を駆使するベースボール戦略


台湾関連

書評 『民俗学・台湾・国際連盟-柳田國男と新渡戸稲造-』(佐谷眞木人、講談社選書メチエ、2015)-「民俗学」誕生の背景にあった柳田國男における新渡戸稲造の思想への共鳴と継承、そして発展的解消

邱永漢のグルメ本は戦後日本の古典である-追悼・邱永漢

作家・陳舜臣はペルシアの詩人オマル・ハイヤームの『ルバイヤート』の翻訳者でもあった-追悼 陳舜臣さん

特別展「孫文と日本の友人たち-革命を支援した梅屋庄吉たち-」にいってきた-日活の創業者の一人でもあった実業家・梅屋庄吉の「陰徳」を知るべし
・・東京・白金台の台北駐日経済文化代表処公邸「芸文サロン」で開催された特別展

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(拙著の台湾版のカバーデザイン)

(2015年2月20日 情報追加)


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