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2023年11月15日水曜日

書評『女帝 小池百合子』(石井妙子、文春文庫、2023 単行本初版2020年)ー 前半生にはある種のピカレスク的な痛快さもあったが、政治家として権力を握り始めた後半生は・・・

 

『女帝 小池百合子』(石井妙子、文春文庫、2023)を出版されてすぐに読んだ。単行本が出版されたのは新型コロナ感染症の蔓延が始まっていた2020年5月のことであった。それから3年半で文庫化されたわけだ。

2020年5月の時点では「女帝」という単語が大きな話題になっていた。都知事としての再選を控えていた時期でもあり、「カイロ大学卒業という学歴詐称疑惑」にかんする真相暴露本的な受け取り方をされていた記憶がある。読みたいと思ったが、断念したのは多忙であったためだ。

文庫化されたことを文春のネット版で知ったのは、つい最近のことだ。いまから50年前のカイロ時代に同居していた女性が、単行本の段階では「仮名」にしていたが、今回の文庫化にあたって「実名」にすることを決断したという。後先長くない人生、「歴史に対する責任」を避けたまま死ぬわけにはいかないという覚悟によるものだ。

それがそうとうな覚悟であることは、現在もカイロに在住するその女性の置かれた立場を考えれば容易に想像がつく。これは「終章 小池百合子という深淵」を読めばよく理解できる。

「エジプト革命」(2011年)後に民主化されたが、クーデタによってふたたび「軍事政権」に戻ったエジプト。その後、民政移管されたとはいえ、国軍がにらみをきかせる体制であることは言うまでもない。

日本とエジプトは、経済援助をつうじた密接な関係にある。そのエジプト政府と日本をつなぐ重要な「結節点」の一つが小池百合子という政治家だ。

学歴詐称であるかどうかなど、エジプト政府からみたら重要性が低いのだろう。いや、というよりも、このコネクションを「政治的アセット」として維持することの重要性を熟知していると考えるべきではないか。

だから、エジプト政府の管轄下にある国立カイロ大学は、「小池百合子は卒業生である」と公式に決めたのだ。そう考えるのが自然である。その意味をよく考えなくてはならない。


■「小池百合子という生き方」には正負の両面がある

それにしても思うのは、小池百合子とその父親が、じつによく似た存在であることだ。ウソでウソを固めた詐欺師のような存在。この親にしてこの子ありというべきか。

あっけらかんと「平気でウソをつく人」である。「芦屋のお嬢様」など、人びとが勝手に思い描いている「うるわしき誤解」をそのまま利用するしたたかさ。使い勝手のいい存在として各界で実力ある男たちからチヤホヤされ、男たちのつまらぬプライドや虚栄心をくすぐるたくみさ。

ある意味、政治家(せいじや)向きといえばそのとおりなのかもしれないが、男社会で女を武器にして実力者に取り入り、つぎからつぎへとパトロンを変えていくしたたかさは、けっして彼女は例外的な存在ではない。それがテレビという「虚の世界」にぴったりとはまったことが、のちのち大きな意味をもってくる。

競争の少ない世界でトップに立つという「小池百合子的生き方」。その根本をなしているのは、ビジネスの世界では「ブルーオーシャン戦略」とよばれているものだ。ニッチ分野を狙って、ムリすることなく、ムダな競争を回避するの理にかなっている。ナンバーワンではなく、オンリーワンを狙え。狭いニッチ分野をシェアを独占する戦略である。

かならずしも自分が好きだったからではなくても、エジプト、カイロ大学、アラビア語を選択したことの意味がそこにある。そんな選択する人は、現在でもけっして多数派ではない。しかも女性であれば、間違いなく武器になる。けっして専門家として極める必要はないのだ。ハクがつけばそれでいい。見てくれが重要だ。つまりイメージ戦略である。

平気でウソをつく人生だが、前半生の軌跡を読んでいると、ある種のピカレスク的な痛快ささえ感じるものがあった。その手法に問題がないとはいえ、「とんとん拍子で出世して~」というやつだ。上へ上へという上昇志向。それじたいは、けっして悪いことではない。野心をもつことは悪いことではない。舛添要一氏であれ、竹中平蔵氏であれ、その根本的動機はみな共通している。

日経系列のテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」(WBS)の初代キャスターに抜擢されて脚光をあびたが、しょせん東京ローカルの番組である。しかも、年齢のこともあってテレビの世界での限界を感じていた彼女は、政治の世界への転身を図る。まさに舟を乗り移った(jump ship)のである。

自民党一強時代が終わり流動化が始まっていた。時代の流れにうまく乗ることができたからだ。新党乱立ブームが始まっていた。

政治家になって以降の、後半生の軌跡を読んでいると、痛快さは消えて空恐ろしいものを感じるようになる。テレビの世界がしょせん「虚の世界」であるのに対して、政治の世界は人びとの生活に影響を与える「実の世界」であるからだ。

読者の多くは、リアルタイムで見ていた状況を思い出し、「自分史」を重ね合わせて見つめ直すことになるだろう。「ああ、そういえば、そんなこともあったな」、と。人間の記憶なんていい加減なものだから、過ぎ去ったことなどあっという間に記憶の底に沈んでしまう。こういうノンフィクションを読んでいて、思い出すことは多い。

あまりにも節操のない姿勢。打ち出す政策の具体的な裏付けのなさ。それにもかかわらず、「つかえるフレーズ」を繰り出すことでメディアが持ち上げ、「変革」を期待する一般大衆の気持ちをわしづかみにする。テレビの世界の出身者だけに、大衆の心理操作などお手のものなのだろう。

利用価値がなくなると、いとも簡単にポイ捨てされていった男たちの死屍累々たることよ。男たちだけではない、女性だからということで熱烈に支持した女性たちも平気で裏切っていく。そして、ルサンチマンからくる陰湿な復讐。あな恐ろしや。

もはや、そこにはピカレスク的な痛快さなどかけらもない。政治家として権力を握り始めてからは、危険なものを感じることになる。

権力はただしく行使すれば人びとのためになり善をもたらすが、権力を私利私欲から恣意的に行使すると、その悪しき影響は計り知れないものとなる。

自分もかって小池百合子氏が都知事選に出馬し当選したとき、一時的な熱狂の渦に巻き込まれたことを思い出し、内心忸怩たるものを感じている。いや、反省することしきりである。自戒の意を込めて、恥ずべき記録として残しておくことにする。

「カイロ大学卒業」も学歴詐称だったのか、アラブの指導者たちにインタビューしたというアラビア語の実力も眉唾ものだったのか、「芦屋のお嬢様」というのもマスコミが勝手につくりだした幻想だったのか・・・。


■政治とマスコミの共犯関係だけではない

こういう政治家を作り出したのは、政治の世界やマスコミの世界だけでない。意識的だろうが無意識的だろうが、それに荷担してきた日本人の責任である。

小池百合子都知事は、現在なお相も変わらず内容に乏しいカタカナのフレーズを振り回し、実効性のない政策をぶち上げては都民が支払う税金を浪費している。とはいえ、東京都知事が直接選挙によって選出される以上、小池百合子的な都知事がこれからも登場しては消えていくことだろう。

「劇場型政治」というフレーズが登場したのは、小泉政権のときだったか。すでに陳腐化した表現だが、「パンとサーカス」を求める民衆の要求は、閉塞感が強まれば強まるほど加速していくことであろう。東京が日本の首都である限り、東京に日本の富が集中している状況においては、それは東京だけの問題ではない。

「本人が言っているのだから正しい」とは、よくクチにされるフレーズである。だが、その発言内容はかならずしも正しくはない。意図的にウソをつく場合もあれば、意図的に事実をふせることで受け手の印象を操作する手法もある。

人の数だけ「真実」があるのだ。小池百合子氏にとっての「真実」、それを否定する人にとっての「真実」。いずれも「真実」であるとしても、それは「事実」ではない可能性がある。

このノンフィクション作品にも多数の関係者の証言が引用されているが、そのすべてがその特定の個人による記憶の再現であり、主観的なものであることは言うまでもない。読者はそう受け止めて、クリティカルに読まなくてはならないのである。

「真実」ではなく、「事実」(ファクト)そのものを確定する作業は、じつにむずかしいタスクなのだ。それを熟知している著者の『女帝 小池百合子』いう労作は、「平成時代」の日本現代史の記録として読まれるべきである。





目 次 
序章 平成の華 
第1章 「芦屋令嬢」 
第2章 カイロ大学への留学 
第3章 虚飾の階段 
第4章 政界のチアリーダー 
第5章 大臣の椅子 
第6章 復讐 
第7章 イカロスの翼 
終章 小池百合子という深淵
あとがき
文庫版のためのあとがき
主要参考文献・資料一覧


著者プロフィール 
石井妙子(いしい・たえこ) 
1969年、神奈川県生まれ。白百合女子大学卒業、同大学院修士課程修了。囲碁観戦記者。ノンフィクション作家。約5年を費やして取材、執筆した『おそめ 伝説の銀座マダム』(新潮文庫)で、講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補となる。2021年5月13日、『女帝 小池百合子』で第52回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。綿密な取材にもとづく人物評伝は、各方面で高い評価を受けている。(本データはこの書籍以前の著書のプロフィールに加筆)。


<関連サイト>

・・小島敏郎「『私は学歴詐称工作に加担してしまった』小池百合子都知事 元側近の爆弾告発」(2024年4月11日)
・・ついに側近だった人物が「実名」で告発! 『女帝』の文庫版でカイロ時代に同室だった北原氏が「実名」で告発したことに勇気をもらったのだ、と

(2024年4月11日 記す)


・・同居人であった北原百代氏が「実名」で本書の著者・石井妙子氏のインタビューに答えている

・・同上

(2024年4月12日 追加)


◆カイロ大学留学経験のある農業ジャーナリスト浅川芳裕によるもの




(2024年4月13日 追加)


◆経済小説家の黒木亮氏によるもの


政治家・小池百合子の「学歴詐称問題」については、経済小説家でロンドン在住の黒木亮氏による連載記事を読んでから、判断していただきたいと思う。三和銀行の行員時代にエジプトのカイロ・アメリカン大学で学士号を取得し、アラビア語もできるインベストメント・バンカーであった黒木氏のリサーチによる結論は、あえて書くまでもないと思う。エジプトがどういう国であるか、同時に知ることもできる。


<ブログ内関連記事>

・・「エジプトが大きくわけて4つのアイデンティティが複合して構成されていることだ。 空間的な大きさから順番に、①イスラム世界、②中東世界、③アラブ世界、④エジプト の4つである。この4つのアイデンティティが複合的に交わり、ときに応じて特定の要素が全面に出てくる」



・・「小池氏にかんしても、卒業したのか卒業してないのか真相は不明だが、コネと交渉力を行使してカイロ大学に入学したことも、在学していたことも事実であるから、エジプト流のサバイバル術を身につけていることは明らかだ。ということは、小池氏は一筋縄ではいかないクセ者だということを意味している。」(筆者コメント)







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