TIME magazine の最新号のカバーがこれだ。「ガザの恐怖(ホラー)」(The Horror of Gaza)とキャプションがついた廃墟の写真。イスラエルによる空爆の結果である。
米国の週刊誌だが、このカバーには、米国内の世論だけでなく、国際世論の変化が如実に表現されている。
2023年10月7日のハマスによるテロから1ヶ月がたった。「10・7」である。
最初は世界中でイスラエルを全面的に支持する声があがったが、風向きは完全に変わっている。
地上作戦に先行して始まったガザの空爆によって、戦闘員ではないシビリアンの死傷者が日に日に増大しているのだ。巻き添え被害という段階を超えている。
(深層NEWS 2023年11月7日放送より)
イスラエル側の死者は1,400人と、テロから数日たった時点と変化はない。だが、ガザ側の死者はあっという間に1万人を超えてしまった。まったく止まる気配もない。
単純な比較論をするつもりはないが、あまりにも「非対称的」ではないか。非対称的なのは軍事力だけではない。無慈悲さという点において、国家としてのイスラエルがはるかに酷い。命の軽重があると見なしているとしか思えない。
安易な比較は禁物だが、空爆に従事する空軍兵士にとっての爆弾投下やミサイル発射は、歩兵が対面で敵兵を射殺するよりも、はるかに精神的負担が小さいはずだ。空爆が無慈悲なのはそこに理由がある。
もちろん、イスラエルの存在そのものを否定するつもりなどまったくない。イスラエルに自衛権はある。テロが容認できるわけがない。これは大原則だ。
とわいうものの、「10・7」の大規模テロを「誘発」した右派政権には怒りを感じている。
テロが発生してからのイスラエル政権の反応で最初から気になっていたのは、ハマス「殲滅」が目的と語りながらも、人質救出が出てこなかったことだ。人命が軽視されているのではないか? 本末転倒ではないか?
おそらく、イスラエルの現政権に「人質の全員救出」は視野にないのだろう。人質のうちどれだけ救出されたら良しといているのかわからないが、物事を数字でしか考えていないように思われる。確率論でしか考えていないように思われる。
そもそも「ハマス殲滅」などできるはずもない。テロリストは排除できても、思想が生き残り限り、テロリスト予備軍は無数に生まれてくる。しかも、ガザ地区の出生率は高い。
「民族浄化」とは言い過ぎだが、イスラエルの右派はパレスチナ人が消えてしまえばいいと思っているのかもしれない。
■現在のイスラエルは「戦前日本」を想起させるものがある
イスラエルはどこまで突き進むのか? 誰にも止めることはできないのか?
残念ながら、この流れを変えるのはむずかしそうだ。
現在のイスラエルは、日本人の目から見ると、どうしても無謀な戦争に突き進んでいった「戦前の日本」を想起しないわけにはいかない。誰の言うことにも耳を貸さない、見たいものしか見ようとしない状態。
「満州事変」によって満洲を支配下においたことに批判を受け、国際連盟を脱退した日本。いまから90年前の1933年のことだ。ガザ空爆を批判する国連事務総長をに猛烈に反発し、辞任を要求するイスラエル。いま現在の2023年のことだ。
「神国日本」は、大東亜戦争の敗戦によって強制的にストップがかけられた。全土にわたる空爆と原爆投下、そして悲惨な沖縄戦という痛い代償をともなうものであった。大日本帝国は崩壊したが、幸いなことに「新生日本」として再建することはできた。
「民族国家」として建国されたイスラエルは、どうしても明治維新後の「戦前日本」と重ね合わせてみてしまう。
「復古革命」として近代社会に登場した両国である。明治維新とイスラエル独立は、「復古」を旗印に掲げた、あらたな「ネーション・ステート」(=国民国家、あるいは民族国家)創設の試みであったことは共通している。
「革命」後は、外敵からの脅威と戦いながらも、健全な発展を遂げた両国である。日本においては日清戦争と日露戦争。イスラエルにおいては4次にわたる中東戦争。
ところが、時間の経過とともに「神国日本」を狂熱的にエスカレートさせた極右派の日本人と、「神国イスラエル」を狂熱的にエスカレートさせ現実に行動を行っている極右派のユダヤ系イスラエル人が登場してくる。いわゆる「宗教シオニズム」である。
日本もイスラエルも、極右派の思考においては、「民族宗教」の立場から「国土を神に与えられた土地」とみなす思考が共通している。旧約聖書に記された「神話」、日本書紀と古事記に記された「神話」。ともに19世紀以降に再発見され、活性化した「神話」だ。
イスラエルもまた、完膚なきまでの致命的な敗戦を体験しないと、生まれ変わることはできないのかもしれない。そんな悲観的な思いさえ抱きたくなる。イスラエルは米国の軍事援助に依存しており、経済的な側面から考えても未来永劫に勝ち続けるなど、不可能な話である。敗戦という可能性もゼロとはいえない。
だが、そのときにはイスラエルは「滅亡」しているだろう。であるなら、「出口戦略」、つまり戦争の終わらせ方を考えなくてはならない。戦争目的を「ハマス殲滅」においていては、いつになっても戦争は終わらない。具体的な「出口戦略」が必要だ。
言うは易しであるが、イスラエル国民のなかの良識ある人たちに期待するしかない。
■第3次グローバリゼーションが終わったあとに訪れたカオス状態
「新型コロナ感染症」(COVID-19)が下火になったことで、世界秩序の崩壊が可視化されてきた。
感染症の流行前に、すでにグローバリゼーションが終わっていたのだが、グローバリゼーションの末路は、いつもこのような大崩壊を迎えている。第3次グローバリゼーションのあともまた例外ではなかったことが可視化された。
黒海の北側ではロシアの侵略によって始まった「ウクライナ戦争」、中東のど真ん中の東地中海では「イスラエル・ハマス戦争」。忘れられがちだが、ミャンマーでも国軍による国民弾圧と戦闘がつづいている。
これらの戦争はまだ「地域戦争」にとどまっているが、「2023年イスラエル・ハマス戦争」が「第5次中東戦争」に発展しないとも限らない。イスラエルの姿勢から「限定戦争」の様相が見えてこないからだ。さらなる戦争を誘発する可能性はゼロではない。
あらたな秩序が生まれるのは、まだまだ時間がかかる。数十年におよぶ産みの苦しみに、地球の住民は耐えなくてはならない。そんな状況のなかでも、人は生きていかなくてはならない。
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(2023年11月20日 項目新設)
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