気になっていた AMAZON ORIGINAL の映画『AIR/エア』(2023年、米国)を amazon prime video で視聴した。これは間違いなくすばらしい映画だ。
崖っぷちからの起死回生を描いたビジネスものサクセスストーリーであり、80年代テイスト満載。しかも、なぜか不思議に感動的なヒューマンドラマなのだ。
「エア・ジョーダン」誕生物語である。NIKE(ナイキ)のバスケットボールシューズである。マイケル・ジョーダンである。
現在では押しも押されぬスポーツ関連メーカーとして、誰一人として知らぬ者のいないNIKEだが、1984年当時はバスケットボールシューズ部門は売り上げ不振で存亡の崖っぷちに追い込まれていた。
マーケティングの観点から、どのアスリートに広告予算をつぎ込むか。それが問題であった。
マット・デイモン演じる主人公は、当時まだ21歳だったマイケル・ジョーダンのたぐいまれな非凡な才能に惚れ込み、かれ1人に全予算をつぎ込むことを決意。マイケルのポテンシャルに賭けたのである。もちろん失敗したら本人は失職覚悟である。
なんとか、創業経営者のフィル・ナイトをなんとか説得することに成功する。フィル・ナイトは、監督のベン・アフレック自身が演じている。
1984年当時は、1964年にNIKEが創業してから20年目、株式公開によって経営の自由がききにくくなっていた。そんな状態で、創業経営者自身のナイトも、創業時の起業家精神を取り戻すかのような大きな賭けにでたのだ。ランニングと瞑想によってリスクテークを決意したのである。
問題は、マイケル・ジョーダン本人は、ドイツのアディダスと契約したがっていたことだ。
ADIDAS(アディダス)でも、CONVERSE(コンバース)でもなく、NIKE(ナイキ)が契約を勝ち取るためにはどうしたらいいか、アドバイスを求めてLAに飛び、オレゴンに戻って考えに考える主人公。たまたま自宅で見ていたTV番組もヒントのひとつになる。
自分自身の「内面の声」に従う形で、エージェントの頭越しにマイケルの両親、とくにカギを握っていた母親に直接アタックすることを決意、西海岸のオレゴンから東海岸のノースキャロライナへと向かい・・・。
最後がどうなったか、ネタバレを気にする必要はないだろう。それはもう「エア・ジョーダン」誕生物語である。結論は最初からわかっている。40年後から回想しているわけだから。
とはいえ、そこに至るまでのプロセスと人間ドラマが、ハラハラドキドキの内容で、最後まで見る者の心をつかんではなさない。
チーム一丸となって、徹夜してつくったプレゼン資料。速攻でデザイナーがつくりあげた「エア・ジョーダン」の試作品。主人公の即興による感動的なスピーチによるプレゼンを経て、最終的にNIKEが契約を勝ち取るに至り、めでたしめでたしとなる。
しかも、「エア・ジョーダン」が出発点となって、アスリート個人の名前が価値を生み出す、知財ビジネスの面からも画期的なブレークスルーとなったのである。
「エア・ジョーダン」が爆発的なヒットになって、NIKE自身も大成長させたことは言うまでもない。スポーツシューズの世界は一変してしまった。
1984年といえば、映画が公開された2023年のいまからすでに40年前である。
この映画じたいも80年代テイストたっぷりで懐かしい。実写フィルムは写真などもふんだんにつかわれている。
1963年生まれのマイケル・ジョーダンとほぼ同年齢で、おなじ時代を過ごしたわたしのような人間にとっては、なおさらである。この40年の人生を振り返るような映画なのだ。
米国はレーガン時代。1984年といえばオーウェルの『1984年』。アップル社のマッキントッシュPCのCMに象徴される時代だ。
けっして問題がなかった時代ではなかった。とはいえ、分断状態にある米国社会の現状から振り返ると、なんだか牧歌的ですらあるのが不思議だ。誰もがまだ前向きだった「古き良き時代」なんてフレーズを想起してしまう。
『アルゴ』が1979年を描いた映画なら、『AIR/エア』は1984年を描いた映画である。時代の「空気」を再現する能力がすばらしい。
監督のベン・アフレックだけでなく、主演のマット・デイモンも製作に参加している。さすが、ハリウッドきっての知性派だけあって、シナリオの選択眼がすぐれている。ちなみこの二人は幼なじみとのことだ。
PS 視聴にあたっての注意
amazon prime video では、この映画は日本語吹き替え版がデフォルトになっているので、自分で設定を変えて、「英語音声/日本語字幕」にして視聴することをすすめる。もちろん、それ以外の多言語の選択も可能である。
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■ベン・アフレック監督・出演作
・・アルゴの主人公も、たまたま自宅で見ていたTV番組がヒントのひとつになる。ベン・アフレック監督ならではか
■マット・デイモン出演作
『エクス・マキナ』(2016年)などハリウッドのSF映画3本を視聴(2020年12月20日)-ほかに『アップグレード』(2019年)と『エリジウム』(2013年) ・・マット・デイモンは『エリジウム』に出演
・・マット・デイモンは『インターステラ』に出演
・・アパルトヘイト廃止後の南アフリカで開催されたラグビーワールドカップ大会を描いた映画
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