出版されたばかりの『戦狼中国の対日工作』(安田峰俊、文春新書、2023)をさっそく読んだ。
徹底的な取材力と分析力、バランスのとれた記述。この本を読めば、「戦狼中国の対日工作」に対して、冷静に対応するための心構えを得ることができる。
現状を探索したレポートして「読んで面白く、しかも読んでためになる」。そんな、すぐれた内容の1冊だ。
■「戦狼外交」は2021年から本格化
「戦狼」が中国外交の枕詞として、日本でも知られるようになったのはなったのは2021年以降である。「戦狼」とは、2017年に中国で公開され爆発的ヒットとなった愛国映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(中国、2017年)のことだ。
そして、2020年6月に「国家安全維持法」が施行されて以降、対中最前線は香港から日本に移行したというのが著者の認識である。だから、2021年以降に「戦狼外交官」の居丈高な粗暴な発信が乱発されるようになったのだ。
そして、日本国内にはりめぐされた中国共産党の工作網が活発にうごめいている現状。工作は在日中国人の監視活動だけでなく、沖縄や黄檗宗など「日中友好」の名を借りた浸透工作もまた。
まずは「目次」を紹介しておこう。
はじめに 戦慄すべき対日工作の実態に迫る第1章 秘密警察の派出所第2章 共産党幹部の個人情報を暴露したハッカーたち第3章 リベラル外交官はなぜ戦狼と化したのか?第4章 習近平の日本原体験と対沖縄・宗教工作第5章 プロパガンダに協力する日本人第6章 「中国の池上彰」が日本に逃げた理由おわりに 粗暴な敵とどう向き合うか
すでに文春オンラインで「記事」として読んでいるものもあるが、こうしてまとめて一書になったものを読むと、「中国の対日工作」の実態がよく見えてくる。
「はじめに」に書かれた著者自身のまとめによれば、「現実の戦狼中国の工作活動は、むしろ極度に短絡的で垢抜けず、自分たちの行動が相手国にどう受け取られるかという想像力に欠け」たものであり、「カネと人海戦術という単純な武器だけで、無為無策のまま正面突撃を繰り返すような、粗雑で直線的な動きが数多」い、ということになる。
まさにそのとおりだな。とはいえ、「カネと人海戦術という単純な武器」も、使いようによってはバカにはできない。
なぜなら、「かれらの最大の恐ろしさは、合理的な判断や常識にいる自制が機能せず、「愛国的」な現場の暴走をしばしば容認する予測不可能性と、その結果生じた誤った方針を修正できずに開き直るという、意思決定の硬直性にこそある」からだ。
「自制が機能せず」、「予測不可能性」、「意思決定の硬直性」。まさにこれこそ現在の習近平体制を象徴しているキーワード群ではないか!
■「現在の中国」は「戦前の日本」とよく似ている
本書を読んでいて思ったのは、「現在の中国」は、まるで「戦前の日本」のようだという感想だ。
当局が流す報道に簡単に踊らされ、暴走する現場。対外方針を大きく誤らせるものとなった「戦前の日本」についての議論は、そっくりそのまま「現在の中国」にあてはめることも不可能ではない。
ただし、「戦前の日本」と「現在の中国」は似ているとはいえ、日中の相対的な関係は逆転している。当時は分裂して弱体化していた中国だが、すでに日本を超える「大国」として復活した中国に対して、「現在の日本」は相対的に「小国」の立場にある。
となれば、対応の仕方はかつてとは真逆なものとなるというものだ。著者が末尾で言及している「弱者の戦略」こそ、現在の日本人が学ぶべきものという結論には、大いに賛同する。それは、かの有名な毛沢東の「遊撃戦略」である。
いずれにせよ重要なことは、事実をよく見極めたうえで、瞬発的な反応を自制し、冷静な判断によって対応していくことであろう。
社会経済に大きな問題を抱える現在の体制が、今後も永続することは考えにくいし、現在70歳の習近平氏も加齢とともに判断力が鈍ってくることは確実だ。独裁制にともなう忖度状態では、ただしい情報が入ってくることもないだろう。
いや、だからこそ「予測不可能性」(unpredictability)というキーワードを心しなくてはならないのである。「想定外の事態」にうろたえることのないよう、想像力を鍛えなくてはならない。
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