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2013年7月25日木曜日

書評『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)-「中国ビジネス」をただしく報道してこなかった日本の大マスコミの大罪


中国経済の減速はもはや誰の目にも明らかになっている。すでに英語圏においては「中国経済の奇跡」は終焉したという論調が支配的だ。ことしの経済成長率予測は 7.4% と ついに 8%を下回ったが、じっさいには 5%台ではないか、という予測すらでているくらいだ。

まさにこのタイミングにあわせるかのように痛快な本が出版された。『誰も書かない中国進出企業の非情なる実態』(青木直人、祥伝社新書、2013)である。中国問題の取材では定評のあるジャーナリストによる最新刊だ。

日中関係には 「井戸を掘った人を大事にする」というフレーズがある。なにごとであれ、最初に貢献してくれた人の恩はずっと忘れないという内容だが、じっさいは「美辞麗句」に過ぎなかったようだ。

昨年(2012年)夏に爆破した「反日暴動」で青島(チンタオ)のパナソニックの工場も襲撃されたが、パナソニックは "井戸を掘った" 松下幸之助が創業した会社であっただけに、日本サイドの衝撃は大きかったのだ。

1972年の日中国交回復を実現した田中角栄と周恩来にまつわるえエピソードとして、"井戸を掘った" 角栄の娘の田中真紀子が中国を訪問するたびにマスコミに撒き散らしてきたものであるが、もはやこのフレーズは中国サイドでは完全に死語となっているようだ。いやむしろ、日本サイドはこの美辞麗句に象徴される甘い認識に付け込まれてきたようだ。

本書には、パナソニックのほか、おなじく "井戸を掘った"全日空、上海に建設した「世界一」の森ビル、王子製紙の巨大プロジェクト、「中国最強商社」伊藤忠の実態、労働争議の標的とされる日系自動車企業などについての事実が取り上げられている。

本書に取り上げられた事項はすべてが本邦初公開というわけではない。著者自身がさまざまな媒体に記事として書いてきたし、部分的には大新聞以外のネットもふくめさまざまなメディアで取り上げられてきたものでもある。中国ビジネスにかかわる者であれば、直接間接を問わず耳にしてきたはずだ。

だが、こうして2013年現在の事実を一冊にまとまった形で読みとおすと、暗澹たる気持ちにならざるをえない。著者も強調しているように、大口広告主に気兼ねした日本の大マスコミが書いてこなかったことこそが大きな問題なのだ。だから、中国ビジネスを知らない人はある意味では騙されてきたのである。

とくに丹羽某なる元中国大使のひどさについては、よくぞ書いていただいたという気持ちでいっぱいだ。過去の経緯もさることながら、丹羽元大使の出身企業においては、経営をあずかる立場にある社長が「反日暴動」が勃発する一年前の 2011年8月8日時点で、事実上の中国撤退論を、なんと日本経済新聞(!)のインタビューで述べていたという事実はアタマのなかにいれておいたほうがいい。

この記事はその当時の丹羽大使との主張の違いが話題になったものだが、総合商社という情報ビジネスの経営者の立場としては、きわめてまっとうなものであるというべきだろう。インテリジェンスを重視してきた元大本営参謀・瀬島龍三の影響のよい側面であろう。

著者は「中国から撤退せよ」と主張しているが、じっさいに中国から撤退するのはかならずしも容易ではない。もし撤退するにしても、中国への投資は放棄することも覚悟しなくてはなるまい。

かつてソ連時代のロシアへの投資に際しては、共産主義という異なる政治体制でのビジネスであり、撤退する際には工場も爆破するという覚悟をもった日本人経営者もいたものだ。だが、中国に対してはなぜ催眠状態に陥ってしまったのか・・・。これもまた日本人の悪癖である「希望的観測」(wishful thinking)のあらわれか。

ただ思うのは、中国から脱出したとしても、東南アジアにおいても中国と同様の事例は存在することを忘れてはならないということだ。「親日」や「反日」だけでものごとを判断するのはきわめて危険である。

「アウェイ」における海外ビジネスというものが「ホーム」である日本国内のビジネスとはいかに異なるものかを認識するとともに、中国ビジネスの失敗はきちんと検証しておくことが今後のためにも絶対に不可欠なことだろう。必要なのは『失敗の研究』である。

どうも日本人は一般的に過去の失敗をきちんと整理検証しないまま、つぎの戦線に「転進」してしまう悪癖があるようだ。ビジネスパーソンは、とくに心しなくてはならない。






目 次

序説 本当は恐ろしい中国ビジネス
 なぜ、日本からの中国投資だけが突出しているのか
 二〇一二年と二〇〇六年との、三つの違い
 中国人労働者の高まる権利意識
 習近平指導部は、「紅衛兵内閣」
 大手メディアが決して報じない怖い話
 操作される経営の実態
第1章 全日空-「井戸を掘った人」が受けた仕打ち
 日中経済交流のパイオニア、岡崎嘉平太氏
 「北京新世紀飯店」の中国人社長は、なぜ突然姿を消したのか
  「いまの中国人は、水道水を飲んでいます」
 松下幸之助に対する忘恩の仕打ち
第2章 王子製紙-ストップした工事の行方
 投資額二〇〇〇億円、巨大プロジェクトの突然中止の衝撃
 進出企業が合弁事業を嫌がる理由
 なぜ、工事が止まったのか
 ある日突然、順法が違法に変わる恐ろしさ
 環境問題に関する中国国内の対立
 中国進出企業が一様に抱いた幻想
第3章 森ビル-上海に建てた「世界一」の高層ビル
 日本の資本援助でできた上海の近代化
 「日の丸プロジェクト」と浮かれ立つ日本のメディア
 一年で六センチ以上、地盤沈下する土地
 なぜ、絶対に中止することが許されないのか
 一夜にして巨大な富を手に入れる地元の政治家
 度重なる中国からの無茶な追加要求
 失われた景観、笑うしかない仕打ち
第4章 労働争議に立ち向かう自動車メーカー
 ある中小部品メーカーの倒産
 破綻したマイカー・バブル、迫りくる過剰在庫
 中国に全国レベルの市場は存在しない
 「地方主義」がもたらす大きな落とし穴
 人件費の高騰、人員整理、労働争議の止まらぬ悪循環
 ホンダを襲った広州の大規模ストライキ
 トヨタと胡錦濤、GMと江沢民
 宋慶齢基金会に対するトヨタの巨額献金
 なぜトヨタ・バッシングが起こったのか
第5章 伊藤忠-人脈ビジネスの破綻
 中国における伊藤忠の大きな存在感
 伊藤忠が他社を出し抜いた理由
 誰もが断れない政治献金
 鄧小平の息子たちに群がる海外企業
 日本の円借款だけが持つ特異な性格
 伊藤忠・室伏社長と、江沢民との会談
 王震と伊藤忠を結ぶ黒い糸
 元伊藤忠・中国総代表の開き直り発言
 日経新聞に載った岡藤社長発言の大いなる波紋
 「利益は中国現地に寝かせずに、日本に持って帰れ」
 一党独裁国家における人脈ビジネスの末路
第6章 伊藤忠の代理人、丹羽「中国大使」の退場
 なぜ、一企業のトップが中国大使になれたのか
 対中ODAの継続を主張した丹羽大使
 尖閣諸島問題に関しての妄言
 ビジネスのことしか頭にない中国大使
 あまりに軽率なチベット訪問
 なぜ丹羽大使は石をもて追われたか
終章 中国をつけ上がらせた歴代中国大使の「大罪」
 なぜ、歴代の中国大使は中国に迎合するのか
 中国大使退職後の天下り先一覧


著者プロフィール  

青木直人(あおき・なおと)
ジャーナリスト。ネット紙「ニューズレター・チャイナ」編集長。1953年、島根県生まれ。中央大学卒。中国問題に関する緻密な取材力と情報収集力に定評があり、中国・東アジア関連の著作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

「中国経済のリスク インフレ抑制難しく」(日本経済新聞 2011年8月8日)

Recognizing the End of the Chinese Economic Miracle Geopolitical Weekly TUESDAY, JULY 23, 2013 ・・米国の民間インテリジェンス分析機関ストラットフォー主筆ジョージ・フリードマン氏の論考「中国経済の奇跡の終焉を認識する」。英語圏のビジネスが中国経済を見るまなざしに変化。潮目は急速に変化(sea change)しつつある。変わり身の早い英米の投資家マインド。

周到に準備された防空識別圏-日本は2016年まで孤立状態が続く (イアン・ブレマー、インタビュアー=石黒千賀子、日経ビジネスオンライン 2013年12月20日)
・・「ブレマー氏: 今回、日本に滞在している間に会った2人の日本企業のCEO(最高経営責任者)が、今後の中国への投資は欧州の関係会社や子会社を通じて行うことにしたと明かしてくれました。賢明な判断だと思います。 日本企業による中国投資は今後リスクが増すでしょう。欧州、特に経済の強いドイツにおける子会社や合弁会社を使って投資するのは1つの選択肢と考えられます・・(中略)・・中国に投資するリスクについては今まで以上に警戒する必要があります。中国市場は極めて危うく、中国事業は赤字に陥るリスクさえあると認識すべきです」

「俺は中国から脱出する!」ある中小企業経営者の中国撤退ゲリラ戦記 (ダイヤモンドオンライン、2014年7月4日)
・・「風林火山」はもともと孫子の兵法の一説であり、現代中国のビジネス社会でも有効な戦術。A社長は無意識のままにこれを実践」 ⇒読む価値ある好記事!

(2014年7月4日 情報追加)



<ブログ内関連記事>

書評 『中国ビジネスの崩壊-未曾有のチャイナリスクに襲われる日本企業-』(青木直人、宝島社、2012)-はじめて海外進出する中堅中小企業は東南アジアを目指せ!

書評 『中国台頭の終焉』(津上俊哉、日経プレミアムシリーズ、2013)-中国における企業経営のリアリティを熟知しているエコノミストによるきわめてまっとうな論

書評 『誰も語らなかったアジアの見えないリスク-痛い目に遭う前に読む本-』(越 純一郎=編著、日刊工業新聞、2012)-「アウェイ」でのビジネスはチャンスも大きいがリスクも高い


書評 『中国貧困絶望工場-「世界の工場」のカラクリ-』(アレクサンドラ・ハーニー、漆嶋 稔訳、日経BP社、2008)-中国がなぜ「世界の工場」となったか、そして今後どうなっていくかのヒントを得ることができる本

書評 『新・通訳捜査官-実録 北京語刑事 vs. 中国人犯罪者8年闘争-』(坂東忠信、経済界新書、2012)-学者や研究者、エリートたちが語る中国人とはかなり異なる「素の中国人」像

書評 『官報複合体-権力と一体化する新聞の大罪-』(牧野 洋、講談社、2012)-「官報複合体」とは読んで字の如く「官報」そのものだ!

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

「希望的観測」-「希望」 より 「勇気」 が重要な理由


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2011年8月16日火曜日

書評『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹、中公文庫、2010、単行本初版 1983)ー いまから70年前の1941年8月16日、日本はすでに敗れていた!


シミュレーション(=机上演習)で対米戦争が「敗戦」に終わることがわかっていながら・・

 今年(2011年)は、日本が大東亜戦争に突入してから70年目にあたる。

 70年前の昭和16年(1941年)8月16日、それは奇しくも敗戦からちょうど4年前であったが、じつはシミュレーション(机上演習)によって、敗戦が必至であることが明らかになっていたのだった。

 本書は、このシミュレーションが行われた「総力戦研究所」と、そこに集められた若手官僚たちの体験をノンフィクションとして描いた作品である。

 英国をモデルにして内閣府直属の機関として1940年(昭和15年)に設立された「総力戦研究所」。このコンセプトは英米派の情報将校・辰巳栄一が徹底的に調査したという。省庁事がバラバラな意志決定主体のままでは、第一次大戦以降に主流となった「総力戦」を戦い抜けないという危機感のもとに設立されたのがこの「研究所」だ。

 翌年4月に集められたのは、キャリア10年程度の軍民の中堅官僚たちと民間人であった。官僚からは、陸軍、海軍、大蔵省、内務省、外務省など、まさに国家を背負っているエリート中のエリート。民間人からは通信社や日本郵船など財閥の中核企業から集められた。同じ釜のメシを食い、同じ授業を受け、同じ体育の授業を受け濃密なコミュニケーションが図られた。派遣元の官庁に戻った際に、連携プレイをとることが期待されていたからだ。官庁組織の縦割りの弊害は、当時から問題視されていたからだ。

 理想主義に走りがちな20歳台の学生でもなく、経験知にみちた40歳台の中年でもない、まさに現役バリバリの年齢の30歳台前半のエリートにとって座学は面白いものではない。このため、あらたに導入されたのが、「模擬内閣」による「総力戦シミュレーション」であった。これは参加者たちにとっては面白かっただろう。ある意味ではロールプレイングですらあるからだ。

 軍事の戦術研究ではあたりまえの図上演習が、「総力戦」という国策の研究に応用されたのは画期的な試みであったらしい。そしてあらゆる予断を排して、客観的な数字に基づいてシミュレーションを行った結果が、なんと「日本敗戦」だったのだ。

 しかしながら、シミュレーション結果は、政策の意志決定に活かされることはなく、「つくられた数字」を根拠にして開戦に踏み切った日本は、シミュレーション結果とほぼ同じ軌跡を描いて最終的に破綻してしまう。 さまざまな証言と資料によって復元されたその内容は直接本文を読んでいただきたいが、このくだりを読んでいくと、まさに何ともいえない気分になる。それが1941年(昭和16年)8月16日のことだったのだ。

 本書が単行本として出版されたのは1983年。その当時の日本の統治機構の問題点についてもきちんと言及しており、いま読んでも古さをまったく感じさせない。しかも、昭和16年当時の東條英機首相について、一方的に断罪するような姿勢をいっさい見せない著者の公平な視点にも感服する。

 本書の主人公たちと同年齢の30歳台の人間には、とくに読んでじっくり考えてもらいたい作品である。この本を書いたときの著者も36歳だったのだ。かならず問題意識は共有できるはずだろう。



<初出情報>

■bk1書評「シミュレーション(=机上演習)で対米戦争が「敗戦」に終わることがわかっていながら・・」投稿掲載(2011年8月16日)
■amazon書評「シミュレーション(=机上演習)で対米戦争が「敗戦」に終わることがわかっていながら・・」投稿掲載(2011年8月16日)



目 次

プロローグ
第1章 三月の旅
第2章 イカロスたちの夏
第3章 暮色の空
エピローグ
あとがき
巻末特別対談


著者プロフィール

猪瀬直樹(いのせ・なおき)

1946年長野県生まれ。1983年に『天皇の影法師』、『昭和16年夏の敗戦』『日本凡人伝』を上梓し、1987年『ミカドの肖像』で第十八回大宅壮一ノンフィクション賞。『日本国の研究』で1996年度文藝春秋読者賞。2002年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。その戦いの軌跡は『道路の権力』、『道路の決着』に詳しい。2006年に東京工業大学特任教授、2007年に東京都副知事に任命される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<書評への付記>

 猪瀬直樹の作品は、天皇家のイメージを最大限に活用しようとした西武鉄道グループにかんする一連の作品『ミカドの肖像』や、天皇崩御の際の先行事例として大正天皇の崩御と葬儀を描いた『天皇の影法師』などを読んできた。

 だが、これらの作品とほぼ同じ時期に、今回とりあげた『昭和16年夏の敗戦』が書かれていたとはまったく知らなかった。

 じつは読むのは今回がはじめてである。いまから10年以上前、自分がまだ30歳台のときに読んでおけばさらによかったと切に思う。本にも読む時期というものがある。

 この本の主要テーマは、逆サイドからみれば、いわゆる「希望的観測」(wishful thinking)になりがちな日本型エリート(・・もちろん、エリートだけでなく一般の日本人も同様だ)の問題点を描いたところにもある。

 「総力戦研究所」に集められた若きエリートたちによる「模擬内閣」が出したシミュレーション結果は「日本敗戦」。しかし、この結果をプレゼンテーションした東條内閣は、いわば「黙殺」したという。東條英機自身は、克明にメモを取りながらプレゼンを聴いていたらしい。シミュレーションそのものにも多大な関心をもっていたようだ。

 だが、最後に感想を述べる際、東條英機は狼狽していたという。しかも、「口外するな」とクチにしたという。この回想から考えると、数字でみたシミュレーション結論の意味は、じつは政府首脳部はわかっていたのではないかと思われる。

 近衛内閣が崩壊し、昭和天皇の強い意向によって組閣命令を受けた東條英機が、天皇の意思には忠実に従い、ギリギリの最後の最後まで、対米戦を回避すべく、2ヶ月のあいだ苦労に苦労と重ねたことは本書だけでなく、『陸軍省軍務局と日米開戦』(保阪正康、中公文庫、1989)にも詳細に描かれている。

 この事実からも、「東條英機は独裁者であった」などというのが、いかに「妄言」でしかないかがわかるというものだ。内閣総理大臣としての東條英機は、立憲君主制のもとでの役割を演じたに過ぎない。しかも、プロパーの政治家ではなく、陸軍大臣も兼ねていた現役の陸軍大将という「軍事官僚」であったのだ。

 情緒的な感想や直観だけでなく、数字でただしく判断すれば「総力戦研究所」で行われたシミュレーション結果を尊重せざるをえない。数字だけの判断であれば、間違いなく100%の人間が反対したはずなのだ。それは政策決定者とても同じこと。

 すくなくとも国家指導者が、数字の意味がわからなかったとは考えにくい。自分が数字をいじらなくても、説明用にわかりやすくまとめられた数字をみれば、対米戦争の無謀さは十分に理解できただろう。ある意味では、常識的な判断力があれば十分なのであり、しかも日米で国力に大きな差があることは、国民もひろく知っていたからだ。

 しかし、世の中には「結果先にありき」の案件はすくなからずある。そのために「数字をつくる」ことは、現在でも行われていないとは、さすがにわたしも、ないとは断言はできない。

 だから、経済合理性だけで物事が進むと思ったら、それもまた間違いなのである。「つくられた数字」も、それが数字であるという理由だけで通ってしまうことが多々ある。これもまた経済合理性のワナというべきだろう。

 ところで、わたしが大学卒業後の1985年、いちばん最初にはいった会社は銀行系のコンサル会社だったこともあり、20歳台のはじめから、ほぼ毎日のようにシミュレーションをやっていた。その頃、すでにパソコンが導入されていたが、若年層以外では使いこなせる者はなく、年配者は電卓、あるいはソロバンで計算していたものだ。
 
 とはいえ、Excel のような簡易表計算ソフトなど存在しなかったので、パソコンでプログラムを組んでいたのであった。MS の いまはなき Mutiplan の存在を知ったとき、天からの贈り物のように思えたものだ。

 昭和16年当時は、現在のようにパソコンで簡単にシミュレーションできた時代ではない。電卓すらなく(!)、計算はすべて手計算でソロバンで行っていた時代のことだ。それこそエンピツをなめなめ数字を積算していったのである。

 本書にはこの点にかんする言及はないが、ぜひ念頭において読むと、さらに当時の苦労がしのばれることだろう。

 もちろん、30歳代以上の人間も、ぜひよむべき一冊である。



<関連サイト>

総力戦研究所(wikipedia 日本版)
・・なお、「総力戦」(total war)は、第一次世界大戦以降の概念。たんなる軍事力だけでなく、銃後の人間までふくめて国民すべてを巻き込ん取り組まざるをえないという、経済力も人的資源も総動員する戦争形態のこと。「全面戦争」とはまったく異なる概念である


<ブログ内関連記事>

「敗戦記念日」のきょう永野護による 『敗戦真相記』(1945年9月)を読み返し「第三の敗戦」について考える
・・まさに陸海軍を筆頭に各官庁でバラバラの意志決定が行われた結果もたらされたものは?

『大本営参謀の情報戦記-情報なき国家の悲劇-』(堀 栄三、文藝春秋社、1989 文春文庫版 1996)で原爆投下「情報」について確認してみる

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