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2024年2月21日水曜日

『ジョブズの料理人 ー 寿司職人、スティーブ・ジョブズとシリコンバレーの26年』(日経BP社出版局編、日経BP、2013)を読んでいると思うのは、亡くなってから13年なるジョブズがまだまだ「過去の人」ではないということだ




この本のことは2013年の時点で知っていたが、つい最近ひさびさにamazonでその存在を思いだした。取り寄せてさっそく読んでみたが、じつに面白い。まるでジョブズがまだ生きていて、目の前にいるかのような気がしてくる。 

「ジョブズの料理人」とはカリフォルニア州はシリコンバレーのパロアルト(Palo Alto)で寿司屋、その後に会席料理店を経営していた日本人職人の佐久閒俊雄氏のこと。寿司職人として米国に渡った最初の世代の人だ。まずはハワイに、そして本土の西海岸のカリフォルニアへ。

本書は、その「ジョブズの料理人」の聞き語りを活字化したものである。 

寿司屋がほかの料理店と違うのは、カウンター越しにお客さんと直接会話ができること。

常連客の一人がジョブズだったことから、ジョブズ自身やその日本料理とのつきあい、その他シリコンバレーの起業家たちや投資家たちの面々が回想される。米国の日本料理普及の歴史もまた。

ベジタリアンと見なされがちなジョブズだが、寿司ネタのトロもハマチも食べていたので、ヴィーガンではなかったことがわかる。とはいえ、生魚を食べることができるようになるまで時間がかかったようだ。

ジョブズが亡くなってから、すでに13年になる。その2年後の2013年の出版時点で読んでおけば、もっと楽しめただろうという気もするが、かならずしもそうではない。 

すでに日本の学習マンガの世界では「偉人伝」のひとりになっているジョブズだが、まだまだ「過去の人」にはなっていないことが実感されるだろう。  まだ読んでない人がいたら、『ジョブズの禅僧』とあわせて読んでみるといいと思う。  


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目 次 
はじめに(外村仁*)
第1章 さようならスティーブ、さよなら桂月 
第2章 シリコンバレーで旨い寿司を食わせよう! 
第3章 「自分でやる」のがスティーブ流 
第4章 「天才」の素顔 
第5章 妙なヤツラがやってきた 
第6章 桂月は景気のバロメーター 
第7章 会席料理へのチャレンジ 
第8章 スティーブからの誘い 
第9章 26年続けられた理由
あとがき(佐久閒惠子)
年表
       
* 外村仁:アップル社でマーケティングを担当。ジョン・スカリーからスティーブ・ジョブズまで5 年間 で4 人の CEO に仕えた。

取材協力 
佐久間俊雄(さくま・としお) 
福島県出身。15 歳から寿司の修行を始める。1979 年に渡米後、1985 年カリフォ ルニア州パロアルトに最初の店「スシヤ(鮨屋)」を開店。1994 年に「トシズ・ スシヤ」、2004 年には会席料理の専門店「桂月」を開店する。シリコンバレーの 起業家、投資家をはじめ地元の人に親しまれる。2011 年10 月に桂月を売却。現在 シリコンバレー在住。 

佐久間恵子(さくま・けいこ)
沖縄県出身。ハワイ大学経営学科卒業(Bachelor of Business Administration)。 米国公認会計士取得。4大会計事務所勤務を経て、夫俊雄と共に16 年間、和食店 の経営に携わる。現在はシリコンバレーで会計事務所に勤務。
(経歴は出版社の書籍サイトより出版当時2013年のもの)

 


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2010年8月6日金曜日

『izakaya: The Japanese Pub Cookbook』(=『英文版 居酒屋料理帖』)は、英語で見て・読んで・楽しむ「居酒屋写真集」+「居酒屋レシピ集」






 『Izakaya: The Japanese Pub Cookbook (英文版 居酒屋料理帖)』(Mark Robinson, Photographs by Masashi Kuma, Kodansha International, 2008)は、英語で見て読む「居酒屋写真集」である。

 「居酒屋」(izakaya)は、日本人からみれば、あまりにも当たり前な世界。

 いわゆるグルメ雑誌のグラビアや、ぐるなびなどのウェブサイトではよく見るものであっても、このようなハードカバーの大型本を眺めてみると、居酒屋というのは「日本文化」なのだなあと、あらためてしみじみと思うのである。

 この本では口腹そのものは味わえないが、写真を見るだけでも十分に堪能できる。


 考えてみれば、居酒屋についてまとまった本というのは少なくないのだが、本書のような趣(おもむき)をもった本は意外とないものだ。日本人が書くものはどうしてもディテールに焦点をあてがちで、「居酒屋」文化そのものの本はあまりない。あってもガイドブックか、レシピ本か、随筆に終わってしまいがちだ。

 この本は、東京生まれで、1988年以来日本に在住する米国人のエディター兼ジャーナリストが、居酒屋文化に惚れ込んで作った写真集といった趣(おもむき)がある。

 「居酒屋」文化を、文化そのものとして全体として捉えるという視点が、この一冊をひとつのまとまった小世界(ミクロコスモス)にしている。

 本書には、いわゆるチェーン店はいっさい登場しない。単体で営業している、昔ながらの"渋い"居酒屋が8つ紹介されている。英語で言うと "cool"(クール)ってかんじな店である。

 居酒屋の料理や素材だけでなく、ほろ酔い加減で心を開いている人々、板前さんや従業員たちの働く姿などの写真が散りばめられている。まさに「居酒屋」という小世界(ミクロコスモス)が凝縮して詰まっている。ここに登場する日本人はみないい顔してるし、いい味だしてるね~

 こういう本が英語で出版されて、英語圏で流通しているこということは、大いに歓迎されることだ。


 若い頃はあまり考えていなかったが、「居酒屋メニュー」は実はカラダにもいい。チェーン店の場合は洋風メニューもかなり多くなったというものの、基本的に「居酒屋メニュー」は和食である。「酒の肴」といったほうが風情があるが。

 居酒屋というと、どうしうても酒を飲むのがメインというイメージが強いが、実は健康的でカラダにもいい食事をする場でもあるのだ。しかも居酒屋メニューは、ほんとうに品数が多い。

 その意味では、本書に紹介されている「居酒屋メニュー」はいずれも、旬の食材を使った和食で、目で見てよし、食べてよし、カラダによしという三拍子を備えている。

 本書にも、数々の「居酒屋メニュー」のレシピが英語で紹介されている。料理名だけは日本語も併記されている。

 まあ、居酒屋というものは、そこで飲んで食べてしゃべるものであって、見て読むものじゃないという人のほうが多いだろうが、「日本文化」を英語で勉強することも兼ねて、一冊は手元に置いておきたい写真集である。


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<関連サイト>

izakayanights.com
・・本書掲載の英文レビューへのリンク集


PS 2014年になってから、もう一冊、別の「外人」による居酒屋本が出版された。『日本の居酒屋文化-赤提灯の魅力を探る』(マイク・モラスキー、光文社新書、2014)。こちらも日本通の「外人」によるものだが、日本語で書き下ろした新書本。ぜひ読み比べて(・・いや、飲み比べて、かな?)いただくといいだろう。

目 次

「お通し」-はじめに
第1章 「居酒屋学」の基礎概念
第2章 和風酒場の種類と特徴-赤提灯あれこれ
第3章 和風酒場の種類と特徴-屋台から割烹まで
第4章 <地>の味わい-街から店を捉える
第5章 <場>の味わい――店舗の内外を読み取る
第6章 「人間味」-居酒屋の人々
第7章 自分で穴場を嗅ぎつけよ(実用編)
「また、呑もうね」-おわりに
本文に登場したお店一覧

著者プロフィール  

マイク・モラスキー(Michael Molasky)
1956年米国セントルイス市生まれ。1976年に初来日し、延べ20年日本滞在。シカゴ大学大学院東アジア言語文明学研究科博士課程修了(日本文学で博士号)。ミネソタ大学、一橋大学教授を歴任。2013年秋学期より早稲田大学国際学術院教授。担当する講義では、日本の戦後文化や、ジャズやブルースを中心とする音楽文化論、東京論、そして喫茶店や居酒屋のような都市空間を通じて、現代日本社会を捉えなおす。エッセイスト、ジャズ・ピアニストという顔も持っている。日本語の著書には『戦後日本のジャズ文化』(青土社、サントリー学芸賞受賞)、『ジャズ喫茶論』『呑めば、都』(共に筑摩書房)、『ひとり歩き』(幻戯書房)などがある。

(2014年6月9日 記す)




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in vino veritas (酒に真理あり)-酒にまつわるブログ記事 <総集編>

日本の酒

味噌を肴に酒を飲む

「泥酔文化圏」日本!-ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』で知る、昔から変わらぬ日本人

ひさびさに隅田川で屋形船を楽しむ-屋形船は東京の夏の楽しみ!

書評 『ホッピーで HAPPY ! -ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで-』(石渡美奈、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

"昭和ノスタルジー"な一夜・・・船橋漁港直送 「いわし料理 ふなっ子」にて

幻の芋焼酎・青酎(あおちゅう)を飲んで青ヶ島の苦難の歴史に思いをはせ、福島の苦難について考える

ユダヤ教の「コーシャー」について-イスラームの「ハラール」最大の問題はアルコールが禁止であることだ
・・日本酒の「獺祭」(だっさい)の国際展開とコーシャー認証取得

「馬」年には「馬」肉をナマで食べる-ナマ肉バッシングの風潮のなか、せめて「馬刺し」くらい食わせてくれ!

ルカ・パチョーリ、ゲーテ、与謝野鉄幹に共通するものとは?-共通するコンセプトを「見えざるつながり」として抽出する
・・芋焼酎の銘柄「鉄幹」に名をとどめる与謝野鉄幹は与謝野晶子の配偶者としてだけではなく、、恋と情熱と革命(志向)の詩人として記憶にとどめたい

(2014年6月9日 項目新設)


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2010年4月26日月曜日

書評 『クーデターとタイ政治-日本大使の1035日-』(小林秀明、ゆまに書房、2010)-クーデター前後の目まぐるしく動いたタイ現代政治の一側面を描いた日本大使のメモワール




クーデター前後の目まぐるしく動いたタイ現代政治の一側面を描いた日本大使のメモワール

 2005年11月から2008年9月までの2年10ヶ月、正確には1035日にわたってタイ王国に特命全権大使として赴任していた著者によるメモワールである。

 大使赴任中のタイは、もはやあるまいと思われていたクーデターが発生、その後の軍政を経て、国民投票による新憲法の承認、民政移管と目まぐるしく動いている激動の現代政治の渦中にあった。

 しかし、本書にはクーデターそのものについての記述はあまりない。

 クーデターそのものよりも、総選挙の無効にともない暫定首相となったタクシン政権の末期から、クーデターによるタクシン追放、クーデターを主導した陸軍が擁立したスラユット首相の政府の承認をめぐる中国との先陣争い、日タイ経済連携協定(=日タイFTA)の署名問題をめぐる舞台裏、そして民政移管、といっためまぐるしく動いていたタイの政治状況と日本の関与について、日本外交の最前線の立場からの回想がつづられている。

 大使の重要な公務には、駐在国の政治家たちを公邸に招待し、昼食や夕食で接遇して歓談しながら、彼らの人となりをじっくり観察するというものがある。
 
 正式に招待し、実際に食事をともにしたのは、ワチラロンコーン皇太子夫妻やシリントーン王女をはじめとする王族から、めまぐるしく交代した4人の首相(タクシン、スラユット、サマック、ソムチャイ)、そして1991年の民主化闘争をリードし2008年11月のバンコク空港閉鎖事件に大きな影響を与えたチャムロン、現在に至るまで隠然たる存在感を示している枢密院議長プレームなど、名前は耳にすることはあっても、一般人が直接会って会話する機会などまずない人たちばかりである。

 直接タイの政治を動かしてきたこうした人々の素顔が、会話の内容の一部や声のトーンまで含めて紹介されているのだが、アルコールが入ってリラックスした席での、海千山千のタイ人政治家たちの肉声が実にナマナマしい。息づかいまで聞こえてくるようだ

 ときには歓談後グッタリしてしまうような経験も数多くしたと著者は率直に本書のなかで漏らしており、そういったことを記述する著者の態度には大いに好感がもてる。機密情報にかかわる記述はいっさいないとはいえ、記録としてはたいへん貴重である。

 私にはとくに、タイの王室にかんする記述が興味深く思われた。クーデター発生前に挙行された最重要イベントである「プーミポン国王即位60周年」と天皇皇后両陛下の訪タイをめぐる皇室外交の舞台裏、大使信任状奉呈式と離任のためホアヒンの離宮で謁見したプーミポン国王の素顔、公邸に正式招待して親しく歓談したワチラロンコーン皇太子の素顔は、非常に興味深く読むことができた。

 なぜなら、タイ国内では王室関連の話は公開情報が限定されているため、とかくタイ人の語る「都市伝説」まがいの尾ひれのついたウワサ話が多く流通し、それがまた在住日本人のあいだでさらに増幅されて、まことしやかに語られていることが少なからずあるからだ。当事者でない以上、真相がどこにあるかはまったくわからないのだが、本書を読むとウワサ話だけで判断することがいかに危険なことであるかを思い知らされるのである。

 ちょうど著者の赴任期間とほぼ重なる時期にバンコクに在住していた私には、たいへん興味深い内容の本であった。

 タイに関係する人だけでなく、タイには観光以上の関心を抱いている人にはおすすめの一冊である。


<初出情報>

■bk1書評「クーデター前後の目まぐるしく動いたタイ現代政治の一側面を描いた日本大使のメモワール」投稿掲載(2010年4月19日)
■amzon書評「クーデター前後の目まぐるしく動いたタイ現代政治の一側面を描いた日本大使のメモワール」投稿掲載(2010年4月19日)


<書評への付記>

 今年3月からタクシン派である「赤シャツ組」がバンコク市内の商業地域やビジネス街を占拠して「場外乱闘」をつづけているが、そのタクシン元首相がクーデターという超法規的手段によって追放されたのが、2006年9月に発生した、もはやあるまいと誰もが思っていたクーデターであった。

 1991年の「流血の5月」の引き金となったクーデター以来15年、タイ王国には民主主義が定着したものだと思い込んでいたのだが、それは大きく裏切られる結果となった。

 タイのクーデターはかつて年中行事のように発生しており、1991年当時の駐タイ日本大使で現在は政治評論家の岡崎久彦氏を中心にまとめられた『クーデターの政治学-政治の天才の国タイ-』(岡崎久彦/横田順子/藤井昭彦、中公新書、1993)で主張されているように、そのほとんどが無血クーデターであり、いわば超法規的な手段による、政治のシャッフル手法として多用されてきた。クーデターが成就すると同時に憲法が停止される。フジモリ政権下のペルーや、エリツィンのロシアでも使用された手法であるが、タイの場合は通常は無血クーデターである。

 国民もまたクーデターに違和感をもたず、非常事態には deus ex machina としての国王による仲介に依存するという「甘えの構造」がタイ国民のあいだに醸成してきたことは否定できない。

 岡崎氏はこれをさして「政治の天才」というのだが、国内的にはいいとしても、現在のようなグローバル経済のもとでは、レピュテーション・マネジメントの観点からいって、クーデターは望ましいものとはいえない。民政移管されるまでのあいだ、欧米のマスコミによってタイはミャンマーと同列に扱われれていた。

 2006年のクーデター後は本書にも書かれているが、軍政のもとスラユット退役陸軍大将による暫定政権が新憲法の国民投票を実行、民政移管までの期間を無事に乗り切った。しかし、軍政期間中は経済運営がうまくいかず、タクシン時代と比べるとビジネスにとって好意的な環境であったとはいいがたい。

 2008年11月には「黄シャツ組」によるバンコク国際空港占拠という非常事態を招く結果となった。小林大使はこの前に離任しているので、空港占拠事件については言及が少ないので補っておく。

 この時もクーデター待望論が国民のあいだからわき上がってきたが、陸軍司令官は軍を動かさず、憲法裁判所による違憲判決によってタクシン派のソムチャイ政権を退陣させるという、「司法によるクーデター」という新手の手法が開発された。

 陸軍司令官のアヌポン陸軍大将はまさに知将というべきで、タクシンとは士官学校で同期生でありながら、きわめて政治的バランス感覚のすぐれた軍人である。

 ただしクーデターが今後まったく起こらないとは断言できない。ラストリゾート(最後の手段)としては、これしかないということになるかもしれない。

 現在も「赤シャツ組」がバンコク市内の占拠をやめておらず、市内各地で爆弾テロも頻発している。しかし、2010年度の第一四半期(Q1)の製造業の業況も、商業銀行の業績も好調である。

 日本のマスコミは勉強不足なため、現地取材による情報がそのままダイレクトに日本で報道されるわけではない。どうしても絵になりやすい情報だけが日本国内で配信されえることになる。

 自分なりの視点で状況分析を行う必要があるのだが、そのためにも、日々の情報に流されることなく(・・もちろん、時々刻々と変化する情報を追うことも必要)、背景についてよく知っておくことが必要である。


<ブログ内関連記事>

書評『タイ-中進国の模索-』(末廣 昭、岩波新書、2009)・・必読書!

タイのあれこれ  総目次 (1)~(26)+番外編

書評 『皇室外交とアジア』(佐藤孝一、平凡社新書、2007)-戦後アジアとの関係において果たした「皇室外交」の役割の大きさ