(剣が峰からみたクレーター wikipedia英語版より)
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本日(7月1日)は、日本全国の多くの山で「山開き」だということを朝のニュースでやっていた。もちろん、富士山も本日が山開きである。
もちろん、山開きの前に入山してはいけないという決まりはないのだが、山じたいがご神体である日本では、正式に神職がきてお祓いを済ませたあとで山に入るのが、本来は正しいのである。
日本の山はもともと信仰対象であり、登山じたいがスポーツではなく、心身鍛練の修行としての性格が強かった名残である。
富士山の場合は浅間神社と書いてせんげん・じんじゃと読む。祭神はコノハナサクヤヒメ(木花咲耶姫命)という女神である。
■28年前、私は富士山の八合目の山小屋で夏期アルバイトをしていた!
私は大学2年のとき、富士山八号目御殿場口の山小屋で夏季アルバイトを経験した。いまから28年前のことになる。
考えてみればずいぶん昔の話なのだが、このときの経験はあざやかに記憶のなかに機材見込まれている。やはり20歳前の経験は、その後の人生においても大きな意味をもつものなのだろう。
「一生に一回くらい山小屋で働いてみたい」と思っていたのは、高校時代ワンゲルにいたからだ。ワンゲルとはワンダーフォーゲル(Wandervogel)の略、ドイツ語で渡り鳥を意味するワンダーフォゲルは、山登りの部活のことだ。ワンゲルにいたとき、大学生が山小屋でするバイトの話をさんざん聞いていたので、なんとなく憧れ(?)があったのだ。
大学生協で100円で売っていた、今は亡き学生援護会(!)が発行していた「日刊アルバイトニュース」に載っていたのが、富士山御殿場口八合目の山小屋「赤岩八号館」であった。さっそく電話で申し込んだら即採用となり、大学の授業が終わった7月20からバイトを開始することにした。富士山では、ちょうどこの頃から、登山客が増えて繁忙期に入る。
私はほぼまるまる1ヶ月間、下界には一回も下ることなく、富士山のなかに住んでいたことになる。
関東の場合、登山客が一般的に利用する山梨県側の富士吉田口であるが、私が募集に応じたのは静岡県の御殿場口のほうである。
御殿場口はまた最後に触れるが、「大砂走り」が有名で、砂地の上をスキーのように、飛ぶように高速歩行で一気に下ることできる名所である。つまり途中までの下りは快適だが、上りはいささかつらい。
これは現地に入ってからはじめて知ったことだが、御殿場口の五合目は富士吉田口の五合目とは、実は標高差が違っているのだ。御殿場口の五合目は、富士吉田口の三号目くらいらしい。どうりで、勾配はややゆるやかがら距離が長いのだ。
■改造ブルドーザーで八合目まで上がる
御殿場でまず一泊した。山小屋の持ち主(オーナー)である兼業農家のお宅に一泊した。いまこれを夏期ながら、しばらく入れないであろう、下界での最後の風呂に浸かったシーンを映像として思い出した。
熟睡したあとはいよいよ出発だ。
なんと、改造ブルドーザーで富士山を登っていくのだ!
当時はまだ現役で活動していた富士山レーダーの職員向けに物資を運搬する手段として、改造ブルドーザーが使用されていた(・・いまでも使われているのだろうか?)。
ブルドーザー導入前は、や馬に荷を積んでをつかって物資輸送を行っていたらしい。北アルプスや南アルプスとは異なり、富士山では強力(ごうりき)はあまり使われなかったようだ。
富士山は単独峰だり、尾根伝いに歩くという類の山ではない。
富士山に御殿場口から登山した経験をもつ人は知っていると思うが、ときどき登山道を横切って比較的幅広の道がある。それがブル道なのだ。
山頂まで向かう「改造ブル」に作業員のオッチャンやオバチャンたちにまざって乗せてもらって、八合目で降ろしてもらった。しっとりと湿った朝霧のなかであった。そのときに激励してもらった作業員は皆さんは、「学生さん、ガンバリな!」と口々に激励してくれた。なんだか私が心細い感じに見えたのだろう。この場を借りて皆様には感謝してきおたい。
バイト仲間は全部で3人。大学生の私と、高校生なのに潜り込んだ者、そして司法浪人のフリーターだった。
■山小屋の七号目半の分館に"配属"される
配属されたのは八合目の本館ではなく、そこより麓のだいたい7合目半くらいの分館だった。本館は宿泊客も大勢で、バイト含めて数名で切り盛り、分館は偏屈者のじいさんと私一人だった。最初は、なんでこんな偏屈じじいと、朝から晩まで1ヶ月も過ごさねばならないのかと思ったものである。
仕事内容は、これも実際に現地入りしてから気づいたことだが、基本的に宿泊サービス業であり、早朝から夜まできわめて忙しいのだ。
朝昼晩の食事があるし、休めるのは午後のひととき、寝るまでのひとときだけ。
夜早く寝て朝早く起きるという、実に健康的な毎日である。何冊か本をもっていったような記憶があるが、ほとんど読めなかった。
山小屋の一日を紹介しておこう。
とにかく朝は早い。雨戸を開けなくてはならない。朝食の用意もある。
そして、万年雪のある氷河(?)から氷を切り出して、背負子(しょいこ)で担いでもってくるという仕事がある。その当時でも、すでに珍しかった木製の背負子(しょいこ)を背負って、万年雪から氷を切り出しに出るのである。
余談になるが、背負子は軽量アルミ製がほとんどで、1992年にバックパックを背負って、欧州やメキシコを歩いたときは、私は大型のアルミフレームの背負子を使用した。
この氷で缶ジュースを冷やすのだ。当時、下界の市中で買えば100円しなかった缶ジュースは、山上では1本250円で売っていた。それでもよく売れたのは、水を持参していても、やはりよく冷えたジュースを飲みたくなるからだろう。
氷があまりにも重いので、滑落しそうになったことがある(冷汗)。
その後、ガソリンエンジンの乗り物(?)が導入されたので、氷切り出し作業は非常にラクになった。この乗り物を運転するのが楽しくて仕方なくなったくらいだ。
■団体宿泊客の引率同伴と、個人客の宿泊誘導(客引き)
重要な仕事に、五合目との頻繁な往復がある。目的は何かというと、団体宿泊客の引率同伴と、個人客の宿泊誘導である。五合目と八合目の間を往復するのだが、荷物はなく空身(からみ)なので、それほど苦痛ではない。
団体客は主に中学校の集団登山で体験学習の一環だろうか、担任の先生複数と中学生ったいが大量に登山することになるのだが、八号目の本館で一泊することになっているのである。こういうときは、七号目半の分館に配属されている私もかり出されて、五合目まで集団を迎えに行き、一緒に歩きながら八号目の山小屋まで連れて行くのである。こういう団体が一夏で数校あったように思う。
当時私は19歳だったが、不精ヒゲを伸ばしていたので、女子中学生たちからは「鹿児島の人みたいだ」といわれたのを思い出した。女子中学生なんていうものは、いつの時代も勝手なことをクチにするものだ。
団体客が入らない日は、個人客の勧誘のために五合目までいかされることになる。それまで勧誘のバイトはしたことはなかったが、こういう具合に客引きをやっていた。
「どちらまで行かれますか~? 八合目までですか~、じゃあご一緒しますよ~」といって、一緒に登ってゆくのである。基本的に風俗店のポンビキと同じようなものである。もちろん歩く距離は桁違いだが。
日が暮れるでに八号目までは登りたいという個人客(数人程度)と世間話をしながら一緒に山道を歩き、途中の七号目あたりで脱落しないように激励しながら、なんとかがんばらせて八号目あるいは七号目半の山小屋まで連れて行くのが仕事である。
個人客を山小屋まで連れて行くとコミッションがもらえる制度になっていた。いくらだったか覚えていないのだが・・・。
意外なことに、一緒に歩いているうちに、お客さんとは友達のようになってゆくのがミソで、たとえ山小屋に勧誘して宿泊してもらい、おカネを落としてもらうのが最終目的であるとしても、お客さんからは八合目まで歩けたことにたいへん感謝されることになるのである。それによって、こちらもおカネ以上の満足感を得ることになる。
コミッションを「いくら貰ったのか覚えていないというのは、金額では比較できないが、感謝されたという満足感の方が、金銭的なコミッションよりも大きかったためなのだろう。
ここらへんの人間心理というものは、考えてみると実に面白い。ここに書いてみてはじめて気がついた。
■よく晴れて星が出る夜は、富士山はほんとうに美しい
あるときはお婆さんも入った個人客を七号目半まで伴走(・・いや伴歩?)したら夜中になってしまったことがある。
ちなみに、よく晴れて星が出る夜は、富士山はほんとうに美しい。遠く駿河湾で漁をする漁船に点滅する漁り火(いさりび)と、満点の星が一緒になって、ほんとうに素晴らしい、幻想的とも言っていいような星空を味わうことができるのだ。
アルバイト終了後、社会人になってから何度も富士山に登ったが、いずれも夜間登山をしてきたのは、アルバイト時代に、あまりにも美しい夜空を知ったことが大きい。
もし機会があれば、ぜひ最終のバスで五合目までいってから、夜中に歩いてみて欲しい。ただし、これは中級者以上限定である。
足元が暗いので、滑落の危険があるからだ。空の星と海の漁り火が区別できないような幻想的な光景に心を奪われてしまうからでもある。
(2)につづく
http://e-satoken.blogspot.com/2010/07/2_02.html
むかし富士山八号目の山小屋で働いていた 総目次
<ブログ内関連記事>
庄内平野と出羽三山への旅 (8) 月山八号目の御田原参籠所に宿泊する
・・ひさびさに山小屋に泊まったときの記録
(2014年9月1日 項目新設)
(2012年7月3日発売の拙著です)
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