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2015年11月11日水曜日

書評 『兵士は起つ-自衛隊史上最大の作戦-』(杉山隆男、新潮文庫、2015 単行本初版 2013)-「3-11」という「有事」を自衛隊員たちの肉声でつづったノンフィクション


2011年3月11日の「3-11」からすでに5年近い。あの日は、まさに国難ともいうべき未曾有の大災害の始まりであった。そして自衛隊にとっては「史上最大の作戦」の始まりでもあった。まさに「有事」であったのだ。

科学者で随筆家であった寺田寅彦は、「国防という観点からみたら、天災が外敵以上に対応が難しいのは、「最後通牒」もなしに、いきなり襲いかかってくるからだ」という意味の発言を行っている。これほど的確な表現はほかにあろうか。

たしかに徴候はあった。前兆はあった。何度も規模の大きな地震がつづいていた。だが誰がマグニチュード9レベルの巨大地震が発生し、それが津波の大被害をもたらし、さらには原発事故につながろうとは思っただろうか・・・。それは百年どころか千年に一度の巨大地震であったのだ。

『兵士は起つ-自衛隊史上最大の作戦-』(杉山隆男、新潮文庫、2015)は、「3-11」という未曾有の「有事」に巻き込まれた自衛隊員の肉声によって構成されたノンフィクションである。

登場するのはいずれも無名の「兵士」たちだ。そのほとんどが第一線の現場で勤務する「下士官と兵」たちである。

第一部では、緊急事態の発生で駐屯地に向かう途中、いきなり襲ってきた津波に飲み込まれながらも自力で泳ぎきり、しかも人命救助に献身的に全力を尽くす隊員たちが登場する。72時間のトリアージが生存可能性の壁となるからだ。

第二部では、自分の家族の安否もままならぬ状態のまま、遺体収集にあたる隊員たち。いまだかって体験したことのない過酷な環境で抱く精神的にきわめてつらい思いが語られる。

第三部では、非常事態に陥った福島第一原発で、世界でも例のない作戦に従事することになった隊員たちが登場する。

本書に登場する自衛隊員たちに共通するのは使命感と覚悟である。自分や家族よりも国民の命を守るという使命感。その使命感を胸にした自衛官としての覚悟。表舞台で脚光を浴びるためではなく、あくまでも縁の下の力持ちとして、目立たぬ存在であることを望むという姿勢。迷走をつづけた当時の政府とは異なり、上意下達の組織である自衛隊は、課せられたミッションを遂行するプロ集団である。

「有事」とはめったにないからこそ「有事」なのである。「有事」に、そのもてるチカラを100%発揮するためにこそ、「平時」における訓練がある

作家の三島由紀夫は、「その全身をかけに賭けた瞬間のために、機が熟し、行動と意思が最高度まで煮詰められなければならない。そこまでいくと行動とは、ほとんど忍耐の別語である」と言っている。自衛隊員についても、そのままあてはまるものだろう。

無名の自衛隊員たちの献身的な姿を淡々と記述した本書だが、三島由紀夫亡きのちにノーベル賞を受賞した日本人作家への怒りが、なんと二回も表明される。防衛大学校と自衛隊し侮辱した作家のことである。名指しはされていないが、読めば誰のことかわかるはずだ。

有名作家のような公式の場における発言力をもたない無名の自衛隊員たち。かれらの肉声を拾い上げて構成した本書は、ノンフィクションという形をとった文学作品といってもいいのではないだろうか。そんな感想を読みながら抱いた。

大多数の国民が抱くのは、自衛隊員たちへの「感謝」であろう。本書の読者もまた、そうであるに違いない。





目 次

第1部 千年に一度の日
 水の壁
 別命なくば
 救出
 最後の奉公
 白いリボン
 長く重たい一日
第2部 七十二時間
 戦場
  「ご遺体」
 落涙
 母である自衛官
 第3部 原発対処部隊
 正しくこわがった男たち
 偵察用防護衣
 海水投下
 四千八百リットル
エピローグ 日記

著者プロフィール

杉山隆男(すぎやま・たかお)
1952(昭和27)年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『兵士を見よ』『兵士に聞け』『兵士を追え』『兵士に告ぐ』の「兵士シリーズ」で自衛隊を追い続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)



<ブログ内関連記事>

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・科学者で随筆家であった寺田寅彦は、「国防という観点からみたら、天災が外敵以上に対応が難しいのは、「最後通牒」もなしに、いきなり襲いかかってくるからだ」という意味の発言を行っている

「行動とは忍耐である」(三島由紀夫)・・・社会人3年目に響いたコトバ
・・「その全身をかけに賭けた瞬間のために、機が熟し、行動と意思が最高度まで煮詰められなければならない。そこまでいくと行動とは、ほとんど忍耐の別語である」(三島由紀夫)


自衛隊

陸上自衛隊「習志野駐屯地夏祭り」2009に足を運んでみた

海上自衛隊・下総航空基地開設51周年記念行事にいってきた(2010年10月3日)

鎮魂!「日航機墜落事故」から26年 (2011年8月12日)-関連本三冊であらためて振り返る ・・この墜落事故でも自衛隊員たちが遺体収集作業に従事した


「現場」の重要性

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

アルバイトをちょっと長めの「インターンシップ期間」と捉えてみよう

(2015年11月13日 情報追加)




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2014年10月27日月曜日

マンガ『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 ①』(竜田一人、講談社、2014)ー 廃炉作業の現場を作業員として体験したマンガ家による仕事マンガ



売れないマンガ家が、アルバイトで作業員になって働く。ここまではとくに珍しいことではないかもしれない。

だが、この『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 』というマンガの作者は、2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故をキッカケに、被災地で働きたいという思いを抱く。どうせ働くなら被災地の役に立ちたい、しかも現地を見てみたいという好奇心に促されてのものである。

そういう思いを抱いてから、じっさいに福島第一原発、すなわちこのマンガのタイトルでもある通称「いちえふ」(=1F: Fukushima 1 の略)内部の作業に関与できるまで、なんと1年もかかったという。

この経緯もまたマンガにされているが、なぜ1年間もかかったのかということ自体がネタになる。ハローワークでの求人、そして日本の建設業界における何次にもわたる下請けという業界構造がいかなるものかを具体的に知ることができるからだ。

このマンガは、結果としてマンガによるルポルタージュとなっている。だが、鎌田慧氏がその代表であるようなルポライターやジャーナリストが、身分を偽って作業員として潜入し、現場労働を行って得た情報をもとに現状を告発するという類の内容ではない。

好奇心の強いマンガ家が、みずからも一作業員として廃炉作業に従事することで体験し、観察した事実を、こと細かにマンガとして再現してみせたものだ。文字通りのフィールドワーク(=現場作業)であり、結果として参与観察したことになる。現場作業員の世界を描いた仕事マンガでもある。

ディテールまで詳細に描き込まれているので、とばし読みするのはじつにもったいない。じっくりと絵も文字もすべて読んでいくと、廃炉作業という現場の作業内容と、作業員たちの日常の生態が浮かび上がってくる。

廃炉作業の現場は、基本的には建設現場や工事現場における解体作業である。きわめて男くさい現場である。だが、そこが放射能濃度のきわめて高い汚染地帯であるということが、フツーの作業現場との大きな違いである。

主人公はマンガ家自身であり、一人称による語りが一貫している。取材をベースにしてイマジネーションをふくらませた作品ではなく、あくまでも作者自身の観察に基づいたものだ。

たとえば、現場における防護マスクの装着感や耐え難い蒸し暑さ、ゴム手にたまる膨大な量の汗など、じっさいの体験者ならではの実感は妙にリアルである。このほかの描写もじつに実感のこもったものである。読者は五感を刺激されるだろう。

日本全国から集まってきた作業員たち、福島に生きてきた被災者でもある作業員たち。それぞれバックグラウンドの異なる男たちが「いちえふ」という現場で交錯することになる。これが作者が「いちえふ」で作業に従事していた2012年当時の日本の現実である。

マスコミやSNSをつうじて流布した情報が、限りなく都市伝説(?)に近いことが、このマンガをつうじて理解することができるはずだ。現場ならでは一次情報とはこういうものだ。

この作品はマンガだが、ルポルタージュやノンフィクション作品の棚においておくべきものだろう。2014年秋に続刊が出版されるという。楽しみだ。


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目 次
第零話 「ご安全に!」
第一話 「収束していません」
第二話 「鼻が痒い」
第三話 「2011年のハローワーク」
第四話 「福島サマータイムブルース 前編」
第五話 「福島サマータイムブルース 後編」
第六話 「はじめての1F」
描き下ろし漫画


著者プロフィール  
竜田一人(たつたかずと)
職を転々としたあと、福島第一原発で作業員として働く。福島第一原発で作業員として働いた様子を描いた『いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~』が第34回MANGA OPENの大賞を受賞した。(出版社サイトより)



PS 『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』 の第2巻は2015年2月に発売された。

第2巻では、第1巻のつづきで2012年当時の作業の状況と、ふたたび2014年に「いちえふ」に戻ってからの状況、一回目の作業からマンガ発表当時の裏事情などが描かれている。
目 次

第七話 原発無宿
第八話 劇団いちえふ
第九話 線量役者
第十話 N-1経由1F行き
第十一話 ギターを持った作業員
第十二話 ヒーローインタビュー
第十三話 1F指輪物語
第十四話 (Get Your Kicks On) Route 6 !
第十五話 アイル・ビー・バック
番外編 取り出し作業の注意事項
番外編2 男の背中

同時進行のルポルタージュとして、ぜひ今後も長く「いちえふ」と福島についてのリポートをつづけていってほしいと思う。(2015年6月6日 記す)。


<関連サイト>

いちえふ(講談社モーニング 公式サイト)


<ブログ内関連記事>

原発事故関連

鎮魂・吉田昌郎所長-『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-』(門田隆将、PHP、2012)で「現場」での闘いを共にする

書評 『官邸から見た原発事故の真実-これから始まる真の危機-』(田坂広志、光文社新書、2012)-「危機管理」(クライシス・マネジメント)の教科書・事例編

書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい
・・原子力産業草創期にエンジニアとしてかかわった著者の軌跡

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む

「チェルノブイリ原発事故」から 25年のきょう(2011年4月26日)、アンドレイ・タルコスフキー監督最後の作品 『サクリファイス』(1986)を回想する

書評 『原発と権力-戦後から辿る支配者の系譜-』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)-「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!


「仕事マンガ」関連

書評 『仕事マンガ!-52作品から学ぶキャリアデザイン-』(梅崎 修、ナカニシヤ出版、2011)-映画や小説ではなくなぜ「仕事マンガ」にヒントがあるのか?

『シブすぎ技術に男泣き!-ものづくり日本の技術者を追ったコミックエッセイ-』(見ル野栄司、中経出版、2010)-いやあ、それにしても実にシブいマンガだ!
・・ものづくり現場を舞台にしたガテン系マンガ

働くということは人生にとってどういう意味を もつのか?-『働きマン』 ①~④(安野モヨコ、講談社、2004~2007)

書評 『サラリーマン漫画の戦後史』(真実一郎、洋泉社新書y、2010)-その時代のマンガに自己投影して読める、読者一人一人にとっての「自分史」

『重版出来!①』(松田奈緒子、小学館、2013)は、面白くて読めば元気になるマンガだ!


参与観察法

書評 『村から工場へ-東南アジア女性の近代化経験-』(平井京之介、NTT出版、2011)-タイ北部の工業団地でのフィールドワークの記録が面白い

書評 『搾取される若者たち-バイク便ライダーは見た!-』(阿部真大、集英社新書、2006)-バイク便ライダーとして参与観察したフィールドワークによる労働社会学

マンガ 『アル中病棟(失踪日記2)』(吾妻ひでお、イーストプレス、2013)は、図らずもアル中病棟で参与観察型のフィールドワークを行うことになったマンガ家によるノンフィクション

マンガ 『プロデューサーになりたい』(磯山晶、講談社、1995)-人気TVドラマを生み出してきた現役プロデューサーがみずから描いた仕事マンガ


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2014年3月11日火曜日

「3-11」から3年。ー 鎮魂、それは生かされている者にとって最低限の「つとめ」


「3-11」から3年たった。三日三月三年(みっかみつきさんねん)というが、「3」という区切りは、さすがに違うものを感じる。

この世界は、いま生きている人たちだけではなく、すでに生き抜いて通り抜けていった人たち、そしてこれから生まれてくる人たちによって構成されている。

もちろん、いま生きている人たちも、これから生まれてくる人たちも、いつかは死んでゆくことになる。この日本という「場」を過ぎ去っていく「時間」。

仮初めの現生を生きるのは「死すべき人間」。中学生の頃か、倉田百三の『出家とその弟子』の「序曲」に「死ぬる者」(モータル)を読んで以来、モータル(mortal)心に刻まれてきた。メメント・モリ(Memento Mori 死を忘れるな)である。

3年前の大地震、大津波、原発事故・・・。とても3年たったとは思えないほど生々しい記憶である。たんなる情報だけでなく、体感記憶だからであろう。

大地震は自分自身が体験した。大地震は、自分が立っている大地が揺れるという、まさに実存の根源そのものを揺さぶる恐怖である。地震国・日本に生まれ育ったとはいえ、大地震の恐怖から逃れることはできない。

大津波は直接体験したわけではない。映像や画像でなんども追体験しただけだ。崩れてきた膨大な本の山に生き埋めになるのではないか、もうダメかもしれない気持ちにさえなった。本の洪水と津波に溺死するのではないかと。

福島第一原発の事故はテレビの中継でずっと見ていた。福島から千葉県北西部は離れているが、風向きのため放射能はすぐ近くにまで迫っていた。被曝も覚悟した。

「3-11」から3年たった2014年3月11日。

亡くなった人たちの魂が鎮まることを祈るのは、生き残ったすべての人の務めである。すべての死者のために祈り、生かされていることに感謝する。

鎮魂。 そして合掌。



<ブログ内関連記事>


関東大震災(1923年)以後の日本近現代史

書評 『国の死に方』(片山杜秀、新潮新書、2012)-「非常事態に弱い国」日本を関東大震災とその後に重ね合わせながら考える

書評 『震災復興の先に待ちうけているもの-平成・大正の大震災と政治家の暴走-』(山岡 淳一郎、2012)-東日本大震災後の日本が「いつか来た道」をたどることのないようよう

書評 『成金炎上-昭和恐慌は警告する-』(山岡 淳一郎、日経BP社、2009)-1920年代の政治経済史を「同時代史」として体感する

永井荷風の 『断腸亭日乗』 で関東大震災についての記述を読む

大震災のあと余震がつづくいま 『方丈記』 を読むことの意味

本日(2013年9月1日)は関東大震災から90年-知られざる震災記録ルポルタージュの文庫本2冊を紹介


突発的に襲ってくる危機としての自然災害

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実」(寺田寅彦)

『緊急出版 特別報道写真集 3・11大震災 国内最大 M9.0 巨大津波が襲った発生から10日間 東北の記録』 (河北新報社、2011) に収録された写真を読む

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!


大津波

書評 『三陸海岸大津波』 (吉村 昭、文春文庫、2004、 単行本初版 1970年)-「3-11」の大地震にともなう大津波の映像をみた現在、記述内容のリアルさに驚く

書評 『津波てんでんこ-近代日本の津波史-』(山下文男、新日本出版社、2008)


原発事故-福島第一とチェルノブイリ

書評 『官邸から見た原発事故の真実-これから始まる真の危機-』(田坂広志、光文社新書、2012)-「危機管理」(クライシス・マネジメント)の教科書・事例編

書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい

書評 『原発と権力-戦後から辿る支配者の系譜-』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)-「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる

「チェルノブイリ原発事故」から 25年のきょう(2011年4月26日)、アンドレイ・タルコスフキー監督最後の作品 『サクリファイス』(1986)を回想する

『チェルノブイリ極秘-隠された事故報告-』(アラ・ヤロシンスカヤ、和田あき子訳、平凡社、1994)の原著が出版されたのは1992年-ソ連が崩壊したからこそ真相が明らかになった!

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む

書評 『コミック みえない雲』(アニケ・ハーゲ=画、グードルン・パウゼヴァング原作、高田 ゆみ子訳、小学館文庫、2011)-ドイツでは親子二代で読み継がれたベストセラー小説のマンガ化

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?


鎮魂、そして生かされている者のつとめ

鎮魂・吉田昌郎所長-『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-』(門田隆将、PHP、2012)で「現場」での闘いを共にする

不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!


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2013年9月11日水曜日

幻の芋焼酎・青酎(あおちゅう)を飲んで青ヶ島の苦難の歴史に思いをはせ、福島の苦難について考える



「青酎」(あおちゅう)はボトルがグリーンですが、名前は「青酎」。芋焼酎ですが鹿児島のものではありません。

青ヶ島の芋焼酎だから「青酎」なのです。アルコール度数は 35度、けっこうきついです。ロックで飲むと、サツマイモの香りが香ばしくててじつにうまい!

青ヶ島は、東京都に所属する離島。伊豆諸島にあります。ずいぶん前になりますが、20数年前に一度だけ訪れたことがあります。

竹芝桟橋からフェリーで三宅島経由で八丈島へ10時間。八丈島からは漁船タイプの小型の高速艇で約2時間半で青ヶ島に到着しますが、晴れていたのにもかかわらずものすごい揺れで船酔いになりそうなのをこらえながらの旅でした。

ところが青ヶ島は港まで断崖絶壁が迫っており、しかも波が高くて接岸がむずかしいので、船に乗り降りするのがじつにたいへんなのです。バランス失うと海に落ちてしまいます。港には荷揚げ用の小さなクレーンも設置されています。

島ではじめて知ったのが、この「青酎」。漁業と農業、そしてお役所と公共事業以外には、これといって産業のない青ヶ島は、正真正銘の離島なのです。緊急用のヘリコプターは設置されていますが。

観光資源といえば、絵に描いたように典型的なカルデラ型の噴火口と温泉くらいでしょうか。噴火口があるといことは火山であることを意味しています。青ヶ島は過去になんども噴火して島民は苦労してきました。

とくにたいへんだったのが江戸時代の安永年間(18世紀末)の噴火による島民の八丈島への全島避難なんと全島避難から39年後(!)に島民の青ヶ島への帰還が実現したのですが、これについては民俗学者の柳田國男が「青ヶ島還住記」という随筆で詳細に語っています。

30年が一世代であるとすれば、39年といえば孫の世代になってしまいますが、それでも青ヶ島の住民は帰還の道を選んだのです。


青ヶ島の旅から戻ったあと図書館で借りてコピーしたものが、先日のことですが偶然のことに書庫のなかからでてきました。『定本 柳田國男集第一巻』(筑摩書房、1963)収録の『島の人生』の一篇です。

その中心になるのは「青ヶ島のモーゼ」と呼ばれた佐々木次郎太夫(ささき・じろだゆう・・・)という人物です。モーゼとは言うまでもなく「モーゼの十戒」のモーゼ、ユダヤ民族をエジプトから約束の地まで導いた実在の人物です。

青ヶ島の「還住」(かんじゅう)については、すぐに読める文章がネットにあります。wikipedia の「還住」の内容を引いておきましょう。

伊豆諸島の青ヶ島で、安永9年(1780年)に始まった噴火活動が天明5年(1785年)になって激しさを増したため、島民が八丈島に避難して無人島になった後、文政7年(1824年)の旧青ヶ島島民全員の帰還、そして島の復興を達成し、天保6年(1835年)に検地を受けるまでの経過・・(以下省略)・・

「3-11」で「集団移住」を強いられた福島の方々。江戸時代には、青ヶ島の歴史という先行例があるのです。「青ヶ島還住記」は柳田國男全集に収録されているので、ぜひ機会をつくって読んでみてほしいと思います。

地震と噴火は火山列島に住む日本人にとっては避けて通ることのできない宿命です。東京都に属する伊豆諸島では、大島や三宅島もまたなんども避難を余儀なくされてきた歴史をもっています。

もちろん原発問題は地震と津波そのものの被害というよりも二次被害に近いものではありますが、青ヶ島の島民が39年(!)かけてでも帰還の道を選択したという事実は心にとめておきたいものです。

福島には「島」というコトバが含まれています。日本には鹿児「島」や広「島」、宇和「島」など陸地にあっても「島」という文字をふくんだ地名が多いのは、「島」というコトバにはもともとテリトリー(=領域)という意味があったためでしょう。

だから福島のみなさんも、おなじ「島」としての青ヶ島の事例をぜひアタマのなかにいれておいていただくとよろしいかもしれません。まだ21万5千人の方々が避難生活を送られているという事実に心が痛みますが、広「島」も復活し、青ヶ「島」も還住に成功したわけです。

「帰還」はあきらめてはならないのです。思い続けていれば必ず実現する日は来るのです。


PS 本日(2013年9月11日)は2011年の「9-11」から12年、かつ2001年の「3-11」から2年半にあたる日ですが、ポジティブな話題を提供したいと思い青ヶ島の「環住」について書いてみました。








<関連サイト>

青ヶ島酒造合資会社 (青ヶ島の「青酎」の製造元)
・・購入先はネットで「青酎」で検索されるといろいろでてきます。下記は一例です。




<ブログ内関連記事>

in vino veritas (酒に真理あり)-酒にまつわるブログ記事 <総集編>

書評 『日本は世界4位の海洋大国』(山田吉彦、講談社+α新書、2010)

「沖縄復帰」から40年-『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』(佐野眞一、集英社、2008)を読むべし!

矢崎総業がサモア島でワイヤハーネスの現地工場を操業していたとは知らなかった・・・

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2012年7月23日月曜日

書評『原発と権力 ー 戦後から辿る支配者の系譜』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)ー「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる


「原発推進政策」を軸にすると、「敗戦国日本」の戦後政治経済史が手に取るように見えてくる

「原発推進政策」を軸にすると、「敗戦国日本」の戦後政治経済史が手に取るように見えてくる、そんな感想をもつ中身の濃い、読み応えのある一冊である。

すでに多くのノンフィクション作家が原発推進をめぐるこの戦後政治経済史について書いているが、本書のいたる所でその分析力の鋭さと洞察力の深さに、なんどもうならされる思いをさせられた。

それは、著者がすでに『田中角栄-封じられた資源戦略石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(草思社、2009)において、エネルギー問題を軸にすえた戦後史への鋭い斬り込みを示していることにもあるのだ。

広義の安全保障には、軍事力だけでなく、国民生活の根本にかかわるエネルギー問題と食糧問題が大きな意味をもつ。本書によれば、1970年代の前半の日米「再処理」交渉では、「核不拡散」政策によって、日本の再処理に首をタテにふらなかった米国を押し切って「再処理」へと踏みだした経緯があったのである。

「石油の一滴は血の一滴」という名台詞を吐いたのは第一次大戦当時のフランス首相クレマンソーだが、日本が第二次大戦で敗れ去ったのもまた、エネルギー源である石油が絶対的に不足していたからだ。

「敗戦国日本」が「唯一の被爆国」でありながら、政治家たちが原子力に着目したのはエネルギー問題の観点だけでなく真の国家独立を獲得するために核武装へのつよい憧れが原発推進の「隠れた動機」であったことも、本書ではつぶさに検証される。

権力ときわめて相性のいいのが原子力だ。こと原子力をめぐっては党派を超えて戦時中の大政翼賛会的体質が見え隠れするのはそのためなのだ。

政治家、官僚、電力会社という鉄のトライアングルをめぐる関係も、じつは一筋縄ではいかない複雑さがあることを感じ取り、日本が高度経済成長とひきかえに、いかに国土だけでなく人心をも荒廃させてきたか。

これらのことを知るためにも、ぜひ読んでおきたい本である。


<初出情報>

■amazon書評「「原発推進政策」を軸にすると、「敗戦国日本」の戦後政治経済史が手に取るように見えてくる」(2012年3月26日 投稿掲載)





目 次

はじめに
第1章 「再軍備」が押しあけた原子力の扉
第2章 原発導入で総理の座を奪え!
第3章 資源と核 交錯する外交
第4章 権力の憧憬 魔の轍「核燃料サイクル」
終章 二一世紀ニッポンの原発翼賛体制
あとがき
主要参考文献


著者プロフィール

山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)
1959年愛媛県生まれ。出版関連会社、ライター集団などを経て、ノンフィクション作家へ。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマに近現代史、建築、医療、政治など分野を越えて旺盛に執筆。主な著書に『国民皆保険が危ない』(平凡社新書)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)、『狙われるマンション』(朝日新聞出版)、『成金炎上昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄封じられた資源戦略』(ともに草思社)、『日本を大切にする仕事』(英治出版)などがある。(本データは出版社のサイトから転載)。




 <関連サイト>

「潜在的核保有国・日本」への不信 オバマが安倍から「核」取り上げた(山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]、ダイヤモンドオンライン 2014年3月27日)
・・「米国は日本の原子力技術の水準を認め、潜在的核保有を半ば容認しながら管理下に置いて利用してきた。その一方で、国際原子力機関(IAEA)を通じて日本の核物質管理を徹底して監視している。 「IAEAの査察で最重点に置かれているのが日本です。用途が定かでないプルトニウムや高濃縮ウランをこれほど大量に保有いている国はないからです。兵器転用が疑われているということです」 経産省の官僚は言う。そんな国が「戦後レジームからの脱却」に本気で動き出したら穏やかではないと、他国は思うだろう」  こういう見方がけっしておかしなものではないことは知っておくべきだ


<ブログ内関連記事>

書評 『田中角栄 封じられた資源戦略-石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(山岡淳一郎、草思社、2009)
・・「3-11」の前に出版されたものだが、ぜひ『原発と権力』とあわせて読んでおきたい一冊

書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい
・・原子力産業草創期にエンジニアとしてかかわった著者の軌跡

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?


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