(第二次世界大戦の空爆 The Economist 記事より)
3月10日は東京大空襲の日である。ことし2015年の3月10日は、東京大空襲から70年にあたる年である。それは同時に日本が大東亜戦争に敗れてから70年でもある。
東京大空襲の死者は10万人を越えている。東京以外も空襲の被害にあっており、空襲による死者だけでも30万人を越えるのである。さらに広島の原爆投下で14万人、長崎の原爆投下で7.4万人が犠牲者となった。
空襲(=空爆)による犠牲者の圧倒的多数は民間人である。非戦闘員である。もちろん戦闘員である軍人も含まれるが、戦闘員と非戦闘員の区別なく犠牲となったという点において「無差別殺戮」であったといって過言ではない。
英国のクオリティペーパー The Economist の記事 Japan and the past: Undigested history
(March, 7, 2015)には、第二次世界大戦の空爆による被害を比較した図が掲載されている(上掲の図)。(注: この記事は、「日本と過去:消化されていない歴史」として日本語訳され、JBPress、2015年3月11日に掲載されている)。
この図をみると、日本の被った空爆の被害が、群を抜いて異常なまでに大きなものであったことがわかる。非人道的だといまだに反発の声があがるドイツのドレスデン大爆撃ですら、死者は1.8万人なのである。これはバトル・オブ・ブリテンと呼ばれたロンドン空爆(・・ただし数回にわたる)の規模と同規模である。
東京大空襲は、ドレスデン大爆撃の5倍以上の死者を出している。それにもかかわらず、東京大空襲が日本国内では大きな話題になることはなく、そのための慰霊碑すらないという事実に The Economist誌は注意喚起しているのである。この事実は重い。
空爆は無差別殺戮である。この事実をしっかりと認識することが重要だ。この認識があってはじめて、第二次世界大戦後もつづく空爆の非人道性を認識することができるのである。
そこで浮上してきたのが、無差別爆撃と、スナイパーによる狙撃のどちらがより倫理的か?
非戦闘員である一般市民をを巻き込まないピンポイント攻撃なら許容されるのかという問いである。どちらがより倫理的であるか、どちらがよりましか、という問いだ。
こういった倫理的な難問がつきつけられる時代になってきたのである。戦争そのものが悪であるといってしまえば、そこで思考停止になってしまう。侵略戦争は否定すべきものであっても、自衛戦争まで否定するわけにはいかない。
広島と長崎の原爆、東京大空襲に代表される「無差別殺戮」の意味について、あらためて振り返る必要があるのはそのためだ。
この事実をしっかりと認識することで、空爆の加害者になることの是非について考えることも可能になる。犠牲者の運命、生き残った者の心の痛みについてイマジネーションを働かせることがいかに大切なことか。
東京大空襲の犠牲者の霊に合掌。
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・・「・・やがていつかは、あの絶対的軍事力に支配された被占領期の対米奴隷根性も日本人の間から消えるのだろう。しかし、その時に日本人は被占領期の先祖の姿に嫌悪をもよおし、GHQへの阿諛追従(あゆついしょう)も、対日無差別絨毯爆撃指揮者への勲一等叙勲も弾劾されずにはすまないと予感する」(P.99)。
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・・「辰巳栄一陸軍中将は、本人の意思にかかわらず、三度のロンドン駐在という異例のキャリアの持ち主である。三度目のロンドンで体験したドイツによる爆撃、いわゆる「バトル・オブ・ブリテン」の経験が、日本帰国後には本土空襲防衛と学童疎開を推進する役割を演じることになる。この件については、「第6章 帝都防衛、学童疎開」に詳しい
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・・原爆投下を最終的に意志決定したトルーマンは、良心の呵責に苦しんで死んだという
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アメリカは日本の戦意をくじくため、民間人(=シビリアン)に対する違法な爆撃作戦を遂行したが、原爆と同様に徹底的に研究したうえで実行に移している。効果的かつ効率的(effective and efficient)な成果をあげるために採用したのが焼夷弾であった。日本家屋の特性を踏まえたものであった。
焼夷弾攻撃の実験は、アリゾナ州の砂漠のなかで行われた。木造で燃えやすい日本家屋の実物大の模型を作製し、焼夷弾実験を繰り返して詳細なデータを収集し解析を行っていたという。その成果を踏まえて実行されたのがB29による東京空襲作戦なのである」
書評 『無人暗殺機ドローンの誕生』(リチャード・ウィッテル、赤根洋子訳、文藝春秋、2015)-無人機ドローンもまた米軍の軍事技術の民間転用である
(2012年7月3日発売の拙著です)
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