昭和天皇が崩御された昭和63年(1988年)から約四半世紀。宮内庁において編纂作業がつづいていた『昭和天皇実録』が完成し、天皇皇后両陛下に奉呈されたのは昨年(2014年)8月のことである。
『「昭和天皇実録」の謎を解く』(半藤一利・保阪正康・御厨貴・磯田道史、文春新書、2015)は、この膨大な『昭和天皇実録』のエッセンスをトピック的に抽出し、このテーマの識者が座談会形式でコメントをつけたものである。
ことし3月から、東京書籍から「公刊本」全19巻の市販が開始されたが、部分的に参照することはあったとしても、『昭和天皇実録』がを通読することはまずないだろうと思うので、この分野に精通した人たちの読みを信頼してお任せすることにすることにした。わたしごときが読んでも、発見できないことが多々あろうから。
昭和天皇のご生涯は、近代天皇制のもとにおいて確立した「一世一元」の制にもとづいて、大東亜戦争の敗戦と無条件降伏をはさんだ昭和史そのものであることはいうまでもないが、ご幼少のみぎりから即位されるまでの昭和前史もまた顧みられることになる。
大日本帝国憲法下においての「国家元首で大元帥、かつ現人神(あらひとがみ)」としての存在から、敗戦後の日本国憲法下での「象徴」へと大きく変化した天皇のステイタス。福澤諭吉の有名なフレーズ「一身にして二生を経る」をまさに体験されたわけであった。
取り上げられたテーマは多岐にわたるが、わたしがとくに興味深く感じたのは以下のようなものである。
●「治安維持法」には懸念を抱いておられたこと
●大元帥としての存在と立憲君主としての存在の二重性とねじれを陸海軍に利用されてしまったこと
●第一次大戦で戦場となった欧州の悲惨な状況を直接目撃した経験をもっていた数少ない日本人であること
●臣下から上奏される情報を信用しておらず、第二次世界大戦時の最新情報は米国の短波放送から得ていたこと
●みずからを現人神(あらひとがみ)とは考えてはいなかったが、神の末裔としての意識は強く持っていたこと
昭和天皇については、近代天皇制の歴史において明治天皇とならんで「大帝」と呼ぶべき存在のお方であり、これまでにも膨大な量の歴史書や研究書が書かれてきた。だが、研究者でも、それらすべてに目を通すことは不可能だろう。ましてや一般読者であればなおさらである。
その意味でも、このような形でのダイジェスト版の出版はありがたい。ぜひ一読することをお奨めしたい。
目 次
はじめに (半藤一利)
第1章 初めて明かされる幼年期の素顔(明治34年~大正元年)
第2章 青年期の栄光と挫折(大正10年~昭和16年)
第3章 昭和天皇の三つの「顔」(昭和6年~昭和11年)
第4章 世界からの孤立を止められたか(昭和12年~昭和16年)
第5章 開戦へと至る心理(昭和16年)
第6章 天皇の終戦工作(昭和17年~昭和20年)
第7章 八月十五日を境にして(昭和20年~昭和22年)
第8章 "記憶の王" として(昭和22年~昭和63年)
おわりに (保阪正康)
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書評 『昭和天皇のゴルフ-昭和史を解く意外な鍵-』(田代靖尚、主婦の友社、2012)-「戦前」の昭和史と日本ゴルフ史との交錯点を昭和天皇に見る
「日本のいちばん長い日」(1945年8月15日)に思ったこと
書評 『占領史追跡-ニューズウィーク東京支局長パケナム記者の諜報日記-』 (青木冨貴子、新潮文庫、2013 単行本初版 2011)-「占領下日本」で昭和天皇とワシントンの秘密交渉の結節点にいた日本通の英国人の数奇な人生と「影のシナリオ」
書評 『ワシントン・ハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後-』(秋尾沙戸子、新潮文庫、2011 単行本初版 2009)-「占領下日本」(=オキュパイド・ジャパン)の東京に「戦後日本」の原点をさぐる
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