映画『危険なメソッド』(2011年、英・独・カナダ・スイス・米国)。原題は The Dangerous Method. 日本語タイトルは珍しくも直訳だ。ここでいう「メソッド」とは精神分析の手法のことだ。99分。
精神分析学の創始者フロイトに後継者と目されていたC.G.ユングの、フロイトとの「訣別」と「自立」を描いた心理劇であり愛憎劇だ。ユングによる象徴的な「父親殺し」がメインテーマである。
精神分析学の両巨頭の媒介者となるのが、ロシアがらやってきた女性だ。ユングの患者としてスイスのチューリヒで出会い、その後みずからユングを誘惑して愛人関係になったザビーナ・シュピールラインというユダヤ系ロシア人女性。
彼女はユングと別れたあと、おなじユダヤ系のフロイトのもとで修行して精神科医となる。革命後はロシアに戻り、第2次大戦ではナチスに殺されている。数奇な運命をたどった人物である。
ポスターには男性2人と女性1人との三角関係が表現されているが、じつはそれだけではない。
オット-・グロースという、これもまたユダヤ系でアナーキーな精神科医が、ユングの「影」のような存在として登場し、スイスのドイツ語圏でプロテスタント牧師の子どもとして生まれ育った、本来は謹厳なユングを翻弄する。
彼もまた媒介者として、ユングにほんとうの「自分」を目覚めさせることになる。そして、ユングはザビーナと不倫関係になる。スパンキングとセックス。
三角関係と単純と言えないのは、フロイトとユングという男性とザビーナだけでなく、ユング夫人もかかわっているからだ。時代背景も考慮に入れる必要はあるが、ユング夫人の存在は、じつはかなり重要なのではあるまいか、と。
映画は1913年に終わる。象徴的な父親殺しによってフロイトと訣別し、精神に不調を来したユング。
彼がなんどみ見たという夢は「予知夢」のようである。ヨーロッパを襲うカタストロフィーの夢は、1914年に勃発してヨーロッパ全土を大混乱に陥れた「世界大戦」として現実のものとなったのである。
効果音楽が控えめで、きわめて知的なセリフが大半を占める映画だ。
ユングとフロイト、美しいスイスの湖畔と雑然とした大都市ウィーン。プロテスタントとユダヤ人・・。さまざまな対比が二項対立として設定されている。
セリフは本来ドイツ語であるべきだが、すべて英語であったのは、まあ仕方ないか。ドイツ語映画では市場性が低いからね。つい最近までこの映画の存在すら知らなかった。
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(2022年1月21日 情報追加)
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