『タイワニーズ-故郷喪失者の物語』(野嶋剛、小学館、2018)を読んだ。「戦後日本」と台湾の絆をつないできた人たちを描いたファミリー・ヒストリー集だ。
帯には「日本は台湾を二度も捨てた」という、一瞬どきっとする文言が書かれている。 それはまず、1945年8月15日に大東亜戦争の敗戦によって大日本帝国が崩壊したとき、そして1973年に日中国交回復にともなって台湾(=中華民国)と断交したときのことを指している。
歴史的事実としては知っていても、あらためてその文言を見ると、少なからぬ衝撃を受けるものだ。
だが、帯には次の文言が小さな活字で記されている。「それでも彼らがいたから、強く、深くつながり続けた」のだ、と。この文言で読者は救われた気持ちになる。
取り上げられているのは、政治家の蓮舫とエコノミストのリチャード・クー、作家の東山彰良と温又柔、芸能界からはジュディ・オングと余貴美子、食の世界からは「551蓬莱」の創業者・羅邦強と日清食品の創業者・安藤百福。そしてすでに物故している作家の陳舜臣と邱永漢。
もちろん、ほかにも取り上げるべき人は少なくないだろう。本人が台湾出身ではなくても、二世や三世は多い。日本国籍を取得して日本名を名乗っていても、日本語しかしゃべらなくなっていても、ルーツを大事にするのが華人である。 先祖から現在に至るファミリーの家系図は「族譜」にまとめられる。
この人は取り上げないのかなと思って読み進めていたが、まさにその人が「終章 タイワニーズとは」で取り上げられていたのがうれしい。台湾客家(ハッカ)であることを誇りにしていた戴國煇(たい・くおふぇい)先生のことだ。当時、立教大学教授だった先生がわが母校に出講されており、土曜日の少数参加の特別講義で謦咳に接したことがある。
台湾じしんが多言語国家であり多文化国家であり、この本に取り上げられた人たちもまた、出身地や来日の動機、国籍や政治的立ち位置など、それぞれ大きく異なっている。
現代史に翻弄されてきた人たちである。「台湾人」とひとくくりにすることが難しいのである。だからこそ「タイワニーズ」なのである。
マイノリティーの文化がマジョリティーである日本文化と「共生」できるなら、それは素晴らしいことだ。「戦前」の大日本帝国時代に始まるよき「伝統」を、今後も続けていきたいものである。
その意味でも、「戦後日本」と台湾の絆をつないできた台湾ルーツの人たちについて知ることの意味は大きいのである。
目 次まえがき第1章 政治を動かす異邦人たち蓮舫はどこからやってきたか日本、台湾、中国を手玉にとる「密使」の一族 辜寛敏&リチャード・クー第2章 台湾で生まれ、日本語で書く「江湖」の作家・東山彰良と王家三代漂流記おかっぱの喧嘩上等娘、排除と同化に抗する 温又柔第3章 芸の道に羽ばたく究極の優等生への宿題 ジュディ・オング客家の血をひく喜びを持って生きる 余貴美子第4章 日本の食を変革する「551蓬莱」創業者が日本にみた桃源郷 羅邦強カップヌードルの謎を追って 安藤百福第5章 帝国を背負い、戦後を生きる3度の祖国喪失 陳舜臣国民党のお尋ね者が「金儲けの神様」になるまで 邱永漢最終章 タイワニーズとはあとがき年表/参考文献
著者プロフィール野嶋剛(のじま・つよし)ジャーナリスト、大東文化大学社会学部特任教授。元朝日新聞台北支局長。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て2016年4月に独立し、中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に、活発な執筆活動を行っている。『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『銀輪の巨人 ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま新書)など著書多数。
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