『死にゆく人に寄り添う-医療と宗教の間のケア』(玉置妙憂、光文社新書、2019)を読んだ。このテーマには関心が高いからだ。
著者は、看護師でかつ僧侶。子どもの難病治療のため、みずから看護師資格を取得し、その後、ガンの再発で入院を拒否して「在宅」での介護を選択した夫を「自然死」で見送る。
その体験が、第1章「死に向かうとき、体と心はどう変わるのか」に詳しく記述されている。著者は、このプロセスを「着地態勢」と表現しているが、看護師として寄り添った冷静で医学的な観察と知見、身近な存在を見送ることの感情の揺れが、この貴重な記述を生み出している。
配偶者を「自然死」で見送ったあと、「現世の仕事は終えた」という気がして、迷いなく出家を決意、神仏の導きかわからぬが、高野山で200日の修行を完遂し真言宗の僧侶となって現在に至る。看護師で僧侶という希有な存在(・・現在ではそうではなくなりつつあるのかもしれない)の先駆者的存在となったわけである。
■スピリチュアルケアで先行する台湾
そんな著者が実践する「スピリチュアル・ケア」が本書のテーマだが、この分野では台湾がはるかに先行しているようなのだ。
著者も毎年のように台湾にいって研究しているらしい。 2020年の新型コロナ対策での台湾の対応が素晴らしいの一語に尽きることは言うまでもないが、生きている人の命を救うことだけでなく、死にゆく人の「スピリチュアル・ケア」においても、台湾が日本のはるか先を行っているとは!
もちろん、日本仏教と戒律を厳格に守る台湾仏教との違いはあるが、医療と宗教(*台湾の場合は仏教)との連携が見事にとれている台湾には驚くばかりだ。
■実践的な内容
実践的な内容の本である。本人と家族が「在宅死」を望んでいても、病院に入院させようという圧力は強い。そんな周囲の声のかわし方についても触れられている。いわば「世間」との対処の仕方である。
新型コロナウイルス感染症の第3波のなか、2021年の「第2次非常事態宣言」で顕在化したのが「病床不足」であることは周知のとおりだが、病床不足によって「在宅死」が主流となる可能性も高い。そのときに備えて、本書は必読書というべきだろう。
少なくとも、私はこの本を読んで良かったと思っている。死ぬことが怖くなくなるだけでなはない、死にゆく人の気持ちに寄り添い、きちんと見送るための心得にもなるからだ。
目 次まえがき第1章 死に向かうとき、体と心はどう変わるのか1. 死にゆく人の体と心に起きること2. 大切な人の死に直面した人の心に起きること3. 在宅で亡くなったあとにすること第2章 看護師の私が僧侶になったわけ第3章 死にゆく人の心に寄り添う第4章 生きていく人の心に寄り添う第5章 医療と宗教が交わる場1. 古来、僧侶は医療者だった2. ホスピスとスピリチュアル・ペイン3. 僧侶が心のケアを担う台湾の看取り事情あとがき参考文献
著者プロフィール玉置妙憂(たまおき・みょうゆう)看護師・看護教員・ケアマネジャー・僧侶。東京都中野区生まれ。専修大学法学部卒業。夫の “自然死” という死にざまがあまりに美しかったことから開眼し出家。高野山真言宗にて修行を積み僧侶となる。現在は、現役の看護師として小岩榎本クリニックに勤めるかたわら、院外でのスピリチュアルケア活動を続ける。「一般社団法人介護デザインラボ」の代表として、子どもが“親の介護と看取り”について学ぶ「養老指南塾」や、看護師、ケアマネジャー、介護士、僧侶が学ぶ「スピリチュアルケアサポーター養成講座」を開催。さらに、講演会やシンポジウムなど幅広く活動している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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