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2023年9月5日火曜日

書評『日本の私立大学はなぜ生き残るのか ー 人口減少社会と同族経営:1992 - 2030』(ジェレミー・ブレーデン/ロジャー・グッドマン、石澤麻子訳、中公叢書、2021)ー 「同族経営」大学の「レジリエンス」に注目した人類学者たちによる謎解き

 

興味深いタイトルなので購入したが、積ん読していたことすら忘れていたのだ。

「日本の私立大学はなぜ生き残るのか?」というタイトルだが、これは日本語版が出版された時点でのものと考えるべきではないかと思う。というのは、この前年に始まった新型コロナ感染症(COVID-19)の影響がでてきくる以前の話だからだ。

したがって、現時点(2023年9月)以降に読む場合は、「日本の私立大学はなぜ生き残ってきたのか?」と考えるべきだろう。

とはいえ、現時点で読んでもじつに興味深い内容である。「日本の私立大学はなぜ生き残ってきたのか?」という問いは、訳者の解説によれば「問い」というよりも「謎」なのである、と。社会人類学者にとっての「謎」。たしかに「謎」である。

近過去で「大学改革」が叫ばれたのは、小泉純一郎元首相が「構造改革」を推進していた時期のことである。2000年代半ばのことだ。

根底にあるのは「人口減少」と「財政悪化」である。文教予算の削減と「国立大学」の「国立大学法人」化、そして「私立大学」の設置自由化である。規制と改革が同時に進行したのであった。

18歳人口の減少は、市場と考えれば総需要の縮小である。需要縮小傾向のなか、規模の小さな「私立大学」の多くが倒産するのではないかと考えられたのもムリはない。「2018年問題」である。

「国立大学」とくらべて、「学生一人あたりの公的支出」の額がきわめて小さいのが「私立大学」であり(・・この構図が可視化されたP.66のグラフが端的に示している)、需要拡大期に急増した私立大学は生き残りをかけたフェーズに突入したのである。

この時期には、わたしも大学経営関連でのいくつか仕事をしている。生き残りのための大学改革は、その手段として新学部設立という形で行われた。いかに学生を確保するかが至上命題になっていたのだ。

つまり市場競争である。生き残りのための学生争奪戦。新学部設立と既存の学部の再編、あらたな大学開校。教員のリストラ。

この動きのなかで目立ったのがグローバルなどの冠をかぶせたキラキラネームの新学部解説と看板の付け替えであった。日本版ロースクール(=法科大学院)開設も競って行われた。


■私立大学のほとんどは倒産しなかった

ところが、多くの人の予想に反して、私立大学のほとんど倒産することなく現在も存続している。それはなぜか? とはいえ「謎」を「謎」だと指摘する人もあまり目にすることがないのはなぜか?

現状を前提にしてものを見ていると、「謎」を「謎」」と認識することはない。

「謎」を認識するためには、過去にさかのぼって現在を見るか、あるいは視点をずらして現在を見るか、その2つがある。前者は歴史的思考であり、当事者であっても可能である。もちろん、自分がコミットしている組織を超えた視点をもつ必要はある。

だが、後者の水平的思考は、当事者にはむずかしい。いわゆる「中の人」は自分を突き放して自分が属している組織を客観的に見ることができないからだ。だからこそ、「外の人」の視線が必要になってくる。「異化」が必要なのである。

『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』の著者は、いずれも「中の人」ではない。日本の私立大学の関係者でもない。日本語が堪能で、日本を研究対象としている外国人の人類学者たちである。それぞれ英国人とオーストラリア人の社会人類学者。人類学はすでに「未開社会」を研究フィールドにはしていないのである。




直訳すれば、「日本のファミリー経営大学 ー 人口減少圧力に直面するなかで発揮された、ビルトインされたレジリエンスの源泉」とでもなろうか。このタイトルが、本書の内容を端的に表現している。

日本では一般的な「国立/私立」という区分ではなく、「同族経営」という観点を持ち込んだその切り口が読ませる「私立」というカテゴリーから見るものとは違った側面が見えてくる

「私立大学」は、その多くが広い意味での「同族」が経営しているケースが多い。教学の最高責任者「学長」は外部から招くことがあっても、学校経営の最高責任者である「理事長」は同族のあいだで継承されていく。「世襲」である。「家業」といっても言い過ぎではない。

「同族経営」に着目すると見えてくるのが、生き残りをかけた主体的な取り組みである。それぞれが、経営主体として改革を実行するのである。

そこで発揮されたのが「レジリエンス」である。困難な状況を乗り越える「回復力」である。けっして受け身の存在ではないのだ。

厳しい外部環境のなかでも、試行錯誤を繰り返しながらも最適解を求めて主体的に動けるは、長期にわたって持続的に経営に取り組むことのできる「同族経営」であることは、企業だけでなく大学経営においてもおなじであることが、本書の研究から浮かび上がってくる。

「同族経営」に対する日本社会ならではのネガティブ評価もあって、日本人研究者には取り組みにくいテーマであった。その盲点をついた点においても、この研究は大いに意義があるのだ。もちろん、中身はひじょうに面白い「謎解き」になっている。


■「コロナ」の影響について語るのはまだ早い

原著の出版は2020年、日本語版は2021年の出版である。

扱っているのは「コロナ前」の状況であり、「コロナによる社会変容」を踏まえたものはない。

教育に与えた影響は、リモート授業の普及も含めて計り知れないものがある。現実問題として、脱落していく学校もまた顕在化してきたが、現時点ではその影響の全体像が見えているとは言いがたい。

「日本の私立大学はなぜ生き残るのか」の続編が待ち望まれる。いや、ここから先は日本人の手で解明することも可能だろう。




目 次 
日本語版への序
謝辞
序章 「2018年問題」 本書の構成
第1章 予想されていた私立高等教育システムの崩壊 
第2章 日本の私立大学を比較の視点から見る 
第3章 ある大学の危機 ― MGU:1992 ‐ 2007 
第4章 法科大学院とその他の改革 ― MGU:2008 ‐ 2018 
第5章 日本の私立大学のレジリエンス 
第6章 同族ビジネスとしての私立大学
訳者あとがき
解説 なぜ日本の研究者には書けなかったのか(苅谷剛彦)
参考文献

著者プロフィール
ジェレミー・ブレーデン(Jeremy Breaden)
豪モナッシュ大学准教授。1973年生まれ。メルボルン大学人文学部・法学部卒業、同大学博士号取得(人文学)。専門は日本の教育・雇用システム 

ロジャー・グッドマン(Roger Goodman)
オックスフォード大学日産現代日本研究所教授。1960年生まれ、英国エセックス州出身。ダーラム大学人類学社会学部卒業、オックスフォード大学博士号取得(社会人類学)。専門は日本の社会福祉政策、高等教育 

訳者プロフィール
石澤麻子(いしざわ・あさこ)
1989年生まれ。国際基督教大学(人類学専攻)卒業、オックスフォード大学大学院現代日本研究修士課程修了。オックスフォード大在学中はロジャー・グッドマンに師事。現在は記事の翻訳、執筆を中心に活動。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



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■人類学という視点と切り口




■同族経営と世襲






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