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2015年7月18日土曜日

書評『三商大 東京・大阪・神戸 ー 日本のビジネス教育の源流』(橘木俊昭、岩波書店、2012)ー 日本のビジネス教育の系譜を「実学の府」にさぐる


「三商大」という表現にすぐにピンとくるのは、一橋大学と神戸大学、そして大阪市立大学の関係者であろう。

これらの新制大学はいずれも戦前は、それぞれ東京商科大学、神戸商業大学、大阪商科大学という名称で知られていた。いわゆる「商大」である。この3つの「商大」を総称して「三商大」というのである。「三商大」関係者でないと、すぐにはわからないかもしれない。

「三商大」の名称は、現在でも三大学のあいだではゼミナール活動や部活動をつうじて使用されており、相互に訪問しあって交流を深めている。「見えざるネットワーク」のひとつというべきであろうか。

現在では日本でもアメリカ型の大学院教育である MBA(経営学修士)が普及してきているが、それ以前はビジネス教育の担い手はもっぱら学部レベルの商学部や経営学部が担ってきた。その裾野には全国各地の商業高校やビジネス関連の各種専門学校がある。

副題が「日本のビジネス教育の源流」とあるように、本書『三商大 東京・大阪・神戸 ー 日本のビジネス教育の源流』(橘木俊昭、岩波書店、2012)は、戦前の「商大」時代のビジネス教育について、東京商大(=一橋大学)を筆頭に、大阪商大(=大阪市立大学)、神戸商大(=神戸大学)、そして「三大高商」(・・高商とは高等商業高校の略)と呼ばれた長崎高商、小樽高商、横浜高商についてくわしく取り上げている。

著者自身、経済学者であるだけでなく、学部は小樽商大(=小樽商科大学)出身とのことなので、このテーマを語るのはふさわしいポジションにあるといえよう。小樽商大は現在でも一橋大学とは密接な関係を保っている大学である。わが恩師の阿部謹也先生も、いちばん最初の赴任先は小樽商大であった。

わたし自身は一橋大学(=東京商大)の出身であるので、書かれている内容についてはほとんどが既知のものであるが、こういう形で一般書として全面的に取り上げていただくのはたいへんありがたい。なぜなら、一橋大学はビジネス界と受験界ではダントツの存在感がありながら、一般的な知名度がイマイチだからだ。

本書を読んでいただきたいのは、「三商大」関係者もさることながら、むしろかならずしもそうでない方々である。

というのも、いまでこそビジネス、とくに企業家が先導して世の中を変えていくという重要な事実が世の中全体で認識されるようになってきているが、「官尊民卑」の近代日本においては「民」そのものであるビジネス教育は、江戸時代から変わることなく不当にも低く位置づけられてきたためからだ。「実学」蔑視の感覚は、現在でも文部科学省には旧帝国大学に劣位する存在として、根強く残存しているという印象をわたしは抱いている。経済産業省との違いである。

じっさい、東京商大は戦前(!)においてなんども存亡の危機に遭遇しながら乗り切ってきたが、これらの危機はみな文部省サイドにおけるビジネス教育の無理解と、「官」中心の発想がもたらしたものであった。

明治維新後の「近代化」において、ビジネス教育の重要性を理解し、積極的にそれを推進したのが文教族の元祖である森有礼(もり・ありのり)といった政治家や、日本資本主義の父・渋沢栄一、そして啓蒙思想家で慶應義塾大学の創立者・福澤諭吉といった人々であった。いずれも留学やビジネスなどをつうじて米国と深くかかわっていた人たちだ。かれらが一橋大学の出発点である商法講習所の設立にかかわったのである。商法講習所は「私塾」として出発したのである。

当時の先進国は英国であり、また米国というビジネス立国であったのだが、明治日本のビジネス教育は当時最先端であったベルギーのアントワープ高等商業学校をモデルにしたという。これは意外なことかもしれない。

ロースクール(=法科大学院)における判例研究が、ビジネス教育において事例研究として「ヨコ展開」されたのが1930年代のハーバード・ビジネス・スクールであるが、日本のビジネス教育においてはケースメソッドは長く導入されなかった日本では座学中心の専門教育と教養教育が中心となったのだが、この功罪については議論のわかれるところであろう。現在はようやくケースメソッドが普及しはじめた段階だ。

「三商大」のいずれも現在では総合大学として(・・一橋大学は学部として理工系はないが研究者養成の大学院を備えた総合大学である)存在しているのは、大学という制度そのものの日本的な発展の歴史があるためである。ちなみに現在の一橋大学は、6大学院4学部体制となっている。

経済学の立場から大学の発展史について執筆してきた著者は、すでに 『早稲田と慶応-名門私大の栄光と影-』(講談社現代新書、2008)『東京大学-エリート教育機関の盛衰-』(岩波書店、2009)『京都三大学 京大・同志社・立命館-東大・早慶への対抗-』(岩波書店、2011)という著書があるが、「実学」を旨とし、そこから発展してきた高等教育として、東京工業大学(=東工大)を中心とした日本の工業教育についての本を書いていただきたいと思う。帝国大学や私立の総合大学とは異なる発展の歴史がそこにあるからだ。

現在では、一橋大学と東京工業大学は、東京医科歯科大学東京外国語大学とともに「四大学連合」を形成し、密接な提携関係にあると書きくわえておこう。時代は「実学」の時代なのである。

「実学」はハウツーではない。すぐ役に立つものは、すぐ役に立たなくなる。「実学」を究めるためには、周辺領域の「教養」分野が必要となってくる。この順番が大事なのだ。


* 2012年に執筆済みの記事に加筆修正を加えてアップした(2015年7月18日)


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目 次

はしがき
第1章 商法講習所から高等商業学校へ
 1. 江戸から明治にかけての商業、商人教育
 2. 私立と府立の商法講習所
 3. 官立商業学校の設立と高等商業学校まで
 4. 商法講習所、東京商業学校、東京高商での教育と学生
第2章 東京高商から東京商大、一橋大学へ
 1. 東京高商から東京商大昇格への運動
 2. 東京商科大学の誕生
 3. 新制・一橋大学の誕生とその後
第3章 東京商大・一橋大学の華麗な人材輩出力
 1. 一橋の名声を高めた学者群
 2. 有能な経済人を多く輩出し、異色な人も学んだ一橋大学
第4章 マルクスをも包摂した大阪商大(=大阪市立大学)
第5章 ビジネス教育を重視した神戸商業大学(=神戸大学)
第6章 三大高商の輝き(長崎・小樽・横浜)
第7章 外国のビジネス教育から学ぶこと
 1. アメリカのビジネス教育
 2. ヨーロッパのビジネス教育
第8章 現代のビジネス教育
 1. ビジネススクールでの教育がなされる以前の時代
 2. 日本でビジネス大学院教育は必要か
 3. 一橋大学の現在
あとがき
参考文献
人名索引

著者プロフィール

橘木俊詔(たちばなき・としあき)
1943年兵庫県生まれ。小樽商科大学卒、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。京都大学教授を経て、同志社大学経済学部教授。その間、仏米英独で教育・研究職。専攻は経済学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

旧三商大(wikipedia項目)


<ブログ内関連記事>

実業界と「実学」教育

書評 『渋沢栄一 上下』(鹿島茂、文春文庫、2013 初版単行本 2010)-19世紀フランスというキーワードで "日本資本主義の父" 渋沢栄一を読み解いた評伝
・・商法講習所(=一橋大学)についても1章を割いている

書評 『渋沢栄一-社会企業家の先駆者-』(島田昌和、岩波新書、2011)-事業創出のメカニズムとサステイナブルな社会事業への取り組みから "日本資本主義の父"・渋沢栄一の全体像を描く
・・大学設立と支援もまた社会事業であった

書評 『渋沢栄一-日本を創った実業人-』 (東京商工会議所=編、講談社+α文庫、2008)-日本の「近代化」をビジネス面で支えた財界リーダーとしての渋沢栄一と東京商工会議所について知る
・・「近代化」を商工業の点から実行していくためのリーダ育成もまた使命の一つであった


東京商科大学と一橋大学

書評 『「くにたち大学町」の誕生-後藤新平・佐野善作・堤康次郎との関わりから-』(長内敏之、けやき出版、2013)-一橋大学が中核にある「大学町」誕生の秘密をさぐる

書評 『「大学町」出現-近代都市計画の錬金術-』(木方十根、河出ブックス、2010)-1920年代以降に大都市郊外に形成された「大学町」とは?

ヘルメスの杖にからまる二匹の蛇-知恵の象徴としての蛇は西洋世界に生き続けている
・・東京商大のシンボルであるヘルメス(ーマーキュリー)は商業の神。現在の一橋大学にも引き継がれている


近代日本の「実学」教育

福澤諭吉の『学問のすゝめ』は、いまから140年前に出版された「自己啓発書」の大ベストセラーだ!
・・福澤諭吉は一橋大学の出発点である商法講習所開設の趣意書を執筆している


米国の「実学」教育

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

慶応大学ビジネススクール 高木晴夫教授の「白熱教室」(NHK・ETV)
・・ケースメソッドによるビジネス教育

書評 『世界はひとつの教室-「学び」×「テクノロジー」が起こすイノベーション-』(サルマン・カーン、三木俊哉訳、ダイヤモンド社、2013)-「理系」著者によるユーザーフレンドリーな学習論と実践の記録

書評 『大学とは何か』(吉見俊哉、岩波新書、2011)-特権的地位を失い「二度目の死」を迎えた「知の媒介者としての大学」は「再生」可能か?
・・西欧の初期近代において、大学は衰退し、実学中心のアカデミーがそれとってかわっていたという歴史的事実。この本のなかでは森有礼は、あくまでも初代文部大臣として帝国大学モデルを作り上げた人としてしか登場しないことに違和感を覚える


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2012年4月22日日曜日

書評『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!

16歳のとき、みずからの意志でみずからを英語漬けの環境に投げ込んだ著者が振り返って語る、一人の人間として生きていく上でほんとうに大事な教育とは何かについての本である。

ほんとうに重要な教育とは、日本では主流のノウハウやスキルといった小手先の「ハウツー」ではない。「自分で考えて自分で行動する」というマインドセットのことなのだ。

そしてそれこそが、日本の外で生きていくための「生きるチカラ」の基礎となるのである。これこそが著者がいいたいことであり、わたしも全面的にその趣旨に賛成だ。

おそらく多くの人が関心あるだろう、ハーバード・ビジネススクールで何を学んだかについては本書にはあまり書かれていない。むしろボーディングスクール(全寮制高校)とリベラルアーツ・カレッジ(全寮制少人数制大学)で学んだことがページの多くを占めているのは、専門教育そのものよりも、人間としての基礎をつくりあげる教育のほうが大きな意味をもっていると、著者自身が振り返ってみて思っているためだろう。誰にとっても、20歳までに経験することのほうがはるかに重要なのだ。

あくまでも出発点は個人。だが個人の存在を前提とするからこそ求められる協調性。ボーディングスクールでは、ほとんど修道院のような厳しさが求められることに多くの日本人は驚くことだろう。しかも、日本のように受験が最終目的なのではなく、自分がやりたいこと、やるべきことを見つけるための幅広く勉強することが求められる環境。なるほど、できるアメリカ人が専門分野だけではなく、幅広くモノを知っている理由はそこにあるのだなと納得させられるのだ。リベラルアーツとはそういうことである。

わたし自身は、アメリカでの教育体験はビジネススクールだけだが、著者がいっていることにはほぼ全面的に賛成だ。「白熱教室」はべつにハーバード大学のサンデル教授の専売特許でもなんでもない。アメリカの授業はみな、あんな感じなのだ。一方通行のブロードキャスティング型のレクチャーではなく、授業は発言と対話を重視したワークショップ型。教師はあくまでもファシリテーターというのがアメリカの授業スタイルである。

最終章に書かれていることは、わたしからみれば著者はかなりアメリカナイズされているなとは感じるが、あくまでも一人の日本人女性の手記として受け止めておくべきだろう。わたしもビジネススクールを卒業してからしばらくは、かなりアメリカかぶれだったから。

著者が10年後、20年後、どのような感想をもっているのかはわからないが、すくなくとも現時点ではこういう感想をもっているということを知るのは、とくに著者とは近い世代の10歳代、20歳代の若者には意味のあることだ。もちろん、若者世代以外も本書を読んで、アメリカの教育スタイルがどういうものか知って、みずからの常識としてほしい。

<初出情報>

■bk1書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)
■amazon書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)




目 次

はじめに
Chapter 1. そもそも勉強するってどういうこと?-答えを教えてくれないアメリカの教師
Chapter 2. 考える、考える、答えは出なくとも考え尽くす-アメリカの学校で徹底される「思考力」の訓練
Chapter 3. 認められるのは議論に勝ってから-知識でなく言葉で勝つ「議論力」を身につける
Chapter 4. マネジメント能力を10代から問う教育-勉強と大学受験を通して「自分を管理する術」を学ぶ
Chapter 5.  成果主義はすでに始まっている-遊ぶ暇があれば、学生時代から人生経験を増やそう
Chapter 6.  アメリカでは就職後も「勉強」が続く-全米一「働きたい会社」グーグルで働くということ
Chapter 7.  日本の学校で教えてくれない、本当に大切なこと-なぜ世界中の若者がアメリカに勉強しに来るのか
おわりに

著者プロフィール

石角友愛(いしずみ・ともえ)
東京のお茶の水女子大学附属高校を中退。16歳で単身渡米する。少人数ディカッション式の名門ボーディングスクール(全寮制私立高校)に進学し、リベラルアーツ教育で有名な、オバマ大統領の母校でもあるオキシデンタル・カレッジを卒業(心理学士)。在学中に思いついた起業アイデアを実行すべく、帰国して起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げ、3年間運営する。2008年、再びアメリカに渡り、ハーバード・ビジネススクールへ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

本書で意図せずして主張しているのは、ビジネススクールなどのプロフェッショナル・スクール(専門大学院)ではなく、それ以前の大学学部でのリベラルアーツ教育や、さらにさかのぼってのハイスクールでの教育のほうが、人間形成においてはきわめて重要だということだ。

つまり、20歳前後までの教育が重要なのだということ。とくにボーディングスクールという全寮制の私立学校は、「全人教育」という観点からいえば、本人にとってはさておき、保護者からみれば理想的な教育環境といっていいだろう。

職業に密接に結びついた専門教育はその基礎のうえに行われるべきだというのが、現在の米国流の高等教育の考え方であり、その影響を全面的に受けた著者自身の考え方である。基本的にわたしもその考えには同感である。

タイトルは『私が「白熱教室」で学んだこと』とあるが、これは出版社サイドでつけたものだろう。日本では、NHKでサンデル教授の『ハーバード白熱教室』が放送されて以来、大きなブームとなってその熱が冷めることがないが、これは日本人のあいだに、ほんとうの教育に対する熱望があることのあらわれではないかと、わたしは考えている。

なぜなら、本書でも活写されているように、アメリカでは対話型の授業は当たり前だからだ。一方通行のテレビ放送のようなブロードキャスティング型ではなく、ファシリテーターと受講者のインタラクションが基本のファシリテーション型授業なのである。

日本ではまだまだファシリテーターとしての技能を持ち合わせた教師は少ない。初等中等教育では熱心に取り組んでおられる先生方も多いが、こと大学以上の高等教育では激変する。

ゼミナール制度をもっている社会科学系や人文科学系、あるいは研究室のある自然科学系や工学系の学部では、少人数の対話型授業は可能だが、残念ながら中規模以上の人数のクラスでは可能となっていない。

研究が中心で、教育は二の次という位置づけの教授が少なくないのもまた、日本では残念ながら現実である。だからこそ、一般人のあいだでサンデル教授の「白熱教室」礼賛の声が強いのだ。ないものねだりに近いのかもしれないが・・。

ところで、米国のボーディングスクールを実体験した学生による手記は、10年前にも出版されて話題になっている。『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)という本だ。

著者の岡崎玲子氏もいまは27歳だから、本書の著者とはほぼ同年齢ということになる。出版当時、わたしは書評を書いているので、ここに再録しておきたいと思う。


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『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)

こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ
サトケン
2002/01/28 1:00:00
評価 ( ★マーク )
★★★★★

実に面白い。一気に読んでしまった。

この本の著者である岡崎玲子さん(1985年生まれの16歳)みたいに、知的好奇心が旺盛で、柔軟な人にとっては、このチョート校のようなアメリカ東部の名門プレップスクール(寄宿制私立高校)はうってつけなんだろうな。日本の大学よりはるかに知的な内容の授業が行われているのだ。はっきりいってうらやましい。もし僕も生まれ変わって(?)もう一回高校生になれたら、絶対アメリカのプレップスクールにいきたいな、そんな気にもさせられた。

この本を読むまでは、プレップスクールというと、ロビン・ウィリアムズ主演のアメリカ青春映画『今を生きる』のイメージしかもっていなかったが、著者による、プレップスクールの1年といったかんじの、ほとんどライブ中継のような紹介で、はじめて明確に内容を知ることができるようになった。

それにしても驚くのは、玲子さんの日本語能力の高さである。英語ができるから難関のプレップスクールに入れたのは当然だが、16歳でこれだけロジカルで臨場感豊かな日本語を書ける(もちろん編集者の指導はあるだろうが)ということに正直おどろいている。こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ、そんな気にもさせられる。きっと国際的な大きな活躍をしてくれることだろう。

同世代の人や教育に関心のある親だけでなく、あらゆる年齢層の人におすすめの本だ。





<関連サイト>

私が「白熱教室」で学んだこと(著者自身による facebookページ)

『私が「白熱教室」で学んだこと』(出版社による書籍案内サイト)
・・詳細な目次が掲載されている


<ブログ内関連記事>

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

コロンビア大学ビジネススクールの心理学者シーナ・アイエンガー教授の「白熱教室」(NHK・Eテレ)が始まりました

ダイアローグ(=対話)を重視した「ソクラテス・メソッド」の本質は、一対一の対話経験を集団のなかで学びを共有するファシリテーションにある

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992

映画 『ソーシャル・ネットワーク』 を日本公開初日(2011年1月15日)の初回に見てきた

書評 『エリートの条件-世界の学校・教育最新事情-』(河添恵子、学研新書、2009)・・ほんとうのエリート教育は詰め込みではない!

書評 『異端の系譜-慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス-』(中西 茂、中公新書ラクレ、2010)



『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク、大前研一訳、講談社、2010) は、「やる気=ドライブ」に着目した、「内発的動機付け」に基づく、21世紀の先進国型モチベーションのあり方を探求する本

書評 『伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力』(橋本 武、日本実業出版社、2012)-「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」!



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2011年2月28日月曜日

慶応大学ビジネススクール 高木晴夫教授の「白熱教室」(NHK・ETV)


       
 ETVで 慶応大学ビジネススクール高木 晴夫教授の「白熱教室」 第4回 「組織を危機が襲うとき」をやっていました(2011年2月27日放送)。

 今回のケーススタディは、1995年の「サリン事件」の際の聖路加病院(東京・築地)の対応非常事態が発生したときの「クライシス・マネジメント」(危機管理)がテーマ。
 16年前のこの事件の当日、乗っていた地下鉄丸ノ内線がアナウンスもなく、霞ヶ関駅を通過したことを私は体験しましたが、その記憶もナマナマしいものがありました。

 「病院という非営利組織」の経験を、「ビジネスという営利組織」の現場でどう応用するか、「組織学習」の観点から、自立した個人と自律した組織の関係を考える上で、いろいろと学ぶことの多い授業でした。

 再放送の機会があれば、ぜひ視聴されることをお薦めします。

 テレビの前で、自分の見解をあれこれつぶやきながら見ると、参加意識がでてよろしいかと思います。。授業に直接参加できないのは残念ではありますが。






<関連サイト>

高木 晴夫教授の「白熱教室」
・・全4回の放送の概要と参考文献などがアップされている。なお、慶應義塾大学ビジネススクールは日本では老舗のビジネススクール。日本企業を研究した独自のケーススタディも大量に作成している。


<ブログ内関連サイト>

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

ダイアローグ(=対話)を重視した「ソクラテス・メソッド」の本質は、一対一の対話経験を集団のなかで学びを共有するファシリテーションにある

「◆未来をつくるブック・ダイアログ◆『国をつくるという仕事』 西水美恵子さんとの対話」に参加してきた-ファシリテーションについて

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)

書評 『スイス探訪-したたかなスイス人のしなやかな生き方-』(國松孝次、角川文庫、2006 単行本初版 2003)・・サリン事件の際の私の体験(=非体験)についても触れている

『サリンとおはぎ-扉は開くまで叩き続けろ-』(さかはら あつし、講談社、2010)-「自分史」で自分を発見するということ
・・サリン事件に巻き込まれた人の体験談




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2011年1月11日火曜日

M.B.A.(経営学修士)は「打ち出の小槌」でも「魔法の杖」でもない。そのココロは?





 いきなりイコノクラスト(=偶像破壊)的発言をするが、M.B.A.(経営学修士)は「打ち出の小槌」でも、「魔法の杖」でもない

 わかっている人にはわかっている話であって、とくに目新しい話でもなんでもないが、あえてこのテーマを取り上げてみた。

 では、M.B.A. とはいったい何なんだといわれれば、日本の大学法学部のようなものだ、と答えておこう。法科大学院のロースクールではなく、あくまでも大学学部の法学部

 そのココロは?

 ずばり、つぶしが効く。その一点のみである。


米国のプロフェッショナルスクール(専門大学院)とビジネススクール(経営大学院)

 M.B.A.は Master of Business Administration の略、日本語でいえば経営管理学修士号である。この学位を授与する高等教育機関のことをビジネススクール(Business School)と米国でいっている。

 日本ではビジネススクールといえば専門学校のネーミングに多いが間違わないように(笑)。経営大学院とするのが日本語訳としては適当だろう。

 ビジネススクール(経営大学院)ロースクール(法科大学院)メディカルスクール(医療大学院)といった大学院レベルの実務教育のことを、米国ではプロフェッショナルスクール(professional school)という。日本では文部科学省による専門大学院という名称が定着した。ほんとうは特化型大学院のほうが実態にあっているのではという声があったが、すでに定着した訳語なので不問にする。

 米国では、学部まではリベラルアーツ教育に徹し、マネジメントや法律や医療などの専門的職業の教育は、専門大学院において専門教育を行うことが一般化している。

 リベラル・アーツは日本では教養教育と訳されているが、もともとは西欧中世の「七自由学芸」のことだ。神学を勉強するための前提とされたものである。

 専門大学院の起源がキリスト教の牧師養成を目的にしたディヴィニティスクール(Divinity School: 神学大学院)が出発点にあるのが、米国らしい。この件については、ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992 という文章をこのブログに書いているので参照されたい。

 米国でも、ロースクールを卒業したら自動的に弁護士資格を取得できるわけではなく、メディカルスクールを卒業したら自動的に医師免許が取得できるわけではない。別途に資格試験を受験する必要がある。だが、これらの専門大学院を卒業する程度の勉強をしていないと試験には合格しない。専門教育がこれら専門大学院でないと受講できないからだ。
 これは牧師も同様である。


米国のビジネス教育とリベラルアーツ

 これに対してビジネスの世界は、公認会計士などの資格はあるが、資格ができないと仕事ができないのは、弁護士や会計士などの資格取得が前提とされるだけで、ビジネスパーソンがマネージャーとして活躍したり、経営者として活躍したり、起業家として活躍するのに、資格はまったく不要である。

 ここが、その他の専門大学院での教育との違いにも反映している。ビジネススクールを卒業したからといってマネージャーになれるわけではないし(・・ただし米国の場合は早道ではある)、経営者になれるわけでもない。

 このため、ビジネススクール(経営大学院)は、「ビジネスのリベラル・アーツ」ともいわれている。

 ビジネススクールでは、たとえ主専攻がファイナンスであろうが、マーケティングであろうが、まずまんべんなく全ての科目を履修することが求められる。全体を視野に入れたうえで、個別の専門を研究すべしという姿勢が一貫している。ビジネススクールも例外ではない。

 これは米国のリベラルアーツ教育の根本姿勢である。

 しかし M.B.A.を取得するのは思うよりもたいへんだ。間違いなく意思と忍耐のチカラが必要である。これは私の実感である。

 ハーバード・ビジネススクール(HBS)など、米国ではビジネス界のウェストポイントとさえ言われることがある。陸軍士官学校のことだ。
 ハーバード・ビジネススクールが米国社会における位置は、あえて言えば東大法学部が日本社会にもつ者に近いといっていいだろう。

 HBS の場合は官僚になる者はきわめて少ないので単純比較はできないが、HBS の卒業生がすべてビジネス社会にいくわけでなく、ソーシャルビジネスや NPO の世界に進んだりもしている。ビジネス界にかんしても、投資銀行やコンサルティングの世界だけではなく、製造業も含めて、まんべんなくすべての業種業界に進んでいる。

 HBS の卒業生は引く手あまたであり、その意味では「つぶしがきく」のである。その点は、東大法学部と同じである。



「日本の常識は世界の非常識」(竹村健一)

 「M.B.A.を持っていても、実際の経営はできない」。

 このようにクチにする経営者、とくに中小企業の経営者は少なくないが、まったくそのとおりである。M.B.A.が「打ち出の小槌」でも、「魔法の杖」でもないことには、まったく異議なしである。

 M.B.A. はそもそも学位であって資格ではないし、経営には資格はおろか学位も必要不可欠ではない。必要条件ですらない。

 だが、私としては、米国であれ、日本であれ、また中国や東南アジアであれ、フルタイムでもパートタイムでもいいから、ビジネススクール(経営大学院)を卒業して M.B.A.を取得することはぜひ推奨したい。

 例外は日本だけなのである。ビジネススクール(経営大学院)は日本の法学部のようなものだといえるのは。

 かつて評論家の竹村健一は「日本の常識は世界の非常識」と断言していたが、学位のもつ社会的な意味については、現在でもまだまだこの発言は死んでいない。

 日本社会もビジネス界も変化の最中にあるが、日本を出れば M.B.A.の威力はきわめて大きいことはすぐにわかるはずだ。アジアではどの国でもリスペクトされることは間違いない。いやもっていて当然の学位なのだ。

 国連などの国際機関でも、M.B.A.を含めたマスター(修士号)以上の学歴が資格要件のなかに入っている。

 日本の外で仕事する必要のあるビジネスパーソンは、ダマされたと思って絶対に M.B.A.取得を目指してほしいと思う。

 M.B.A.こそが、国際社会では「つぶしがきく」のである。モノを言うのである。
 なぜなら、ビジネススクール(経営大学院)で学ぶ「共通言語」は、世界中で通用するからだ。

 その「共通言語」とは、英語と数字、この2つである。



<ブログ内関連記事>

アジアでは MBA がモノを言う!-これもまた「日本の常識は世界の非常識」

書評 『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!
   
書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)・・ハーバードビジネススクール(HBS)の エグゼクティブ向けの AMP (上級マネジメントプログラム)について

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992

レンセラー工科大学(RPI : Rensselaer Polytechnic Institute)を卒業して20年
・・わたしはこの大学のMBAコース(MOT)を卒業しました

『レッド・オクトーバーを追え!』のトム・クランシーが死去(2013年10月2日)-いまから21年前にMBAを取得したRPIの卒業スピーチはトム・クランシーだった

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)

書評 『海外ビジネスを変える英文会計-経営の判断力が身につく!-』(木幡 幸弘、インテック・ジャパン監修、エヌ・エヌ・エー、2010)
・・英語と数字はビジネスの「共通言語」

(2013年12月25日、2014年8月29日 情報追加)
  

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2011年1月10日月曜日

書評『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)ー 国際ビジネスをめぐる政治経済についてのディスカッション用の「ケーススタディ」




ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)における、国際ビジネスをめぐる政治経済についてのディスカッション用ケーススタディ

 本書はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の看板教授リチャード・ヴィートーの授業を AMP で受講した日本人女性エグゼクティブとの共著になるものである。

 AMP とは Advanced Management Program の略、日本語で言えば「上級マネジメントプログラム」となる。

 M.B.A.は基本的にフルタイムの学生を対象にした修士号のコースであるが、AMP はエグゼクティブ向けの 9週間という、比較的短期間の集中コースである。

 とくに HBS の AMP は世界最高峰にあるもので、米国だけでなく世界中の大企業を中心に、140名の経営幹部が送られてくる。世界中のエグゼクティブやその候補者たちが切磋琢磨する場なのである。なんせ学費は一人あたり 6万4千米ドルと半端じゃない。

 本書は、共著とはいっても、ベースはHBSの必須講義、ヴィートー教授の BGIE(Business, Government and International Economy:ビジネス、政府と国際経済)を日本人向けにやさしく紹介したものである。

 内容については「目次」を参照していただきたいが、「ジャパン・ミラクル」(=日本の奇跡)というケーススタディから本書が始まるのは、現在に生きる日本人ビジネスパーソンにとっては実に新鮮に写る。

 なぜかというと、「ジャパン・ミラクル」とは、1954から1971年までの17年間も続いた、年率10%以上の高度成長期のことだが、これをただ単に手垢のついた「高度成長」と表現してしまったのでは、ああその話ですかと黙殺されてしまう可能性が高い。

 しかし、これがヴィートー教授の手にかかると、現在の国際ビジネスを取り巻く環境を理解するための出発点になるのだ。

 なぜなら、これだけの長きにわたる高度成長は空前絶後であり、これほど国情と国家戦略がフィットして機能した例は他にないからだ。

 この「日本モデル」とその応用発展系である「シンガポール・モデル」を押さえて進める議論は、すんなりとアタマに入りやすい。

 いまやシンガポールの一人あたりGDPは日本を越えている

 この議論を皮切りに、アジアからは中国とインド、資源国からはサウジアラビア(および中東産油国)とロシア、そして欧州連合、最後に日本と米国について論じられる。

 「第6章 巨大債務に悩む富裕国」として、日本と米国が同じカテゴリーに分類されているが、この2カ国の共通点と相違点については、これは直接読んでじっくり考えてみるとよい。

 本書は、あくまでもディスカションの素材として捉えるべきものだ。あるいはたたき台といったほうが適切だろうか。

 AMP も含めたビジネススクールの授業とは、教授の講義をありがたく拝聴するのではなく、教授が挑発し、授業参加者の発言の応酬と教授のファシリテーションぶりにこそ意味があるからだ。

 残念ながらこの本は、サンデル教授による正義をめぐる「ハーバード白熱教室」のようなライブそのものではなく、それを再現するための工夫が足りないのが本書の弱点である。

 とはいえ、ビジネススクールの授業で使用するケーススタディの素材そのものは、日本語にしてしまえばこんなものだ、ということを知る意味では読む価値があるといえよう。
 だが、これを英語で(!)ディスカッションするのは、フツーの日本人にとっては、きわめて大変な苦行ではあることは確かなことだ。自分が教授の授業に参加した日本人エグゼクティブになったと仮定して読んでみるといい。

 自問自答しながら読み、著者の見解を鵜呑みにせず、仮説として批判的に読めば、「世界の読み方」の一つとして、得るところはきわめて大きいものがあるだろう。


<初出情報>

■bk1書評「ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)における、国際ビジネスをめぐる政治経済についてのディスカッション用ケーススタディ」投稿掲載(2010年10月11日)

*再録にあたって大幅に加筆修正を行った。


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目 次

序 世界の動きをいかに読み解くか
第1章 国が発展するための8つの軌道
第2章 アジアの高度成長
 1. 日本ミラクル 2. シンガポール
 3. 中国 4. インド
第3章 挟まって身動きがとれない国々
 1. メキシコ 2. 南アフリカ共和国
第4章 資源に依存する国々
 1. サウジアラビア/イスラム 2. ロシア
第5章 欧州連合という試み
第6章 巨大債務に悩む富裕国
 1. 日本 2. 米国

第7章 国の競争力とは何か
第8章 私たちのミッション
あとがき 世界の真の現状に触れながら学ぶ国際経済



著者プロフィール

リチャード・ヴィートー(Richard H.K. Vietor)

ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授。アジア・イニシアティブにおけるシニア・アソシエイト・ディーン職も務める。1978年の就任以来、必須科目 BGIE(Business,Government & the International Economy)で国際政治、経済、企業間の役割について教鞭をとる。また、環境管理においても数多くのケースを手がける。受講者からは数多くの経営者や政府要人を輩出している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。主著は How Countries Compete: Strategy, Structure, and Government in the Global Economy で本書の原著である。

 


仲條亮子(なかじょう・りょうこ)

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。米国シカゴ大学ブース・ビジネス・スクールにて MBA を取得。また米国ハーバード・ビジネス・スクールにて60年の歴史のあるAMP(Advanced Management Program)を日本人女性3人目として卒業。テレビ東京、テレビ朝日、CNN等で番組制作に携わった後、1996年からブルームバーグ情報テレビジョン株式会社に入社。1997年より同社代表取締役社長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



<関連サイト>

HBS AMP

Richard H.K. Vietor(HBS Faculty & Research)・・教員紹介サイト

Business, Government & the International Economy・・コース紹介

ハーバード・ビジネス・スクールの 徹底した「ケース原理主義」の実態とは? (ダイヤモンドオンライン、2016年8月23日)
・・簡潔によくまとめられている

(2016年8月23日 情報追加)



<書評への付記>

amazonレビューのみで判断することはきわめて危険

 本書の amazonレビューをご覧になったらわかることだが、おしなべて否定的なものが多い。しかし、実際に書店の店頭でこの本を手にとってみると、すでに第三刷以上に達している。リアル世界では売れているということだ。それは本を直接手にとって中身を読めばわかることだ。

 この点からも、ネットでの評価とリアル世界での評価に大きな乖離(ギャップ)があることがわかる。私のこの書評も含めて、ネット世界での評価を鵜呑みにすることは危険である。

 amazonでの評価については、掲載されているレビューを読んでいると、いかに日本人の多くが、最初から与えられた答えを前提にした存在になってしまっているかがよくわかる。これはビジネスにおけるカスタマイゼーションの弊害ともいえるだろう。
 なんでもかゆいところまで手が届くようなサービスが施されていないとすぐに不平不満をもらす性癖。日本以外ではこんな手厚いサービスなど存在しない。このようなマインドセットでは、先進国の米国や欧州を含めて、国際ビジネスなどほど遠い。

 同じハーバード大学の授業といっても、学部生向けのサンデル教授の「白熱授業」と、大人しかもエグゼクティブが中心のヴィートー教授の授業が根本的に違うのは当然だろう。AMP が対象とするのはあくまでも大人のビジネス・エグゼクティブ、学部が対象とするのは20歳前後の経験の少ない学生である。

 そもそも、大学院のビジネススクールは、学部のハーバード・カレッジとは川を挟んで対岸にあり、まったくの別世界である。HBS はハーバード大学のなかでも異質な存在である。

 だいたい、活字本という形で活発な授業を再現するなど、たとえビジュアルを加えたとしても限りなく不可能に近い。

 授業風景を収めたビデオなら、雰囲気の一端は知り得ることもできるだろう。だが授業の本質はライブ性にある。講師もさることながら、参加者の顔ぶれと授業での貢献具合によって、授業が活発になるかどうかは大きく左右される。

 しかも、ケーススタディによる授業とは、授業に参加する前に、限られた時間のなかで事前にケースをしっかり読んでおくことが求められる

 何よりも本の形なのだから、ケースを読むという忍耐強い訓練をしなければならないのだ。
 そして可能であれば、少人数のスタディ・グループをつくってディスカッションしてみることだ。

 これこそが、エグセクティブに求めれれることなのであり、これに不平を漏らしているようでは、しょせんエグセクティブなどまったく手の届かない存在であろう。必要なのは忍耐力でもある。

 私が本書に目を通した限りでは、本書はあくまでもクラス・ディスカッション用のマテリアルとして読むべきものなのだ。共著者である仲條氏には、本書の使い方について、この点をもっと詳細に書いてもらうべきであった。これは出版社サイドの編集の問題でもある。

 結論:amazon のランキングやレビューは、冷静な眼でもって見るべし。けっして鵜呑みにしないこと!

 カール・マルクスのモットーではないが、「何ごとも疑え!」、だ。



<ブログ内関連記事>

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992
・・「教師の役割は、ソクラテスの産婆術に擬して語られることも多く、ケースメソッドは別名 Socratic method ともいわる。 この教育メソッドのキモは、ビジネスには唯一の解答というものはありえない、ということを学生に体得させることにある」

『ガラパゴス化する日本』(吉川尚宏、講談社現代新書、2010)を俎上に乗せて、「ガラパゴス化」の是非について考えてみる
・・「内向きのガラパゴス」日本、「外向きのガラパゴス」米国 という対比で考えてみる


「ジャパン・ミラクル」(=日本の奇跡)=「高度成長」

書評 『高度成長-日本を変えた6000日-』(吉川洋、中公文庫、2012 初版単行本 1997)-1960年代の「高度成長」を境に日本は根底から変化した


「日本モデル」の応用発展系である「シンガポール・モデル」

巨星墜つ リー・クアンユー氏逝く(2015年3月23日)-「シンガポール建国の父」は「アジアの賢人」でもあった

(2016年1月15日 情報追加)


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