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2012年4月22日日曜日

書評『私が「白熱教室」で学んだこと-ボーディングスクールからハーバード・ビジネススクールまで-』(石角友愛、阪急コミュニケーションズ、2012)-「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそ重要だ!

「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!

16歳のとき、みずからの意志でみずからを英語漬けの環境に投げ込んだ著者が振り返って語る、一人の人間として生きていく上でほんとうに大事な教育とは何かについての本である。

ほんとうに重要な教育とは、日本では主流のノウハウやスキルといった小手先の「ハウツー」ではない。「自分で考えて自分で行動する」というマインドセットのことなのだ。

そしてそれこそが、日本の外で生きていくための「生きるチカラ」の基礎となるのである。これこそが著者がいいたいことであり、わたしも全面的にその趣旨に賛成だ。

おそらく多くの人が関心あるだろう、ハーバード・ビジネススクールで何を学んだかについては本書にはあまり書かれていない。むしろボーディングスクール(全寮制高校)とリベラルアーツ・カレッジ(全寮制少人数制大学)で学んだことがページの多くを占めているのは、専門教育そのものよりも、人間としての基礎をつくりあげる教育のほうが大きな意味をもっていると、著者自身が振り返ってみて思っているためだろう。誰にとっても、20歳までに経験することのほうがはるかに重要なのだ。

あくまでも出発点は個人。だが個人の存在を前提とするからこそ求められる協調性。ボーディングスクールでは、ほとんど修道院のような厳しさが求められることに多くの日本人は驚くことだろう。しかも、日本のように受験が最終目的なのではなく、自分がやりたいこと、やるべきことを見つけるための幅広く勉強することが求められる環境。なるほど、できるアメリカ人が専門分野だけではなく、幅広くモノを知っている理由はそこにあるのだなと納得させられるのだ。リベラルアーツとはそういうことである。

わたし自身は、アメリカでの教育体験はビジネススクールだけだが、著者がいっていることにはほぼ全面的に賛成だ。「白熱教室」はべつにハーバード大学のサンデル教授の専売特許でもなんでもない。アメリカの授業はみな、あんな感じなのだ。一方通行のブロードキャスティング型のレクチャーではなく、授業は発言と対話を重視したワークショップ型。教師はあくまでもファシリテーターというのがアメリカの授業スタイルである。

最終章に書かれていることは、わたしからみれば著者はかなりアメリカナイズされているなとは感じるが、あくまでも一人の日本人女性の手記として受け止めておくべきだろう。わたしもビジネススクールを卒業してからしばらくは、かなりアメリカかぶれだったから。

著者が10年後、20年後、どのような感想をもっているのかはわからないが、すくなくとも現時点ではこういう感想をもっているということを知るのは、とくに著者とは近い世代の10歳代、20歳代の若者には意味のあることだ。もちろん、若者世代以外も本書を読んで、アメリカの教育スタイルがどういうものか知って、みずからの常識としてほしい。

<初出情報>

■bk1書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)
■amazon書評「「ハウツー」よりも「自分で考えるチカラ」こそグローバルに生きぬくうえで重要だ!」投稿掲載(2011年4月4日)




目 次

はじめに
Chapter 1. そもそも勉強するってどういうこと?-答えを教えてくれないアメリカの教師
Chapter 2. 考える、考える、答えは出なくとも考え尽くす-アメリカの学校で徹底される「思考力」の訓練
Chapter 3. 認められるのは議論に勝ってから-知識でなく言葉で勝つ「議論力」を身につける
Chapter 4. マネジメント能力を10代から問う教育-勉強と大学受験を通して「自分を管理する術」を学ぶ
Chapter 5.  成果主義はすでに始まっている-遊ぶ暇があれば、学生時代から人生経験を増やそう
Chapter 6.  アメリカでは就職後も「勉強」が続く-全米一「働きたい会社」グーグルで働くということ
Chapter 7.  日本の学校で教えてくれない、本当に大切なこと-なぜ世界中の若者がアメリカに勉強しに来るのか
おわりに

著者プロフィール

石角友愛(いしずみ・ともえ)
東京のお茶の水女子大学附属高校を中退。16歳で単身渡米する。少人数ディカッション式の名門ボーディングスクール(全寮制私立高校)に進学し、リベラルアーツ教育で有名な、オバマ大統領の母校でもあるオキシデンタル・カレッジを卒業(心理学士)。在学中に思いついた起業アイデアを実行すべく、帰国して起業家を支援するインキュベーションビジネスを立ち上げ、3年間運営する。2008年、再びアメリカに渡り、ハーバード・ビジネススクールへ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

本書で意図せずして主張しているのは、ビジネススクールなどのプロフェッショナル・スクール(専門大学院)ではなく、それ以前の大学学部でのリベラルアーツ教育や、さらにさかのぼってのハイスクールでの教育のほうが、人間形成においてはきわめて重要だということだ。

つまり、20歳前後までの教育が重要なのだということ。とくにボーディングスクールという全寮制の私立学校は、「全人教育」という観点からいえば、本人にとってはさておき、保護者からみれば理想的な教育環境といっていいだろう。

職業に密接に結びついた専門教育はその基礎のうえに行われるべきだというのが、現在の米国流の高等教育の考え方であり、その影響を全面的に受けた著者自身の考え方である。基本的にわたしもその考えには同感である。

タイトルは『私が「白熱教室」で学んだこと』とあるが、これは出版社サイドでつけたものだろう。日本では、NHKでサンデル教授の『ハーバード白熱教室』が放送されて以来、大きなブームとなってその熱が冷めることがないが、これは日本人のあいだに、ほんとうの教育に対する熱望があることのあらわれではないかと、わたしは考えている。

なぜなら、本書でも活写されているように、アメリカでは対話型の授業は当たり前だからだ。一方通行のテレビ放送のようなブロードキャスティング型ではなく、ファシリテーターと受講者のインタラクションが基本のファシリテーション型授業なのである。

日本ではまだまだファシリテーターとしての技能を持ち合わせた教師は少ない。初等中等教育では熱心に取り組んでおられる先生方も多いが、こと大学以上の高等教育では激変する。

ゼミナール制度をもっている社会科学系や人文科学系、あるいは研究室のある自然科学系や工学系の学部では、少人数の対話型授業は可能だが、残念ながら中規模以上の人数のクラスでは可能となっていない。

研究が中心で、教育は二の次という位置づけの教授が少なくないのもまた、日本では残念ながら現実である。だからこそ、一般人のあいだでサンデル教授の「白熱教室」礼賛の声が強いのだ。ないものねだりに近いのかもしれないが・・。

ところで、米国のボーディングスクールを実体験した学生による手記は、10年前にも出版されて話題になっている。『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)という本だ。

著者の岡崎玲子氏もいまは27歳だから、本書の著者とはほぼ同年齢ということになる。出版当時、わたしは書評を書いているので、ここに再録しておきたいと思う。


/////////////////////////////////////////////////////////////

『レイコ@チョート校-アメリカ東部名門プレップスクールの16歳-』(岡崎玲子、集英社新書、2001)

こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ
サトケン
2002/01/28 1:00:00
評価 ( ★マーク )
★★★★★

実に面白い。一気に読んでしまった。

この本の著者である岡崎玲子さん(1985年生まれの16歳)みたいに、知的好奇心が旺盛で、柔軟な人にとっては、このチョート校のようなアメリカ東部の名門プレップスクール(寄宿制私立高校)はうってつけなんだろうな。日本の大学よりはるかに知的な内容の授業が行われているのだ。はっきりいってうらやましい。もし僕も生まれ変わって(?)もう一回高校生になれたら、絶対アメリカのプレップスクールにいきたいな、そんな気にもさせられた。

この本を読むまでは、プレップスクールというと、ロビン・ウィリアムズ主演のアメリカ青春映画『今を生きる』のイメージしかもっていなかったが、著者による、プレップスクールの1年といったかんじの、ほとんどライブ中継のような紹介で、はじめて明確に内容を知ることができるようになった。

それにしても驚くのは、玲子さんの日本語能力の高さである。英語ができるから難関のプレップスクールに入れたのは当然だが、16歳でこれだけロジカルで臨場感豊かな日本語を書ける(もちろん編集者の指導はあるだろうが)ということに正直おどろいている。こんな子がいれば日本の将来は決して暗くないぞ、そんな気にもさせられる。きっと国際的な大きな活躍をしてくれることだろう。

同世代の人や教育に関心のある親だけでなく、あらゆる年齢層の人におすすめの本だ。





<関連サイト>

私が「白熱教室」で学んだこと(著者自身による facebookページ)

『私が「白熱教室」で学んだこと』(出版社による書籍案内サイト)
・・詳細な目次が掲載されている


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書評 『伝説の灘校教師が教える一生役立つ学ぶ力』(橋本 武、日本実業出版社、2012)-「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」!



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2011年7月12日火曜日

「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 (片岡義男)



 米国社会、特にビジネス社会でコミュニケーションがいかに必須のスキルであることか!

 このことについては、わたしが拙いコトバを書きつらねるよりも、作家・片岡義男のエッセイ「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」 からの引用に語らせた方がいいだろう。

 これほど的確に、コトバを自由自在に運用する能力がすべてを決定していることを示した文章はほかにはない。はじめて読んだときに大いに納得して、抜き書きもしてみた文章だ。

 わたしは米国留学の際に、この本を日本からもっていった。そして、現地に暮らしてみて、まったくそのとおりだとつよく実感した。

 先日、パソコンのファイルを整理していたら、この抜き書きがでてきたので、そっくりそのまま紹介しておきたい。かなり長い引用になるが、すごく大事なことを指摘しているので、じっくり読んでみてほしい。

 
 「人生に成功をおさめるためにぜったいに欠かせない最大の条件は言葉に習熟することだ」、という伝統的な考え方が、アメリカにはある。この考え方は、いまでもつづいている。

 たとえば、ハーバード大学のビジネス・スクール(経営大学院)を出た人というと、アメリカではエリートになる可能性がもっとも高い人たちのうちに入るのだが、ハーバード・ビジネス・スクールで学んだことがあなたにあたえたさまざまな影響のなかで、最大のそしてもっとも大切なものはなにだと思うかと、友人たちにきいてみると、ほぼ全員が、『自分の考えていることを他人にむかって明晰に表現する能力の基礎をしっかりと身につけたことだ』とこたえてくれる。

 ハーバード・ビジネススクールにかぎらず、東部の名門でしっかりと猛勉強をしてきたアメリカ人の友人たちも、大学の勉強ぜんたいをとおして自分が得た最大のものは、言葉を使う能力を高度に身につけ、大学を出てからもずっと勉強をつづけていくための強固な土台をそれによって自分のものにしたことだ、とこたえてくれる。

 出世したり成功をおさめたり、トップにたつエリートになったりしたければ、アメリカで生きる場合まず最初にやらなくてはいけないのは、言葉の勉強なのだ。

 いろんな分野でトップの位置にある人たち、あるいはトップにむけて確実にのぼっていきつつある人たちと知り合ってまず最初にぼくが関心するのは、自分の考えていることを外にむけて表現するときの言語使用能力の次元がきわめて高くて深く、しかもそのことの基礎が非常にちゃんとしているということだ。

 アメリカはたいへんな階層社会だが、トップに近ければ近いほど言語使用能力が高度な次元のものになっていく。そして、主として街角で知り合う低い階層の人たちは、気の毒になってしまうほどに幼稚な、次元の低い言語能力しか持ってないことが、すぐに、そして、はっきりと、わかる。

 中間的な階層の人たち、あるいは中の下くらいの階層の人たちのなかには、もっと上へのぼっていきたいのになかなかのぼっていけず、鬱屈した思いを自分の内部にじっと閉じこめているような人たちが多いが、彼らも、これでは上昇はまず無理だなと思えるような言葉の使い方をしている。

 アメリカ社会はいろんな文化からの移民で構成されている。ことなった歴史や文化の背景をもった人たちを自分の国のなかに受け入れることに関して、一般的に言ってアメリカは非常に寛容的だが、言葉の使い方の習熟度を高めないことには、アメリカのほんとうの内部には絶対に入っていけない。英語が話せなくてもアメリカ市民として一生食っていくことはできるけれども、それはただ単にそれだけのことであり、アメリカの核心に接近することはできない。・・以下略・・

(出典)「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」(片岡義男)in 『ブックストアで待ち合わせ』(新潮文庫、1987 単行本初版 1983) *太字ゴチックは引用者(=サトウ)によるもの


 「自分の考えていることを他人にむかって明晰に表現する能力」、まさにこれである!

 アメリカのビジネス社会でコミュニケーション能力が特に重視されるのは、上記の理由による。コミュニケーション能力には、話す能力と書く能力の双方が含まれる。前者はプレゼンテーション、後者は論文だけでなく社内メモ、レターなどが含まれる。

 重要なのは、しゃべる英語と書く英語は異なるということである。しゃべり言葉なら許されても、書き言葉では間延びしただらだらした表現は、特にビジネスの世界では許されない。それこそアタマの程度を疑われることとなる。これはビジネスに限定されない。

 なお、この文章の初出は雑誌『ポパイ』に連載されたものだと「文庫本のためのあとがき」にある。アメリカの本について語ったエッセイである。

 現在からみれば、まだまだアメリカ文明が輝いていた頃の文章だが、ここに書かれていることは、40年ちかくたった現在でもまったく色あせていない。


自分の考えていることを、コトバで的確に表現し、相手に伝える能力を高める

 まずは自分の考えていることを、コトバで的確に表現し、相手に伝える能力を高めること。これが日本人にはもっとも求められていることだ。

 日本語は、なんとなくわかった気分になりがちな言語である。とくに漢字語が多いとその傾向が助長される。

 相手の話を鵜呑みにぜず、論理的に言語を分析すること、これは英文法の時間にいやになるほど勉強したはずだ。あまりいい思い出をもっていないかもしれないが・・。

 これは英語だけではなく、フランス語についても強調される。「明晰(めいせき)でなければフランス語ではない」と自慢されるフランス語の授業では、文法をひととおり勉強すると、l'analyse logique(アナリーズ・ロジック)とよばれる演習をしつこくやらされる。構文分析である。ものづくり用語でいえば、リバース・エンジニアリングといってもよい。分解だ。

 構文分析がキチンとできれば、作文は逆をやればいいだけの話だ。キチンと伝えたい文章は、論理的に構築することが求められる。

 しかし、感情に届くコトバを選択することも視野に入れなければならない。そのために必要なのはレトリックだ! ロジックだけで人は動かない


ロジックとレトリックは両輪

 ロジック(logic)とレトリック(rhetoric)。このふたつが両輪となって、伝わる文章ができあがる。すくなくとも西洋社会ではそれが常識だ。欧州文明の延長線上にある米国文明もその忠実な弟子である。

 ロジックが設計(デザイン)なら、レトリックは外装と内装。こういうアナロジー(比喩)も可能だろう。ロジックを建築をたとえてみれば、ロジックは骨組みであり、それなくして構築物は物理的存在として存在しえないものだ。

 ロジックとレトリックを取り違えている者が政治家にすくなくないのが日本だが、レトリックは、アリストテレス以来、基本的に「雄弁術」のなかで発達したものだ。日本の大学では教えられないが、米国の大学にはそのものずばり「レトリック」という授業がある。

 ロジックばかりが強調される昨今の日本だが、ロジックだけではクルマの両輪のうち、一輪を論じているに過ぎない西洋社会では、古代ギリシア以来、レトリックが重視されてきたことを知っておくべきだ。

 
作家・片岡義男の日本語論

 片岡義男(1940~)の小説はほとんど読んでいないわたしだが、英語と日本語にかんするエッセイは多く読んできた。平明だがあいまいさのない日本語は、ひじょうにわかりやすい。思想がすけて見えるような文体だ。英語をベースに日本語で書いているから(?)かもしれない。

 ちなみに片岡義男の父親は日系二世本人も東京生まれだが、少年時代はハワイに移住して英語教育を受けてきたひとだ。日本語で作家活動をしてきたひとなので、英語だけでなく、もちろん日本語もともに熟知している。

 戦後の日本では、大学教育を米国でうけた思想家の鶴見俊輔の文体に近いかもしれない。あと一人くわえれば、梅棹忠夫の文体だろうか。ともに「戦後日本の日本語文体」であるといっていいだろう。

 片岡義男には日本語や英語をテーマにしたエッセイや評論はすくなくないが、『日本語の外へ』『日本語で生きるとは』 という長編評論はぜひ読んでおきたい。たんなる語学を越えた、英語と日本語それぞれの内在的論理を知ることのできる、すぐれた評論である。

 日本語を母語とするひとは、なかなか自分自身を日本語で客観視することはむずかしい。その意味では、片岡義男という作家の存在は、日本語にとってはじつに貴重であるといっていいだろう。

 「人生に成功したければ、言葉を勉強したまえ」。このアドバイスは、いまからでも遅くない。ぜひずべての世代の日本人は自覚してほしいものである。


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<ブログ内関連記事>

コトバを運用する能力を鍛える

書評 『小泉進次郎の話す力』(佐藤綾子、幻冬舎、2010)
・・ロジックとレトリック。とくにレトリックについて、雄弁術の観点から、パフォーマンス学の第一人者が徹底解説した本

書評 『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書-感動をつくる7つのプロセス-』(佐々木繁範、ダイヤモンド社、2012)-よいスピーチは事前の準備がカギ!

書評 『「言語技術」が日本のサッカーを変える』(田嶋幸三、光文社新書、2007)

書評 『外国語を身につけるための日本語レッスン』(三森ゆりか、白水社、2003)

書評 『言葉にして伝える技術-ソムリエの表現力-』(田崎真也、祥伝社新書、2010)

『伝え方が9割』(佐々木圭一、ダイヤモンド社、2013)-コトバのチカラだけで人を動かすには


米国のエリート教育

書評 『ハーバードの「世界を動かす授業」-ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方-』(リチャード・ヴィートー / 仲條亮子=共著、 徳間書店、2010)

「ハーバード白熱教室」(NHK ETV)・・・自分のアタマでものを考えさせるための授業とは

書評 『エリートの条件-世界の学校・教育最新事情-』(河添恵子、学研新書、2009)-世界の「エリート教育」について考えてみよう!


日本語と英語

日本語で書くということは・・・リービ英雄の 『星条旗の聞こえない部屋』(講談社、1992)を読む

『ストロベリー・ロード 上下』(石川 好、早川書店、1988)を初めて読んでみた

書評 『ワシントン・ハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後-』(秋尾沙戸子、新潮文庫、2011 単行本初版 2009)-「占領下日本」(=オキュパイド・ジャパン)の東京に「戦後日本」の原点をさぐる

(2014年6月12日、2015年6月29日 情報追加)


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2009年10月10日土曜日

ハーバード・ディヴィニティ・スクールって? ― (Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992 の紹介)


 ハーバード・ビジネス・スクール(HBS:Harvard Business School)といえば、ビジネス界のウェストポイント(West Point:米陸軍士官学校 US Military Academy)とも称される、ビジネス教育では最高峰の一つに位置する大学院である。

 授業が厳しいだけでなく、二年時への進級の際に必ず下位3%(?)の学生を退学させることから、その圧迫的な環境をして、ビジネス士官学校といわしめてきたのである。

 ケース・スタディ・メソッドをビジネス教育ではいち早く導入したことで、理論の講義中心のシカゴ大学とは対極にあるといわれてきた。

 ケース・スタディとは医学の症例研究や、法学の判例研究に該当するもので、ビジネス教育の場合ケースとは、ビジネス上の意志決定にかかわる事例を、短いものでは一枚、長いものでは30枚以上に及ぶものまである。

 最高意志決定者(CEO:Chief Executive Officer)が企業戦略全体にかかわるような大きなテーマから、システム部門などの一部門のマネージャーの意志決定にかかわるテーマまで多種多様な膨大なケースがこれまで作成され、HBSのアーカイブに保管されており、市販もされている。

 学生は授業で指定されたケースを事前に予習して問題点を明らかにし、自分自身が意志決定者であればいかなる意志決定を行うか、自習とグループディスカッションを踏まえた上で授業に臨むことになる。

 ケーススタディは学生の側も大変だが、教える側はさらに大変である。なぜなら、ケーススタディには解答は一つではないからだ。クラスをうまくマネージして、授業時間の終わりにはそれなりの結論が、学生自身から導き出されるようにしなければならない。教師の役割は、ソクラテスの産婆術に擬して語られることも多く、ケースメソッドは別名 Socratic method ともいわれる。

 この教育メソッドのキモは、ビジネスでは唯一の解答というものはありえない、ということを学生に体得させることにある。世の中は複雑系なのであるから、スパっと一刀両断できるような事象など存在しない。

 ある特定の問題に対して一定の問題解決を行っても、必ず副作用ないしは反作用が発生する。もちろん、いわゆる定石なるものが存在しないわけではないが、定石にとらわれていたのではゲームに勝てないのは、囲碁や将棋を持ち出すまでもない。

 こうしたケースメソッド中心の教育を、実社会でのリーダーシップをとることになる人に行ってきたことに、米国の高等教育の優位性があるといえるだろう。この点においては、日本の高等教育はいうまでもなく、そのモデルとした欧州の高等教育よりも勝っていたことは確かである。

 その欧州では高等教育改革が現在進行中であることは、このブログでも以前に触れておいた。


米国のプロフェッショナル・スクール(専門大学院)

 ビジネス・スクールを含めて、こういった実学志向の大学院をさして、米国ではプロフェッショナル・スクール(professional school)という。

 先にも触れたように、プロフェッショナル・スクールとしては、医学や法学が先行して誕生した。ハーバードにおいても、メディカル・スクール(Medical School)、ロー・スクール(Law School)はそれぞれ歴史のある存在で、作家のマイケル・クライトンはメディカル・スクールの出身、このたびノーベル平和賞の受賞者となったバラク・オバマはロースクールの1991年卒業生である。

 なお、ハリウッド映画『ペーパー・チェイス』(The paper Chase)の原作者スコット・タローはロースクールの出身である。この映画は米国式ケースメソッド教育がどんなものか知りたい人は必見であるが、日本ではVHS版はあったのだがDVD版はでていないようだ*。残念ながら、もうすでにレンタル・ビデオ店にはないだろう。米国版は入手可能である(・・リージョン・コントロールを解除すれば日本でも視聴可能)。

*確認したところ、日本でもDVDが発売されていた。(2024年5月3日 記す)




ディヴィニティ・スクールとは?
 
 ところが、こういったプロフェッショナル・スクールの中でも、メディカルスクールについで長い歴史をもつのがディヴィニティ・スクール(Divinity School)なのである。ディヴィニティ・スクールといっても日本人にはピンとこないだろうが、日本語でいえば、神学大学院である。神学校と言ってもいいが、進学校ではありませんので、念のため。

 日本でもカトリックなら上智大学神学部プロテスタント系なら同志社大学神学部などが有名だが、米国の場合も同様にキリスト教の聖職者(・・カトリックなら司祭、プロテスタントは牧師、混同しないよう!)を養成するための学校なのである。

 ただ日本と違うのは、プロフェッショナル・スクールとして、あくまでも大学院(Graduate School)としての位置づけであって、大学学部(Undergraduate School)ではない。あくまでもプロの聖職者、すなわち宗教界におけるリーダーを養成することが、存在理由の第一にある。

 ハーバードに限らず、米国の大学はもともとプロテスタントの聖職者養成が建学の第一歩にある。ちなみに自己啓発書の古典『自己信頼』の著者ラルフ・ウォルドー・エマソンもまた、ハーバード大学神学大学院を卒業して牧師になっている(・・その後、教会から離れている)。

 これはイェール大学の場合も同じであり、こういった東部の名門大学は、いずれも米国独立よりも長い歴史をもち、欧州人にっとっての新天地である米国での宗教界のリーダーを養成してきた。米国が宗教国家である基礎を担ってきたいっても過言ではない。米国について考える際にきわめて重要なファクターである。

 日本語でプロフェッショナルとは何か、というテーマを扱った本には必ず書かれているはずだが、プロフェッションは動詞プロフェス(pro-fess)からきており、con-fess などと語根を共有し、もともと宗教的な意味合いが先にあり、信仰を告白する、というのが原義である。

 したがって、プロフェッショナルな職業従事者は、きわめて高い倫理的な姿勢が求められるのであり、医学、法学のみならず、ビジネスにおいても本来はいうまでもないことなのだ。こう考えると、プロフェッショナル・スクールの最初に神学大学院がくるのは当然のことであろう。
 
 ハーバード・ディヴィニティ・スクールHDS:Harvard Divinity School)自体は1816年の創立だが、神学教育自体は1636年の Harvard College 創設からの歴史をもち、実質的に最古のプロフェッショナル・スクールである。

 ハーバード・メディカル・スクールHMS:Harvard Medical School)は1782年、ハーバード・ロースクール(Harvard Law School)は1870年代の創設、そしてハーバード・ロー・スクール(HBS:Harvard Business School)は1908年創設である。

 ケネディ・スクールの名で有名な行政大学院は1936年の創設で、Harvard Kennedy School of Government が正式名称である。

 これらはみな大学院であり、全米各地のさまざまな学部の卒業生が入学することとなるが、学部であるハーバード・カレッジ(Harvard College)とは区別しなければならない。前者の大学院出身は職業上のエリートであるが、本当のエスタブリッシュメントはカレッジ卒業生であることに注意しておきたい。

 前大統領のジョージ・ブッシュ Jr. は米国大統領としては初のハーバード・ビジネススクール卒業生であるが(・・オバマもそうだが大半がロースクール卒業者か弁護士出身)、学部はイェール大学であり、こちらのほうが実ははるかに意味合いが大きいのである。しかもスカルズ&ボーンというフラタニティに属していたことも。

 高度な職業教育と教養教育(liberal arts education)は区分されている。 



ユダヤ系米国人の新聞記者によるハーバード・ディヴィニティ・スクール体験記

 ハーバード・ディヴィニティ・スクールについては、日本人卒業生はいるようだが、日本語で書かれた本は、たぶんないと思う。(注:付記に書いたが、日本の宗教学者が体験記を書いていることがあとからわかった)。

 今回紹介する Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992 は、1992年当時米国でベストセラーになっていたようで、ニューヨーク市内の新刊書店の店頭でみつけて購入したものである。M.B.A.の授業が完了してあとは卒業式に出席するだけとなっていたので、さっそく読んでみたら、これが実に面白い内容で、3日ほどで読了した。

 著者は、「ニューヨーク・タイムズ」の記者で宗教担当になった、正統派ユダヤ教徒(Orthodox Jewish)の男性である。新聞社から一年間の休暇をとってハーバード・ディヴィニティ・スクールに入学し、そこで体験した授業や生活を283ページの本にまとめたものだ。ハーバードに GOLD ではなく、GOD を探しにいったあるユダヤ人の体験記ということになるが、名字のなかにすでに GOLD が含まれるから、彼にはその必要はなかったのだろう。

 ハーバード・ディヴィニティ・スクールはもともとプロテスタントのキリスト教の聖職者を養成するための学校だったのだが、著者が入学した当時すでにキリスト教にこだわらず、幅広く宗教全般について研究し、宗教界のリーダーとして活躍する人たちに開かれたものとなっていたようだ。

 著者もここで、自分の宗教である正統派ユダヤ教だけでなく、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、イスラーム、アフリカの諸宗教を学び、自らの信仰を再考し、自らの信仰をさらに確固としたものにすることができたという。

 この文章を書くために amazon.com で本書を検索してみたら、まだまだ増刷されて現役の出版物であることに安心した。著者はその後、ユダヤ教徒の生活についてなどの本を出版しているようだ。

 本書のなかで面白かったは、米国でもハーバードを卒業したというと、ビジネス・スクールを卒業したと思い込む人が多いらしく、それはずいぶん給料も上がったでしょう、という反応が返ってくることが多かったという一節だ。

 米国でもディヴィニティ・スクールの知名度は、あまり高くないということなのだろう。その意味でも貴重な体験記であるといえるわけだ。

 参考までに目次を日本語で紹介しておこう。
 
イントロダクション
  1. オリエンテーション
  2. 最初の日々 
  3. 霊性 
  4. 原罪 
  5. 真理(Veritas) 
  6. ヒンドゥー教 
  7. 仏教 
  8. 安息日(サバト)のキャンドル 
  9. カトリック 
 10. 正統 
 11. ニューヨーク・タイムズとユダヤ教 
 12. その他のキリスト教諸派 
 13. 学生生活 
 14. リポーティング101 
 15. アフリカの諸宗教 
 16. イスラーム 
 17. 宗教界の女性 
 18. 新約聖書 
 19. 卒業 
 20. 卒業後

 新聞記者が宗教の世界に飛び込んで体験取材を行った例は、日本でも毎日新聞の故佐藤健記者がおり、『ルポ仏教-雲水になった新聞記者-』(佼成出版社、1986)から始まった仏教探求のルポは、高野山大学によるラダックでのチベット仏教調査への同行の記録のほか量産されている。この人の著作は1990年代にずいぶん読んだ。

 本書の著者 Ari Goldman(・・ちなみにヘブライ語で ari とはライオンのこと)の正統派ユダヤ教は、ユダヤ教のなかでももっとも保守的なもので、この立場にあった著者がデイヴィニティ・スクールで触れることになった世界のさまざまな宗教に対する驚きや知的好奇心が、ユーモアまじえた飾らない筆致で描かれた本書は、出版以来18年ものあいだロングセラーとして生きている本である。

 残念ながら日本語訳はないし、今後も翻訳されることもないだろうが、もし興味があれば、読んでみるといいと思う。

 9-11以降、米国における宗教状況も大幅に変化しているだろうが、こういう本がロングセラーとして読まれているということは、ユダヤ系市民以外にも読者がいるということで、米国もまだまだ"開かれた社会"であることを示しているのではないだろうか。


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<付記>

 14歳で出家して、禅寺に20年間いたという異色の宗教学者・町田宗鳳(まちだ・そうほう)氏もハーヴァード・ディヴィニティ・スクールを卒業していることを知った。

 『文明の衝突を生きる-グローバリズムへの警鐘』(町田宗鳳、法蔵館、2000)のなかで、自叙伝風にその当時の人生を振り返っている。34歳での米国での大学院生活がかなり過酷なものであったことが回想されている。 

(2010年7月22日 記す)


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<付記2> リンク先を最新情報に更新したほか、映画『ペーパーチェイス』のYouTubeを導入した(2021年1月21日 記す)。


<付記3> 自己啓発書の古典『自己信頼』の著者ラルフ・ウォルドー・エマソンはハーバード大学神学大学院出身の牧師だった

拙著『エマソン 自分を信じる言葉(エッセンシャル版)』(佐藤けんいち編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2025)で取り上げた自己啓発書の古典『自己信頼』の著者ラルフ・ウォルドー・エマソンはハーバード大学神学大学院出身の牧師であった。

詳しくは、カバー裏の「エマソンのプロフィール」をご覧いただきたい。以下に再録しておく。

ラルフ・ウォルドー・エマソン Ralph Waldo Emerson(1803~1882) 
19世紀アメリカを代表する哲学者で著作家。ボストンに生まれ、ハーバード大学神学部卒業後に牧師となるが、教会の形式主義に懐疑的になり29歳で教会から離れる。その後、牧師から講演家に転身、「アメリカの知的独立」を先導する役割をはたし、「コンコードの哲人」と偶像視されるに至る。代表作『自己信頼』では、内面の声に従い自分を信頼することの重要性を説き、アメリカ個人主義の確立に大いに貢献した。ニーチェやトルストイ、ソローやガンディー、さらには徳富蘇峰や鈴木大拙など明治時代の日本人にも多大な影響をあたえている。個人のもつ無限の可能性を説いたことで、自己啓発思想の源流と位置づけられている。

 

日本での知名度が低いので、あえて「ハーバード大学神学大学院」と書かずに「ハーバード大学神学部」としておいたが、エマソンは Harvard Divinity School を卒業してユニテリアン派の牧師となっている。当時の神学大学院は牧師養成学校として機能していた。

今回、本文にエマソン関連の加筆を行った。

(2025年2月14日 記す)


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PS. 読みやすくするために本文の改行を増やし、小見出しをあらたに付け加え、その後に執筆した「ブログ内関連記事」の項目も付け加えた。ただし、本文の文章にはいっさい手を入れていない(2013年6月17日 記す)。


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