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2022年7月22日金曜日

書評『カーネル・サンダース ー 65歳から世界的企業を興した伝説の男』(藤本隆一、文芸社文庫、2016)ー KFC は 65歳から始まった! 90歳まで「生涯現役」を貫いた起業家の人生

 

もっとも有名なアメリカ人といっていいだろう。カーネル・サンダースを知らない日本人はいないはずだ。 

日本中どこにでも立っているサンタクロースのような人形。すっかり日常の風景に溶け込んでしまっているので、とりたてて気がつくこともない存在。その人がアメリカ人であるということすら忘れているような存在。 

だから、カーネル・サンダースの本名が、ほんとうは何というのかなど、ふだん考えることもない。わたしもまた、その人がどんな人生を送った人だったのか考えたこともなかった。 

そんなとき目に飛び込んできたのが、この本の帯だ。大きな活字で記された「65」という数字。「ケンタッキー・フライド・チキンを65歳で創始した男の知られざる生涯」とある。 

この本の存在を amazon で知ったことで、がぜん興味がわいてきた。「65歳」は終わりではない、始まりなのだ、と。 

(1970年代のカーネル・サンダースは80歳代 Wikipediaより) 


さっそく『カーネル・サンダース 65歳から世界的企業を興した伝説の男』(藤本隆一、文芸社文庫、2016)を取り寄せて読んでみたが、じつにいい内容の本だった。おお、そうか、カーネル・サンダースは、そんな人だったのか!  


■カーネル・サンダースはこんな男だった

65歳でケンタッキー・フライド・チキンを創業したカーネル・サンダースだが、カーネル(Colonel)は本名ではない。「大佐」という意味の名誉称号だ。ここまでは知っていた。だが、本名ハーランド・デイヴィッド・サンダースの人生は、まさに波瀾万丈そのものであった。 

1890年に生まれて、6歳で父親を亡くしたことから始まった苦労多き人生。中学校を中退して14歳から始まった職業人生。 30歳までに、いったい何回転職したのかというほどだったが、1912年にスタンダード石油系のガソリンスタンド経営を始めて、ようやく腰を落ち着けることができた。

人に使われるのではない、一国一城の主としての人生が、かれには合っていたのだ。まずは、自分がどんな人間なのか知ることが大事なのだ。 

ところが、1929年に始まった「大恐慌」で、財産を失うことになった。外部環境の激変に飲み込まれたのだ。だが、捨てる神あれば拾う神あり。こんどはシェル系列のガソリンスタンド経営の道が開かれた。 

「他の人が喜ぶことを真心をこめ、一所懸命に働く」というサービス精神の徹底が成功をもたらす。ガソリンスタンドに併設した食堂が大繁盛、その後レストラン経営専業になって成功する。国道の分岐点という立地条件にめぐまれたおかげでもあった。 

ところが、49歳でふたたび逆境に。この頃にフライド・チキンのレシピを完成させたらしいが、レストランを火災で失ってしまったのだ。 

このピンチは、レストランの再建と大型化で乗り越えることができた。保険に入っていたからでもあるが、顧客からの熱い支持があったから、それに応えなければならないという使命感があったためである。 

レストラン経営は順調に進んだが、第2次世界大戦後の1950年代には、ふたたび外部環境の激震にさらされることになる。アイゼンハウワー大統領が打ち出した「ハイウェイ構想」(・・アル・ゴアの「情報ハイウェイ構想」は、これのネット版)によって、レストラン立地の優位性が失われてしまったのだ。 

国道沿いの立地は、かえって不利に働き客は激減、ついにはレストランを安値で手放すことになってしまったのだ。 このとき65歳、年金生活に入るかと考えたものの、毎月の年金はたったの105ドル! 

1956年とはいえ、いくらなんでもこれでは暮らしていけない。 そこで一念発起したのである。追い込まれた末にアイディアが思いついたのである。

そうだ、自分が開発して好評だたったフライド・チキン秘伝のレシピをレストランで採用してもらい、その使用料をいただくというのはどうか、と。 ここからが、ほんとうの始まりであった。




■65歳から人生が始まった

65歳で終わったかに見えた人生は、65歳から始まったのである。フランチャイズビジネスでの大成功となったのだ。 

もちろん、軌道に乗るまでは苦難の道のりであったことはいうまでもない。だが、65歳での転機がなかったなら、現在のケンタッキー・フライド・チキンはなかったのである。カーネル・サンダース人形が、日本中のいたるところに立っているなんてこともなかったのである。人間万事塞翁が馬である。 

逆境につぐ逆境を乗り越えた、七転び八起きのまさに多事多難な人生であったが、90歳で天寿を全うするまで働き尽くした一人の男の人生。ああ、そんな人生もあったのだ、と。まさに「生涯現役」を地で行くような一生であった。 

ケンタッキー・フライド・チキンが1970年に日本に進出して、すでに半世紀(!)以上もたっているが、元社長によれば、日本がもっともオリジナルレシピに忠実だとカーネル・サンダース自身のお墨付きを得ているのだそうだ。 

カーネル・サンダース人形の季節ごとの着せ替えはローカライズされていても、味はオリジナルに忠実。なるほど、そんなところに日本市場で完全に定着した秘密があるのだな、と。 

わたし自身は、そのオリジナルの味が正直いって好きではないのでほとんど食べないのだが、そういう趣味嗜好にかんすることは別にして、カーネル・サンダースの人生には大いに感じるものがあった。

65歳からが本当の人生なのだ、と。 




目 次
プロローグ 
第1章 転職を繰り返す半生
第2章 サンダース・カフェに寄らずに旅は終わらない
第3章 秘伝の調理法
第4章 65歳からの再出発
第5章 ケンタッキー・フライド・チキン
第6章 引退は考えない
カーネル・サンダース年表
エピローグ 大河原毅(元日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社代表取締役社長)インタビュー


著者プロフィール
藤本隆一(ふじもと・りゅういち)
1962年、神奈川県生まれ。


<参考資料>




The Decline of KFC...What Happened? (YouTube  Company Man, 2022年10月17日)
Fried Chicken Wars: The Fall of KFC in America(YouTube  MBA Moderna, 2022年10月10日)
・・海外展開が米国を上回る状況。米国内では競合激化などの理由で店舗数が減少傾向

・・賀来賢人演じるカーネル・サンダースがファニー

(2023年8月25日、10月1日 情報追加)


<ブログ内関連記事>



・・そういえば、アンドリュー・カーネギーも「65歳から」あらたに「慈善事業家」としての人生を開始したのだ。

・・米軍基地内にはマクドナルドはあるがKFSはなかった

(2022年7月25日 情報追加)


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2017年8月5日土曜日

映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2016年、米国)を見てきた(2017年8月4日)ー ビジネスパーソンなら絶対に見るべき「生きたケーススタディ」


映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2016年、米国)を有楽町の角川シネマで見てきた(2017年8月4日)。この映画はじつに面白い。ビジネスパーソンなら絶対に見るべきだ。

マクドナルドの「ファウンダー」(=創業者)であるアメリカ人起業家レイ・クロックの伝記映画である。エンターテインメント作品としての完成度は高く、ものすごい密度の濃い内容で、あっというまに115分がたってしまう。

起業家のレイ・クロックは「フランチャイズ」の仕組みをつかって、マクドナルドを米国全体に急拡大させ、さらには世界全体に拡大して「帝国」を築いた人だ。

映画のタイトルである「ファウンダー」とはレイ・クロックのことを指している。だが、最初のアイデアそのものは彼自身のものではなかった。

1954年、なんと52歳(!)のとき、セールス活動をつうじて偶然知ったのが、南カリフォルニアのサン・バーナデイーノでマクドナルド兄弟が経営するハンンバーガーショップ。直観的にピンときた彼は、セールス中の中西部から西海岸までクルマを飛ばす。思い立ったら即行動なのだ。

徹底的にムダを排除した効率的な運営と、合理的なセルフサービスでコスト削減と高品質を両立させているコンセプトに驚く。しかも、1954年時点でハンバーガーはアメリカ国内でもポピュラーではなかったのだ。

マクドナルド兄弟が追求していたのは、徹底した「標準化」だ。動作研究による合理的な導線設計。まさにアメリカを世界最強の製造業立国に押し上げた「テイラー主義」の精神であり、量産体制を確立したフォーディズムのサービス産業への応用だ。1929年の大恐慌後を経て、兄弟がたどりついたコンセプトである。

それが「原石」であることをただちに認識し、そこにビジネスチャンスを見いだしたレイ・クロックは、マクドナルド兄弟を熱心に口説き落として、フランチャイズ拡大にエネルギッシュに動きだした。その意味で、「ファウンダー」はマクドナルド兄弟ではなく、レイ・クロックであったといって間違いではないわけだ。


レイ・クロックが価値を見いだしたのは仕組みだけではない。「McDonald’s」(=マクダーノーズ)という「名前」そのものに価値を見いだしたのだ。そして「ゴールデンアーチ」というM字のロゴ。これらは、ブランドを構成する要素であり、知的財産権そのものだ。教会の十字架、裁判所の米国国旗に並ぶ存在にしてみせるのだという意気込みがまたすごい。

南カリフォルニアで生まれたコンセプトは、中西部イリノイ州からフランチャイズは始まった。ローカルからナショナルへの拡大。地域繁盛店から全国展開へ。

フランチャイズ拡大プロセスのなか、マクドナルドの創業者兄弟とフランチャイズによる拡大を精力的に推し進めるレイクロックは、ついに決定的対立に至る。この関係は、発明家と事業家の関係に似ているかもしれない。将来像の違いが決裂を生んだのだが、その結果はどうなったか。これは言うまでもないことだ。

そして、成功の秘密は「根気」(persistence)に尽きると、とレイ・クロックは何度も繰り返す。つまり、絶対にあきらめない、ということだ。それはこの映画を見ていれば、おのずから納得させられる。リスク・テーカーであり、ルール・ブレイカーであり、ゲーム・チェンジャーだったレイ・クロックならではの箴言だ。

セールスマンにとってのポジティブ・シンキング、効率的店舗運営、フランチャイズ・システム、ネーミングとロゴで表現されるブランドと知的財産権、不動産ビジネスとファイナンスなどなど、ビジネス関連ネタがてんこ盛り。

スピーディーな展開とマシンガントークのようなアメリカ英語が、いやがおうでもテンションを盛り上げる。 この映画はビジネスパーソンなら絶対に見るべきだ。いや、アメリカ社会やアメリカ文化を知るうえでも中身の濃い映画だといえよう。

超おすすめ。


(米国版ポスター)

PS 米国版のポスターと比べると、日本版のポスターは、主人公のレイ・クロックとM字「ゴールデンアーチ」の位置が微妙に違う。日本版ポスターは、なんだかM字が道化がかぶるフールズ・キャップみたいに見えてしまうのだが、日本版の製作を担当したデザイナーは気がついているのだろうか?






<関連サイト>

映画『ファウンダー』 公式サイト

映画『ファウンダー』 FBページ



柳井正と孫正義が憧れた「マック創業者」「クロックは私にとって恩人です」(プレジデント・オンライン、2017年8月5日)



<ブログ内関連記事>

プラクティカルな観点から日本語に敏感になる-藤田田(ふじた・でん)の「マクド」・「ナルド」を見よ!
・・映画のなかでも「マクダーノーズ」という名前が重要だとピンときたとレイ・クロックは協調している。マクドナルドを日本で成功させた藤田田(ふじた・でん)もまた、レイ・クロックに勝るとも劣らない「怪物」であっった。しかも「知ある偽悪派」の怪物であった

世の中には「雑学」なんて存在しない!-「雑学」の重要性について逆説的に考えてみる
・・藤田田の『ユダヤの商法』について取り上げている

書評 『マクドナルドで学んだすごいアルバイト育成術』(鴨頭嘉人、新潮文庫、2015)-「仕事をつうじて成長する」、ということ

深夜のマクドナルドは「社会インフラ」である!-これがほんとの「社会貢献」ではないか?

日米親善ベース歴史ツアー」に参加して米海軍横須賀基地内を見学してきた(2014年6月21日)-旧帝国海軍の「近代化遺産」と「日本におけるアメリカ」をさぐる
・・米軍基地内のマクドナルドについて。ドナルド君がいる!

合掌ポーズの「ワイ」はクセになる-タイのあれこれ(番外編)
・・タイのマクドナルドではドナルド君はワイ(合掌)で迎えてくれる。これぞローカリゼーション!

ペスタロッチは52歳で「教育」という天命に目覚めた
・・人生に遅すぎるということはない!

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