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2012年12月1日土曜日

書評 『起承転々 怒っている人、集まれ!-オペラ&バレエ・プロデューサーの紙つぶて156- 』(佐々木忠次、新書館、2009)-バブル期から20年間の流れを「日本のディアギレフ」が綴った感想は日本の文化政策の欠如を語ってやむことがない


日本舞台芸術振興会(NBS)の会員だったので、『起承転々 怒っている人、集まれ!-オペラ&バレエ・プロデューサーの紙つぶて156- 』(佐々木忠次、新書館、2009)は、「著者謹呈」としていただいていた。

著者の佐々木忠次氏は、30歳のときに引き受けた東京バレエ団を世界水準のバレエ・カンパニー(=バレエ団)に育て上げ、出演機会を増やすために積極的に海外公演を企画し実行してきた辣腕プロデューサーであり、国際文化交流としてオペラの引っ越し公演を日本で成功させてきたインプレッサリオでもある。

「日本のディアギレフ」と呼ばれてきたのはそのためだ。ディアギレフとは常設バレエ団であるバレエ・リュス(=ロシア・バレエ団)の創設者であり、フランスを中心にロシアバレエの一大旋風を巻き起こした立役者である。1920年代の代表的人物である。

先日のことだが、プロのバレエ・ダンサーとのジョイントセミナーを行うにあたってバレエ関連本を読んでいたのだが、同じ著者による『闘うバレエ』を読んだことをきっかけに、そういえば 『起承転々 怒っている人、集まれ!』をもっていたことを思い出して読んでみることにした。頂いてからすでに4年もたっていたが、これがじつに面白い。

しかし、面白いといっても、それは楽しいということと同じ意味ではない。「面白うてやがて哀しき・・」というよりも、著者の怒りがそのままストレートに伝わってくる内容の一冊なのだ。

本書は、日本舞台芸術振興会(NBS)が主催するオペラやバレエ作品の案内を兼ねたニューズレターに著者が執筆してきた文章を、約20年分まとめて一冊にしたものである。

1989年から2008年にわたる20年間の流れを「日本のディアギレフ」が綴った感想は、プロデューサーとしてあくまでも「民間人」の立場からで文化事業を支えてきた苦労と自負がなせる発言の数々であり、バブルとその崩壊を挟んだこの20年間が、文化芸術の観点からみたらどういう時代だったのかが手に取るようにわかる貴重なドキュメントでもある。

バブル期に広告代理店などによって引っかき回され混乱したバレエやオペラの世界、理念なき国家主導と民業圧迫(・・まさに経済学でいうクラウディングアウトだ)、官尊民卑、官と癒着するマスコミ・マスメディア、振付家の舞踊著作権管理、ハードにばかりカネをかけてソフトを軽視するハコ物行政への怒りと苦言、などなど。これが、文化国家を標榜する日本の現実である。

フランスをはじめとする西欧諸国のような「国家としての文化戦略」が欠如しているのである。明治維新によって近代化=西洋化を選択した日本も、学校教育においては音楽教育を全面的に西洋化したにもかかわらず、制度の背景は完全に取り入れることはしなかったためである。

国家財政による助成が基本のフランス、民間からの寄付が中心の米国、そのどちらでもない中途半端な日本。舞台芸術のマネジメントから、日本の近代化のいびつさも見えてくる。

著者は、このような批判や怒りをほぼ毎回にわたって書き続けている「闘うプロデューサー」なのだが、みずからおカネを払って観賞してくれる観客のため、という軸がブレることなく一貫しているからこその感想であるわけなのだ。

「すぐれた舞台を提供することはもとより、入場料を少しでも下げ、観客によりしたしまれるようにつとめ、より多くの人々に劇場に足を運んでもらうこと」(P.334)

これが著者の使命である。そのためには家もクルマも所有せず、有言実行と率先垂範を貫いて走り続けてきたと書く男の後半生の記録である。

文化芸術にかんしてのこの国のいびつさを知る上でも、読んで損はないというよりも、ぜひ読んでほしい本である。


<補足説明>舞台芸術を支える基盤について

オペラやバレエなどの舞台芸術が、その他の音楽ジャンルやスポーツとは根本的に異なるのは、舞台の客席数に制約される面も大きい。数万人の集客が可能なロックコンサートやスポーツイベントは、まさに広告代理店的な興業が可能だが、2,000席前後の舞台ではパトロン抜きでは、もともと成立可能ではなかったのだ。王侯貴族によるパトロンが消えたのちは、国家がそれを代替するよになったというのがフランスを中心とする欧州の状況である。西洋文明の枠組みにありながら後進国であった米国は、国家助成よりも民間による寄付を中心に文化芸術を支える財政問題を解決してきた。近代化とともに西洋文明を受け入れた日本は、音楽学校はつくったものの職業としての音楽家を成立させる制度的な枠組みをつくらなかったことが現在に至るまで尾を引いている。







目 次

*一部を抜粋すると以下のような感じになる

プロデュース手腕三十四年間への酬い
入場料は高い!?
引越し公演とは!?
オペラハウスは誰のもの!?
鉢巻きコンサート!?
ブーイング狩り
怪文書
ベスト5を裏からみれば…
企業の文化活動支援

詳細な目次は、出版元である新書館のサイトを参照
http://www.shinshokan.co.jp/book/978-4-403-23111-7/

著者プロフィール  

佐々木忠次(ささき・ただつぐ)
1933年東京生まれ。日本大学芸術学部演劇科卒業。1964年に東京バレエ団を創立、主宰。国内はもとより23次689回にわたる海外公演を行い、世界でもその実力が認められるインターナショナルなバレエ団に育て上げた。また、1981年には日本舞台芸術振興会(NBS)を設立。ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座バレエ、ロイヤル・バレエなど、世界の一流オペラ、バレエを次々と招聘し、公演を成功させてきた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。2016年4月30日没。享年83


PS 『孤独な祝祭-佐々木忠次 バレエとオペラで世界と闘った日本人-』(追分日出子、文藝春秋、2016)が刊行


(出版社による作品紹介より)

「諦めるな、逃げるな、媚びるな」──こんな日本人がいた──極東の島国から「本丸」バレエの殿堂、パリ・オペラ座に討ち入り。偏見と嘲笑は一夜にして喝采へと変わった。誰もが不可能と信じていたことを、執念の交渉で次々現実にしてきたタフネゴシエーターは、2016年4月30日、一人ひっそりとこの世を去った。
(・・中略・・)
劇場に生きた男の孤独な闘い。その誰も知ることのなかった舞台裏が、徹底取材により、今、明らかになる。」



(2016年10月26日 記す)



<ブログ内関連記事>

バレエ関係の文庫本を3冊紹介-『バレエ漬け』、『ユカリューシャ』、『闘うバレエ』

【セミナー終了報告】 「異分野のプロフェッショナルから引き出す「気づき」と「学び」 第1回-プロのバレエダンサーから学ぶもの-」(2012年11月29日開催)

書評 『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』(岡田芳郎、講談社文庫、2010 単行本 2008)





(2012年7月3日発売の拙著です)







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2012年11月30日金曜日

バレエ関係の文庫本を3冊紹介-『バレエ漬け』、『ユカリューシャ』、『闘うバレエ』

バレエというと、どうしても敷居が高いのか、あるいは女の子のお稽古事という位置づけのためか、なかなか日本では一般的な大人の楽しみとはなっていないようです。

そのように言うわたし自身も、ナマの舞台を観賞したのは5回くらいでバレエのファンではありません。舞台をみた回はコンサートやオペラのほうが多いでしょう。バレエを稽古したことは、いあまでまったくありません。

たまたま知り合ったプロのバレエダンサーでバレエ教師の河合かや野さんとのジョイントセミナーを開催するため、・・・・

いままで買ったまま読んでいなかったバレエ関係の文庫本をこの機会に一気に読んでみました。みなさんにとってのバレエ入門になるかもしれませんので、紹介してみたいと思います。


まずは、『バレエ漬け』(草刈民代、幻冬舎文庫、2010 単行本初版 2006)から。


バレエダンサーというよりも、いまではすかり女優として有名な草刈さんですが、ぞのむかし雑誌のインタビュー記事で「バレエに専念したいので高校中退した」という発言を読んで、「へえ~すごいなあ」と思った記憶があります。

そんな彼女が現役のバレエダンサーで「バレエ漬け」だった頃に書かれた半生記。彼女もまた幻冬舎社長の見城徹氏に口説き落とされたようですが、表現者というものは自らのカラダを使う場合も、文筆による場合も基本的に同じなのだなという印象をもちます。


つぎに、『ユカリューシャ-不屈の魂で夢をかなえたバレリーナ-』(斎藤友佳理、文春文庫、2010)


バレーダンサーには怪我はつきものですが、舞台での大怪我から奇跡的に復活したのが斎藤友佳理さん。ロシア人のバレエダンサーと結婚し、ロシア風にユカリーシャという愛称をもつバレエダンサーの半生記。

バレエの怪我の治療にかんしては、日本よりもロシア(その当時はまだソ連)のほうがはるかに上であるという点が、つよく印象に残ります。

オリジナルの単行本の副題は「奇跡の復活を果たしたバレリーナ」世界文化社、2002)となってましたが、その後について一章を書き足したものが文庫版となっています。

大怪我を乗り越えて復活し、『オネーギン』を踊るという夢を実現できたことによって「不屈の魂で夢をかなえたバレリーナ-」となったわけです。わたしは、ロシアの文豪プーシキンの代表作が原作のバレー 『オネーギン』は、ウィーン国立歌劇場で見ましたがすばらしい作品でした。


そして、『闘うバレエ-素顔のスターとカンパニーの物語-』(佐々木忠次、文春文庫、2009 単行本初版2001)


斎藤友佳理さんも所属していた東京バレエ団を率いて、日本のバレエを世界レベルにまで引き上げた功労者であるプロデューサーの佐々木忠次氏の回顧録です。

「日本のディアギレフ」と自他ともに認められている佐々木忠次氏が、若干30歳で東京バレエ団の再建を引き受け、日本の因襲的な状況と闘い続けた記録です。

華やかな舞台の舞台裏では何が行われているのかについて知ることができるだけでなく、あくまでもおカネを払って観賞してくださる観客のためにという確固とした視点から一貫して活動を続けてきたことに敬意を表したくなります。

バレエの熱心なファンでなければ、あまり興味のない場面もなくはないですが、バレエの本場であるフランスやロシアのような国家レベルの取り組みとは異なり、舞台芸術をつうじて敗戦後の日本の文化レベル向上に貢献したのは、じつは佐々木氏のような民間人であったことを知ることは大事なことだと思います。


このほか、バレエの入門書やバレエの歴史について書かれた本はたくさんありますが、ここでは割愛させていただきましょう。最近はインターネットでもいろいろ見ることができます。諸外国のバレエ事情については、『パリ・オペラ座のすべて』や、『バレエ・カンパニー』などが参考になるかもしれません。

むかしはバレエをテーマにした映画やマンガからバレエの道に入ったという人も少なくなかったようなのですが、最近はどうやらそうでもないようです。ほんとうはナマの舞台を見るにしくものはないといっていいでしょう。

とりあえず映像資料以外で簡単に入手できるバレエ関連本を文庫本で3冊紹介いたしました。文字から入ることが好きな人には、いずれもおすすめの内容の本です。







<ブログ内関連記事>

【セミナー終了報告】 「異分野のプロフェッショナルから引き出す「気づき」と「学び」 第1回-プロのバレエダンサーから学ぶもの-」(2012年11月29日開催)

【セミナー告知】 「異分野のプロフェッショナルから引き出す「気づき」と「学び」 第1回-プロのバレエダンサーから学ぶもの-」(2012年11月29日開催)

Vietnam - Tahiti - Paris (ベトナム - タヒチ - パリ)
・・『パリ・オペラ座のすべて』の試写会に参加したことについて書いてある




(2012年7月3日発売の拙著です)







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