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2015年4月2日木曜日

「落語の原点 節談を聞く」(仏教伝道協会)にいってきた(2015年4月2日)― 熟練の話芸を LIVE で聴く。ナマの布教師の迫力は違う!



「落語の原点 節談を聞く」というイベントにいってきた(2015年4月2日)。東京・三田にある公益財団法人仏教伝道協会の主催で開催である。かつて三田にある会社で働いていた頃は、よく同僚と中華精進料理の昼食を食べに併設の菩提樹というお店にいっていた。訪問はじつにひさびさである。

ほんとうはイベントというよりも「特別仏教講座 花まつりイベント」という名の仏教講座であり、「落語の原点 説談を聞く」というタイトルにあるとおり、重点は落語よりも節談にある。節談(ふしだん)とは、とくに浄土真宗の布教師が行う説教のことである。

説法に、ときおり講談や浪曲のように節(ふし)をつけながら語り、身近な話題やたとえ話を織り込みながら浄土真宗の開祖である親鸞聖人(・・宗門では御開山様と呼ぶ)の教えをわかりやすく説いた語りのことだ。エンターテインメント的要素のつよい説法というべきか。

この節談が落語の原点となり、また落語が節談に影響も与えて現在にまで至っているわけだ。話芸の一つの頂点である「落語」と「説教」は真逆の関係にあるんじゃないの、というのが大方の反応だろうが、じつはそうではないのだ。落語の元ネタとなった『醒睡笑』(せいすいしょう)を編んだ安楽庵策伝は浄土宗の僧侶であった。
  
浄土真宗では、近代化のなかで教学面が前面にですぎて、一般衆生向けの節談は脇に追いやられていたようだが、ふたたび節談が活発になってきたらしい。

日系人社会への海外布教も含め、活発に布教や伝道を行ってきた浄土真宗ならではのもとといえるだろう。

そもそも仏教伝道協会じたい、浄土真宗の僧籍をもっていたミツトヨの創業経営者・沼田恵範氏が設立した団体であり、このイベントにおいても一般的な「仏教」そのものというよりも、南無阿弥陀仏の「お念仏」が支配する空間であった。わたし自身は門徒ではないが、かならずしも熱心ではないものの浄土系の家に生まれているので、抹香臭さにはとくに違和感はない。

当日のプログラムは以下のとおりである

<第一部>
「節談説教について」: 府越義博師 節談説教研究会事務局長
「落語と節談」: 桜庭尚吾師 浄土真宗本願寺派(西本願寺) 布教師
<第二部>
「節談説教」: 廣陵兼純(ひろおか・けんじゅん)師 真宗大谷派(東本願寺) 布教師


節談を聞いた2時間の感想を一言でいえば、さすが、ナマの布教師の迫力は違う!  

「落語と節談」のお題の桜庭尚吾師は、北海道の浄土真宗本願寺派(西本願寺)の布教師で、1964年(昭和39年)生まれ。僧侶らしくない洒脱な語りの布教師で、おもわず聞き惚れるような美声の持ち主。こういう人の説法なら、思わず引き込まれる人も少なくないはずだという感想。

前座という位置づけであるが、この前座(ぜんざ)というコトバは、節談の前座(まえざ)からきているらしい。ちなみに高座もまた節談が起源らしい。

そして真打ちは、「節談説教」というそっけないお題の廣陵兼純(ひろおか・けんじゅん)師真宗大谷派(東本願寺)の大ベテランの布教師、門徒地帯の北陸は能登の出身で現在78歳。

とてもその年齢に思われない情熱の形で、落語家のような噺と、浪曲師のようなだみ声が交互する語りは熟練の極みであり、おおいに堪能させていただいた。

「説教」というと、するのもされるのもいやなものといったイメージが一般にあるだろうが、「説教」のもともとの意味は「教えを説く」ということ。仏教でもキリスト教でも「説教」といえば、「ありがたい教えを説く」ことを意味している。
   
いかに「ありがたい教え」であっても、面白くなければ誰も身を乗り出して聞くことはない。だからこそ、浄土真宗の布教師は徹底的に話芸を磨いて「節談」を発達させてきたたわけだ。その「節談」から抹香臭さが消えてゆき、残ったのは「落語」だというわけなのだ。
 
今回のベテランふたりの布教師の「節談」は、腹の底から笑わせてくれただけでなく、人は一人で生きているのではなく生かされているということを無理なく感じさせてくれる内容であった。そして親鸞聖人もまた悩み迷う衆生の一人であったことを聴きながら「他力」の意味がストンと腑に落ちる構成。

真言宗や日蓮宗とは異なり、加持祈祷をいっさい否定している浄土真宗だからこそ、見えやすいビジュアルにたよることなく、節談という聴覚をつうじた説法の意味合いが大きいのだろう。

「百聞は一見にしかず」というが、「節談」はその真逆である。「百見は一聞にしかず」というべきあろう。文字を読んでアタマで理解するのではなく、耳で聴いてハラで感じるのが「節談」なのである。近代が終わったからこそ、節談が復活してきたのであろう。

そこにこそ、「節談」に限らず、口頭でなされるライブの説教や説法の意味があるのだ。


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<関連サイト>

DVD 節談説教布教大会(YouTube)
・・廣陵兼純(ひろおか・けんじゅん)師の節談

すねいるDVD「節談説教 広陵兼純 〜親鸞聖人お弟子 願成坊さま〜」 視聴版

落語説教 『芝浜』 と 節談合法 桜嵐坊
・・桜庭尚吾師の節談



<ブログ内関連記事>

「法然と親鸞 ゆかりの名宝-法然上人八百回忌・親鸞聖人七百五十回忌 特別展」 にいってきた

「築地本願寺 パイプオルガン ランチタイムコンサート」にはじめていってみた(2014年12月19日)-インド風の寺院の、日本風の本堂のなかで、西洋風のパイプオルガンの演奏を聴くという摩訶不思議な体験

「無憂」という事-バンコクの「アソーク」という駅名からインドと仏教を「引き出し」てみる ・・浄土真宗の西本願寺の大谷家に生まれた歌人・九條武子夫人について触れている

「説教と笑い」について
・・2010年3月7日に東京カテドラル聖マリア大聖堂で行われた、カトリック東京管区の「司祭叙階式」で体験。笑いなき説教は眠りを誘う?

イエズス会士ヴァリニャーノの布教戦略-異文化への「創造的適応」

タイのあれこれ (16) ワットはアミューズメントパーク
・・タイのお寺は日本のお寺が失った公共の集会所としての役割をいまでも果たしている
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2012年4月16日月曜日

書評『桜が創った「日本」ー ソメイヨシノ起源への旅』(佐藤俊樹、岩波新書、2005)ー この一冊で「ものの見方」が変わる本



日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本

日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本。ものの見方が変わる刺激的な内容の本である。

それが、本書『桜が創った「日本」ー ソメイヨシノ起源への旅』(佐藤俊樹、岩波新書、2005)だ。

桜と日本。この切っても切れない関係については、これまでにも無数に語られてきた。

日本人なら桜の季節に何も思わないことはない、というほど密接な関係にあるからだ。なんだか日本人のDNAに刻み込まれているのではないかと思うほど、無意識のレベルまで入り込んでいる桜

春になると日本人なら誰もが桜について思い、桜について語る。そしてその語りはひとさまざまでありながら、定型化した語りのパターンをもつ。

だが現在、日本の桜の8割を占めるソメイヨシノは、明治になってからエドヒガンとオオシマの交配によって発生した新品種である。接ぎ木によって増えていった種であり、現代風の表現なら、クローンとして増殖していったという言い方も可能だ。

著者は、ソメイヨシノの起源と急速な普及について、さまざまな文献をあたって探っているが、「日本近代そのものであったソメイヨシノ」に投影されているものは、じつはソメイヨシノ出現以前の日本人の美についての観念(=イデア)であるという。この著者の語りには納得させられるものがある。現実が理念を後追いして実現したのがソメイヨシノであり、ソメイヨシノについての語りが、ふたたび過去に投影されているのが「桜についての語り」なのだ。だから、単純に「創られた伝統」だと言ってしまうのも乱暴なのである。

「ソメイヨシノ以前の主流は山桜だった」という語りは、わたし自身もこれまで何度となくしてきたものだが、「山桜」についての語りじたいが、「始原」をもとめる心性の働きにすぎないことを本書で知ることになる。ああ、なんとやっかいなことよ。

やや小難しい議論が繰り返し、繰り返し延々とつづくなあと思う読者もすくなくないだろうが、第一章だけでも読めば、間違いなくものの見方が変わるはずである。有名な西行法師の和歌も、王朝時代以来の花を歌った和歌も、解釈を変える必要がでてくるだろう。

しかし、翌年に桜の花が咲くのを見たときには、また無意識のうちに定型的な語りに身をゆだねているのかもしれない。それほどの呪縛力のあるのがソメイヨシノである。

本書には言及がないが、日本で製作されたアニメ作品にでてくるのも明らかにソメイヨシノだ。もしかするとすでに日本を越えてそのイメージは拡散しているのかもしれない。ワシントンの桜だけでなく、世界中に偏在するソメイヨシノのイメージ。

ここまで繁殖に成功したソメイヨシノサクラは、果たして今後どのようになっていくのだろうか? 「大学の秋入学」の議論が話題になるこの頃、昭和時代以降、出会いと別れの季節を象徴してきた桜の意味合いも変化していくことになるのかもしれない。

さまざまな意味でじつに知的に刺激的な内容の本である。ぜひ一読をすすめたい。


<初出情報>

■bk1書評「日本人が日本語で「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本」投稿掲載(2011年4月16日)
■amazon書評「桜について語る」ということの意味を社会学者が解き明かした本」投稿掲載(2011年4月16日)


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著者プロフィール

佐藤俊樹(さとう・としき)
1963年広島生まれ。1989年に東京大学社会学研究科博士課程退学。現在は、東京大学総合文化研究科助教授。専門は、比較社会学、日本社会論。著書に、『近代・組織・資本主義』(ミネルヴァ書房)、『ノイマンの夢・近代の欲望』(講談社選書メチエ)、『不平等社会日本』(中公新書)、『00年代の格差ゲーム』(中央公論新社)ほかがある(岩波書店サイトより)。

目 次

まえがき
Ⅰ. ソメイヨシノ革命
-1.  「桜の春」今昔
-2. 想像の桜/現実のサクラ
Ⅱ.  起源への旅
-1. 九段と染井
-2. ソメイヨシノの森へ
-3. 桜の帝国
-4. 逆転する時間
Ⅲ.  創られる桜・創られる「日本」
-1.  拡散する記号
-2. 自然と人工の環
あとがき
桜のがいどぶっく・がいど



(散りかけのソメイヨシノは山桜のようだ。これまた善きかな、善きかな)


<ブログ内関連記事>

「散る桜 残る桜も 散る桜」 (良寛)
・・2011年4月に書いた文章。「山桜」という思い込みが見られる

「特攻」について書いているうちに、話はフランスの otaku へと流れゆく・・・
・・「特攻」と「散る桜」

八重桜は華やかで美しい

「桜餅のような八重桜」-この表現にピンとくるあなたは関西人!

書評 『正座と日本人』(丁 宗鐵、講談社、2009)-「正座」もまた日本近代の「創られた伝統」である!

「恵方巻き」なんて、関西出身なのにウチではやったことがない!-「創られた伝統」についての考察-

皇紀2670年の「紀元節」に、暦(カレンダー)について考えてみる
・・同じく「創られた伝統」について

バレンタイン・デーに本の贈り物 『大正十五年のバレンタイン-日本でチョコレートをつくった V.F.モロゾフ物語-』(川又一英、PHP、1984)
・・同じく「創られた伝統」について

(2014年2月24日 情報追加)


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