"Peter Drucker - An Intellectual Journey"(ドラッカー 知の旅)の日本語字幕付きバージョン。
日本語版タイトルどおり、「これを見ればドラッカーが60分でわかるDVD」である。
最近ドラッカーが話題になっているけど本を読むヒマがない、本を読むのが面倒くさいという人にはもちろん、ドラッカーが「マネジメントの父」と呼ばれており、ドラッカー経営学のエッセンスくらいはわかっている人も見るべき DVD だといえる。
なぜなら、先入観のない初心者であれば、ドラッカーが単なる経営学者ではないことがわかるから、時間の節約になる。
一方、ある程度知っている人にとっても、経営学がドラッカー思想の中核をなしているが一部に過ぎないことを自覚する意味で必見だといえるからだ。
私は、どちらかとえば後者の「ある程度知っている人」に分類されると思っているが、このDVDを見ていて強く思ったのは、なぜドラッカー経営学の思想が米国では定着せず、日本でこそ定着した理由がよく理解できるということだ。
日本では多くの経営者がドラッカー思想を理解し、実践したからこそ、1970年代から80年代にかけての日本がアメリカを打ち負かすまでの勢いをもったことが理解できるのである。
いわゆる「日本的経営」の形成に、ドラッカー経営学が与えた思想的な意味合いが大きかったということであり、今回のブームも、あくまでも経営学という範囲内での「ドラッカーブーム」再燃という側面が強い。
さらにいうと、いまドラッカーに注目が集まるのが、「日本的経営」へのノスタルジーであったとしたら、それはあまり意味のないアナクロニズムではないかという気がしないでもないのだ。
GE のジャック・ウェルチ元 C.E.O.といえば GE 中興の祖であるが、彼が断行した「業界で一位か二位でない事業からは撤退する」という戦略が、前任者に連れられて初めて出会ったドラッカーのアドバイスであったことが、ウェルチ自身のクチから語られていることの意味をよく考えるべきだろう。
ジャック・ウェルチほど、「知識社会」における人材育成の意味を理解していた経営者は、ほかにはなかなかいないのではないかと私は考えている。
さらにいうと、いまドラッカーに注目が集まるのが、「日本的経営」へのノスタルジーであったとしたら、それはあまり意味のないアナクロニズムではないかという気がしないでもないのだ。
GE のジャック・ウェルチ元 C.E.O.といえば GE 中興の祖であるが、彼が断行した「業界で一位か二位でない事業からは撤退する」という戦略が、前任者に連れられて初めて出会ったドラッカーのアドバイスであったことが、ウェルチ自身のクチから語られていることの意味をよく考えるべきだろう。
ジャック・ウェルチほど、「知識社会」における人材育成の意味を理解していた経営者は、ほかにはなかなかいないのではないかと私は考えている。
(DVD再生画面より)
1990年代の初頭に M.B.A. 取得のためアメリカに留学していた私は、M.B.A.の授業ではドラッカーのドの字も聞いたことがなかったし、その後も同時代体験としてのドラッカーは、経営学者というよりも社会問題への鋭い洞察力で名の知られた、自称「社会生態学者」としてのそれであった。少なくとも米国ではそのように受け取られていたようだ。
この DVD でも、米国人がドラッカーを「再発見」したのは、狭い意味の企業経営というよりも、むしろ広義の非営利組織の NPO のマネジメントの分野であったことがよく描かれていると思う。
とくにいわゆるメガ・チャーチ(巨大教会)を取り上げたシーンは、米国社会を知らないと、いまひとつピンとこない内容なのではないかとも思われる。
ドラッカーの基本思想が、営利であれ非営利であれ、その事業のミッション(=使命)は何か、目的は何かを明確にすること、そしてカネよりもヒトを重視すべきこと、知識社会を担うのはヒトであること、そのゆえにこそ生涯学習が重要なことなど、ドラッカー思想のエッセンスはすべてこの DVD において取り上げられている。
「経済よりも社会のほうがはるかに重要だ」というドラッカーの発言がすべてを言い表している。「マネジメントはサイエンスでもアートでもない、プラクティス(実践)である」という発言も。
この DVD は、なによりもドラッカー自身の肉声が収録されており、ドラッカーの教え子や影響を受けた経営者や評論家たちが語るドラッカーは、日本人が捉えているドラッカーとは少し違う観点からのものあって面白い。
その意味で、ドラッカーの全体像を知るためには、この DVD を視聴する意味があるといえる。日本語字幕と英語音声のズレも興味深い。価格面でもお買い得な一本である。
(画像をクリック!)
<参考サイト>
『これを見ればドラッカーが60分で分かるDVD』予告編(YouTube 映像 日本語字幕つき)
<ブログ内関連記事>
書評 『知の巨人ドラッカー自伝』(ピーター・F.ドラッカー、牧野 洋訳・解説、日経ビジネス人文庫、2009 単行本初版 2005)-ドラッカー自身による「メイキング・オブ・知の巨人ドラッカー」
・・ドラッカー自身によるドラッカー入門
『「経済人」の終わり』(ドラッカー、原著 1939)は、「近代」の行き詰まりが生み出した「全体主義の起源」を「社会生態学」の立場から分析した社会科学の古典
・・ドラッカーは「思想家」として読むべきなのだ
書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)-「やる気のある若者たち」への応援歌!
・・大前研一はドラッカーについては、かつて講演会でともにしたことが何度もあるといい、敬意を表しつつも、1980年以降なぜ米国でドラッカーが読まれなくなったかについて、貴重なコメントを行っている
ドラッカーは時代遅れ?-物事はときには斜めから見ることも必要
・・ホリエモンの発言が印象的
書評 『世界の経営学者はいま何を考えているのか-知られざるビジネスの知のフロンティア-』(入山章栄、英治出版、2012)-「社会科学」としての「経営学」の有効性と限界を知った上でマネジメント書を読む
・・「ドラッカーなんて誰も読まない!? ポーターはもう通用しない!?」という帯のキャッチコピー
人生の選択肢を考えるために、マックス・ウェーバーの『職業としての学問』と『職業としての政治』は、できれば社会人になる前に読んでおきたい名著
・・「実践」としての政治と、「学問」としての政治学は、まったく別物である
シンポジウム:「BOPビジネスに向けた企業戦略と官民連携 “Creating a World without Poverty” 」に参加してきた
・・バングラデシュでグラミン
書評 『国をつくるという仕事』(西水美恵子、英治出版、2009)
・・広義のNPO(=非営利組織)のマネジメントとリーダーシップ
(2014年8月18日 項目新設)
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