今年2011年は、法然上人八百回忌の年にあたる。その意味では、本書は企画本といってよい。
『仏教入門 法然の「ゆるし」 (とんぼの本)』(梅原猛 / 町田宗鳳、新潮社、2011)は、全体的にビジュアルを楽しみながら、知識も得ることのできるすぐれた「法然入門」となっている一冊である。
本書のタイトルは、『仏教入門 法然の「ゆるし」』とあるが、これは正確には「法然から入る仏教入門」というべきだろう。「仏教」と一口に言っても、原始仏教から密教まであまりにも幅が広すぎるからだ。
むしろ、今年10月から12月まで国立博物館で開催中の「法然と親鸞 ゆかりの名宝-法然上人八百回忌・親鸞聖人七百五十回忌 特別展」 のよきガイドブックとして活用すべき本だろう。
出品目録を中心とした公式カタログは、国立博物館のミュージアムショップで販売しているが、法然と親鸞の合冊であり、しかもあまりにも大部なので購入はためらうものがある。
本書はハンディなつくりで、展覧会にも出品されている国宝「法然上人絵伝」をカラー図版で見せてくれるところに最大の特徴がある。絵伝に従いながら法然上人の生涯をたどることができる。これは混雑している会場ではなかなかできにくいことだ。
そして、「日本最大の思想的革命家は法然である」と喝破した梅原猛の特別寄稿「死の教師、法然」で、法然の借り物でない、自分で考え出した思想の秘密を理解し、同じく「思想の革命家」であることを主張してきた町田宗鳳が、わかりやすいQ&A方式で、法然の思想が現代の日本人にとってもつ意味を解説する。
法然が生まれた土地である岡山の美作(みまさか)と京都に、法然の足跡をたどる写真紀行も、事前のシミュレーションとして活用できる。
今年はまた、奇しくも「親鸞聖人七百五十回忌」の年でもある。
同じく企画本として、梅原猛との浄土真宗僧侶との共著で『仏教入門 親鸞の「迷い」(とんぼの本)』(梅原猛 / 釈徹宗、新潮社、2011)が出版されているので、親鸞への興味が強い人はそちらもあわせて読むとよいだろう。
「親鸞の思想、それは凄まじいまでの悪の自覚である」と喝破した梅原猛の親鸞論や、梅原猛が校注したた『歎異抄』(講談社文庫、現在は講談社学術文庫)は、わたしもむかし読んだものだ。『歎異抄』は有名な本だから。
梅原猛は、親鸞だけでなく法然についても、『法然 一五歳の闇』(角川ソフィア文庫)と『法然の哀しみ』(小学館文庫)の二冊を書いている。その事実からわかるよに、じつは親鸞よりも法然のほうにつよい思い入れがあるようだ。
わたし自身といえば、浄土宗の周辺に生まれたということや、個人的な好みもあって、人間としてはある程度「ええかげん」さを認める寛容な法然のほうにより強く惹かれるものがある。あまりにも「近代的」で「合理的」すぎる親鸞より、法然のほうが思想家としてははるかに過激だったのであるが。
本書は最初に書いたように「仏教入門」と銘打たれていても、あくまでも「法然をつうじた仏教入門」であり、「ザ・仏教入門」ではない。
わたしは、法然は日本仏教においては空海と並んで重要な人物であると考えているが、仏教はもっと広いコンテクストで捉えたいのだ。上座仏教からチベット仏教まで、幅広く。
目 次
法然の言葉(町田宗鳳監修&解説の5選)
1. 法然の生涯-「万民救済」に生きた日本仏教の革命家(林田康順・浄土宗僧侶)
2. 法然の思想-リアリストの革新性とは(町田宗鳳)
3. 死の教師、法然(梅原猛)
4. 法然への旅-美作と京都に上人の足跡を辿る(編集部)
法然への旅 マップ(=二十五霊場と由緒寺院を掲載したマップ)
法然年表
参考文献
<関連サイト>
『仏教入門 法然の「ゆるし」 (とんぼの本)』(新潮社ウェブサイト)
・・「編集者のことば」などが読める
<ブログ内関連記事>
■法然上人と念仏関連
善光寺御開帳 2009 体験記
・・善光寺は宗派には関係ないが、とはいえ天台宗と浄土宗が中心になって管理運営している。極楽浄土を願い庶民信仰のお寺である
「法然セミナー2011 苦楽共生」 に参加してきた-法然上人の精神はいったいどこへ?・・既成教団への失望感を、率直な気持ちとしてつづった
書評 『法然の編集力』(松岡正剛、NHK出版、2011)
・・編集工学の大家による「編集」を切り口にした斬新な法然論。第三部の特別対談 松岡正剛×町田宗鳳 「3-11と法然」はぜひ読むべき
書評 『法然・愚に還る喜び-死を超えて生きる-』(町田宗鳳、NHKブックス、2010)
『選択の人 法然上人』(横山まさみち=漫画、阿川文正=監修、浄土宗出版、1998)を読んでみた
「没後50年・日本民藝館開館75周年-暮らしへの眼差し 柳宗悦展」 にいってきた
・・『南無阿弥陀仏』という著書をもち、「妙好人」を讃えていた柳宗悦は、法然や親鸞のそのさきの一遍上人を見つめていた
書評 『折口信夫 霊性の思索者』(林浩平、平凡社新書、2009)
・・国文学者で民俗学者であった折口信夫は、じつは大阪の浄土真宗の門徒の家に生まれた人でもあった。
ハーバード・ディヴィニティ・スクールって?-Ari L. Goldman, The Search for God at Harvard, Ballantine Books, 1992・・町田宗鳳氏が修士号を取得したハーバード神学大学院(Harvard Divinity School)について書いた記事
Memento mori (メメント・モリ)と Carpe diem (カルペー・ディエム)-「3-11」から 49日目に記す
・・カトリック中世ではよく知られていた標語「死を忘れるな」にからめて書いた生きる意味について
経営計画の策定と実行は、「自力」と「他力」という仏教の考えをあてはめるとスムーズにいく
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