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2011年11月22日火曜日

書評『霊園から見た近代日本』(浦辺登、弦書房、2011)-「近代日本」の裏面史がそこにある


「近代日本」という時代の激変を福岡で体感した人びとが東京を舞台に

 「近代日本の裏面史」である。日本史の教科書にでてくる有名人も数多く登場するが、お墓を媒介にして見えないところでつながっている人脈をたぐりよせると、日本史の教科書にはでてこない世界が浮かび上がってくる

 幕末に「開国」を迫られ、欧米中心で弱肉強食の厳しい国際社会のまっただなかに放り込まれた小国・日本。「近代日本」とは、日本と日本人が生き残りをかけた生存競争の時代であった。その状況のもと、日本人の潜在能力が解き離たれ、さまざまな分野で爆発した時代でもあった。

 本書は、著者が東京に散在する霊園をたずねて、死者たちと交わした対話記録といってもいい本である。墓が墓を呼び、イモヅルをたぐりよせるようにして現れてきたのは「見えないネットワークでつながっている人脈」であった。

 その中心にあって、本書の通奏低音として流れているのは、福岡に源流を持つ政治結社「玄洋社」に連なる人びとである。そしてその背後にあった名も無き日本人たちだ。東京にいくよりも朝鮮半島のほうが近い、東京までの距離と上海までの距離はほぼ同じという地理的条件をもった国際都市・福岡。福岡出身の著者が、福岡の出版社から出したこの本は、福岡出身者でなければ書けない内容だといっていいかもしれない。関心のありかたが、福岡出身者以外とはやや違いがあることを感じさせるからだ。

 幕末から明治維新にかけての動乱期、当時の藩主・黒田長溥(くろだ・ながひろ)の致命的な情勢判断ミスによる意志決定のため、本来は倒幕派であったのにかかわらず、佐幕派とみなされて維新後の社会において苦杯を飲まされることになった福岡藩。明治維新の敗者となった「負け組」は、会津藩や越後長岡藩といった東北だけではなかったのである。

 その環境のなかからでてきたのが「玄洋社」であった。いまだに右翼団体というレッテルを貼られたままの玄洋社だが、最初の頃は自由民権運動の担い手の一つだったことに、少なからぬ読者は驚くのではないだろうか。この玄洋社が民権から国権に比重を移していたのもまた「近代日本」である。

 面白いことに本書には、ただの一枚も肖像写真は掲載されていない。出てくるのはひたすら墓、墓、墓...

 著者みずからが撮影した墓石と墓碑銘の写真ばかりである。東京はある意味では、近代日本のオモテだけでなく、ウラの歴史もあわせた巨大な霊園地帯なのかもしれないという気さえしてくる。

 霊園で死者たちの声を聴き取った著者は、さながら霊媒のような存在だといったら著者からは叱られるだろうか。むしろ、タイトルは『霊園で聴いた近代日本』とするべきだったかもしれない。

 すでに中途半端なままに終わってしまった「近代日本」とは何であったのか、本来どういう方向にむかう可能性があったのか。このことを考えることは意味のあることだろう。だから「近代日本の裏面史」である本書は、オルタナティブな可能性をもっていた「近代日本史」でもあるのだ。

 本書には珍しく「主要人名索引」が完備しているので、索引から人名をたぐりよせてみる読み方も面白いかもしれない。ぜひ一読を薦めたい。





<初出情報>

■bk1書評「「近代日本」という時代の激変を福岡で体感した人びとが東京を舞台に行ったこととは?」投稿掲載(2011年9月13日)
■amazon書評「「近代日本」という時代の激変を福岡で体感した人びとが東京を舞台に行ったこととは?」投稿掲載(2011年9月13日)


目 次

第1章 朝鮮半島をめぐる外交摩擦
 青山霊園のあたり
 外人墓地から
 日清戦争の背景
 金玉均の墓所にて
第2章 幕末から西南戦争まで
 黒田長溥の墓所から
 維新の策源地「延寿王院(えんじゅおういん)」
 戦国大名の争奪地「博多」
 西南戦争という価値転換
第3章 アジアとの関わり
 玄洋社の看板、頭山満
 自由民権団体の玄洋社
 ロシアの南下政策とヒンターランド構想
 宮崎滔天の「落花の歌」
第4章 近代化のはざまで
  日露開戦の予言
 新興宗教と病気なおし
 宮沢賢治という宗教と科学を極めた人
 エスペラント語と革命
第5章 日本近代化の総仕上げに向けて
  「五箇条の御誓文」という近代化
 ハルビン学院と杉原千畝
 大杉栄と後藤新平の関係
 犬養毅、後藤新平の産業立国主義
あとがき
参考文献
索引

著者プロフィール

渡辺 登

1956年(昭和31年)福岡県生まれ。福岡大学ドイツ語学科在学中から雑誌への投稿を行う。オンライン書店bk1では「書評の鉄人」の称号を得る。著書に『太宰府天満宮の定遠館』(弦書房)。



<書評への付記>

 ことしは奇しくも「中国革命100年」の年にあたる。

 革命家・孫文につらなる縁で、本書にもその多くが登場している玄洋社につらなる人びとや、その周辺にいた日本人たちに脚光が浴びたのは、たいへん喜ばしい。

 東西冷戦が崩壊してすでに20年、左翼の崩壊にともない右翼もその意味を失った結果、右でも左でもない日本と日本人を見直すにはじつによい時代となった。 

 本書の出版は、「3-11」という、未曾有の大地震と大津波という自然災害と、それ原発事故という人災に苦しむ国難が発生する以前に書かれたものだ。「3-11」によって「戦後」も完全に終わったことは、ある意味では、さらに物事を虚心坦懐に見ることを可能としたといってもいいだろう。

 ところで、文化人類学者の山口昌男に『敗者の精神史』という大著がある。明治維新の敗者の側から描いた近代日本史もまた、オルタナティブな日本近現代史となっている。

 福岡生まれの著者が福岡の出版社から出版した本であると言うことは、東京のまなざしとはイコールではないということを意味している。

 本書は、やや玄人ごのみの内容だが、索引もしっかりつけてあるので、人物エピソードで読む近代日本裏面史として、あるいは東京の墓地めぐりガイドとしてもいいかもしれない。

 それぞれの墓地の案内図はつけていないが、これはみずから足を運んで、自分で墓探しをすべしというメッセージだろうと受け取った。

 維新後、1/10の規模に縮小させられた谷中墓地、あらたに造成された青山霊園。「人間、至る所に青山あり」という詩句がるが、青山(あおやま)と青山(せいざん)は同じ漢字を書く。青山(せいざん)とは墓のことであり、青山霊園というのは、なにかトートロジー(=同語反復)なものを感じてしまう。霊園とファッションは、なぜか親和性が高そうだ

 本書には、お墓の写真以外、人物写真はいっさい収録されていない。写真資料が満載の『大アジア燃ゆるまなざし 頭山満と玄洋社』(読売新聞西武本社編、海鳥社、2001)とあわせて読むことを望みたい。


<ブログ内関連記事>

『大アジア燃ゆるまなざし 頭山満と玄洋社』 (読売新聞西部本社編、海鳥社、2001) で、オルタナティブな日本近現代史を知るべし!
・・玄洋社につらなる人たちの肖像写真は、この写真集でとくとご覧いただきたい

書評 『日本文明圏の覚醒』(古田博司、筑摩書房、2010)-「日本文明」は「中華文明」とは根本的に異なる文明である
・・著者の古田氏は、福沢諭吉のように、「アジア主義との決別」を説く

両国回向院(東京)で戦後はじめて開催された「善光寺出開帳」にいってきた(2013年5月4日)+「鳥居清長名品展」(特別開催)
・・関東大震災と東京大空襲の死者の無縁墓地

書評 『身体巡礼-[ドイツ・オーストリア・チェコ編]-』(養老孟司、新潮社、2014)-西欧人の無意識が反映した「文化」をさぐる解剖学者の知的な旅の記録
・・西欧の墓をめぐる解剖学者の紀行エッセイ

(2014年11月16日 情報追加)



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