ビジネスマン出身の異色の僧侶・安永雄彦さまより『超訳 歎異抄』をいただいた。ディスカヴァー・トゥエンティワンの『超訳シリーズ』の最新刊。本日(5月23日)発売の新刊である。
『歎異抄』と書いて「たんにしょう」と読む。日本最大の宗派である浄土真宗の宗祖で、中世日本に生きた親鸞聖人の言行を、その死後に直弟子の唯円(ゆいえん)が書き残したものだ。「異」説を「歎」くというのが、その本意である。
「悪人正機」などパラドックスに充ち満ちた表現が多く、とかく誤解を生みやすいのが親鸞の教えだ。唯円は、その親鸞の言葉が語られた背景まで含めて後世に残そうとしたのである。
そんな『歎異抄』は、名前は聞いたことはあっても、実際に読んだことのある人は、いったいどれくらいいるのだろうか? 現代語訳でわずか50ページほどの短い本だが、もし読んだとしても理解できない、納得がいかないと思った人も少なくないかもしれない。
わたし自身は、20歳台の終わりに哲学者で日本学の梅原猛の訳で読んで以来、35年ぶりに『歎異抄』をとおしで読んでみた。そんな機会をあたえていただいた安永さまには、この場を借りてその仏縁に感謝したい。
(留学のため渡米する前の1990年に読んだ梅原猛の2冊)
『歎異抄』の現代語訳や解説本は、それこそ山のように出版されつづけている。ビジネスパーソンを主要な読者層に設定した安永版は、その最新版となる。
さっそく、「はじめに」に目をとおしたあと、項目別に整理された『歎異抄』の文章を読んでみる。これ以上ないと思われるほど、平易な現代語に訳されている。
だが、平易な文章だからこそ、いまなお納得できない内容や、違和感を感じるものがあることは否定できない。先にも書いたように、親鸞の教えがパラドックスに充ち満ちたものであり、基本的に信心について説いた内容だからだ。
親鸞には「絶対他力」という教えもある。だが、信仰の場面はさておき、はたして日常生活のなかで「絶対他力」は成り立つのかどうか? 「自力」で努力することに意味はないのか? そんな問いがわき上がってくるのは当然だろう。
わたし自身もそうであったが、とかく若いときには自信過剰気味になりがちであり、なんでも「自力」で成し遂げることができると思いがちだ。
ところが、「自力」だけでは物事が動かないことを知る瞬間が、かならずやってくる。しかも、「自力」に頼らないほうが、かえって物事がスムーズに進行することがある。そんなことを、悟る機会もあるだろう。ミドルエイジ以降の人なら人なら、誰でもそんな経験があるのではないか。
ビジネスパーソンであれば、いやそうではなくても、そんな気づきを得ることができれば、『歎異抄』に触れることの意味があるというべきだろう。いま読んでも理解できないフレーズ、納得のいかないフレーズが、「ああ、そういうことなのか」とストンと理解できる瞬間が訪れることがあるはずだ。
基本的に親鸞の教えは浄土真宗の教えであり、阿弥陀仏への絶対的な帰依と、「南無阿弥陀仏」という念仏が強調される。仏教でありながら、限りなくキリスト教に近い印象さえ受けるかもしれない。
だが、浄土真宗の門徒ではなくても(・・かくいうわたしの場合も、母方の祖母は熱心な門徒であったが、わたし自身は宗門の人ではない)、また仏教徒ではなくても、あるいは宗教には距離を置いている人であっても、親鸞の教えに触れることの意味は大きなものがあるはずだ。
ぜひこの機会に、安永版『超訳 歎異抄』を手にとって、読んでみてほしいと思う。読んでみて、すんなりと理解できなくてもいいのである。親鸞の教えに対しては、異論や違和感があって当然なのだ。
いろいろな読み方があると思うが、まずは後半に収録されている「超訳歎異抄 全文」を通しで読んでみてから、前半の104条に整理された項目ごとに読んでみるといいのではないか。
というのは、項目別の文章だけつまみ食いして読むと、誤読しかねないものが多々あるからだ。そもそも現著者の唯円が「異」説を「歎」いていたように、『歎異抄』という本は誤読を生みやすい本なのだ。
AI(=人工知能)がもてはやされ、とかく「知能」や「知性」ばかりが重視される現代社会である。いや、であるからこそ、知性の限界を超えた存在に、自分自身を開いていく必要があるのではないか。
ビジネスパーソンであろうとなかろうと、いまこんな時代に生きる人が『歎異抄』を読むことの意味は、そんなところにあるのではないか。わたしはそう考えている。
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