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2021年9月17日金曜日

むかしのアフガン関連本が面白い ― 1979年のソ連軍による「アフガン侵攻」以前のアフガニスタン

 

ことし2021年8月15日、駐留米軍の撤退作戦の渦中にあるアフガニスタンで、首都カーブルがタリバーンによって無血開城される事態が発生した。誰もが「まさか!」とあっけにとられた電撃作戦であった。

そんなアフガン情勢であるが、1979年のソ連軍による「アフガン侵攻」以前のアフガニスタンについて書かれた本は面白い。アフガニスタンはもともとどういう地域なのか、ということがよくわかるからだ。以前に読んだ記憶を呼び起こして書いてみよう。 

チョンマゲ議員として有名だった松浪健四郎の『アフガン褐色の日々』(中公文庫、1983)は、体育教師としてアフガンに派遣された若き日のみずみずしいノンフィクション。松浪氏自身がレスリング出身だけに、アフガンが格闘技(レスリング)発祥の地であった記述が興味深い。1979年のソ連軍の侵攻前の「古き良き日々」の記録。 

東洋史家・岩村忍の『アフガン紀行』(朝日文庫、1992)は、「京大カラコルム・ヒンズークシ探検隊」による実地踏査による現地調査の記録。梅棹忠夫の『モゴール族探検記』(岩波新書、1956)は、おなじ探検隊の人類学班の記録。この2冊で、アフガンの歴史と土地柄を知ることのできる貴重なノンフィクションだ。前者には紀元前4世紀のアレクサンドロス大王以来のアフガン蹂躙の歴史が、後者には13世紀のモンゴル帝国時代の置き土産というべきモンゴル人の末裔「モゴール族」の存在が確認される。 

大野盛夫の『アフガニスタンの農村から-比較文化の視点と方法』(岩波新書、1971は、現地でフィールドワークを行っていた人類学者によるノンフィクション。アフガンが基本的に農村社会であることがよくわかる。タリバンは、麻薬用の大麻栽培を奨励して農村を抱き込んでいる。 

こういった本を読んだうえで、ジャーナリストや評論家にはアフガニスタンについて論じてもらいたいと思うのだが・・・ 




■「アフガン関連本」が旬のテーマだった2000年前後

ついでなので、「9・11」後の米軍によるアフガン展開前後には、こんな本も出版されていた。2001年前後は、「アフガン関連本」が旬のテーマだったのだ。「マイ蔵書」(=「埋蔵書」)から見ておこう。

『タリバン』(アハメド ラシッド、坂井 定雄/伊藤力司訳、講談社、2000)。分厚いハードカバーの単行本。この本は出版されてすぐに読んだ。20年前、なぜ当時の米国がタリバンを「敵」とみなしたかがわかる。 

『アフガニスタン史』(前田耕作/山根聡、河出書房新社、2002)。この本は、タリバンによって「バーミヤンの石仏」が国際世論を無視して無残にも破壊されたあとに出たもの。一部しか読まないまま積ん読。読まないうちに新版がでるかも・・・ 

「埋蔵書」のなかに埋没しているので、すぐには発掘できなかったが、『大仏崩壊-バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか』(高木徹、文藝春秋社、2005)も、「バーミヤンの石仏」破壊後に、その謎を追ったNHKディレクターのジャーナリストによるノンフィクションだ。この本は、現在でも読み返す価値が十分にある。

アフガン問題が国際的な関心でありつづけるか次第で、またあらたなアフガン本も出ることだろう。 それを期待すべきかどうかは、なんともいえないが・・・





(附録)「バーミヤンの石仏破壊」(2001年)について

かつて nifty で作成していたマイ・ウェブサイトにアップしていた「つれづれなるままに」(2001年3月3日)の記事を再録しておこう。その当時、日本人仏教徒である自分がどう受け止めていたかの記録となる。

 

タリバーンによる「人類の文化遺産」バーミヤン仏教遺跡の破壊について

 アフガニスタンを事実上制圧しているイスラーム原理主義集団タリバーンが、「人類の文化遺産」バーミヤンの仏教遺跡の破壊を開始したと報道されている。考えただけで激しい怒りを感じる。このように不寛容なタリバーンに対しては、武力行使を含めた国際的制裁が必要ではないか。武力行使が仏教の理念に反することは十分わかっているが、とはいえ、このような文化破壊が公然と行われるのを座視していいのだろうか? 

 同じアジアでも、東南アジアの状況はまったく異なる。事実上のイスラーム国インドネシアには、世界の三大仏教遺跡の一つであるボロブドゥール立体曼荼羅があるが、ジャワ島民はこれを破壊するどころか、ジャワ島の誇りとして旗に描いているぐらいだ。アフガニスタン隣国のイスラーム国パキスタンですら、観光資源ともなりうるガンダーラの仏教遺跡を保護している。

 イスラームは本来的に寛容なはずである。オスマン帝国がかつてそうであった。しかしながら、タリバーンは違う。イスラームの国際的イメージをはなはだしく悪化させているタリバーンの行為は、イスラーム法に照らしてまったく問題がないといえるのだろうか。

 国連ユネスコの破壊中止勧告のほか、ニューヨークのメトロポリタン美術館やインド政府が磨崖仏を引き取ってもかまわないと申し出ているらしい。タリバーンには、イスラーム法の厳密な解釈にとらわれることなく、柔軟な交渉をおこなってもらいたい。イスラームの国際イメージを取り返しのつかないまでに悪化させることは、自らの命運に跳ね返ってくることを認識しなくてはいけない。それとも、イスラーム原理主義者には因果応報なんて観念は存在しないのか(3月3日)。


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・・「文明の生態史観」の発想は、アフガンから陸路でインドに抜けた際に思いついたのだそうだ



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2020年1月9日木曜日

書評『アフガニスタンの診療所から』(ちくま文庫、2005 単行本初版 1993)「支援」とはなにか、「人を助ける」とはどういうことか考えるために、ぜひ読むことを薦めたい



不幸な出来事ではあっても、そのおかげでしばらく重版されることなく忘れかけられていた本が再版され、再認識されることがある。

昨年2019年の12月4日に飛び込んできたニュースは衝撃的だった。長年にわたってアフガニスタンで医療活動と復興支援に携わってきた中村哲医師が狙撃され殺害されたのである。たいへん痛ましい事件であり、たいへん残念としかいいようがないが、あくまでも現地に寄り添って長年にわたって支援を行ってきたその生き様は、今後も長く語り伝えられることだろう

不幸中の幸いというべきか、この事件が1つのキッカケとなって、中村医師の著書が続々と復刊されている。そのなかの1冊がアフガニスタンの診療所から』(ちくま文庫、2005だ。初版は1993年の出版だから、すでに27年以上前のことになる。

この本は、ソ連による10年間の及んだ「アフガン侵攻」(1979~1988)で難民となったアフガニスタン人の支援を、隣接するパキスタンのペシャワールで行ってきた日本人医師による現地報告であり、本当に現地に役に立つ支援とはなにかを現場で考え抜いてきた人の思索が綴られたものだ。

支援が必要となるのは、なにも医療行為だけではない。教育でもビジネスでも、ありとあらゆる場面でその必要は発生する。支援とは当事者が自分自身で自立できるよう、あくまでも黒子としてコミットしつづけることだ。これが中村医師のメッセージだと私は受け取っている。

その意味を確認するためにも、ぜひ読んでほしいと思う。文庫本で200ページほどだが、内容の濃い1冊である。2005年の文庫版の解説は阿部謹也先生(2006年没)。この場を借りて、著者と解説者の追悼もあわせて行いたい。


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JBPressの連載コラム第67回は、「アフガニスタンはいつから泥沼の紛争地になったのか-国家の崩壊につながった、ソ連にとっての「ベトナム戦争」」(2019年12月17日)


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2019年12月17日火曜日

JBPressの連載コラム第67回は、「アフガニスタンはいつから泥沼の紛争地になったのか-国家の崩壊につながった、ソ連にとっての「ベトナム戦争」」(2019年12月17日)



JBPressの連載コラム第67回は、アフガニスタンはいつから泥沼の紛争地になったのか-国家の崩壊につながった、ソ連にとっての「ベトナム戦争」(2019年12月17日)
⇒ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58579

2019年12月4日にアフガニスタンから入ってきた悲報は衝撃だった。長年にわたって現地で人道支援にたずさわっていた民間NGOペシャワール会の現地代表の中村哲医師が銃撃され、殺害されたのである。

アフガニスタン国民から広く敬愛されていた中村医師。志半ばでの死は、本人にとっては、さぞ無念だったのではないか。

中村医師の長年にわたるアフガニスタンでの人道支援活動に心から感謝するともに、この場を借りて哀悼の意を表します。合掌。

*****************************
現代史においてアフガニスタンが紛争地になった発端はなにか。それは、1979年末に始まったソ連軍の軍事侵攻である。

このことでソ連は激しい国際的非難を浴び、翌年1980年のモスクワ・オリンピックは西側諸国によってボイコットが行われている。長期化したアフガニスタンへの軍事介入は、最終的に10年の長期に及んだ。その後、「9・11」テロへの報復として2001年から米軍の介入が始まったのである。


(ソ連軍のアフガン侵攻(1979年)  wikipedia英語版より *赤の矢印が侵攻ルート、濃い灰色はソ連軍のコントロール下にあった地域)



ソ連軍がアフガニスタン侵攻作戦を開始したのは、正確にいえば1979年12月24日のクリスマスイブのことだった。そして、奇しくも12年後の1991年12月25日のクリスマスにはソ連自体が崩壊している。偶然というには、あまりにもでき過ぎではないかという気もするが、事実は事実である。

つづきは本文で https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58579








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『ソビエト帝国の崩壊』の登場から30年、1991年のソ連崩壊から20年目の本日、この場を借りて今年逝去された小室直樹氏の死をあらためて悼む(2010年12月26日)

書評 『評伝 小室直樹 上下』(村上篤直、ミネルヴァ書房、2018)-かつて小室直樹という桁外れの知的巨人がいた

書評 『ソ連史』(松戸清裕、ちくま新書、2011)-ソ連崩壊から20年! なぜ実験国家ソ連は失敗したのか?

チャウシェスク大統領夫妻の処刑 1989年12月25日

『戦場のメリークリスマス』(1983年)の原作は 『影の獄にて』(ローレンス・ヴァン・デル・ポスト)という小説-追悼 大島渚監督

500年前のメリー・クリスマス!-ラファエロの『小椅子の聖母』(1514年)制作から500年

クリスマスに「贈り物」を-『キリスト教は邪教です! 現代語訳「アンチクリスト」』(ニーチェ、適菜収、講談社α新書、2005)


 
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2018年5月4日金曜日

映画『ホース・ソルジャー』(2018年、米国)を日本公開初日の初回に見てきた(2018年5月4日)ー 2001年の「9・11」から1ヶ月後のアフガニスタンで始まった米国の「対テロ戦争」は機密作戦から始まった



映画『ホース・ソルジャー』(2018年、米国)をTOHOシネマズで日本公開の初日の初回で見てきた。原題は 12 Strong(12人の強者たち)。実話に基づいたストーリー。 

2001年10月から11月にかけてという21世紀の初頭に実際に行われた騎馬戦戦車や迫撃砲、ロケットロンチャーの攻撃をかいくぐりながら、騎馬軍団が馬上からマシンガンを撃ちまくる。最後の戦闘シーンは迫力満点で圧巻だ!  




2001年9月11日の「9・11テロ」後のアメリカによる初めての反撃はアフガニスタンであった。 

米国によるアルカイダへのリベンジの第一弾が、タリバンの拠点であったアフガン北部のマザーリシャリーフを陥落させることであった。アルカイダはタリバンがかくまっていたからだ。 

反タリバンの勢力で土着のウズベク人軍閥であるドスタム将軍の側面支援を行うことがミッション。米軍はあくまでもオモテに出ず、CIAと特殊部隊が秘密作戦で側面支援する。 

そのために現地に送り込まれたのが「12人の強者たち」なのだった。


(アフガン北部のまざーりーマザーリシャリーフ Googlemapより)

側面支援の具体的内容は、米空軍のB-52戦略爆撃機による9,000フィートという超高度からの空爆を地上から無線で誘導することだ。これだけの高度になると、正確な座標軸を特定しないとピンポイントでの爆撃は難しい。空爆のターゲットから離れると精度が落ちるが、爆撃ターゲットに近すぎる地点からの誘導は爆撃に巻き込まれる危険が高くなる。

制空権を奪っても、地上軍が進出しなければ占領はできない。まさに「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」(boots on the ground)の先兵となるのが特殊部隊であり、かれらによる地上からの精密誘導なのである。 

機密ミッションを担ったのが「米陸軍特殊騎馬隊」。といっても正規の編成ではなく、じつは米陸軍特殊作戦群、通称グリンベレーの12人が、現地で否応なく取らざるを得なかったのが騎馬作戦なのだった。険しい山岳地帯のアフガニスタンでは、戦車よりも馬のほうがはるかに機動力がある。 机上の作戦ではない現地での臨機応変の対応は、牧場で生まれ育った隊長のリーダーシップのたまものであった。


(予告編よりビデオキャプチャ)

現地人から信頼を勝ち得ながら作戦を実行するのは、きわめて泥臭い活動。さすがベトナム戦争で有名になったグリーンベレーである。 ここ数年は米海軍特殊部隊のネイビー・シールズ(Navy SEALs)ばかり脚光を浴びているが(・・ウサーマ・ビンラディン暗殺作戦もシールズが実行)、米陸軍特殊部隊のグリーンベレーが脚光を浴びた映画が製作されたのは珍しい。 

映画の最後のクレジットによれば、ロケは米国南部のニューメキシコ州で行われたようだ。たしかに、アフガンの光景と似ている。 メキシコと隣接するニューメキシコ州は山岳地帯で砂漠地帯だ。




うちの近所では、なぜか「プレミアム・シート」でしか上映がないので今回初めて利用してみた。座り心地のいい座席で、ゆったりとできるのはメリットかも。

もちろんスクリーンは大きくて見やすく大音量。迫力ある戦闘シーンの臨場感が楽しめたい。たまには、プレミアムシートも悪くないな、と。







<関連サイト>


映画『ホース・ソルジャー』公式サイト(日本版)

12 STRONG - Official Trailer (YouTube)



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映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい
・・オサマ・ビンラディン殺害作戦を描いた映画。計画実行にあたったのは米海軍特殊部隊ネイビーシールズ

映画 『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)を初日にみてきた(2014年3月21日)-戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった 
・・アフガニスタンでの対アルカーイダ掃討作戦。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズが1962年に創設されて以来、最悪の惨事となった「レッド・ウィング作戦」(Operation Redwing)をもとにしたもの

書評 『グローバル・ジハード』(松本光弘、講談社、2008)-対テロリズム実務参考書であり、「ネットワーク組織論」としても読み応えあり

書評 『帝国陸軍 見果てぬ「防共回廊」-機密公電が明かす、戦前日本のユーラシア戦略-』(関岡英之、祥伝社、2010)-戦前の日本人が描いて実行したこの大構想が実現していれば・・・
・・「戦後米国による冷戦構造が構築される以前、地政学の観点から、帝国陸軍主導で行われた構想である。日本の敗戦後、この構想にかかわった関係者を尋問し、米国が徹底研究したことは記憶されるべきことである。 そしてなぜEUも米国もアフガンに派兵しているかについても、その意味を理解することができる。いち早くアフガンの地政学的重要性を指摘していたのは大川周明であった」

『新版 河童駒引考-比較民族学的研究-』(石田英一郎、岩波文庫、1994)は、日本人がユーラシア視点でものを見るための視野を提供してくれる本
・・中央アジアの馬

書評 『馬の世界史』(本村凌二、中公文庫、2013、講談社現代新書 2001)-ユーラシア大陸を馬で東西に駆け巡る壮大な人類史
・・「戦車」に代わって「騎兵」が戦場の主役に登場する。この段階において人と馬のかかわりはより密着したものとなる。いわゆる「人馬一体」という形である。これによって機動力はさらに高まり、馬のもつ軍事的な意味は計り知れないものとなる。中央ユーラシアを疾駆する騎馬遊牧民は、離合集散しながら勢力を拡大し・・」

書評 『ポロ-その歴史と精神-』(森 美香、朝日新聞社、1997)-エピソード満載で、埋もれさせてしまうには惜しい本
・・騎馬による球技であるポロの源流は中央アジアのアフガニスタン方面にあるようだ


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2014年3月21日金曜日

映画『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)を初日にみてきた(2014年3月21日)-戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった


映画 『ローン・サバイバー』(2013年、アメリカ)をTOHOシネマズで初日にみてきた。昨日(2014年3月21日)のことである。9時15分からの初回を見たのは比較的すいているからだが、もちろんそれだけではない。

この映画は実話をもとにしたものだ。米海軍特殊部隊ネイビー・シールズが1962年に創設されて以来、最悪の惨事となった「レッド・ウィング作戦」(Operation Redwing)をもとにしたものだ。

この作戦に参加した4人一組のチームで、ただ一人生還できた隊員(lone survivor)が書いた記録をもとにが書いた『アフガン、たった一人の生還』(マーカス・ラトレル、亜紀書房、2009)を原作をもとにしている。原本のタイトルは映画と同じく Lone Survivor である。2007年に Lone Survivor: The Eyewitness Account of Operation Redwing and the Lost Heroes of SEAL Team 10 というタイトルで出版されている。


英語オリジナル版ポスターには Based on true acts of courage とある。実際に行われた「勇気ある行動」(true acts of courage)である。

「勇気ある行動」とは、作戦実行中に発生した「想定外」の事態に際して、現場で下した意志決定と、その内容にともなう責任を命がけで引き受けた隊員たちの行動を指している。

現象的にみれば作戦の失敗と撤退であるが、それがなぜ「勇気ある行動」なのか。この意味を考えることが、この戦争映画に深みをもたらすのである。


アフガニスタンの山岳地帯での米海軍特殊部隊ネイビー・シールズ(Navy SEALs)のタリバン相手の作戦。アメリカ兵とアフガン市民の殺害命令を出しているタリバンのリーダーをピンポイントで偵察するというミッションだ。

そのために4人一組のチームが任命され作戦が実行される。指揮官一人と三人の曹長で構成されるチームである。(* 米軍では陸軍と海軍では階級をあらわす英語表現が異なることに注意)。ターゲットを殺害する命令は受けていなかったので、上官に指示を仰ぐが無線が通じない。

成功するに見えたその作戦は、「想定外」の事態の発生によって手痛い失敗となる。「想定外」の事態とは、山中での民間人たちとの遭遇だ。「敵」であるタリバンしか想定していなかったのだ。

山中でヤギを放牧させている民間人たちは敵か、味方か、そのどちらでもないのか? 民間人たちの扱いをどうするか、殺害するのか放免するのかという2つのオプションから究極の選択を迫られ、激論のすえ指揮官が選択し、チーム全員が納得して受け入れた意志決定。だがこれが文字通り命取りになる。


戦闘員と非戦闘員である一般市民が混在し見分けができない市街戦やゲリラ戦においては、米軍にとってのベトナム戦争だけでなく、日本陸軍にとっての南京事件もそうであったように、「戦時国際法」において認められていない非戦闘員の無用の殺害は国際的な非難を招く危険がある。軍の存在そのものと名誉にかかわる問題でもある。

指揮官が下した決断は、戦場における法と倫理にかかわる究極の難問であり、ギリギリの決断であったのだ。いかなる結果を招くとしても、決断は下さなくてはならないのだ。そして下した決断には責任がともなう。

しかしその決断は、困難な事態を招くことになる。シールズ隊員4人に対し、タリバン兵はなんと200人(!) 圧倒的に不利な条件のなか、いかに撤退を実行するかが後半のテーマであり映画の山場になる。

山岳地帯の地形もふくめて「ホーム」として熟知しているタリバン兵たちに対して、敵地に潜入したシールズ隊員たちは、そうでなくても不利な状況。偵察(リーコン)とは、敵地という「アウェイ」での行動なのだ。初めて足を踏み入れる土地では地図とコンパスだけが頼り。

救援を頼もうにも無線通信が使用できなければ完全な孤立無援状態になってしまう。行動をともにしているチーム内でのコミュニケーションに問題はなくても、現場と本部のコミュニケーションはコミュニケーションズ(通信)障害のため不能となるのだ。

都市におけるゲリラ戦も「ホーム」側のほうが圧倒的に有利であるが、山岳地帯ではなおさらだ。崖を転落しながらの撤退シーンはまさに壮絶をきわめるもので、屈強なシールズ隊員たちにとっても想像絶するものであったことだろう。



シルベスター・スタローン主演の『ランボー3 怒りのアフガン』は、主人公だけは絶対に不死身で死なないというスーパーヒーローもののアメリカン・コミックそのものだが、実際の戦闘はこの『ローン・サバイバー』に描かれたように過酷なものだ

タリバンが発射するロケットランチャーをみていて思いだしたのは、そもそも1979年にソ連がアフガン侵攻に踏み切ってから、アメリカがムジャヒディーンたちに無償供与したものであったということだ。ソ連によるアフガン侵攻から、すでに35年もこんな状態がアフガニスタンでは続いている。わが人生の大半に該当するものだ。

この映画はモノローグではなく三人称で描いているので、チームのうち誰が主人公というわけでもないのだが、ただ一人サバイバルして生還できた原作者マーカス・ラトレル氏は、一人の力だけではなかったことが映画から読み取れるだろう。

戦場という非日常的な状況における友情と兄弟愛、合理的に考えれば無謀であるのにかかわらず発揮された献身的な同志愛と大きな犠牲

アフガニスタンとパキスタンの中間地帯トライバルエリアの住人であるパシュトゥーン族の、客人はなにがあろうと守らねばならばいという掟に助けられたという運の良さ。ほかにもさまざまな要素があるだろう。実話にもとづいたオリジナルな原作と脚本のもつ力がこの映画にある。

非正規戦の戦闘シーンがハンパじゃなくリアルなので、心臓の弱い人は見ないほうがいい。あまりにも危険なので、映画化する際には原作のすべてが再現されたのではないという。アフガニスタンの山岳地帯は、アメリカ南部のニューメキシコ州のロケで再現されている。

戦争映画の歴史に、またあらたな名作が加わった。



PS 2014年9月2日に DVD化されました。(2014年9月3日 記す)




原作はこちら。




<関連サイト>

『ローン・サバイバー』 日本版公式サイト

『ローン・サバイバー』 日本版FBページ

『ローン・サバイバー』 予告編

Lone Survivor Official Trailer #1 (2013) - Mark Wahlberg Movie HD

Lone Survivor Foundation - Never Quit (ローン・サバイバー財団)
・・原作者はネイビーシールズ退役後、財団を設立して、海外での戦闘行為に参加して死傷や重傷を負った米兵と家族の福利厚生活動に取り組んでいる。アメリカを支えているのがこういった軍人たちであるが、冷戦終結後、世界情勢が米ソ二元論で語れない複雑な時代国際問題に関心を失って内向きになっているアメリカ人の関心を喚起することも目的にあるのだろう

ローン・サバイバー財団のFBページ

US Navy SEAL & SWCC—official website (ネービー・シールズ 公式サイト)
U.S. Navy SEAL& SWCC Page (ネービー・シールズ facebookページ)

(参考) 2014年1月公開のアメリカ映画『ネービーシールズ チーム6』(SEAL Team Ⅵ: The Raid on Osama Bin Laden)は同じテーマ。 ネイビーシールズ:チーム6 予告編



<ブログ内関連記事>

ネイビー・シールズもの

映画 『ゼロ・ダーク・サーティ』をみてきた-アカデミー賞は残念ながら逃したが、実話に基づいたオリジナルなストーリーがすばらしい
・・パキスタン国土内に潜伏するウサーマ・ビン・ラディン殺害計画に動員されたのは米海軍特殊部隊SEALSであった!

映画 『キャプテン・フィリップス』(米国、2013)をみてきた-海賊問題は、「いま、そこにある危機」なのだ!


アフガニスタンとイラク

自動小銃AK47の発明者カラシニコフ死す-「ソ連史」そのもののような開発者の人生と「製品」、そしてその「拡散」がもたらした負の側面
・・AK47を「密造」するアフガニスタンに隣接するパキスタン国内のパシュトゥン族の村のルポが興味深い

書評 『帝国陸軍 見果てぬ「防共回廊」-機密公電が明かす、戦前日本のユーラシア戦略-』(関岡英之、祥伝社、2010)-戦前の日本人が描いて実行したこの大構想が実現していれば・・・
・・「なぜEUも米国もアフガンに派兵しているかについても、その意味を理解することができる。いち早くアフガンの地政学的重要性を指摘していたのは大川周明であった」

映画 『ルート・アイリッシュ』(2011年製作)を見てきた-近代世界の終焉と「傭兵」の復活について考える ②

本年度アカデミー賞6部門受賞作 『ハート・ロッカー』をみてきた-「現場の下士官と兵の視線」からみたイラク戦争


戦場における「非戦闘員」

書評 『民間防衛-あらゆる危険から身をまもる-』(スイス政府編、原書房編集部訳、原書房、1970、新装版1995、新装版2003)-家庭に一冊は常備すべき「防災と防衛のバイブル」
・・非戦闘員である一般市民にとっての非正規戦についての心得

書評 『松井石根と南京事件の真実』(早坂 隆、文春新書、2011)-「A級戦犯」として東京裁判で死刑を宣告された「悲劇の将軍」は、じつは帝国陸軍きっての中国通で日中友好論者だった
・・「戦時国際法」の遵守を厳しく命じた前線司令官・松井中将の意志は、下剋上傾向のあった日本陸軍の最前線で功を焦る前線将校たちに黙殺された。非戦闘員も殺害されるにいたったのは、民間人を装った「便衣隊」が紛れ込んでいたからでもある。その結果、「南京虐殺」という幻ががいまに至るまで日本人を攻撃する材料に使用されているのである


戦場におけるチームワーク

映画 『加藤隼戦闘隊』(1944年)にみる現場リーダーとチームワーク、そして糸川英夫博士
・・「過ぎし幾多の 空中戦/銃弾うなる その中で/必ず勝つの 信念と/死なば共にと 団結の/心で握る 操縦桿」(主題歌より)


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