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2023年10月15日日曜日

書評『江戸の学びと思想家たち』(辻本雅史、岩波新書、2021)ー 「教育思想史」を「メディア論」で考える。タイトルから想像する以上に斬新な切り口による江戸時代思想史


この本はいい。思っていたより、はるかにすばらしい内容の本だ。

「教育思想史」を「メディア論」で考えた本である。タイトルから想像する以上に、斬新な切り口の江戸時代思想史なのである。  

メディア論から思想史を読む。それも、たんなる思想史ではなく、教育社会史の立場からする思想史だ。その点が、思想的にインパクトを与えた思想家にばかり注目する一般の思想史家とは違うところなのだ。

登場する思想家は、山崎闇斎、伊藤仁斎、荻生徂徠、貝原益軒、石田梅岩、本居宣長、平田篤胤と一流どころがそろっている。これだけ見たら思想史入門にほかならない。

しかしながら、本書はありきたりの思想史の本ではない

思想家たちが、どのようにして自分の思想を伝えようとしたのか、その伝達の方法とインタラクションについて具体的に語られている。発信側ではない、受信側との双方向のコミュニケーションが重要なのである。教育史ならではの着眼点である。

京都の山崎闇斎は、ワンウェイの一方的な講義(レクチャー)伊藤仁斎は京都の町人サークルのなかでの独習と会読。江戸時代中期の荻生徂徠は「古文辞学」という独自の方法論を編み出し、書物という形で思想を表明している。中国の古代言語解釈の方法論は、国学や洋学にも大きな影響を与えている。それぞれ古文と蘭語文献の解読である。

現代ではもっぱら『養生訓』の著者としてのみ知られているが、じつは貝原益軒は生涯にわたって100を超えるタイトルで啓蒙書を出版している多作家である。朱子学を学んだ儒者ではあったが、漢文ではなく一般人にも読めるような和文で執筆しているところがえらいのだ。

出版による思想の伝達は、儒者の荻生徂徠や貝原益軒以降、国学の本居宣長や平田篤胤に継承されている。

日本は金属活字ではなく木版であったが、中国や西洋とならんで活字による出版が盛んであったのだ。メディアとしての出版文化の、アカデミズムに対する優位性は、現在に至るまでつづいている日本的特性であるといえよう。

石田梅岩は、「声」の重要性を再発見した人である。儒学を本格的に学んだわけではないので儒者たちからはバカにされていたが、商人出身で実践的知性の持ち主のかれは一般大衆を相手にした講釈を行った。「道話」という方法論は、弟子たちによって発展継承された。

本書は一般書であるが、きわめて重要な指摘の数々がある。そのうちいくつかを引用しておこう。江戸時代後期における朱子学の重要性と、民衆教化における石門心学の社会的位置づけについてである。

老中首座松平定信は、多方面にわたる改革のなかでも、とりわけ人びとの内面にかかわる思想や学問のあり方に目を向けた。定信の改革は、政策対象として「民心」を「発見」したことに画期的意味があった。 
「(寛政)異学の禁」(朱子学を正統な学として、幕府の学校での朱子学以外の学問=異学を禁止した政策)は、通常言われるような、たんなる封建反動や思想統制策ではない。朱子学を理念の柱にし、民心も視野に入れた構想力豊かな改革であった。(・・・中略・・・)定信が改革政治の一環として注目したのが、石門心学であった。(P.168)

朱子学者としては山崎闇斎があげられているが、江戸時代の思想家たちは、いずれも朱子学を学んで、それをベースに自分の学問を構築した人たちである。

朱子学はそれ以降は思想としては大きな発展はなかったものの、官学化された江戸時代後期の19世紀以降は、朱子学は武士を中心に「教養」として大いに学ばれることになる。

また、江戸時代の「学びのあり方」が、地球時代の現代においても重要な意味をもっていることは、まとめともいうべき一文に表現されている。「天人合一」思想とその豊かな意味について語ったものだ。


朱子学は、天地自然を一貫する「理」に己がつながることで、本来の自己が回復できると考えた。
仁斎は、天を体現した孔子との一体化に人倫日用の根拠を見いだした。
徂徠は、天にもとづいて文化・文明を創造した聖人(五経)を回路として人間社会のあり方を構想した。
宣長や篤胤の国学は、天照大神のうちに天(天地自然)を読み込んだ。
梅岩も含め、いずれもが天地(大自然)の根源性を認め、そこにつながることで自己を定位していた。とすれば、自己が天地につながる方法、それこそが江戸の<学び>であったといってよいだろう。(P.221)


タイトルからはうかがい知ることができないほど、内容は濃く、しかも読みやすい。長年にわたる著者の教育社会史と教育思想史の総決算ともいうべき本である。

ぜひ一読をすすめたい。




目 次 
序章 知のつくられかた 
第1章 「教育社会」の成立と儒学の学び
 1 文字の普及と文字文化
 2 商業出版の登場
 3 儒学の学び
 4 「教育社会」の成立
第2章 明代朱子学と山崎闇斎 ― 四書学の受容から体認自得へ
 1 四書学の需要 ー 江戸前期の朱子学者たち
 2 山崎闇斎 ー 文字を超えた「講釈」の学
第3章 伊藤仁斎と荻生徂徠 ― 読書・看書・会読
 1 伊藤仁斎 ー 独習と会読
 2 「論語空間」の発見
 3 荻生徂徠 ー 学問の方法について
第4章 貝原益軒のメディア戦略 ― 商業出版と読者 
 1 益軒の学びと学問
 2 「天地につかえる」思想
 3 益軒本の読者
第5章 石田梅岩と石門心学 ― 声の復権 
 1 石田梅岩の学び
 2 開悟からの語り出し 
 3 石門心学の創出
 4 「道話」の発明
 5 石門心学の歴史的位置
第6章 本居宣長と平田篤胤 ― 国学における文字と声
 1 儒学の学問圏からの脱出
 2 声の共同性
 3 宣長の知のメディア 
 4 平田国学における声と文字
 5 講釈講説家・篤胤の登場
終章 江戸の学びとその行方 ― 幕末から明治へ
 1 明六社ー漢学世代の洋学受容
 2 中村敬宇
 3 中江兆民
 4 「型」と自己形成
 5 メディア革命と知の変容
あとがき
主要参考文献

著者プロフィール
辻本雅史(つじもと・まさし)
1949年、愛媛県生まれ。1978年、京都大学大学院教育学研究科博士課程退学。文学博士(大阪大学)。京都大学、国立台湾大学、中部大学の各教授を経て、中部大学フェロー、京都大学名誉教授、中部大学名誉教授。専攻は日本思想史、教育史。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2012年5月15日火曜日

書評『脳を創る読書 ― なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)―「紙の本」と「電子書籍」については、うまい使い分けを考えたい

「紙の本」vs.「電子書籍」といった皮相な見方ではなく、うまい使い分けを考えたい


『脳を創る読書 ー なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』(酒井邦嘉、実業之日本社、2011)は、言語脳科学と脳機能イメージングを専門にする研究者が書いた本。

限定された入力情報によって想像力を鍛えることが「脳を創る」ことになるというのが基本的主張だ。

著者は自然科学者であり、いわゆる「理系」であるが、「紙の本」も「電子書籍」もともにメリット・デメリットがあると冷静に分析している。

「電子書籍」が優位だといっているわけでもないし、「紙の本」でなければダメだなどと主張する守旧主義ではない。検索目的であれば電子書籍のほうに優位性があるのは当然だし、本にチェックや線引きしたり書き込みすることでカスタマイズできる点においては紙の本に優位性があるというのは、経験的にみて十分理解できるところだ。冷静な議論を行うためには、著者のような整理が必要だろう。

重要なことは、「紙の本」であれ「電子書籍」であれ、活字を読む際には想像力を必要とするということだ。想像力を鍛えることで、文脈(コンテクスト)を読むチカラが鍛えられるのである。

著者は、「空気を読む」という表現は使用していないが、「行間を読む」とは文脈を読むチカラのことであり、これまでの知識や経験の蓄積をつかって「想像力で補う」ことを意味している。活字を読むことの効用はきわめて大きい。

やや「教養主義的」な発言がみられるが、そういった趣味の世界の発言は脇に置いておいても、「紙の本」と「電子書籍」との使い分けが重要という著者の主張はきわめて穏当なものだといえるだろう。

「電子書籍」時代に入ったいま、とくに若者を教育する立場にある人には読んでもらいたい本である。




<書評への付記>

脳への入出力にかんして活字と音声と映像を比較すると以下のようになると著者は述べている。

入力(インプット)にかんしては、情報量は映像が圧倒的に多い。活字<音声<映像 という不等式になる。映像が圧倒的に情報量が多く活字の情報量は限定されているのである。

出力(アウトプット)にかんしては反対に、活字>音声>映像 となる。

入力に際して情報量の少ない活字であるが、活字を読む際には想像力を必要とするということを考えれば、活字に託すことのできる情報量が多いことがわかる。

人間は活字を読む際に、目で活字を追いながら無言で音声に変換しているようだ。このプロセスを経ないと脳に受容されないらしい。

音声はシークエンシャルであるのに対し、活字は行きつ戻りつができる。この点において、活字の優位性があるといってもいいのかもしれない。

とくに言語能力に絞って脳機能をみることで明らかになるものも多い。わたしが著者の主張で面白いと思ったのは、つぎのものだ。

日本語には同音異義語が多いから漢字を使わなくてはならないという主張を一刀両断にしているのは小気味よい。ローマ字で書くときは前後の文脈から読み取る際に行使する想像力が、漢字まじりで書かれているよりも多いだけであると。梅棹忠夫さんに聞かせてあげたかった説明である。梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004) を参照。

ただ、本書では脳の可塑性についての議論があまり取り上げられていないので、ローマ字日本語を読むには、「慣れ」という要素がじつは大きいことも知っておくべきだろう。可塑性は変容性といいかえていいかもしれない。脳の可塑性については、書評 『脳の可塑性と記憶』(塚原仲晃、岩波現代文庫、2010 単行本初版 1985)を参照。

脳機能の観点から活字について考えてみるのも意義のあることだ。



<ブログ内関連記事>

紙の本

書評 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ、ジャン=クロード・カリエール、工藤妙子訳、阪急コミュニケーションズ2010)-活版印刷発明以来、駄本は無数に出版されてきたのだ

『ちょっと本気な 千夜千冊 虎の巻-読書術免許皆伝-』(松岡正剛、求龍堂、2007)で読む、本を読むことの意味と方法

書評 『「紙の本」はかく語りき』(古田博司、ちくま文庫、2013)-すでに「近代」が終わった時代に生きるわれわれは「近代」の遺産をどう活用するべきか


電子書籍

拙著 『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』が、"電子書籍の本命" アマゾンの Kindle(キンドル)版としてリリースされました!(2013年11月15日)

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