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2024年4月19日金曜日

書評『正しく生きる ケーズデンキ創業者・加藤馨の生涯』(立石泰則、岩波書店、2023)ー「正しく生きる」ことを人生哲学とした経営者による「がんばらない経営」に感じるすがすがしさ

 

 『正しく生きる ケーズデンキ創業者・加藤馨の生涯』(立石泰則、岩波書店、2023)を読了。小さな活字で400ページを超える単行本、しかもビジネスものでありながら版元が岩波書店というのは珍しい。  

ケーズデンキといえば、「ちびまる子ちゃん」をつかった TV・CM が耳に残っているが、じつは一度も店舗を訪れたことはない。仕事でかかわったことがないし、これまで住んできた地域には店舗がなかったからだ。 

しかも、家電量販店業界の覇者であるヤマダ電機でもなく、かつては破竹の勢いのあったコジマ電機でもない。ケーズデンキにかんする本はおろか、経済記事もあまり読んだ記憶がない。知名度が高い割には、店舗展開をしている地域以外では「知られざる優良企業」なのかもしれない。 

そんなケーズデンキと、その創業者である加藤馨氏の生涯を描いた評伝である。しかも、著者はビジネスものノンフィクションで有名な立石泰則氏によるものだ。 

代表作である『勝者の誤算 ー 日米コンピュータ戦争の40年』や、『復讐する神話 ー 松下幸之助の昭和史』などを読んだ記憶が残っている。いずれも読ませる力作であった。



■創業者・加藤馨の「人生哲学」と「経営哲学」 

この本を読んで、ケーズデンキについても、創業者である加藤馨氏についても、はじめて知ったことが大半だ。じつに興味深く、納得のいく内容であった。 

「正しく生きる」というのは、加藤馨氏の「人生哲学」であり、「がんばらない経営」というのは「経営哲学」である。 

顧客中心の経営は、まず従業員を大事にすることが前提となる。従業員を大切にしない会社が、顧客を重視できるはずがない。

目に見える形で従業員に報いるのでなくては、定着率が高まることはない。 そのために取られた施策が「従業員持ち株制度」であった。最後まで勤め上げれば、ひと財産が残るという制度。この制度の導入で定着率が向上し、株式上場によって実現することになった。 資本主義とうまく折り合いをつけているのである。

「がんばらない経営」とは、「ムリをしない経営」と言い換えたらいいだろう。

業界ナンバーワンなど目指さない。従業員に過剰な負荷をかけないために、積極的にシステム投資を行ってローコスト・オペレーションを実行。そして、強靱な経営体力をつくりだすことに成功する。 

北関東の「YKK戦争」と呼ばれた戦いで敗れ去ることなく自主路線を貫き、その後は「チェーンストア理論」にもとづき、FC展開やM&Aによるグループ化によって、国内市場だけに限定しながら、確固たる地位を築くに至っている。 

創業者の経営理念には忠実に、しかしながら外部環境の変化には柔軟に対応してきた二代目経営者による成果であり、創業家がバックに退いたのちも、サステイナブルな企業として現在に至る。 

まさに有言実行の記録である。「正しく生きる」ことを人生哲学とした経営者による「がんばらない経営」は、その人生をかけて実践され、その理念が生き続けている。 



■創業者・加藤馨の生涯

そんな会社をつくりあげた加藤馨氏は、山梨県の農村に生まれ、父親が早く亡くなったため苦労を重ね、職業軍人としての道を選ぶことになる。 

過酷な戦地を体験しながらも、紙一重の差で戦死することなく生き延びることができたが、通信将校としての特技を活かして、戦後はラジオ修理から人生を再スタートさせる。 

「戦後史」と併走した、零細企業から一部上場企業へというサクセス・ストーリーではあるが、その原体験が「戦争に翻弄された人生」であったことは記憶しておかなくてはならないだろう。 

職業軍人でありながら、人命をあまりにも軽く扱う軍隊に対して抱いていた怒りが、その後の経営者としての従業員重視につながっているのである。けっして「先見の明」だけではないのである。 

全体が三部構成で「Ⅰ 戦争に翻弄された人生」「Ⅱ 正しい生き方」「Ⅲ 新しい道」となっている。

起業前史と起業から上場に至るまで、そして引退後の人生である。 晩節を汚すことなく、65歳で現役を引退してから100歳で亡くなまでの記述は、ちょっと長いのではないかという感想がなくもない。 

だが、けっして目立つことなく、みずからの信念にもとづいて「正しい生き方」を貫いた経営者の生涯には、すがすがしいものを感じるのである。 



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著者プロフィール
立石泰則(たていし・やすのり)
1950年北九州市生まれ。ノンフィクション作家、ジャーナリスト。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。経済誌編集者、週刊誌記者等を経て、1988年に独立。『覇者の誤算 日米コンピュータ戦争の40年』(日本経済新聞社)により第15回講談社ノンフィクション賞を受賞。『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ』(文藝春秋)により第10回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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2024年4月18日木曜日

書評 『伊藤忠 ー 財閥系を超えた最強商人』(野地秩嘉、ダイヤモンド社、2022)ー 伊藤忠160年の歴史から導きだされた「か・け・ふ」は「ビジネス三原則」だ!

 


伊藤忠160年の歴史を、創業時の「近江商人」としてのルーツから、最強商社となった2020年代の現在までたどった企業ストーリーものである。

総合商社のなかでは伊藤忠がダントツに面白い。そう感じるようになっていったのは、読書家としても有名な丹羽正一郎氏が社長となってからのことだ。そして、現在は会長になっている岡藤正広氏が社長になってから、さらに面白くなった。

その意味では、本書はちょっとヨイショ本的な印象がなくはないが(笑)、ストーリーテラーとして企業活動に寄り添い、ポジティブな側面を見ようという姿勢は、けっして悪いものではない。揚げ足取りが目的のジャーナリスト的な批判本ではない。 

わたしが就職活動をやっていたその昔、1980年代の前半には「商社冬の時代」と言われていたが、それでも商社を目指す学生は物産か商事、つまり三井物産か三菱商事のどちらかしか念頭になかった。いずれも財閥系である。 

「糸へん商社」として低く扱われていた伊藤忠が、ビジネス世界を超えて、一般的にも有名になったのは瀬島龍三氏の存在が大きかったように思う。元エリート陸軍参謀でシベリア抑留10年という人物。山崎豊子の『不毛地帯』のモデルとなった人物だ。 

だが、本書においては瀬島氏はあくまでも傍流という位置づけであり、その点は著者の見識といってもいいと思う。伊藤忠の本流は「商人」であり、それは創業時から一貫したものであるのだ。

現在は会長の岡藤氏が繊維畑の営業マンとして頭角を現したのは、紳士服の服地にブランドをつけて売るという「販売イノベーション」を行ったことにある。 

その気づきを得たエピソードと、業界に先駆けて仕組みを構築した先見性は注目に値する。成長性が低いと見なされがちの既存の業界も、やり方次第であらたな展開が可能なのだ、ということを示しているからだ。

 岡藤氏は、大阪出身で東大出であるが、海外駐在経験もなく、経営企画も経験しておらず、大阪で伊藤忠の祖業である繊維営業一筋でやってきた人であるらしい。そんな人を社長として抜擢した伊藤忠という会社は面白い。あくまでも本流は「商人」なのである。 

それにしても岡藤氏が打ち出した「か・け・ふ」というフレーズは、内容からいっても、コミュニケーションの点からいっても、じつにすばらしい。 

「か」は「稼ぐ」の「か」、「け」は「削る」の「け」、「ふ」は「防ぐ」の「ふ」の略である。

稼ぐ、削る、防ぐ。稼ぐ力があっても、削れるコストを削らなくては利益が確保できない。非常事態が発生しても即座に対応できなくては、企業を守ることはできない。伊藤忠160年の歴史から導きされたビジネス三原則である。 

「か・け・ふ」は、まさにこれこそ商売の要諦、どんなビジネスでも共通するものだな、と。いや、ホームエコノミクスである家政にも応用可能だろう。 


そして、基本に忠実に、基本を徹底する。これができるかどうかで、企業の命運は分かれる。 

本書もまた、学ぶべきものは多い、しかも読みごたえのある本であった。  


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目 次
プロローグ 社員との約束 
第1章 伊藤忠の原点 
第2章 財閥系商社との違い 
第3章 戦争と商社 
第4章 総合商社への道 
第5章 高度成長期における商社の役割 
第6章 自動車ビジネスへの挑戦 
第7章 オイルショックの衝撃 
第8章 下積み時代の教訓 
第9章 バブルの残照 
第10章 商社の序列 
第11章 コンビニ事業への参入 
第12章 ITビジネスへの飛躍
第13章 か・け・ふ 
第14章 あるべき姿とめざすべき姿
第15章 日本と総合商社
第16章 CEOの決断
エピローグ 花見と桜と

著者プロフィール
野地秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家。1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経て現職。人物ルポルタージュ、ビジネス、食、芸能、海外文化など幅広い分野で執筆。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)



・・「「日本探検-事務革命」には、総合商社伊藤忠の伊藤忠兵衛が登場する。若き日に欧米を体験して、ローマ字による事務処理が日本語の漢字かなまじり文の事務処理とは、段違いに効率的であることを痛感していた伊藤忠兵衛は、熱心なカナモジ論者となり、社内でもカナモジ化をみずから推進したのであった。梅棹忠夫は、この二代目伊藤忠兵衛(1886~1973)を隠居先に訪問してくわしく話を聞き取っている。」

(2025年7月22日 情報追加)


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2024年4月17日水曜日

書評『キーエンス解剖 ー 最強企業のメカニズム』(西岡杏、日経BP、2022)ー いまの日本はこの高収益で高賃金の「道場」のような会社こそ見習うべきだ

 

 気になっていた『キーエンス解剖 ー 最強企業のメカニズム』(西岡杏、日経BP、2022)を読む。出版後すぐにベストセラーとなっていた本書は、ずっと読みたいと思っていた。  

キーエンスは、もともと2000年代のはじめから気になっていた会社だ。というのも、前職でファブレスの機械部品メーカーの取締役経営企画室長をやっていた頃、その存在を強く意識し、営業パーソンたちに強く意識するよう促していたのが、ミスミとキーエンスだったからだ。 

そんなキーエンスが、機械産業の枠を超えて一般のビジネスパーソンにも知られるようになったのは、たいへん喜ばしい。 

本書を読めばよくわかるが、平均年収2,200万円(!)という高収益企業は、昭和時代の表現をつかえば「モーレツ企業」というべきだろう。だが、「昭和テイストのモーレツ」とはまったく無縁である。飛び込み営業も、接待もいっさい無縁だ。 

徹底的に理詰めの合理主義、徹底した顧客志向で顧客のニーズを先回したシーズの発掘と提案営業、一人一人が経営者意識をもつが、チーム力を重視して情報共有を徹底するなど、数え上げたら切りがない。 

そんな企業だからこそ、高収益体質で高賃金が可能となっているわけだ。稼ぐ仕組みをつくり、手を抜くことなく徹底しているのである。顧客との win-win の関係が構築され、日々更新されつづけている。凡事徹底である。やりきるのである。 

顧客にとっての付加価値をつくりだすことを最重点においた企業姿勢だが、その付加価値をつくりだすのは、あくまでもヒトである。ヒトに対する投資は惜しまない。投資すればリターンが生み出される。それこそ経営哲学というべきだろう。 

キーエンスという会社は、ある意味では製造業におけるリクルートみたいな存在だ。キーエンス自体は製造は行わず、協力企業に生産を委託する「ファブレスメーカー」だが、キーエンスを「卒業」して起業する元社員も増加中だという。 

とはいえ、創業経営者はカリスマであることを否定する。そこが昭和時代の初期のリクルートとの違いだろう。派手なことはいっさいやらず、社長がいなくても会社が回る仕組みをつくりあげた。 

そこで働くことで鍛えられ、高賃金を確保できるだけでなく、ビジネスパーソンとして、人間として成長できる「道場」のような会社。そんな企業こそ、いまの時代の日本には必要だ。 

もちろん真似るのはきわめて大変だが、そんな企業があるということだけでも、知っておくべきである。 


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目 次
プロローグ 語りかける化石たち 
第1章 顧客を驚かせる会社 
第2章 営業部隊が「先回り」できるわけ 
第3章 期待を超え続ける商品部隊 
第4章 「理詰め」を貫く社風と規律
第5章 仕組みの裏に「人」あり
第6章 海外と新規で次の成長へ
第7章 「キーエンスイズム」の伝道師たち
おわりに

著者プロフィール
西岡杏(にしおか・あんぬ)
日経BP記者。1991年、山形県酒田市生まれ。2013年に慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。大阪経済部を経て企業報道部へ。電機や機械、素材などの製造業のほか、医療やエネルギー、不動産・ホテルなどの分野を担当してきた。2021年4月から日経ビジネス記者。電機・IT・通信を中心に取材する。(書籍掲載のもの)。


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2010年8月10日火曜日

書評『日本は世界5位の農業大国 ― 大噓だらけの食料自給率』(浅川芳裕、講談社+α新書、2010)― 顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論


 

■顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論■

 「なんでこんな重要なことを、いままで誰もいってくれなかったのだ」、と声を大にしていいたい。

 もちろん、私を含めて多くの日本人が、なんとなくうさんくさいと思いながらも、「食糧自給率」という日本独自の(爆笑!)指標に「洗脳」され続けてきたのは、ビジネスとマネジメントの観点から農業を見ていなかったからなのだと、本書を読みながら大いに反省した。

 本書『日本は世界5位の農業大国  ―  大噓だらけの食料自給率』(浅川芳裕、講談社+α新書、2010)は、月刊「農業経営者」という専門雑誌の副編集長が、データの正しい読み方と豊富な取材経験に基づいて一般読者向けにまとめた、顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論である。

 これまでにも大前研一をはじめとする論者が農業自由化を主張してきたが、いまひとつ国民的な議論に発展しなかったのは、対象がビジネスパーソン向けで一般向けの本ではなく、しかも農業関係者の発言でなく、あくまでも外野からの発言だったためだろう。

 著者の主張は明快な根拠に基づいている。基本的には、GDPの規模の大きな先進国である日本は、当然のことながら農産物に対する国内マーケットサイズが大きく、しかも生活の成熟化によって趣味嗜好が多様化しているので多様な農作物が栽培され販売されている。さらにまた充実した国内物流網がこれを下支えしている。 

 今後たとえ国内市場が人口減少にともなって収縮傾向にあるといっても、膨大な海外マーケットが開かれていることは明らかだ、ということになろう。

 したがって、こころざしのある農業経営者による、ビジネスとしての攻めの農業、こういった明るいビジョンにもとづいた農業には大きな未来が開かれているのだ、と。

 ところが、票集めにしかアタマにない民主党は、「農業者戸別所得保障制度」という愚策によって、こころざしある農業関係者だけでなく、消費者としての日本国民を愚弄している。援助漬けでダメになるのは国際援助の対象国だけではない。日本国内の農業もまた、援助によってダメにされてきた典型的なケースである。

 いま必要なのは、農業にかかわる直接の関係者にとどまらず、マスコミが垂れ流す無批判的情報による洗脳から、日本国民全体を解き放つことだ。もちろん本書自身も批判的に読む必要はある。

 まさに警世の書である。と同時に、日本国民に勇気を与えてくれる本である。全国民必読書である。


<初出情報>

■bk1書評「顧客志向の「先進国型ビジネス」としての日本農業論」投稿掲載(2010年8月5日)


(画像をクリック!)

目 次

はじめに-日本農業弱者論はまったくの事実無根
第1章 農業大国日本の真実
第2章 国民を不幸にする自給率向上政策
第3章 すべては農水省の利益のために
第4章 こんなに強い日本農業
第5章 こうすればもっと強くなる日本農業
第6章 本当の食料安全保障とは何か


著者プロフィール

浅川芳裕(あさかわ・よしひろ)
1974年、山口県に生まれる。月刊「農業経営者」副編集長。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。ソニーガルフ(ドバイ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。若者向け農業誌「Agrizm」発行人、ジャガイモ専門誌「ポテカル」編集長を兼務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<書評への付記>

 「年生産額8兆円はアメリカに次ぐ先進国第2位!! 食糧危機と農家弱者論は農水省によるでっち上げ! 生産高:ネギ1位、キャベツ5位、コメ10位! 7%の超優良農家が全農産物の60%を産出!!」とキャッチコピーにある。

 これを見ただけで、おお!とみな思うのではないだろうか。常識破りの一書である。

 せっかくの機会なので、感想をもう少し。

 考えてみれば、われわれがふだん食べている野菜は、ほとんどが国内産の表示になっている。一方、果実についていえば、グレープフルーツやキウィなど輸入品も多い。
 また、うどんやそうめんといった国内加工品も原材料である小麦はほとんどが輸入品、国内産小麦は質が高くないので加工業者は使用したくない。しかしながら、政府による貿易統制で高値を強いられ、そのつけは消費者にかぶらされてきた。まったくもって消費者も生産者もバカにした話ではないか!

 私の個人的見解かもしれないが、日本のコメは世界最高の味である。十二分に国際競争力をもっているはずだ。余剰米が発生しているのなら、もっと輸入できるように促進すべきでよい。

 何かがおかしい、多くの人たちがうすうすと感じていた状態に放り込まれたのが、まさに本書である。

 著者は本書のなかでは使っていないが、「比較生産費説」に基づいて、国際的競争力の強い商品作物に特化し、国際競争力が弱い分野は輸入に依存している。経済学の国際貿易論の世界では常識となっている。
 たとえば、ニュージーランドのキウィフルーツにかんしては、生産農家が集まってゼスプリ(Zespri)という農産物ブランドを立ち上げて輸出に注力している。日本では藤原紀香を使ったプロモーションをみたことがあるはずだ。日本で生産するよりも価格競争力もある。
 最近では、高級リンゴやイチゴなど、海外でも日本のくだものは高値で販売されていることは、私はバンコクに住んでいたのでよく知っている。日系流通業以外でも、頻繁に「物産展」が開催されていた。それも「日本物産展」ではなく、「北海道物産展」とか地域別のものである!

 かつて多くの日本人が移民した北米や南米諸国では、日系人の農業関係者の高い生産技術と努力によって、農業が一大産業として成立した歴史をもっている。

 現在でも意欲的な農業経営者たちは、タイや各地で Made by Japanese の農産物を生産しているというのは、日本プロの農業従事者は違うなあと思わされるのである。

 こんなことを読んだり、思い出したりしてみると、日本農業は本来は競争優位性をもった「産業」なのだということが理解されるのだ。



<関連ウェブサイト>

月刊『農業経営者』
・・「農業経営者は農業経営・農業技術・農業商品・農業機械・農業セミナー情報満載の日本唯一の農業ビジネス誌です。農業関係者必読!」と紹介文にある。著者が副編集長を務める専門雑誌。


<ブログ内参考記事>

書評 『植物工場ビジネス-低コスト型なら個人でもできる-』(池田英男、日本経済新聞出版社、2010)
・・農業先進国オランダに学ぶ。


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