「明治維新」からすでに150年以上たっている。言い換えれば「江戸時代」が終わってから150年以上立つことになる。
だが、1868年という時点ですっぱりと江戸時代が終わったわけではない。私見では、江戸時代的要素が最終的に消えていったのは1960年代だと考えている。
これからの日本をどうつくっていくか、日本人としてどう生きていくか、その構想や見解は無数に出ているものの、これだ! としっくりくるものがない。
個々人としては手探りでも前に進まなくては生きていけないが、日本全体がどうあるべきか、どの方向に向かっていくべきか考えるためには過去にさかのぼって考えてみる必要がある。答えはつねに過去のなかに潜んでいるからだ。
そのために必要なことは、なんといっても江戸時代をきちんと振り返って、なにが捨てられ、なにが継承されているのか見極めることだ。
「近代」は「前近代」の江戸時代から生み出されたものだからだ。いっけん断絶しているように見えて、かならずしもそうではない。
『江戸問答』(田中優子/松岡正剛、岩波新書、2021)は、江戸時代を振り返るべきだという問題意識をもった2人による対話篇だ。「問答」無用ではない、「問答」有用である。
江戸時代がブームになって久しいが、江戸時代がすばらしいとしてもてはやされている現在の状況に問題がないとはいえないのだ。
なにが問題かというと、「かけら」(=部分)にのみ焦点があたっているが、「全体」をみる視点がいちじるしく欠けているという点だ。「部分」をいくらよせ集めても「全体」にならないのである。
これは「文化」と「文明」の違いにあてはめていいかもしれない。「江戸文化」について語られることが多いが、全体としての「江戸文明」を捉える試みは、それほど多くはない。本書でも取り上げられているが、すでに失われてしまった「江戸文明」を来日外国人の目をとおして復元を試みた『逝きし世の面影(日本近代素描1)』は例外的な試みである。
『江戸問答』は、そんな「江戸文明」を「全体」としてどう捉えたらいいのか、問いを中心にした「問答」である。問答をつうじて、あらたな発見があり、それがあらたな仮説につながっていく。
田中優子氏と松岡正剛氏の「問答」は、前著の『日本問答』(田中優子/松岡正剛、岩波新書、2017)でも当然のことながら江戸時代についても行われているが、新刊ではより深く江戸時代そのものに迫っている。
法政大学総長だった田中優子氏(任期は2014年4月から2021年3月末まで)の専門が江戸時代であるだけに、今回は松岡正剛氏が質問者あるいは挑発者の役割を演じている。あえて知らないふりをして、田中優子氏から大胆な仮説を引きだそうとする姿勢である。
前著の『日本問答』もそうだったが、何度も読み返すに値する濃い内容の本だ。読み返すたびに、あらたな発見があることだろう。
あらたな発見は、認識を深めることにつながる。再読する際になにをあらたに発見するか、いまから楽しみだ。
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目 次1 面影問答2 浮世問答3 サムライ問答4 いき問答あとがき1 新たな江戸文明の語り方へ(田中優子)あとがき2 訂正と保留をこえて(松岡正剛)
著者プロフィール田中優子(たなか・ゆうこ)法政大学社会学部教授などを経て法政大学総長(2021年3月末まで)。専門は日本近世文化・アジア比較文化。『江戸の想像力』で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』で芸術選奨文部科学大臣賞・サントリー学芸賞。著書多数。2005年度紫綬褒章。江戸時代の価値観、視点、持続可能社会のシステムから、現代の問題に言及することも多い。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)松岡正剛(まつおか・せいごう)工作舎、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授などを経て、現在、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。著書多数。2000年よりインターネット上でブックナビゲーションサイト「千夜千冊」を連載中。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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