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2021年4月8日木曜日

書評『イスラム世界の常識と非常識』(加藤博、淡交社、1999)-「複合アイデンティティ」によって構成された「イスラム世界」をエジプトに即して考える


『イスラム世界の常識と非常識』(加藤博、淡交社、1999)を読んだ。積ん読すること、なんと20年!  

さきに読んだ『慈悲深き神の食卓』がエジプトを事例として描かれていたので、エジプトついでに本書を読むことにした次第。本というものは、いったん読むキッカケを失うと、あっという間に積ん読化していまう。この著者の本は、斜め読みはしているのだが。 


■「複合アイデンティティ」によって構成された「イスラム世界」

「イスラム世界の常識と非常識」というタイトルだが、この「イスラム世界」というコトバそのものがクセモノだ。

というのは、普遍的な「イスラム世界」というものが現実世界に存在するわけではないからだ。イスラム法学者の説く原理原則にもとづいたイスラム世界は、理想化された世界である。「理想型としてのイスラム世界」という表現も可能だろう。 

著者が取り上げるのは、もっとも長く滞在したエジプトであり、研究テーマがエジプト近現代史でもあることから、エジプト社会の実態に即して「イスラム世界の常識と非常識」が語られることになる。 

著者は注意喚起しているのは、エジプトが大きくわけて4つのアイデンティティが複合して構成されていることだ。 

空間的な大きさから順番に、①イスラム世界、②中東世界、③アラブ世界、④エジプト の4つである。この4つのアイデンティティが複合的に交わり、ときに応じて特定の要素が全面に出てくることになる。

これは国家レベルの話だが、個人レベルではこれに加えて、さらに都市か農村か、男か女か、子どもか大人か、老人か病人か、といったさまざまな属性がからまって、さらに複雑になってくる。

したがって、本書でいう「イスラム世界の常識と非常識」とは、エジプトという特定の地域で、しかも1990年を中心に描いたものとなっていることに注意したい。

考えてみれば当たり前なのだが、おなじ「イスラム世界」といってもエジプトとトルコと違うし、サウジアラビアともイランとも異なる世界ではある。東南アジアのインドネシアやマレーシアはさらに異なる世界だ。

しかも、1990年代と2020年代でも大きく変化しているはずだ。空間的・時間的差異を無視した議論がナンセンスなのはそのためだ。 

そういう観点から、描かれた1990年代のエジプト社会における「イスラム世界の常識と非常識」だが、男性研究者の視点によるものという限界もある。男女の区分が厳格なイスラム世界では、男性のアクセスできる空間には限界がある。研究者と実務家との、現地社会との接触密度の違いもまた存在する。立ち位置の違いである。

研究者としての限界は十分に踏まえた上で、研究者である著者は、配偶者(女性)による出産と育児にかんするレポートで補足を行っている。これはある意味では良心的であり、実際的な配慮というべきだろう。出産と育児は、イスラムの世界観においてきわめて重要な位置づけをもっているからだ。 

エジプトといえば砂漠というのが日本人の連想だろうが、イスラムは「都市の宗教」であって、「砂漠の宗教」ではないという著者の説明はきわめて説得力に富んだものだ。そして、都市と農村の違いもまた、著者によるフィールドワークの体験が読ませるものとなっている。 


■かつてエジプトには「ギリシア人コミュニティ」があった

個人的には、1952年のエジプト革命まで存在したギリシア人コミュニティの話が興味深かった。ギリシアが1830年に独立するまでは、「ギリシア人」なるアイデンティティは存在しなかった。

ギリシア語を母語とするギリシア正教徒ギリシア語を母語とするイスラム教徒アラビア語を母語とするギリシア正教徒・・。アイデンティティというものは、複雑なのである。

アラブ民族主義のナセルによる「エジプト革命」を機に、エジプト在住ギリシア人コミュニティは解体したようだが、ユダヤ人だけでなく、ギリシア人についても調べてみる必要がありそうだ。

このテーマは、2002年に出版された著者の『イスラム世界論』(東京大学出版会)ではより幅広く展開されていることを、本書の読了後に確認した。

なぜギリシア人がエジプトにいたのかという点にかんしては、オスマン帝国時代には、商業や金融を担っていたのがユダヤ人やギリシア人、アルメニア人であったことを知る必要がある。

エジプトは、結局オスマン帝国から独立できないまま、英国の植民地になってしまったのである。ギリシア人は、オスマン帝国時代にエジプトに移住して、カイロやアレクサンドリアでビジネスを行っていたのである。

そういえば、フランスのシャンソン歌手ジョルジュ・ムスタキは、アレクサンドリア生まれのギリシア系で、かつ「ロマニオット」のユダヤ人あった。「ロマニオット」(Romaniote)とは、2000年以上前からギリシアに居住していたユダヤ人集団で、いわゆるセファルディムとは異なる集団である。ムスタキの両親はコルフ島からエジプトに移住したポリグロットである。

まことにもって複雑なアイデンティティだが、「地中海人」というにがふさわしい。カイロもアレクサンドリアも。きわめてコズモポリタンな都市であった。

エジプトとトルコの関係について知るためには、『世界の歴史20 近代イスラームの挑戦』(山内昌之、中央公論社、1996)が参考になる。この本も、積ん読35年以上となっていたが、つい最近読了したばかりだ。




PS 著者の加藤博氏について

著者の加藤博氏は、現在では一橋大学名誉教授だが、残念ながら 私の在学中にはまだ着任してなかったようで、その授業に参加したことはない。 

加藤氏の時代に、経済学部の「西洋文明史」は「文明史」に衣替えしたようだ。

2000年代だと思うが、一般向けのイスラム講座シリーズを受講したことがあるが、前置きの長い話にややウンザリした記憶がある。2020年代であれば、もっと単刀直入な話をすべきではないかと思ったためだ。

(2023年11月15日 本文に加筆した)


 

目 次 
プロローグ 経験としてのイスラム世界 
Ⅰ イスラム世界は存在するのか 
 1 イスラム世界とは 
 2 なぜ、イスラムは人びとの心をとらえるのか 
 3 さまざまな土着文化を抱え込むイスラム世界 
Ⅱ イスラム世界の風土 
 4 砂漠 
 5 都市 
 6 農村 
Ⅲ イスラム世界の仕組み 
 7 政治 
 8 経済 
 9 社会 
Ⅳ イスラム世界の暮らし 
 10 出産-子どもは神様からの贈り物 
 11 育児 
 12 家族と結婚 
 13 名誉と恥 
 14 自己と世間 
エピローグ イスラム世界への徒然なる旅 
あとがき 

著者プロフィール
加藤博(かとう・ひろし)
1948年 愛媛県高松市生まれ。 1980年 一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。 東京大学東洋文化研究所助手、東洋大学文学部助教授を経て 現在 一橋大学名誉教授。
<主著書> 『私的土地所有権とエジプト社会』(創文社、1993年)『文明としてのイスラム―多元的社会叙述の試み』(東京大学出版会、1995年)『アブー・スィネータ村の醜聞—裁判文書からみたエジプトの村社会』(創文社、1997年)『イスラム世界論—トリックスターとしての神』(東京大学出版会、2002年)『「イスラムvs. 西欧」の近代』(講談社現代新書、2006年)など。


<ブログ内関連記事>

・・エジプト社会を「イスラムと食」から見る

・・この本には黒海周辺のギリシア人についての記述があるが、エジプトのギリシア人コミュニティの話はなかった

・・「現在のトルコ人は、現地に生きていたギリシア人やアルメニア人その他がトルコ化されイスラーム化されたものが多数派であり、出自とされる中央アジア出身のトルコ族そのものではない」


 
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