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2021年4月13日火曜日

書評『メルケル 仮面の裏側』(川口マーン恵美、PHP新書、2021)-「ドイツ再統一」前後から現在に至る現代ドイツの30年間の歴史をメルケルという政治家に即して考える

 

「ドイツ再統一」(1990年10月3日)からすでに30年が経過した。30年といえば1世代に該当するが、その半分以上の16年ににわたって首相の座にいるのがアンゲラ・メルケルという旧東ドイツ出身の政治家だ。

すでに「再統一」を実現したヘルムート・コール元首相の16年間と並んで、「戦後ドイツ」を代表する存在となったといっていいだろう。

現在66歳のメルケル氏は、今年2021年で首相の任期を終えて辞任することになっているが、ドイツでの人気は依然として高い。はたして「メルケル後のドイツ」はどうなるのだろうか? 

メルケルについて書かれた本は日本語でも少なくないが、いずれも礼賛傾向が強い。だが、ドイツに暮らし、メルケルを20年にわたって観察してきた著者は、メルケルをかなり辛口に捉えている。 

メルケル時代の16年間にドイツ社会が変化したこと、端的に言ってしまえば「左傾化」し、異論を許さない全体主義的傾向に向かっているというのが、実感にもとづく著者の見解だ。

その理由として、社会主義と訣別したはずのメルケルの変節、いや社会主義への原点回帰にあるのではないかと著者は見ているようだ。 

メルケルがどのように社会主義国の東ドイツで育ち、どのようにドイツ再統一前後に政治家として頭角を現し、日本なら「大政翼賛会」と批判されてもおかしくない「大連立状況」のなかで、いかに自分が属するCDUという保守政党を骨抜きにして左傾化させてきたか。

日本の「3・11」後の「反原発」しかり、シリア難民の受け入れを推進した「難民対策」しかり、ドイツ産業界のバックアップをもとにした「中国への傾斜」もまたそうだ。 

時代の流れを読む能力に長け、気を見るに敏であるからこそ、メルケルは16年にもわたって首相の座にいるわけである。メルケルという政治家の言動を追っていくと、その間のドイツ社会の変化が反映されていることがわかるのだ。 

「ドイツは日本の反面教師である」という副題に、著者の主張が込められているといっていいだろう。私も著者の主張に同感だ。 


目 次
プロローグ 
第1章 眠るメルケル-「赤い牧師」の子 
第2章 目覚めるメルケル-社会主義からの訣別 
第3章 動き出すメルケル-完璧な記者会見と選挙活動 
第4章 羽ばたくメルケル-ドイツ統一の事務方として 
第5章 考えるメルケル-「権力は必要なものです」 
第6章 戦うメルケル-裏切りと勲章 
第7章 豹変するメルケル-EU の大地に咲く大輪のダリア 
第8章 君臨するメルケル-国民を味方に付ける快感 
第9章 世界を救うメルケル-「ドイツ人は理性を失った」 
第10章 微笑むメルケル-一瞬で保守を葬り去る 
第11章 ヒューマニスト・メルケル-100年後の世界 
第12章 永遠のメルケル-誰も何も言い出せない 
第13章 シンデレラ・メルケルの落日 
エピローグ

著者プロフィール
川口マーン惠美(かわぐち・まーん・えみ) 
作家、ドイツ・ライプツィヒ在住。日本大学芸術学部卒業後、渡独。1985年、シュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。2016年、『ドイツの脱原発がよくわかる本』で第36回エネルギーフォーラム賞・普及啓発賞受、2018年に『復興の日本人論 誰も書かなかった福島』が第38回の同賞特別賞を受賞。


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書評 『本音化するヨーロッパ-裏切られた統合の理想』(三好範英、幻冬舎新書、2018)-いまヨーロッパで進行中の状況を理解するヒント

書評『西洋の自死-移民・アイデンティティ・イスラム』(ダグラス・マレー、東洋経済新報社、2018)-かつて世界を支配したこともある「文明」は滅亡へと向かう不可逆のプロセスにある

中流社会が崩壊に向かい格差社会が進行している現代ドイツの状況を知る3冊-『そしてドイツは理想を失った』『メルケルと右傾化するドイツ』『ドイツ帝国の正体ーユーロ圏最悪の格差社会-』

ドイツを「欧州の病人」から「欧州の優等生」に変身させた「シュレーダー改革」-「改革」は「成果」がでるまでに時間がかかる
・・大連合によって成立したメルケル政権は「シュレーダー改革」の延長線上にある

ドイツが官民一体で強力に推進する「インダストリー4.0」という「第4次産業革命」は、ビジネスパーソンだけでなく消費者としてのあり方にも変化をもたらす

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか? 



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