中国共産党の圧政のもとに苦難を強いられているウイグル人が、ウイグルの現在と過去について、日本人に向けて日本語で書いた本だ。
ようやく世界中で取り上げられるようになった「ウイグル・ジェノサイド」だが、問題の根源はウイグル人の土地が中国共産党によって「占領」され、「植民地」とされ搾取されてきたことにある。置かれている状況は、チベットや南モンゴルとおなじなのだ。
本書の副題にあるとおり、その土地の名は「東トルキスタン」である。ウイグルは民族の名前であり、文化や言語の名前である。
中国の領土内では西端にあり、乾隆帝時代の18世紀後半に清朝の版図に組み込まれ「新疆」(*新たな辺境のこと)と命名されたウイグル人の土地は、テュルク世界では東端にあたる。 現在の中央アジアがロシアの版図に入ったため(・・現在はそれぞれ独立している)、その東側が「東トルキスタン」とされたのだ。
その後、3度にわたって独立にこぎ着けたが、ときどきの中国の政権によって制圧され、現在に至っている。中国共産党体制のもと、文革やその後の改革開放を経て、ふたたび習近平の圧政状態で苦しむウイグル人。
ときどきのウイグル人政治指導者たちが弱みにつけ込まれ、中国人の企みに騙されてきたことを、ウイグル人の著者はウイグル人の弱点だと冷静に見つめている。 このように、本書で著者は「ジェノサイド」にのみ焦点をあてているのではない。 ロシアと中国という大国の狭間の存在であるがゆえの苦しみである。
在日ウイグル人として、ウイグルの言語と文化、とくに文学作品の研究者として、ウイグルについて日本人に知ってもらいたいという一念から、ウイグルにかんしてさまざまな側面から紹介を行っている。
最終章で現代ウイグル詩人たち(・・そのなかには収容所から還ってこないひとたちもいる)の作品を紹介している。
日本人として心すべきは、ウイグル人のあいだでは「親日」の思いが強いということを真摯に受け止めるべきということだ。その理由は、本書に書かれている「防共回廊」をめぐる、日本の敗戦で幻に終わった帝国陸軍の大構想にあったことが本書で紹介されている。著者自身が、関岡英之氏の著書『帝国陸軍 知られざる地政学戦略 見果てぬ「防共回廊」』のウイグルにかんする部分を、著者の快諾を得てウイグル語に翻訳したことも大いに貢献しているのだ。
世界には「親日」の民は多い。だが、その思いが裏切られる状況がいま国軍によるクーデターと国民に対するテロが行われているミャンマーで進行中である。そのことに心を痛めない日本人は少ないはずだ。
ウイグル人の思いも踏みにじることのないよう、日本政府には覚悟を決めていただきたいと願うばかりだ。
目 次はじめに第1章 日本に生きるウイグル人として第2章 東トルキスタンの三度の独立と挫折第3章 幻の「防共回廊」第4章 「新疆ウイグル自治区」の歴史と政治第5章 強制収容所の実態第6章 ウイグル文学と詩人たちの光と陰おわりに巻末附録「強制収容所に収容されているウイグル知識人リスト」
著者プロフィールムカイダイス(Muqeddes)ウルムチ出身のウイグル人。千葉大学非常勤講師。 上海華東師範大学ロシア語学科卒業。神奈川大学歴史民俗資料学研究科博士課程修了。 元放送大学面接授業講師、 元東京外国語大学オープンアカデミーウイグル語講師。世界文学会会員。 著書に『ああ、ウイグルの大地』、『ウイグルの詩人 アフメット ジャン・オスマン選詩集』、『ウイグル新鋭詩人選詩集』三冊とも河合眞共訳(左右社出版)、『聖なる儀式 タヒル・ハムット・ イズギル詩集』河合眞共編訳、『ウイグルの民話 動物編』河合直美共編訳(二冊とも鉱脈社出版)などがある。 それ以外に『万葉集』(第4巻まで)、『百人一首』、関岡英之著『旧帝国陸軍知られざる地政学戦略―見果てぬ防共回廊』の ウイグル語訳を手掛けるほか、ウイグル語のネット雑誌『探検』にて詩や随筆を多数発表している。
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(2022年5月26日 情報追加)
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