現職の大統領と同乗していた外相が事故死するという異常事態に見舞われているイランは、はたして今後どうなっていくのか?
保守強硬派の大統領は最高指導者ハメネイ師の忠実な配下だったが、ライシ大統領の事故死は、現在85歳の最高指導者の後継者問題にも影響を及ぼすことだろう。それがさらなる国内での反発につながっていくのかどうか。
この事件とは直接は関係ないが、きわめてタイミングよく出版された本がある。『イランの地下世界』(若宮聰、角川新書、2024)という本だ。
5月にでたばかりの本で、わたしはこの本は一昨日読んだ。よもや、大統領死亡など事件が起こるとは夢にも思わずに・・。
この本の存在は、冒険ノンフィクション作家の高野秀行氏のX(旧twitter)で知った。高野氏が本書の生みの親だそうで、しかも本書の解説を書いている。
著者の若宮聰氏は、イラン好きが高じてイランで長年暮らし、イラン人とホンネで語り合えることのできる日本人。イランのような秘密警察体制下では、ほんとうのことを書くと危険なのでペンネームである。登場人物も当然のことながら仮名である。
1979年の革命以来40年以上続いている現在のイスラーム体制であるが、この本を読むと現在の体制に不満をもつイラン人がいかに多いかが手に取るようにわかる。
おそらく著者は、首都のテヘランをベースにあちこちを訪問しているのであろうが、すくなくとも都市部の若年層の不満がいかに大きなものとなっていることか。 ヒジャーブ関連の抗議行動が爆発したこと、それが徹底的に弾圧されたことは記憶に新しい。
■イラン人の「イスラーム疲れ」という現実
とくに興味深く読んだのが、「第2章 イスラム体制下で進む「イスラム疲れ」」である。
シーア派のイスラームを国教とし、聖職者が支配するイランの現体制であるが、宗教イコール政治の体制であるがゆえに、政治への不満がダイレクトに宗教への不満につながってしまいやすいのだ。
そもそもイランは、古代以来のペルシア帝国の末裔である。イスラーム化される前は、日本では拝火教とよばれることもあるゾロアスター教が支配的であった。
なるほど、イスラーム強国のまっただなかのイランから、現在はカナダ在住のアーミン・ナヴァヒという元イスラームのイラン人「無神論者」がでてきたのも不思議ではないなと思わされた。
そういえば、人類平等と絶対平和を主張するバハーイ教は19世紀イランに生まれた新宗教であったな、と思い出した。
とはいえ、本書を読んでいると、たとえ現体制が転覆されて「世俗化」されたとしても、「歴史は繰り返す」というわけではないが、イランはまたおなじような経緯をたどっていくのかなという気がしないでもない。
なぜなら、わたしは1979年の「イラン・イスラーム革命」と第2次オイルショックを、TVをつうじてであるが、リアルタイムで知っている世代だからだ。
さすがに「王政復古」は可能性としては低いだろうが、どうやらイラン人も独裁者的なストロングマンが好きなようだ。新体制もまた独裁化していくのであろ
あのときも、すべてではないが多くのイラン国民は革命に熱狂していた。その末路がいまや末期症状を示している現体制なのだ、と。
(本文の P.231 で紹介されている「邪視よけ」 マイコレクションよりトルコ土産)
■イラン人は大の日本びいき
まあ、そういう話だけでなく、「タテマエ」のイスラーム体制のもとでの、「ホンネ」の飲酒やパーティにあけくれるイラン人のライフスタイルなど、本書には面白い話が満載だ。
イランに関心のあってもなくても、読めば面白い本である。中ロとの悪の枢軸とみなされがちな現在のイランだが、すくなくともイラン人は大の日本びいきだということは、知っておいたほうがいいいだろう。
もちろん、イラン側の片思いに過ぎないのであるが・・。
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目 次はじめに第1章 ベールというカラクリ第2章 イスラム体制下で進む「イスラム疲れ」第3章 終わりなきタブーとの闘い第4章 イラン人の目から見る革命、世界、そして日本第5章 イラン人の頭の中第6章 イランは「独裁の無限ループ」から抜け出せるかおわりに解説 高野秀行
<関連サイト>
・・著者インタビュー記事。大統領選挙で改革派のペゼシュキアンが当選したことをイラン人ったいはどう捉えているか? とはいえ、トランプ氏が米国大統領に返り咲くことになったら・・
【深層NEWS】イラン・ライシ大統領が乗ったヘリコプターが墜落・炎上。大統領、外相ら搭乗していた全員が死亡。イスラエルとの緊張高まるイラン。中東情勢への影響は。最高指導者ハメネイ師の後継・・(2024年5月21日)
<ブログ内関連記事>
■日本とイランの関係
■イランから脱出した人びと
・・「イスラーム国家のイランから脱出してカナダに移住した元ムスリムのアーミン・ナヴァビが・・・かつてイスラーム教徒だった人間が「無神論者」になった例など聞いたこともなかった」
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
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