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2015年11月11日水曜日

書評 『兵士は起つ-自衛隊史上最大の作戦-』(杉山隆男、新潮文庫、2015 単行本初版 2013)-「3-11」という「有事」を自衛隊員たちの肉声でつづったノンフィクション


2011年3月11日の「3-11」からすでに5年近い。あの日は、まさに国難ともいうべき未曾有の大災害の始まりであった。そして自衛隊にとっては「史上最大の作戦」の始まりでもあった。まさに「有事」であったのだ。

科学者で随筆家であった寺田寅彦は、「国防という観点からみたら、天災が外敵以上に対応が難しいのは、「最後通牒」もなしに、いきなり襲いかかってくるからだ」という意味の発言を行っている。これほど的確な表現はほかにあろうか。

たしかに徴候はあった。前兆はあった。何度も規模の大きな地震がつづいていた。だが誰がマグニチュード9レベルの巨大地震が発生し、それが津波の大被害をもたらし、さらには原発事故につながろうとは思っただろうか・・・。それは百年どころか千年に一度の巨大地震であったのだ。

『兵士は起つ-自衛隊史上最大の作戦-』(杉山隆男、新潮文庫、2015)は、「3-11」という未曾有の「有事」に巻き込まれた自衛隊員の肉声によって構成されたノンフィクションである。

登場するのはいずれも無名の「兵士」たちだ。そのほとんどが第一線の現場で勤務する「下士官と兵」たちである。

第一部では、緊急事態の発生で駐屯地に向かう途中、いきなり襲ってきた津波に飲み込まれながらも自力で泳ぎきり、しかも人命救助に献身的に全力を尽くす隊員たちが登場する。72時間のトリアージが生存可能性の壁となるからだ。

第二部では、自分の家族の安否もままならぬ状態のまま、遺体収集にあたる隊員たち。いまだかって体験したことのない過酷な環境で抱く精神的にきわめてつらい思いが語られる。

第三部では、非常事態に陥った福島第一原発で、世界でも例のない作戦に従事することになった隊員たちが登場する。

本書に登場する自衛隊員たちに共通するのは使命感と覚悟である。自分や家族よりも国民の命を守るという使命感。その使命感を胸にした自衛官としての覚悟。表舞台で脚光を浴びるためではなく、あくまでも縁の下の力持ちとして、目立たぬ存在であることを望むという姿勢。迷走をつづけた当時の政府とは異なり、上意下達の組織である自衛隊は、課せられたミッションを遂行するプロ集団である。

「有事」とはめったにないからこそ「有事」なのである。「有事」に、そのもてるチカラを100%発揮するためにこそ、「平時」における訓練がある

作家の三島由紀夫は、「その全身をかけに賭けた瞬間のために、機が熟し、行動と意思が最高度まで煮詰められなければならない。そこまでいくと行動とは、ほとんど忍耐の別語である」と言っている。自衛隊員についても、そのままあてはまるものだろう。

無名の自衛隊員たちの献身的な姿を淡々と記述した本書だが、三島由紀夫亡きのちにノーベル賞を受賞した日本人作家への怒りが、なんと二回も表明される。防衛大学校と自衛隊し侮辱した作家のことである。名指しはされていないが、読めば誰のことかわかるはずだ。

有名作家のような公式の場における発言力をもたない無名の自衛隊員たち。かれらの肉声を拾い上げて構成した本書は、ノンフィクションという形をとった文学作品といってもいいのではないだろうか。そんな感想を読みながら抱いた。

大多数の国民が抱くのは、自衛隊員たちへの「感謝」であろう。本書の読者もまた、そうであるに違いない。





目 次

第1部 千年に一度の日
 水の壁
 別命なくば
 救出
 最後の奉公
 白いリボン
 長く重たい一日
第2部 七十二時間
 戦場
  「ご遺体」
 落涙
 母である自衛官
 第3部 原発対処部隊
 正しくこわがった男たち
 偵察用防護衣
 海水投下
 四千八百リットル
エピローグ 日記

著者プロフィール

杉山隆男(すぎやま・たかお)
1952(昭和27)年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『兵士を見よ』『兵士に聞け』『兵士を追え』『兵士に告ぐ』の「兵士シリーズ」で自衛隊を追い続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)



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「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・科学者で随筆家であった寺田寅彦は、「国防という観点からみたら、天災が外敵以上に対応が難しいのは、「最後通牒」もなしに、いきなり襲いかかってくるからだ」という意味の発言を行っている

「行動とは忍耐である」(三島由紀夫)・・・社会人3年目に響いたコトバ
・・「その全身をかけに賭けた瞬間のために、機が熟し、行動と意思が最高度まで煮詰められなければならない。そこまでいくと行動とは、ほとんど忍耐の別語である」(三島由紀夫)


自衛隊

陸上自衛隊「習志野駐屯地夏祭り」2009に足を運んでみた

海上自衛隊・下総航空基地開設51周年記念行事にいってきた(2010年10月3日)

鎮魂!「日航機墜落事故」から26年 (2011年8月12日)-関連本三冊であらためて振り返る ・・この墜落事故でも自衛隊員たちが遺体収集作業に従事した


「現場」の重要性

書評 『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(大宮冬洋、ぱる出版、2013)-小売業は店舗にすべてが集約されているからこそ・・・

アルバイトをちょっと長めの「インターンシップ期間」と捉えてみよう

(2015年11月13日 情報追加)




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2014年3月11日火曜日

「3-11」から3年。ー 鎮魂、それは生かされている者にとって最低限の「つとめ」


「3-11」から3年たった。三日三月三年(みっかみつきさんねん)というが、「3」という区切りは、さすがに違うものを感じる。

この世界は、いま生きている人たちだけではなく、すでに生き抜いて通り抜けていった人たち、そしてこれから生まれてくる人たちによって構成されている。

もちろん、いま生きている人たちも、これから生まれてくる人たちも、いつかは死んでゆくことになる。この日本という「場」を過ぎ去っていく「時間」。

仮初めの現生を生きるのは「死すべき人間」。中学生の頃か、倉田百三の『出家とその弟子』の「序曲」に「死ぬる者」(モータル)を読んで以来、モータル(mortal)心に刻まれてきた。メメント・モリ(Memento Mori 死を忘れるな)である。

3年前の大地震、大津波、原発事故・・・。とても3年たったとは思えないほど生々しい記憶である。たんなる情報だけでなく、体感記憶だからであろう。

大地震は自分自身が体験した。大地震は、自分が立っている大地が揺れるという、まさに実存の根源そのものを揺さぶる恐怖である。地震国・日本に生まれ育ったとはいえ、大地震の恐怖から逃れることはできない。

大津波は直接体験したわけではない。映像や画像でなんども追体験しただけだ。崩れてきた膨大な本の山に生き埋めになるのではないか、もうダメかもしれない気持ちにさえなった。本の洪水と津波に溺死するのではないかと。

福島第一原発の事故はテレビの中継でずっと見ていた。福島から千葉県北西部は離れているが、風向きのため放射能はすぐ近くにまで迫っていた。被曝も覚悟した。

「3-11」から3年たった2014年3月11日。

亡くなった人たちの魂が鎮まることを祈るのは、生き残ったすべての人の務めである。すべての死者のために祈り、生かされていることに感謝する。

鎮魂。 そして合掌。



<ブログ内関連記事>


関東大震災(1923年)以後の日本近現代史

書評 『国の死に方』(片山杜秀、新潮新書、2012)-「非常事態に弱い国」日本を関東大震災とその後に重ね合わせながら考える

書評 『震災復興の先に待ちうけているもの-平成・大正の大震災と政治家の暴走-』(山岡 淳一郎、2012)-東日本大震災後の日本が「いつか来た道」をたどることのないようよう

書評 『成金炎上-昭和恐慌は警告する-』(山岡 淳一郎、日経BP社、2009)-1920年代の政治経済史を「同時代史」として体感する

永井荷風の 『断腸亭日乗』 で関東大震災についての記述を読む

大震災のあと余震がつづくいま 『方丈記』 を読むことの意味

本日(2013年9月1日)は関東大震災から90年-知られざる震災記録ルポルタージュの文庫本2冊を紹介


突発的に襲ってくる危機としての自然災害

「天災は忘れた頃にやってくる」で有名な寺田寅彦が書いた随筆 「天災と国防」(1934年)を読んでみる
・・「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実」(寺田寅彦)

『緊急出版 特別報道写真集 3・11大震災 国内最大 M9.0 巨大津波が襲った発生から10日間 東北の記録』 (河北新報社、2011) に収録された写真を読む

書評 『津波と原発』(佐野眞一、講談社、2011)-「戦後」は完全に終わったのだ!


大津波

書評 『三陸海岸大津波』 (吉村 昭、文春文庫、2004、 単行本初版 1970年)-「3-11」の大地震にともなう大津波の映像をみた現在、記述内容のリアルさに驚く

書評 『津波てんでんこ-近代日本の津波史-』(山下文男、新日本出版社、2008)


原発事故-福島第一とチェルノブイリ

書評 『官邸から見た原発事故の真実-これから始まる真の危機-』(田坂広志、光文社新書、2012)-「危機管理」(クライシス・マネジメント)の教科書・事例編

書評 『原発事故はなぜくりかえすのか』(高木仁三郎、岩波新書、2000)-「市民科学者」の最後のメッセージ。悪夢が現実となったいま本書を読む意味は大きい

書評 『原発と権力-戦後から辿る支配者の系譜-』(山岡淳一郎、ちくま新書、2011)-「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる

「チェルノブイリ原発事故」から 25年のきょう(2011年4月26日)、アンドレイ・タルコスフキー監督最後の作品 『サクリファイス』(1986)を回想する

『チェルノブイリ極秘-隠された事故報告-』(アラ・ヤロシンスカヤ、和田あき子訳、平凡社、1994)の原著が出版されたのは1992年-ソ連が崩壊したからこそ真相が明らかになった!

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む

書評 『コミック みえない雲』(アニケ・ハーゲ=画、グードルン・パウゼヴァング原作、高田 ゆみ子訳、小学館文庫、2011)-ドイツでは親子二代で読み継がれたベストセラー小説のマンガ化

書評 『なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力40年戦争の真実-』(熊谷 徹、日経BP社、2012)-なぜドイツは「挙国一致」で「脱原発」になだれ込んだのか?


鎮魂、そして生かされている者のつとめ

鎮魂・吉田昌郎所長-『死の淵を見た男-吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日-』(門田隆将、PHP、2012)で「現場」での闘いを共にする

不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!


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2012年12月26日水曜日

書評 『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』(中野剛史、講談社現代新書、2011)-理路整然と「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」の違いを説いた経済思想書


1989年からはじまった「第三次グローバリゼーション」は、米国がみずからの国益追求の観点から強力に推進したものであったが、結果としてマネーは暴走し 2008年にはリーマンショックとして破綻、その後もいっこうに止まることのないグローバリゼーションによって先進国の国民経済は疲弊しつつある。

本書はこの認識にたって、本来の経済主体である「国民経済」の意味について認識を深めることを説いた内容の本である。2008年に出版された本書の原本はリーマショック以前に書かれたものだが、2011年に発生した「3-11」も踏まえた内容として増補改訂されたという。

ナショナリズムという、やっかいだが不可欠な存在を扱った本書は、『国力とは何か-経済ナショナリズムの理論と政策-』というタイトルのとおり、教科書のような理路整然とした記述である。Youtube などの映像で見る、ややエキセントリックなパフォーマンスをみせる著者の言動とはだいぶ異なる印象を受ける。

ゲルナーやスミス、ベネディクト・アンダーセンといったナショナリズム論の論客の議論をベースに、経済ナショナリズムの意味を考察した本書は、経済書というよりも経済思想について書かれた本である。

重要なのは、「経済ナショナリズム」と「国家資本主義」はまったく異なるものであるということ。この両者の混同が、日本では経済主体であるはずの国民経済を軽視する論調につながってしまったと著者は嘆き、読者に「経済ナショナリズム」の重要性を喚起する。

ネーション(nation)は、民族、国民のことであり、国家を意味するステート(state)とはイコールではない。そして、ネーションがステートを必要とすることは、現実世界では当然のことだろう。だがステートが必ずしもネーションを前提としていないことは中世から近世の歴史を振り返ってみればわかることだ。太陽王ルイ14世の「朕は国家である」という名言にあるように、ステートはネーションのものではなかった。

ネーションとステートが合致するようになったのはフランス革命以後のことである。それをさして「ネーション・ステート」(nation state)、すなわち「国民国家」という。世界的にみてもネーションが成立している日本にいるとこの重要な事実に気がつきにくいが、ネーションとステートは似て非なる存在であることは、なんどクチを酸っぱくしても言い過ぎではないのだ。

近代に成立したネーション・ステート(国民国家)は、欧州では200年以上、日本でも140年以上の歴史をもつ。だが、第二次大戦後独立したアジア・アフリカの新興国では、たかだか50年程度の歴史しかもっていないだけでなく、現在においてもステートはあってもネーションがきわめて弱い国もある。

もちろん、「国民経済」も「国民国家」 ある種の「理念系」ではあるが、著者にしたがってネーションから生み出される政治力と経済力を「国力」と定義すれば、やるべきことはおのずから見えてくる。

グローバル経済のなかにある国民経済のパワーが弱まっているのが現実だ。国際通貨制度は、「国民経済の独立」と「国際経済のルール」の対立関係をいかに調整するかが課題であるが、ブレトンウッズ体制崩壊後の変動相場制においては、唯一の覇権国であるアメリカが経済的に弱体化し、不安定な状態がつづいている。

問題は、いかし利己主義的な動機から自国の通貨安による「近隣窮乏化政策」など、攻撃型・排外主義的な行動にかられる誘惑から逃れることができるのか、あるいは制御できるのかということに。独善的な行動にならないか 国際協調ができるかということである。

これが「ステートの支配力」強化の懸念である。国家資本主義にみられる新重商主義的な行動と言い換えてもいいだろう。「ネーションの能力」ではなく「ステートの支配力」、国内での富の生産ではなく、外から富を収奪する方向。中国やロシアは言うに及ばず、アメリカのようにネーションのチカラが弱体化しているステートにおいてはその傾向がある。

独りよがりの経済政策を実行するのではなく、ネーションの能力を強化しながら、国際協調も行っていくという姿勢が、とくに日本というネーション・ステート(国民国家)に求められるのである。

ひじょうに面白い内容の本である。思想の表明としても面白い。ただ、金融だけでなく製造業も小売業も複雑にからみあったグローバルなサプライチェーンのなかにある現在、ネーションの能力をあげるだけでは、弱肉強食の環境のなかでは生き残ることはできないのではないかという懸念も感じる。ステートとしてのチカラも同時に必要ではないか?

著者が経済官僚であるという点は、残念ながらマイナスイメージにつながっている可能性もある。官僚だから国家の観点からの発言なのかという邪推を生みかねないからだ。出版当時は経済産業省から文部科学省に出向中(・・京都大学準教授)であったが、現在は経産省に戻っている。著者は学者ではあるが現役の官僚である。

しかし、現実にただしい済政策が実行されるかどうかは、本書でも何度も留保されているように、理論どおりにはいかないものである。たとえ官僚であっても、政策の最終決定者でも最終実行責任者でもないからだ。

その意味では、「理念系」について語った思想書として受け取るべきだろう。内容はけっして異端ではない。





目 次

序 大震災という危機
第1章 危機に直面する世界
第2章 経済ナショナリズムとは何か
第3章 はじめに国家ありき
第4章 国力の理論
第5章 国力の政策
第6章 経済ナショナリズムとしてのケインズ主義
第7章 国民国家を超えて?
第8章 経済ナショナリズムと日本の行方
あとがき


著者プロフィール

中野剛志(なかの・たけし)
1971年、神奈川県に生まれる。東京大学教養学部(国際関係論)卒業。エディンバラ大学より博士号取得(社会科学)。経済産業省産業構造課課長補佐を経て、京都大学大学院工学研究科准教授。専門は経済ナショナリズム。イギリス民族学会 Nations and Nationalism Prize 受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

<ブログ内関連記事>

書評 『ヤシガラ椀の外へ』(ベネディクト・アンダーセン、加藤剛訳、NTT出版、2009)-日本限定の自叙伝で名著 『想像の共同体』が生まれた背景を知る
・・ナショナリズム論の古典である『想像の共同体』について簡単な解説を加えておいた

書評 『新・国富論-グローバル経済の教科書-』(浜 矩子、文春新書、2012)-「第二次グローバリゼーション時代」の論客アダム・スミスで「第三次グローバル時代」の経済を解読

書評 『自由市場の終焉-国家資本主義とどう闘うか-』(イアン・ブレマー、有賀裕子訳、日本経済新聞出版社、2011)-権威主義政治体制維持のため市場を利用する国家資本主義の実態

書評 『日本近代史の総括-日本人とユダヤ人、民族の地政学と精神分析-』(湯浅赳男、新評論、2000)-日本と日本人は近代世界をどう生きてきたか、生きていくべきか?




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2012年9月3日月曜日

書評『日本の文脈』(内田樹/中沢新一、角川書店、2012)ー「辺境日本」に生きる日本人が「3-11」後に生きる道とは?


1950年という同じ年に生まれて同じ大学キャンパスで学生時代を過ごしていながら、この対談が始まるまで会うことがなかったという二人。

一方は早熟の物書きで、他方は遅咲きの物書きという違いはあるが、ともに現在売れっ子の著者二人の顔合わせによう対談は、意外や意外、じつに興味深い内容だった。最初の対談では合気道六段の野人派・内田樹の前で、中沢新一がややおとなしく見えるのもなんだかご愛敬だ。

基本的に、内容は日本の「国ほめ」が中心になるのだが、「3-11」後になされた対談では、コインの裏側にある日本の弱点についても語られることになる。

わたしにとってもっとも関心が高いのは、第三章のユダヤ人との比較だ。同じ「辺境の民」という構造的共通性をもつユダヤ人との比較で浮かび上がってくるのは日本的思考の特性である。

ユダヤ的一神教に基づく思考のあり方には二人とも憧憬の思いは隠さないが、二人がともに尊敬する人類学者レヴィ=ストロースもまた、ユダヤ的思考を体現したユダヤ系フランス人である。

「辺境ユダヤ」と「辺境日本」。中身はまったく異なりながらも、世界に置かれている状況がきわめて似ている二つの民族日本にあってユダヤに欠けているものはこの対談で明確になる。それは、農業へのコミットメントだ。

読んでいて、「日本文明の世界への貢献といえば、北米と南米における日本人移民による農業技術移転にある」と南米移民を前にして語った梅棹忠夫の話を思い出した。本書で語られるさまざまなテーマは、日本人にとっての農業の意味について多く語られているのだ。

本書に収録された対談や鼎談を最後まで読んでいくと、結局は「辺境日本」に生きるわたしたちは、みずからの強みを自覚し、徹底的にみずからを掘り起こす作業をするしかないのかもしれないという気持ちにさせられる。

いろいろ好き嫌いの分かれる著者たちではあるが、近代資本主義が行き詰まりを見せている現在、こういう視点でものを考えることも何かのヒントになるのではないかと思う。一読をすすめたい。


<初出情報>

■amazon書評「「辺境日本」に生きる日本人が「3-11」後に生きる道とは?」(2012年4月4日 投稿)


目 次
まえがき 中沢新一
プロローグ これからは農業の時代だ!
第1章 これからの日本にほんとうに必要なもの
第2章 教育も農業も贈与である
第3章 日本人にあってユダヤ人にないもの
第4章 戦争するか結婚するか
第5章 贈与する人が未来をつくる
第6章 東洋の学びは正解よりも成熟をめざす
第7章 世界は神話的に構成されている-東日本大震災と福島原発事故のあとで
コラム 荒ぶる神の鎮め方 内田樹
あとがき 内田樹

著者プロフィール

内田 樹(うちだ・たつる)   
思想家。武道家(合気道七段)。凱風館館長。神戸女学院大学名誉教授。1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。2011年3月、神戸女学院大学文学部教授を退職し、同年11月、道場「凱風館」を開設。『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で第六回小林秀雄賞、『日本辺境論』(新潮新書)で新書大賞2010、著作活動全般に対して第三回伊丹十三賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

中沢新一(なかざわ・しんいち)
思想家。人類学者。明治大学野生の科学研究所所長。明治大学特任教授。1950年山梨県生まれ。東京大学文学部宗教学宗教史学科卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。93年より中央大学総合政策学部教授、2006年より多摩美術大学美術学部教授および同大学芸術人類学研究所所長をつとめる。11年より現職。『対称性人類学 カイエ・ソバージュV』(講談社選書メチエ)で第三回小林秀雄賞、『アースダイバー』(講談社)で第九回桑原武夫学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<書評への付記>

本書ではユダヤ人に欠けていて日本人にあるものは、農業へのコミットメントであるというようなことが書かれている。

この発言はたしか中沢新一によるものだったと思うが、基本的にはただしい。ディアスポーラ(離散)状態のなかで、ユダヤ人は原則的に土地所有を禁じられていたので農業にはコミットメントしていないからだ。その意味では、具体的な作物栽培から引き離されて、思考がより抽象度が増したのはそのとおりだと思う。

しかし、古代イスラエルにおいて農業が主要産業であったことは、『タルムード』の記述をみれば明らかだし、イスラエル建国後は、社会主義的な集団農場=共同体であるキブツが中心になって、荒野を切り開いてきたこともたしかである。

ただし、現在のイスラエル農業は、世界でも最先端の「ハイテク農業」である。その意味では、土に根ざした伝統的な農業ではなく、工業としての農業といっていいかもしれない。 

(参考) http://www2.kenes.com/agritech2012/Pages/Home.aspx

ビジネスとしての農業はそれでいいいとしても、人間性回復のための農業は、やはり土に根ざしたものであるべきかもしれない。その点は、中沢新一の発言や取り組みには賛成だ。


個人的な話であるが、わたしも子どもの頃、家庭菜園で各種の野菜を栽培していたので、いずれ復活したいと夢想している。


<関連サイト>

『日本の文脈』(角川書店の書籍サイト)



<ブログ内関連記事>

きょうは何の日?-ユダヤ暦5227年の新年のはじまり(西暦2011年9月28日の日没)
・・古代ユダヤの農事暦について



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2012年3月15日木曜日

三年ぶりの別所温泉-"信州の鎌倉" は騒々しさとは無縁の温泉郷


3月10日(日)から二泊三日で別所温泉(べっしょ・おんせん)で過ごしてきた。

約3年ぶりの別所温泉である。通算で何回目だろうか? すくなくとも6回以上は来ているはずだ。退職や転職など人生の節目の出来事があるたびに温泉にきて心身を癒すのがならわしになっている。

別所温泉は、上越新幹線上田駅から上田電鉄別所線で西へ30分。信州の山並みを見ながら、塩田平を走る別所線の終点・別所温泉駅で下車すればもうそこは温泉街である。ラグビー合宿やスキーで有名な "日本のダヴォス" 菅平(すがだいら)高原とは反対方向になる。

別所温泉は温泉街だが、熱海のような歓楽街はいっさいない。静かで落ち着いた「温泉郷」といったほうがより正確だろう。信州の穀倉地帯である塩田平(しおだだいら)の西端にある。温泉郷は平野が山に変わっていく風景のなかにある。

別所温泉がうれしいのは源泉掛け流しという点だ。温度調整はしているが、追い炊きすることなく、源泉をそのまま惜しみなく掛け流しているから新鮮で清潔なのである。

別所温泉の泉質は単純硫黄泉である。ゆでたまごのような硫黄の匂いがすこしする温泉水はそのままひしゃくで飲むことができる。



共同浴場には、大師湯と石湯があり、じつにひさびさに「石湯」につかってみた(写真)。真田幸村の「隠し湯」らしいが真偽のほどはわたしにはわからない。地元の老人が入れ替わり立ち替わりつかりにくる。湯船のなかには大きな石があり、それが名前の由来になっているようだ。入湯料は150円。

わたしの定宿は上松屋だが、お湯の入れ替え時間中は入湯できないので、二泊目のために共同浴場の利用券をもらったので石湯に入ったという次第。粉雪が吹き付けてくる寒い日だったので、風呂から出たあとがかなり寒かったのだが。

美人の湯として知られているとおり、お肌がつるつるすべすべになるのは、この温泉の効能のなかでも特筆すべきことだろう。「温泉、水なめらかにして凝脂をあらう」というのは、高校の漢文で習った『長恨歌』(白居易)で描写された楊貴妃の姿だが、まさにそのものである。温泉の効能は、慢性皮膚病、慢性婦人病、きりきず、糖尿病などに効くといわれている。



別所温泉といえば、厄除けで北向観音がある(写真)。わたしも前厄と後厄それぞれ訪れて、無事に厄年をやり過ごすことができた。別所温泉のお土産は、「厄除けまんじゅう」がある(いちばん下の写真)。

温泉地だけに、北向観音の手水はなんと温泉である! しかも、ひしゃくで温泉水を飲むこともできる。境内には、「愛染かつら」のモデルとなった桂(かつら)の木がある。

善光寺が南向きに建てられていることはご存じだろうか?これは別所温泉の北向観音の存在を知ると意味をもってくる。善光寺は南向きで来世の幸せを、北向観音は北向きで現世の幸せを祈る。こういう形でこの二つは対になっており、片方だけでは片詣りになってしまうという。wikipedia に以下の記述がある。

北向観音という名称は堂が北向きに建つことに由来する。これは「北斗七星が世界の依怙(よりどころ)となるように我も又一切衆生のために常に依怙となって済度をなさん」という観音の誓願によるものといわれている。 また、善光寺が来世の利益、北向観音が現世の利益をもたらすということで善光寺のみの参拝では「片参り」になってしまうと言われる。 

別所温泉が "信州の鎌倉" と呼ばれるのは、この地が鎌倉時代に北條氏の領地だったことによる。国宝の八角三重塔のある安楽寺は禅寺で、初代の住職は宋から渡来した中国人の禅僧であるという。



この安楽寺も、別所温泉に来た際はかならず散歩コースにいれて訪れているので、何度も来ているのだが、そのたびに美しい塔だと感心している。五重塔は日本には多いが、八角三重塔(写真)はきわめてめずらしいという。いっけん四重に見えるが、いちばん下は裳階(もこし)なので三重塔なのだとか。塔の内部には大日如来が安置されているらしいが、なぜ禅寺に大日如来があるのかはミステリーである。

今回の別所温泉滞在の最終日、3月13日(火)の早朝6時半、東日本大震災・栄村 復興祈願護摩に参加した。宿泊先の上松屋の社長さんんが引率しての無料イベントである。場所は、北向観音の不動堂である。天台宗でも不動明王の護摩行がある。

たまたま、2012年3月12日は栄村の大地震から一年目にあたっていたのである。「3-11」の翌日に発生した大地震の被害であることは忘れがちあり、たまたまではあったが、早朝の護摩行に参加することができたのは幸いであった。僧侶が4人もでてくるのはそうとう気合いが入っているというのは、チェックアウトの際に社長さんから聞いた話である。



護摩に参加していて思ったのは、日本中の真言宗や天台宗のお寺で一日に一回は護摩が焚かれると仮定したら、いったいぜんたい日本でどれだけの数の護摩が焚かれることになるのだろうかということだ。

そのときアタマに浮かんだのは「鎮護国家」というフレーズ。

「3-11」の大災害で、日本=日本人=日本の国土という意識が目覚めつつあるような気がしている。それが、排外的なナショナリズムにさえならなければ、「鎮護国家」で護摩が焚かれるのはウェルカムというべきだろう。

調べると、真言宗の寺院だけでも日本全体で一万以上はある。これに天台宗の寺院をあわせれば、一日に焚かれる護摩はそうとうな量になるわけだ。

不動明王の真言が繰り返し唱えられているのを聴きながら、日本はこのおかげで守られているのかもしれないという気持ちがわき起こってくるのをおぼえたのである。これもまた日本を日本たらしめている重要な要素である。




信州の塩田平(しおだだいら)には独鈷(とっこ)山という、標高 1,222m のキザギザな形をした山がある。写真は、上田電鉄別所線の車内から撮影したものだが、一説によれば、弘法大師がこの地で修行して、密教法具の独鈷(とっこ)を埋めたのでこの名がついたのだとか。たしかに、山のかたちが独鈷(とっこ)によく似ている。

このように、別所温泉はなんど来ても、そのたびにあらたな発見のある温泉郷だ。つぎにおとづれるのがいつになるかわからないが、東京からも近く、しかも落ち着いた雰囲気の温泉郷はじつに貴重な存在である。しかも塩田平という信州でも有数の穀倉にあり、山の幸も豊富で旅館でだされる料理もじつに旨い。

火山国日本は地震多発国でもあるが、一方ではいたるところに温泉がわき出ている豊かな国でもある。火山国のデメリットを嘆くだけでなく、生きて現世にいる人間は温泉というメリットも大いに味わいたいものだ。

南向きの善光寺では来世を想い、北向の北向観音では現世利益をいただく。この世に存在するものはすべて対になっているのである。メリットとデメリットもまたコインの両面のようなものだ。

機会があれば別所温泉は、ぜひ一度は訪れてほしい。





<関連サイト>

別所温泉観光協会 (公式サイト)

別所温泉 上松屋旅館 (公式サイト)

北向観音堂(上田市デジタルアーカイブ)

天台宗別格本山 常楽寺(上田市デジタルアーカイブ)



<ブログ内関連記事>

善光寺御開帳 2009 体験記(2009年5月9日)

成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日)体験記 (総目次)

不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!

『崩れ』(幸田文、講談社文庫、1994 単行本初版 1991)-われわれは崩れやすい火山列島に住んでいる住民なのだ!






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2012年3月11日日曜日

鎮魂-2011年3月11日から一年



2011年3月11日に発生した大地震、大津波、そして原発事故で亡くなった
二万人近い死者と行方不明者の冥福を祈ります。
鎮 魂







2011年11月16日水曜日

今年2011年の世相をあらわす漢字は 「水」 に決まり-わたしが勝手に決めました(笑)


(カンボジアの高床式民家は洪水対策用)

 まだ11月半ばですから時期的にはまだちょっと早いのですが、年末の話題を一ヶ月以上前に先取りしておきましょう、来年の話ではありませんから、鬼が笑うこともありますまい。

 毎年恒例の「世相をあらわす漢字」というイベントがありますね。

 「漢検」という漢字検定試験の実施主体である、財団法人日本漢字能力検定協会が主催しているイベントですが、12月12日の「漢字の日」(・・なぜこの日んなの?)にちなんで京都の清水寺(きよみずでら)の貫主が大きな筆で揮毫(きごう)するので有名なイベントです。

 ま現在、漢字検定協会のウェブサイトで募集していますが、今年2011年の漢字をひとつ選べといわれたら、わたしならためらうことなく「水」と答えたいと思います。きょうが水曜日だからではありません。

 今年は、日本では「3-11」の千年ぶりの大津波に、集中豪雨被害が西日本だけでなく、東北(新潟と福島)の河川氾濫、紀州山地の大洪水など立て続けに続いています。

 それだけでなく、日本にも縁の深いタイ王国では 50年ぶりの大洪水で工業団地の集中している古都アユタヤと、その下流域の首都バンコクも混乱しています。

 まさに、「水」に翻弄された一年となっています。だから、今年の漢字は「水」だと言いたいわけです。お亡くなりになった方も多いので、あまりうれしい話ではありませんせんが、記憶にとどめるためにも必要だと考えます。


「治水」は「治国」のかなめ

 今年は日本各地で大洪水が発生していますが、それでもむかしに比べたらだいぶ減ったようですね。

 日本でも戦後のある時期までは各地で洪水があいついでましたが、治水技術の向上で大規模な洪水を防げるようになったからなのです。

 安全と引き替えに、日本の河川はコンクリートで護岸工事が行われて景観が失われてしまいましたが、それはそれで仕方がないでしょう。また暗渠(あんきょ)という形で、地上に水があふれでない工事も都市部では行われてきました。

 タイの大洪水の話をしましたが、平野がひろがるインドシナ半島でも、洪水はけっしてまれな話ではありません

 日本のように急流がないので突然洪水になるということがないかわりに、じわじわと浸水する面積が拡がっていくのが特徴です。

 写真はカンボジアの民家です。ベトナムのホーチミン(=旧サイゴン)から陸路でカンボジア王国の首都プノンペンにいく途上で撮影したものです。

 この地域は、雨期の洪水によって水没することを前提に民家がつくられているのです。アンコールワット周辺にあるトンレサップ湖は雨期には約3倍にも面積が拡大するのです。つまり、乾期の陸地が水没するというわけなので、雨期には民家は水中に浮かぶ小島のようになるわけです。

 日本でいえば弥生時代の高床式住居ですね。穀物を貯蔵するのが目的であった高床式住居はネズミ対策が主目的でしたが、東南アジアは洪水対策が主目的なのですね。 

 建築用語でいえばピロティです。「3-11」の際も、ピロティ建築は津波の被害が軽微だったと聞いています。阪神大震災のさいのに、耐震性について疑問がでたことが記憶のなかにありますが、東北の太平洋沿岸では大丈夫だったようですね。

(ミャンマーのインレー湖)

これはミャンマーのインレー湖の風景です。湖のなかにピロティによる高床式の住居をつくって居住しています。あたかも運河をはりめぐらしたかのような風景ですが、じつはそうではありません。とはいっても、かつて「東洋のベニス」といわれちたタイのバンコクもまた、こんな感じだったのではないだろかと考える材料にはなるでしょう。


洪水が毎年発生するインドシナ半島ではピロティは生きるための知恵

 ピロティ(Pilotis)といえば、世界遺産登録が試みられている建築家ル・コルビュジエで有名ですが、ベトナムやカンボジア、タイでは民家ではよく見られます。伝承されてきた知恵というわけですね。

(東京・上野にあるピロティ構造の建築物)

 写真はコルビュジエ設計の国立西洋美術館(東京・上野)。コンクリート打ちっ放しのピロティ構造の建築物です。

 フランス語系スイス人であったコルビュジエの発想の源泉はどこにあったのでしょうか? もしかして、植民地であったインドシナ三国(=ベトナム・ラオス・カンボジア)の建築物だったのかな、と考えてみるのも面白いものです。

 広い意味では日本の伝統的な家屋もピロティ様式ですが、東南アジアのものと比べると、地面からの高さが 1m程度と非常に低く、洪水対策というよりも湿気対策であると考えられます。日本の家屋があっという間に、床下浸水、床上浸水してしまうことも、洪水対策ではない証拠でしょう。吉田兼好が「家の作りやうは、夏をむねとすべし」(徒然草)と言っているとおりですね。

 その土地、その土地にもっともあった家のつくりがされることによって、自然災害や自然の猛威を防ぐのは、人類の知恵というべきでしょう。

 それにしても、「水の惑星」といわれるこの地球。水は人間が生きるために不可欠でありながら、また人間の命をあっという間にいとも簡単に奪ってしまうもの。自然というのは人間にとってはまさに両義的な存在です。

 2011年は「水」の年として記憶しておきたいものですね。



P.S. 案の定、「2011年 今年の漢字」は「絆」でした。「水」は10位にも入ってないのは残念(笑)(2011年12月12日 追記)



<ブログ内関連記事>

「家の作りやうは、夏をむねとすべし」(徒然草)-「脱・電気依存症文明のために顧みるべきこと

三度目のミャンマー、三度目の正直  (2) インレー湖は「東洋のベニス」だ!(インレー湖 ①)
三度目のミャンマー、三度目の正直  (3) インレー湖のトマトがうまい理由(わけ)・・屋外天然の水耕栽培なのだ!(インレー湖 ②)
・・かつてのバンコクも「東洋のベニス」と呼ばれていたが、それをほうふつとさせるがミャンマーのインレー湖

かつてバンコクは「東洋のベニス」と呼ばれていた・・

『龍と蛇<ナーガ>-権威の象徴と豊かな水の神-』(那谷敏郎、大村次郷=写真、集英社、2000)-龍も蛇もじつは同じナーガである

書評 『三陸海岸大津波』 (吉村 昭、文春文庫、2004、 単行本初版 1970年)

書評 『津波てんでんこ-近代日本の津波史-』(山下文男、新日本出版社、2008)

『緊急出版 特別報道写真集 3・11大震災 国内最大 M9.0 巨大津波が襲った発生から10日間 東北の記録』 (河北新報社、2011) に収録された写真を読む
 
(2014年10月8日 情報追加)


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2011年11月10日木曜日

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために


What if ~ ? (もし~だったらどうする)から始まる論理思考法の「型」を身につけるために

『目覚めよ!日本(大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)の献本を「R+ レビュープラス」からいただいた。「大前研一 LIVE秘蔵映像~警告編~の DVD一枚がいっしょについている。

本書は、大前研一がさまざまな媒体に書いて、語った最近一年間の発言が再編集されて一冊にまとめられたものの最新版だ。

テーマは大きく分けて5つある。1.世界経済、2.日本社会、3.ビジネス・経営、4.震災復興編、5.教育・生活者である。項目だけ並べると、世界金融危機、債務危機、リーダー論、少子化、防衛問題、成長戦略、“脱日本”現象の危機! となる。

『目覚めよ!日本』というタイトルは、やや預言者めいた響きがなくもないが、この預言者のいうことには虚心坦懐に耳を傾けたほうがいい。

なぜなら、今年2011年は、なんといっても「3-11」を境に日本は激変したからだ。これと同時並行的に世界金融危機の再来がすでに現実のものとなってきている。米欧中のどおが破綻してもおかしくない状況なのだ。

原発事故後に YouTube に無料で公開された大前研一氏の解説映像をご覧になった方も多いのではないかと思う。あらためて、大前氏が原子力工学で博士号を取得した人であったことを、あるいは初めて知った人も多かったのではないだろうか。

その意味でも、他の論者とは大きく異なる独自な視点が、今年度版はより強く押し出されたものとなっているといってよいだろう。


本は目次を精読することから始めるべし

まずは目次をみておこう。目次をじっくりと読むことで、「警告」の内容と意味が明確になってくるだろう。それから、自分の興味にまかせて読み始めればよい。かならずしもすべての文章に目を通す必要はない。

では、さっそく目次を読んでみよう。


第1章:警告:世界経済編

<世界金融危機>
1. 警告!世界経済を吹き飛ばす「四大地雷原」
2. 「世界4000兆円マネーを吸い上げる」3つの処方箋
3. ついに「世界金融危機」の狼煙は上がった 

第2章:警告:日本社会編

 <債務危機>
4. 世界経済を読む知恵がない閉鎖国家日本 
5. 債務危機で日本政府が切れる唯一の「カード」

 <リーダー論>
6. 強力な政治家が出てこない限り、日本のプレゼンスは失われる

 <少子化>
7. 国力も産業も衰退させる「少子化」の破壊力   
8. 人口が激減する日本、どう国土を保全するのか

<防衛問題>
9. サイバー攻撃への対応は防衛省が担うべき

<成長戦略>
10. 大胆に債務削減し、1兆円規模の起業家支援を

<“脱日本”現象の危機!>
11. 海外脱出した日本企業は二度と戻らない  
12. 円高、電力不足、高税率で日本企業は「脱日本」  

第3章:警告:ビジネス・経営編

<経営>
13. もう日本の景気は良くならない。経営者は生き残りの道を探せ

 <サイバー企業の変革>
14. 存在感を強める米西海岸のサイバー企業、スマホ戦争でも優位に立つ
15. アップルは「ジョブズ的天動説」を崩せるか 
16.「暗号化」で油断したソニー       

第4章-警告:震災復興編

 <震災復興>
17. 生まれ変われニッポン!
① 東北を再建せよ!
② 再建資金を作れ!
③ 電力不足を解消せよ!
④ 新生日本を作れ!
18. これが東北復興、日本再生へと導く「最強プラン」だ!  

 <津波プレイン>
19. 被災地復興に「津波プレイン」のコンセプトを
20. 津波プレイン 

 <エネルギー問題>
21.「訣別」 

第5章:警告:教育・生活者編

 <教育>
22. 不景気は関係なし。「ヒット商品」が出ない本当の理由」
23. バカをつくる教育 
24. 混乱のいまを生き残るためにはさらなるブレーク・スルーが必要だ
25. 「構想」「IT」「経営」の三位一体からイノベーションは生まれる

 <ライフプラン>
26. メルトダウン寸前の日本経済-自分の将来をどう守るか 
27. 波乱の時代を生き抜く方法  
28. 投資するなら「肩から上」に。デフレもハイパーインフレも怖くないぜ! 
29. 引退後に住む場所の不動産に先行投資せよ  
30. 自分の楽しみとお金のバランスシートを作りましょう 

あとがき


「いま、そこにある危機」の本質を自分のアタマでシッカリと理解し、自分自身がいかなる方向に進むべきかを熟考し、アクションに移す!

何よりも重要なことは、組織であれ個人であれ、「いま、まさにそこにある危機」の本質を自分のアタマでシッカリと理解し、自分自身がいかなる方向に進むべきかを熟考し、アクションに移すことである。

その際に重要なのは、世界レベルの激変をけっして自分とは関係ない世界の話だとは思わないことだ。

世界レベルの外部環境をしっかりと理解したうえで、自分で企業経営をされている方であれば自社のマネジメントへの影響を考え、ビジネスパーソンとして企業に勤務しているのであれば自分の会社がどうなるのか、自分自身がどうすべきなのかを考え、すでにリタイアされている方や、ビジネス以外の世界にいる方もふくめて、すべての人が、外部環境の激変に備えたライフプランの根幹となるべき考えを理解しなくてはならない。

もちろん、大前さんの言っていることを鵜呑みにしていたのでは、いつまでたっても自分のアタマで考えることにはならないことは言うまでもない。大前氏の意見と事実とは厳密にわけて考える必要がある。

時にうなづき、時にはアタマのなかや、ブツブツいいながら反論してみる。賛成するにせよ、反論するするにせよ、本書で引用されているデータには自分であたってみる、計算してみる、こういった手間をかけながら読むことも必要だ。

かなり以前から大前氏による「警告」はなされているのだが、どうも人間というものはイヤなことはできるだけ考えたくない、先延ばしにしてしまいたいという・・が働きがちである。これは日本人に限った話ではない。

だが、この記事を書いている時点で、ユーロ崩壊の引き金になりかねないギリシア問題は、すでに解決不能状態に近づきつつあり、国家としての経済破綻であるデフォルトも視野に入ってきている。イタリアにも飛び火して国債利回りが上昇し、首相への事実上の不信任が可決し退陣が決まった。

このあとどうなっていくかは、ぜひ本書を読んで自分なりに考えていってほしい。そして同時にさまざまなメディアをクリティカルに読み解いて、自分なりの見解を作り上げていってほしい。

映像メディアはシークエンシャルなメディアなのでスキャンするのは難しいが、クルマを運転しながら音声だけ聴くということも可能。本ならとばし読みも可能だ。メディアの特性をよく考えて、書籍版(+DVD)か DVオンリーか選択すべきでしょう。

『目覚めよ!日本』といっても、日本そのものが目覚めることはないかもしれない。

しかし、個人としての日本人であるあなたがまず目覚めることによって、友人家族、そして「つながり」のある人々の目が覚めていくことになる。

まずは、あなた次第なのだ。



<書籍版>


<DVD版>


<ブログ内関連記事>

What if ~ ? から始まる論理的思考の「型」を身につけ、そして自分なりの「型」をつくること-『慧眼-問題を解決する思考-』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2010)

『BBT on DVD 大前研一LIVE』(トライアル版)を視聴してみた

「修身斉家治国平天下」(礼記) と 「知彼知己者百戦不殆」(孫子)-「自分」を軸に据えて思考し行動するということ

書評 『進化する教育-あなたの脳力は進化する!-(大前研一通信特別保存版 PART VI』(大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局=編集、2012)-実社会との距離感が埋まらない教育界には危機感をもってほしい
・・営利のインターネット大学ビジネスブレークスルー大学の学長である大前研一氏


 



(2012年7月3日発売の拙著です)







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