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2023年12月12日火曜日

書評『水危機を乗り越える! ― 砂漠の国イスラエルの驚異のソリューション』(セス・M. シーゲル、秋山勝訳、草思社、2016)― 水問題解決のソリューションこそイスラエルにとって人類社会への最大の貢献となる

 

「水問題」解決のためのソリューションこそ、イスラエルの最大の成果であり、これこそが今後の人類社会にとって最大の貢献となりうる。


この本を読まずにイスラエルについて語ることはできないと、つよく感じている。

というのは、ものごとにはすべて正負の両面があるが、2023年の「10・7テロ」以来、ふたたびイスラエルのネガティブな側面が前面にでてしまったからだ。

1,400人が殺害された凄惨な無差別テロへの報復として始まった、無慈悲なまでの爆撃によるガザ地区への攻撃。ハマスの戦闘員を含めたパレスチナ人の一般人の死者が、すでに2万人近くになっている。

イスラエルの国際的なレピュテーションは地に落ちてしまった。国家ブランドは毀損(きそん)してしまったのである。

信頼が回復されるまで長い時間が必要だろう。どんなに脳天気な人間でも、さすがに手放しで礼賛するのは避けようとするに違いない。

イスラエルがこの状態から脱するには、軍事や戦争とは関係性の低い「民政分野での貢献」で国際的な信用を回復することが求められる。たとえ、それが地味であっても、地道で息の長い協力が必要だ。

だからこそ、イスラエル人の長年の汗と知力の結晶ともいうべき、水問題解決のソリューションで国際貢献を推進すべきなのだ。



■人間の生存に水は不可欠。国家の生存に水は不可欠

人間にとっては、水がなければ生存すらおぼつかない。これは断食を体験してみればすぐにでもわかることだ。水だけでも、人間は数日なにも食べなくても大丈夫である。

もちろん、水だけでは人間は生存できない。とはいえ、食物となる動植物も水が必要不可欠だ。土があっても、水がなければ作物は栽培できないのである。植物がなければ動物も生存できない。食物連鎖の最上位にある人間にとっては、言うまでもない。

都市や国家を維持するために水がいかに重要か、これは歴史が示している。

水の重要性を熟知していたからこそ、高度な土木技術で水道を建築したのがローマ帝国であった。身近なところでいえば、玉川上水の掘削によって百万都市江戸を支えたのが徳川幕府であった。

ただし、これらはみな水には恵まれた地域に誕生した国家であった。

イスラエルは、国土の大半が砂漠という恵まれない土地である。だからこそ、建国以前から、ベングリオンをはじめとする入植活動のリーダーたちは、将来の人口増大を支えるため、いかにして水を確保するかを重要なテーマとして捉えていたのである。

日本のような水に恵まれた国でも「節水」が呼びかけられているが、イスラエルにおいては、「節水」は国家安全保障そのものといっていい。

社会主義経済として始まったイスラエルだが、冷戦崩壊後の規制撤廃による自由化で1990年代以降に資本主義経済化が進展したあとも、水だけは国家管理が徹底しており、水問題を政争の具につかえないよう、政治介入を回避する制度的な仕組みが確立している。

「水の一滴」もムダにしないこと、これが幼時の頃から徹底してたたき込まれるのである。しかも「節水」だけでなく、排水や汚水をいかに再利用し、豊富な海水をいかに淡水化して利用するかも課題となってきた。

およそ水にかんする、ありとあらゆる問題解決にチャレンジしてきたのがイスラエルである。国家としてのサバイバルのために不可欠だったからだ。





■イスラエルが生み出してきた水問題解決技術

水問題の解決のため、イスラエルが生み出してきたソリューションには以下のようなものがある。いずれも現場で発生している問題を、机上の空論ではなく、あくまでも実学として現実的に取り組んできた成果である。


わずかな水をムダにすることなく、効率的に農作物を栽培するための画期的な技術である。基本的にローテクだが、発想がすばらしい。流量調整が可能で、施肥も灌漑によって行うことが可能となる。

また、生活排水を再処理してリサイクルし、「再生水」を農耕用に確保することを可能としただけでなく、水パイプラインの敷設によって砂漠を農地に変えることに成功してきた。

廃水処理は地下水の汚染をふせぐことにつながり、また土地の「塩害」や「砂漠化」を防ぐための取り組みも積極的に取り組んできた。

「逆浸透膜」をつかって海水を真水に変える技術も開発し、海水から塩分を除去するプラントが建設されている。地中海や紅海に面したイスラエルにとって、海水は豊富に存在する水資源であり、これをつかわない手はない。

さらに、こういった水問題解決のソリューションは、IT化と合体することでパワーアップしている。集中管理センターでのモニター管理が可能となり、たとえば水道管の漏水の早期発見と対応が可能となっている。漏水は節水の敵である。道路陥没の原因でもある。

このほか水関連のさまざまな分野で DX化(=デジタル・トランスフォーメーション)が進展していることに注目すべきであろう。IT分野での先進国イスラエルならではというべきだ。

水問題解決のソリューションは、従来は国家主導で行ってきたが、経済自由化後の現在では国家機関はテクノロジー・インキュベーターとしての役割をはたし、水関連技術のニッチ分野での民間のスタートアップの参入を促がしてきた。

この結果、イスラエルでは各種の「ウォーター・ビジネス」が誕生し、さらには技術輸出によるグローバルな「水市場」の創出に成功している。国内市場の小さなイスラエルとしては理想的な展開である。

水に恵まれた日本人には想像しにくいが、水不足に起因する衛生問題など、水問題に苦労している人びとは世界中でひじょうに多いからだ。しかも、気候変動と環境問題の悪化で、水を求めて「難民」も発生するようになってきている。

建国後の早い時期からのアフリカ支援に加え、国家承認を避けられてきたインドや中国といった大国との関係構築が可能となったのも、水関連ソリューションのおかげである。日本人が知らない世界がそこにある。

水問題にかんしては、日本はイスラエルとは違った意味で水道が危機的な状況にある。この現状を踏まえたうえで、日本人も水問題に主体的な関心をもつことが必要だ。



■米国とイスラエルが密接な関係になった背景にも水問題

トルーマン大統領が議会の反対を押しきって、いちはやく独立直後の1948年にイスラエルの国家承認を行ったことが、米国との密接な関係の始まりにあるとされている。

米国がイスラエルとの関係を深化させたのは、1960年代に入ってからだ。「第3次中東戦争」(1967年)では、それまで武器を供与してきたフランスが親アラブ政策に転じたため、代わって米国が軍事援助を行うようになって現在に至っている。

だが、それだけではない。ケネディ大統領暗殺後に副大統領から昇格したジョンソン大統領は農村出身であり、水問題に対する関心の深さにかんしては、イスラエルの政治指導者と問題を共有していたことも大きい。

建国の父ベングリオンだけでなく、第3代首相となったエシュコルも水問題に大きな関心をもって、米国との関係強化と関係深化につとめたのである。これは知られざる重要な歴史の一コマというべきだろう。ユダヤ系米国人の著者ならではの歴史掘り起こしである。

ニクソン政権になってからは、水問題における重要性が劣後したようだが、環境問題の悪化で水不足に転じたカリフォルニア州を中心に、水問題のソリューションをつうじたイスラエルとの関係も重要性を増してきている。

米国のような先進国もまた、水問題を避けて通れなくなっているのである。



■水問題の解決こそ地域安定化のためのカギ

水問題の解決こそ地域安定化のためのカギである。イスラエルにとっては、とくに近隣のヨルダンとパレスチナの安定が重要である。

ヨルダン川を挟んで東岸で隣接するヨルダン王国とは、水管理の点からも密接な関係を構築している。水源となるヨルダン川と死海は両国の共同管理である。

パレスチナ自治区においても、ほぼ100%に近く水道が敷かれている。この事実は知っておくべきだろう。国連決議を無視して行われているユダヤ人入植地だけでなく、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区全域においてのことある。

ただし、イスラエルが管理する地区と、自治政府が管理する地区ではメンテナンス面などにおいて違いがでているようだ。水泥棒に対する警察権の行使にも違いがでている。

「10・7」テロ後に水や燃料などがストップされ危機的状態になっているガザ地区だが、ハマスが実効支配するガザ地区では、西岸とは違って、はるか以前から水問題が深刻な状況にあったことが本書をよむとわかる。イスラエルが2005年にガザ地区から撤退後、ハマスはイスラエルとの協力を拒んできたからだ。

ガザ地区の深刻な水問題とは、地下水くみ上げによる枯渇、廃水による土壌汚染、汚染水の垂れ流しによる地中海の海洋汚染などである。水問題という観点から、人口増大への対応を行ってきたハマスの責任はきわめて重い。

軍事的手段による「ハマス排除」がいつ、いかなる形で完了するのか現時点ではわからないが、戦争終了後にはイスラエルは民生面で「ガザ地区再建」の責任を果たさなくてはならない。これは当然の責務である。国際社会の目を意識してもらいたい。

さらにいえば、長期的な展望として、水問題の解決がイスラエルとその周辺地域の安定化に貢献することを期待したい。いかなる体制になろうと、共存共栄のための大前提が、水の確保と水問題の解決にあることは、イスラエル自身の経験からも明らかである。

政治面だけではなく、水問題解決という点から地域安定化のカギを見いだすことが可能ではないだろうか。関係者がみな、冷静に考えることが必要であろう。


(Israel's solution for a water-starved world | Seth M. Siegel | TEDxTelAvivSalon)



■「イスラエルによる水問題解決の歴史」と題すべき内容

イスラエルによる水問題解決への取り組みの全体像を知るうえでは、きわめてすぐれたノンフィクションである。

技術関連の説明が少なく、「人工降雨」技術については数行だけで済まされていたのが残念ではあるが(・・イスラエルは2021年以降は人工降雨は実行していないようだ)、じつによく調べて、しかも整理して書れており読み応えがある。同族としての共感と適度な距離感を維持している、ユダヤ系米国人ならではのイスラエル理解である。

日本語タイトルは、原著タイトルの Let There Be Water: Israel's Solution for a Water-Starved World と同様に、イスラエルは副題に隠れてしまっているが、内容的には「イスラエルによる水問題解決の歴史」とでもすべきである。

水が豊富な日本とは真逆のイスラエルは、水に乏しいという「逆境」を逆手にとってサバイバルしてきた。国際関係は、政治だけを見ていただけではわからない。ビジネスと経済、そして技術の視点が不可欠なのである。

『水危機を乗り越える!』は、水問題に関心のある人は言うまでもなく、イスラエルに関心のある人も読むべき本である。英語版でもいいと思ったが、専門用語が多いので日本語訳で読んだほうがいいかもしれない。訳文は正確で読みやすい。







目 次
はじめに 人口 中流階級の台頭 気候変動 汚染水 漏水 世界のソリューションモデル
第1部 水資源立国への道
 第1章 水を敬う文化
 第2章 水は国が管理する
 第3章 給水システムを経営する
第2部 水を生産する
 第4章 したたる水で作物を育てる
 第5章 廃水をふたたび水にもどす
 第6章 海水を真水に変える
 第7章 豊かな水の国に
第3部 国境を越える水問題
 第8章 グローバルビジネスとなった水
 第9章 水の地政学―イスラエル、ヨルダン、パレスチナ
 第10章 水の外交―中国、イラン、アフリカ諸国の場合
 第11章 豊かなはずの国の水危機―ブラジル、カリフォルニアの場合) 
第4部 イスラエルのソリューション
 第12章 水の哲学
謝辞
訳者あとがき
原註
インタビュー一覧
参考文献


著者プロフィール
セス・M・シーゲル(Seth M. Siegel)
1953 年、ニューヨーク生まれ。ユダヤ系米国人ビジネスマンで、作家にして活動家。コーネル大学卒業後、エルサレムのヘブライ大学に留学。帰国後にコーネル大学のロースクールで法学博士の学位を取得。知財関係のビジネスを起業、のちに売却。 
水資源、国家安全保障、中東問題で「ニューヨーク・タイムズ」、「ウォールストリート・ジャーナル」等に寄稿、フォーリン・アフェアーズ外交問題評議会員、国際連合広報局のNGOセミナーなどで講演活動。ブロードウェイのミュージカルのリバイバル公演のプロデューサーをつとめるなど多彩な分野で活躍している。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものにWikipedia情報で加筆)

日本語訳者プロフィール
秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に『テクノロジーが雇用の75%を奪う』『アメリカの中学生はみな学んでいる「おカネと投資」の教科書』(以上、朝日新聞出版)、『アベベ・ビキラ』『死を悼む動物たち』『他人を支配したがる人たち』『若い読者のための第三のチンパンジー』(以上、草思社)。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)




<関連記事>

・・危機的状態になる以前から、ハマスが実効支配するガザ地区の水問題が深刻だったことは、本書をよむとわかる

・・井戸水くみ上げ過ぎで、地下水位が下がり海面上昇しているガザ地区では、水源である地下水が飲料に適さなくなっている。そのうえ、さらに海水を流し込むことは、非人道的な行為としかいいようがない。水で世界から賞賛されたイスラエルのやることではないことに、イスラエルは気づくべきだ。イスラエルはさらに国際的レピュテーションを下げることばかりやっている。愚か者どもよ(怒)

(2023年12月16日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

・・ドリップ灌漑など意すれる発の農業テクノロジーは、水テクノロジーあってこそ


・・韓国人家族の米国入植を描いた『ミナリ』には水脈を発見するためのダウジングが登場


■日本の水




・・水さえ飲んでいれば人間はすぐに死ぬことはない。逆にいえば、水がなければ人間は死ぬ


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2019年5月19日日曜日

書評『水運史から世界の水へ』(徳仁親王、NHK出版、2019)ー 歴史学から世界の水問題へ「文理融合」の実践



水運史から世界の水へ』(徳仁親王、NHK出版、2019を読んだ。水関連の講演8本が収録されている。この本の存在を知ったのは、紀伊國屋書店新宿本店で4月27日に出版された拙著『超訳自省録』と並んで「平積み」されていたから。

帯に「皇太子殿下のご講演の記録」とあるのは、出版が即位前の4月であったためだ。天皇に即位しても、ご本人が徳仁(なるひと)親王であることに変わりない。即位後は帯は新しいバージョンに取り替えたのだろうかしらん?

内容は、もともとの学習院大学の学部時代の専門である「日本中世水運史」関連の講演が3本、英国のオックスフォード大学に留学して研究テーマとした「産業革命時代のテムズ河の水運史」関連が2本、「3・11」の東日本大震災の津波災害を機会にあらたに研究を始めた「水災害とその歴史」、そして「水問題」にかんする講演が2本。「世界の水問題の現状と課題」は、国連での基調講演をもとにしたもの。もともとの英文による講演も収録。

『水運史から世界の水へ』というタイトルにあるように、もともと歴史学から始まった研究が、地球環境問題まで視野が拡大し、視点が増加していった経緯がよく理解できる構成になっている。まさに「文理融合」モデルのお手本ともいうべき内容だ。この講演録を読んでいると、天皇陛下の問題意識のあり方が手に取るようにわかる。

このような問題意識を持たれている方が、日本国の「象徴」となられたということは、グローバル時代に生きる日本人にとって、大きなソフトパワーになることは間違いない。ありがたいことだ。

もちろん、いちばん面白かったのは、オックスフォード大学時代の研究と留学生活の回想を語った講演「オックスフォード大における私の研究」。かなり緻密な研究をされていたのだなあという思いとともに、たいへん貴重な経験をなされたのだなあという思いを深くする。

内容的には、かなり専門的な話にも踏み込んでいるが、講演なので読みやすい。天皇陛下のご著書ではなくても、読む価値のある本であると思う。21世紀の現在に生きる人間にとって、「水問題」は避けて通れない問題であるからだ。一読を薦めたい。


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目 次  
はじめに
第1章 平和と繁栄、そして幸福のための水 
第2章 京都と地方を結ぶ水の道-古代・中世の琵琶湖・淀川水運を中心として 
第3章 中世における瀬戸内海水運について-兵庫の港を中心に
第4章 オックスフォードにおける私の研究
第5章 17~18世紀におけるテムズ川の水上交通について
第6章 江戸と水運
第7章 水災害とその歴史-日本における地震による津波災害をふりかえって 
第8章 世界の水問題の現状と課題-UNSGABでの活動を終えて
主な参考文献
参考収録 Quest for Better Relations between People and Water


著者プロフィール
徳仁親王(なるひと・しんのう)
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの) 言うまでもなく、2019年5月1日に即位された。



<ブログ内関連記事>

本の紹介 『鶏と人-民族生物学の視点から-』(秋篠宮文仁編著、小学館、2000)-ニワトリはいつ、どこで家禽(かきん=家畜化された鳥類)になったのか?

「城下町・古河」をはじめて歩いてみた(2019年5月5日)-日光街道の街道筋で利根川と渡良瀬川が合流する地域にある古河は、かつて交通の要衝だった

公開講演会 『海のことは森に聞け-コトの本質に迫るには-』(畠山重篤)にいってきた(国際文化会館 2012年11月17日)-「生きた学問」とはまさにこのことだ!

念願かなって「地下宮殿」を見学してきた(2018年8月11日)-世界最大級の「首都圏外郭放水路」がすごい。百聞は一見にしかず!


*******

今年2011年の世相をあらわす漢字は 「水」 に決まり-わたしが勝手に決めました(笑)

かつてバンコクは「東洋のベニス」と呼ばれていた・・


バンコクへの渡航は自粛を!-タイの大洪水と今後の製造業立地の方向性について

『龍と蛇<ナーガ>-権威の象徴と豊かな水の神-』(那谷敏郎、大村次郷=写真、集英社、2000)-龍も蛇もじつは同じナーガである

(2019年6月4日、2024年8月26日 情報追加)


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2012年10月21日日曜日

書評『奪われる日本の森 ー 外資が水資源を狙っている』(平野秀樹/安田喜憲、新潮文庫、2012 単行本初版 2010)ー 目を醒ませ日本人! 



『奪われる日本の森-外資が水資源を狙っている-』の単行本初版がでたのは 2010年、じつによいタイミングで文庫化されたといえる。いま日本は、ほんとうに危機的状況にあるからだ。

離島、そして山間地。人知れず「外資」によって買収が進んでいるという。けっして、尖閣諸島だけではないのだ!

狙いは資源、とくに山間地の場合は、人間の生存に致命的な意味をもつ水資源だ。山間部に存在する水源である。

「外資」とはチャイナマネーが中心のようだが、経済原則がはたらく以上、需要と供給があえば取引が成立するのはあたりまえだ。しかし、そんなことを黙ってで見ていていいわけがない。

文庫版によれば、2010年に刊行された単行本初版が引き金となって、急速に自治体レベルで危機感が表明され、自治体のワクを越えて危機感が共有されるようになってきているという。

2010年には沖縄県の尖閣諸島で事件が発生した。周辺の海洋資源をめぐってといわれているが、かならずしもそれだけではなさそうだ。この問題はふたたび2012年に再発した。これによって、ようやく日本人にスイッチが入ったようだ。

そんなさなか、タイミングを見計らったわけではないだろうが、本書の文庫版が出版されたわけだ。

明治維新、敗戦、そして第三の敗戦。近代合理主義にもとづく市場原理主義の猛威の前に、日本の国土は食い荒らされるばかりである。そして加速する中国マネーの流入

江戸時代と違って、明治維新の際の新政府の財源確保のための地租改正によって、私権が極大化してしまった土地取引日本の土地所有制度には、ほとんど何の規制もないのだ。

これに対して、諸外国は土地所有には厳しく対処している。社会主義国やかつて植民地として辛酸をなめたアジア諸国が外国人の土地所有を厳しく禁じているのは当然として、英米でも土地所有に対する私権制約は当たり前なのだ。

明治時代に日本がモデルとしたフランス民法においてすら、この50年で私権を制約する方向に向かっているという。しかも、ドイツでは山林は国境警備の軍隊の管轄下にあるというではないか。

経済原則がはたらく以上、カネに困った土地所有者が二束三文であろうと手放してしまうこともある。この行為を非難するのはたやすいが、そうさせない制度的な取り組みこそが不可欠だろう。そのためには、本書で提言されているような、さまざまな対策が必要だ。

しかし、国の対応は政治家も官僚も無作為に等しいのはなぜか? なぜ有効な対抗措置がとられることなく放置されたままになっているのか?

問題は買う側よりも、意識の低い日本政府と官僚にあるのではないか? これはいま日本が抱えているすべての問題に共通する。

いま日本は人口減により、確実に衰退過程にある。いまアクションを起こさなければ、この国の国土は外資に蹂躙され植民地と化してしまうだろう

離島だけでなく、山間地の水資源も、いったん奪われてから取り戻すのは至難の業である。

目を醒ませ日本人! みなさんも、日本国民の一人として問題を共有してほしいと思う。


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目 次

Ⅰ.  日本を買え(平野秀樹)

外資に買収されていく日本
狙われる日本の森
日本の水が危ない
森が買われることの何が問題なのか
日本には国家資産を衛るためのルールがない
日本の森と水を衛るのはだれだ
外資が国土を占有する日

Ⅱ. ニッポンの漂流を回避する(安田喜憲)

縄文が一万年以上持続した理由
稲作漁撈文明の持続性に学ぶ
欧米文明による日本人の心の破壊
グローバル市場原理主義による破壊が始まった


著者プロフィール

平野秀樹(ひらの・ひでき)
1954年生まれ。九州大学卒業。国土庁防災企画官、大阪大学医学部講師、環境省環境影響評価課長、林野庁経営企画課長、農水省中部森林管理局長を歴任。博士(農学)。現在、東京財団研究員。森林総合研究所理事。日本ペンクラブ環境委員会委員(本データは単行本初版が刊行された当時に掲載されていたもの)。

安田喜憲(やすだ・よしのり)
1946年生まれ。東北大学大学院理学研究科博士課程退学。理学博士。現在、国際日本文化研究センター教授。スウェーデン王立科学アカデミー会員。2007年紫綬褒章受章(本データは単行本初版が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<ブログ内関連記事>

書評 『尖閣を獲りに来る中国海軍の実力-自衛隊はいかに立ち向かうか-』(川村純彦 小学館101新書、2012)-軍事戦略の観点から尖閣問題を考える

書評 『チャイナ・ジャッジ-毛沢東になれなかった男-』(遠藤 誉、朝日新聞出版社、2012)-集団指導体制の中国共産党指導部の判断基準は何であるか?


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