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2018年1月31日水曜日

書評『血流がすべて整う食べ方』(堀江昭佳、サンマーク出版、2017)ー 血流がすべて。そしてそのためには胃腸を整えること


『血流がすべて整う食べ方』(堀江昭佳、サンマーク出版、2017)という本があるがレビューしてみないかという依頼がレビュープラスからあったので、二つ返事でOKした。

健康法の本だし、前作は20万部を越えるベストセラーで、本書は第2作だということなので、読んで損はないだろうと思ったから。

本書の内容を一言で要約してしまえば、「血流がすべて。そしてそのためには胃腸を整えること」になる。血流とは血の巡りのこと。血流が淀んでいるのは論外だが、サラサラだけでもダメなのだという。

というのも、著者は漢方薬剤師であり、漢方でいう「血」とは、血液だけでなく栄養やホルモンを含む概念のことだからだ。だから、血液サラサラであっても、栄養やホルモンが血流とともにカラダを巡っていなければ意味がない。入って出るまでの循環、これが重要なのだ。

胃腸を整えるために著者が推奨しているのは、食生活が変化する以前の日本人の食事ということになるだろう。四季の巡りと恵みを活かし、とくに食物繊維を十分に摂ること。

わたしの世代であれば、親から「腹八分目にしなさい」(・・つまり、食べ過ぎるな!ということ)とか、ことあるごとに食事にかんするさまざまな智恵をたたき込まれているが、若い世代ともなれば、たとえ女性であっても知恵の伝承は途切れてしまっている。だからこそ、著者の方法に従ってみるのもよいのだろう。

具体的なアドバイスですぐ実行できるものがある。たとえば、どんな家庭にも常備されている七味唐辛子。胃腸のための漢方といえるほどの薬効があるのだとか。

海藻は食物繊維の宝庫だが、海苔や昆布などの海藻を消化できる酵素をもっているのは日本人だけなのだとか。フランスでの遺伝子解析の結果あきらかになっているのだという。たしかに、有史以前から日本人は海藻を食べてきたからねえ。 これからも食べ続けるべきなのだ。

そして、著者がもっとも推奨しているのが「一週間夕食断食」。胃腸を掃除して血流を整えるのに最適な方法なのだそうだ。朝昼は食べて夕食は食べない。胃腸を休ませて、朝のお通じをよくするのが目的。

わたし自身は、長年にわたって朝食抜きの「半日断食」を実践しており、きわめて良好な健康状態にあるので、著者が推奨する「夕食断食」を実行するつもりはまったくないが、いままで「断食」(ファスティング)を実践したことのない人は試してみるといいかもしれない。

著者は、婦人科専門の漢方薬剤師で、とくに妊活の相談が多いのだそうだ。男性と女性の違いはもちろんあるが、男性であっても有用なアドバイスの数々であることは間違いない。

英語の格言に You're what you eat.(=あなたは、あなたが食べるものでできあがっている)というものがあるが、著者が説く内容もまさにその思想そのものである。

ココロとカラダは密接な関係にあり、カラダを整えることがココロを整えることにつながる。そしてそのカギは血流であり、胃腸を整えることにあるのだ。

基本的に女性を対象にしているが、女性に限らず男性でも、関心のある人は一読してみて、自分にあったものはさっそく採り入れてみるといいだろう。


レビュープラス








目 次

はじめに
第1章 血流が整えば、心も体もうまくいく
第2章 胃腸を掃除して血流を整える「一週間夕食断食」
第3章 血流を整える「食べたら出す」仕組み
第4章 血流を整え汚染を防ぐ食材と食べ方
第5章 血流は四季のめぐりと恵みで整える
第6章 食べることとは、生きることである
おわりに
主要参考文献


著者プロフィール

堀江昭佳(ほりえ・あきよし)
漢方薬剤師/不妊カウンセラー/有限会社堀江薬局代表/一般社団法人日本漢方薬膳協会代表理事1974年生まれ、出雲市出身。出雲大社参道で90年以上続く老舗漢方薬局の4代目。薬学部を卒業後、薬剤師となったのち対症療法中心の西洋医学とは違う、東洋医学・漢方の根本療法に魅力を感じ、方向転換する。本場中国の漢方医から学ぶ中、不妊に悩む友人の相談を受けたところ、漢方で妊娠したことに感動し、婦人科系の分野、なかでも不妊症を専門とするようになる。体の不調の解消だけではなく、本人の抱えている常識や執着といった束縛からの「心の解放」を終着点としている唯一の漢方薬剤師。血流を中心にすえた西洋医学、漢方医学、心理学の3つの視点からの総合的なアプローチは評判を呼び、自身の薬局で扱ってきた不妊、うつ、ダイエット、自律神経失調症など心と体の悩みは5万件を超える。地元島根はもとより全国、海外からも相談があり1か月先まで予約がいっぱいの状態が続いている。不妊相談では9割が病院での不妊治療がうまくいかず、来局されるケースであるものの、2009年以降に寄せられた妊娠報告は、累計1000名を超える。また、日本漢方薬膳協会の代表理事にも就任し、広く漢方薬膳の知識を広め、より多くの女性に幸せと笑顔を届けるために奮闘中。血流を改善して病気を遠ざける方法について書いた『血流がすべて解決する』(サンマーク出版)は20万部を超えるベストセラーとなった。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)






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書評 『修道院の断食-あなたの人生を豊かにする神秘の7日間-』(ベルンハルト・ミュラー著、ペーター・ゼーヴァルト編、島田道子訳、創元社、2011)-修道院における「断食」は、減量法を越えてスピリチュアルへの道を拓く


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2014年4月5日土曜日

in vino veritas (酒に真理あり)― 酒にまつわるブログ記事 <総集編>

(ブルゴーニュはシャトー・ド・ポマールの日時計 wikipedia英語版より)


in vino veritas (イン・ヴィーノ・ヴェーリタース)という格言がラテン語にある。直訳すれば「酒に真理あり」。意味はあえて解説するまでもないだろう。酔えばホンネが出る、ということだ。

ただし酒といってもワイン(vino)である。だから正確には「ワインのなかに真理あり」、だ。ラテン語世界においては古代ローマ世界も中世カトリック世界も、ワインが酒であったわけだ。だからワインをもって酒を代表させる。

ヴェーリタース(Veritas)はハーバード大学のモットーにもあるので知っている人も少なくないだろう。ラテン語には長母音があるので、ヴェーリタースとなんだか間延びした発音になってしまうのだが。

in vino というフレーズは文字でも音でも in vivo という表現を連想させる。n と v という一字の違いだが。

医学実験用語で「生体」を意味する表現だ。試験管(=実験用ビーカー)を意味する in vitro と対語(ついご)になっている。 in vitro は文字通りの意味は「ガラスのなか」。酒にひきつければ「グラスのなか」でもある。

こじつけというわけではないが、 vino と vivo は深い関係がある。ワイン(=酒)は命、である。

「酒は命」だと叫ぶのは酔っ払いだろうが、じっさいに「命の水」という表現がある。ロシアのウォッカはよせい正確に表記すればヴォートカ(vodka)だが、vod には命の意味がある。北欧のアクアヴィット(aquavit)は文字通り命(vit)の水(aqua)、フランス語の eau de vie(命の水)はブランデーなどの蒸留酒を指している。

木下杢太郎の「五月の詩(うた)」という詩にも「オードヴィー」として登場する。


(カラヴァッジオによるローマ神話の酒の神バッカス wikipedia より)



■「酒に真理あり」はもともと古代ギリシアからローマ世界へ

ラテン語の in vino veritas(酒に真理あり)の出典はエラスムスらしい。15世紀から16世紀にかけてのオランダの人文学者当時の大知識人である。『Adagia』(Erasmus Adagiorum Chiliades, Libertas)という本は、1500年にパリで出版された『ギリシア・ラテン格言集』である。その本にギリシア語の格言としてでてくるのだそうだ。  

もともとは古代ギリシアにさかのぼるものであるようだ。エラスムスの『痴愚神礼讃』には、沓掛良彦氏のラテン語原典からの新訳(中公文庫版)にはつぎのような一節がある。

それに真実以上に称賛されているものがほかにありましょか? プラトンに登場するアルキビアデスが引いている諺では、真実が語られるのは酒と子供の口によってである、とされておりますが、この称賛は、なんといってもこの私がそっくり頂戴すべきものです。(P.92) *太字ゴチックは引用者=さとう

語っているのは「痴愚女神」という設定である。沓掛氏の注釈によれば、「アルキビアデスが引いているのは、「酒は子供抜きでも、子供を入れても真実の事を語るもの」、だそうだ(P.263)。ギリシア語の原文は書いてないのでわからないが、アルキビアデスはソクラテスの年若い友人でプラトンの対話編にも登場するイケメン政治家で軍人ある。

『食べるギリシア人-古典文学グルメ紀行-』(丹下和彦、岩波新書、2012)という西洋古典学の研究者が一般向けに執筆した教養書があるが、「Ⅱ 酒のなかに「真」あり-抒情詩人に浮かぶ人の世」には、第4章は「酒の歌、恋の歌-酒仙詩人列伝」と「第5章 二日酔いにはキャベツ-英雄たちも飲んだ水割りワイン」という章が設けられている。酒食はセットでなければならないからね。

同書によれば、「酒に真理あり」は「エン・オイノー・アレーテイア」(Ἐν οἴνῳ  ἀλήθεια) である。ゼノビオス(紀元後二世紀)のことわざ集にあるという。ギリシア語の「アレーテイア」はラテン語の「ヴェリタース」に該当する。ワインはギリシア語で「オイノス」。

このフレーズを『ギリシア・ラテン引用句辞典 新増補版』(岩波書店、1963 初版 1937)でみておこう。


(『ギリシア・ラテン引用句辞典』 P.41より)


『ギリシア・ラテン引用句辞典 新増補版』には、別の出典がある。ギリシア語の部に「愛しき子よ、酒と真理 と言はる; 酒に真理あり」(Theokr. Idyllia, ⅩⅩⅠⅩ, 1)とある。テオクリトスの『牧歌』のこと。また、アルカイオスの『断片』にもまったく同じ句がある。


(『ギリシア・ラテン引用句辞典』 P.83より)


「酒が体内に入るとき、言葉は流れ出づ」というフレーズはヘロドトスのもののようだ。歴史学の父ヘロドトスである。

『ギリシア・ラテン引用句辞典 新増補版』のP.83 には古典ギリシア語の「酒」(οἶνος オイノス)にまつわる格言が約1ページまるまる収録されているので面白い。

『ギリシア・ラテン引用句辞典 新増補版』は、旧字旧仮名なので古色蒼然としているが、1937年(昭和12年)の出版物なので味のある辞典である。長期品切れなのが残念だ。西洋社会でも古典語教育が行われなくなったので需要自体が減少しているのだろうか。




わたしは大学時代にの1963年の「増補」を購入したが、増ページによる増補なので、使いにくいのが問題だ。徹底的に改定してデジタル版にしたらよいのではないかと思う。

「酒に真理あり」は、古代ギリシアや古代ローマに限らず、ユダヤ教の『タルムード』、古代ペルシアにも見られるということだ。漢文では「酒後吐真言」というそうだ。なるほど、漢字が読めるとこういうときは助かるな。「真言」というフレーズが興味深い。



■「酒に真理あり 水に健康あり」

in vino veritas にはじつは続きがある。 in aqua sanitas.である。「水に健康あり」だ。

英語では In wine there is truth, in water there is health. ドイツ語では Im Wein liegt die Wahrheit, im Wasser liegt die Gesundheit. と英語とまったく同じ意味。というより、もとのラテン語が同じだからだが。

だがフランス語では la vérité est dans le vin と上の句だけだという。ウソかホントか知らないが、なんだかフランスらしい。イタリア語は nel vino è la verità、スペイン語は en el vino está la verdad と、もとのラテン語から俗語への変化を楽しめる。

アルコール度数のきつい蒸留酒にはチェイサー(chaser)が必要。口直しの水のことだ。蒸留酒をチィス(追う)からチェイサー。だから、「酒に真理あり 水に健康あり」。

そうじゃなくても、朝起きたらまずは水を飲む。「水に健康あり」ですからね。



<参考文献>

●『食べるギリシア人-古典文学グルメ紀行-』(丹下和彦、岩波新書、2012)
●『パンとワインを巡り神話が巡る-古代地中海文化の血と肉-』(臼井隆一郎、中公新書、1995)
●『ワイン物語(上)-芳醇な香りと世界史』(ヒュー・ジョンソン、小林章夫訳、平凡社ライブラリー、2008) ・・ワインは少なくとも5000年前にグルジアで生まれ黒海ルートでギリシアに伝わた(P.34~37) 




(ブルゴーニュはシャトー・ド・ポマールの日時計 wikipediaイタリア語版より)


<ブログ内関連記事>

ブログに書いた酒にまつわる記事を一覧できるようにしておこう。

それにしても、書きも書いたりという感じだ。これからも、まだまだ書くことだろう。最近はあまり酒は飲まないのだが、うまいもの食ってうまい酒を飲む楽しみは健康である限り、つづけていくことは間違いないからだ。

もちろん、なにも食べない、なにも飲まない断食という究極のぜいたくもまた。


■総論

「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・英語に You're what you eat. という格言があるが(・・もとはドイツ語)、You're what you drink. と付け加えるべきであろう。飲食は切り離せない。

Παθηματα, Μαθηματα (パテマータ・マテマータ)-人は手痛い失敗経験をつうじて初めて学ぶ


■ヨーロッパのワイン・ビール・蒸留酒

「ワイン展-ぶどうから生まれた奇跡-」(国立科学博物館にいってきた(2015年12月2日)-ワインの全体像を知る「博物誌」

書評 『富の王国 ロスチャイルド』(池内 紀、東洋経済新報社、2008)-エッセイストでドイツ文学者による『物語 ロスチャイルド家の歴史』
・・オーパスワン(Opus One)などロスチャイルド家とワインの深い関係

西川恵の「饗宴外交」三部作を読む-国際政治と飲食の密接な関係。「ワインと料理で世界はまわる」!

書評 『ボルドー・バブル崩壊-高騰する「液体資産」の行方-』 (山本明彦、講談社+α新書、2009)-ボルドー・ワインにみる世界経済のいま

映画 『大統領の料理人』(フランス、2012)をみてきた-ミッテラン大統領のプライベート・シェフになったのは女性料理人

「リスボン大地震」(1755年11月1日)後のポルトガルのゆるやかな 「衰退」 から何を教訓として学ぶべきか?

「スペイン料理」 の料理本を 3冊紹介

『ベルギービール大全』(三輪一記 / 石黒謙吾、アートン、2006) を眺めて知る、ベルギービールの多様で豊穣な世界

IKEA (イケア) で北欧ライフスタイル気分を楽しむ-デフレ時代の日本に定着したビジネスモデルか?
・・スウェーデンビールとスウェーデン産のじゃが芋焼酎であるアクアヴィット(aquavit:命の水、スピリッツ 40%)

ドイツの「ビール純粋令」(1516年4月23日発布)から本日で500年

書評 『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)-風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求

ウニクム(unicum)は、ハンガリーの "養命酒" で "国民酒"


■日本の酒

味噌を肴に酒を飲む

「泥酔文化圏」日本!-ルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』で知る、昔から変わらぬ日本人

秋空の下、BBQを楽しむ joie de vivre(生きる喜び)

ひさびさに隅田川で屋形船を楽しむ-屋形船は東京の夏の楽しみ!

『izakaya: The Japanese Pub Cookbook』(=『英文版 居酒屋料理帖』)は、英語で見て・読んで・楽しむ「居酒屋写真集」+「居酒屋レシピ集」

書評 『ホッピーで HAPPY ! -ヤンチャ娘が跡取り社長になるまで-』(石渡美奈、文春文庫、2010 単行本初版 2007)

"昭和ノスタルジー"な一夜・・・船橋漁港直送 「いわし料理 ふなっ子」にて

幻の芋焼酎・青酎(あおちゅう)を飲んで青ヶ島の苦難の歴史に思いをはせ、福島の苦難について考える

ユダヤ教の「コーシャー」について-イスラームの「ハラール」最大の問題はアルコールが禁止であることだ
・・日本酒の「獺祭」(だっさい)の国際展開とコーシャー認証取得

「馬」年には「馬」肉をナマで食べる-ナマ肉バッシングの風潮のなか、せめて「馬刺し」くらい食わせてくれ!

ルカ・パチョーリ、ゲーテ、与謝野鉄幹に共通するものとは?-共通するコンセプトを「見えざるつながり」として抽出する
・・芋焼酎の銘柄「鉄幹」に名をとどめる与謝野鉄幹は与謝野晶子の配偶者としてだけではなく、、恋と情熱と革命(志向)の詩人として記憶にとどめたい


■東南アジア

タイのあれこれ (13) タイのワイン

タイのあれこれ(5)-ドイツ風ビアガーデン

「タイガー・ビア」で乾杯!!

ミャンマー再遊記 (4) ミャンマー・ビアとトロピカルフルーツなどなど


■中近東とコーカサス、ロシア

ブランデーで有名なアルメニアはコーカサスのキリスト教国-「2014年ソチ冬季オリンピック」を機会に知っておこう!

『イスラエルのハイテクベンチャーから学ぶ会』」に参加-まずはビジネスと食事から関心をもつのがイスラエルを知る近道であろう
・・イスラエル料理とイスラエルワイン

飛んでウラジオストク!-成田とウラジオストクの直行便が2014年7月31日に開設
・・ロシアのウオッカ(=ヴォートカ)


■飲み過ぎという「習慣の奴隷」が招くもの

マンガ 『アル中病棟(失踪日記2)』(吾妻ひでお、イーストプレス、2013)は、図らずもアル中病棟で参与観察型のフィールドワークを行うことになったマンガ家によるノンフィクション

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2014年2月10日月曜日

書評『缶詰に愛をこめて』(小泉武夫、朝日新書、2013)ー 缶詰いっぱいに詰まった缶詰愛


発酵学の大家、というよりも食のエッセイストとして有名な小泉博士の最新刊。

カバー帯に「俺が愛した缶詰たち」とあるが、こちらをタイトルにしてもよかったのではないかと思う内容。「缶詰めいっぱいにつまった愛」、でもいいいかな。これまでも随所で缶詰めについて語っているが、本書は現時点での集大成といったものだ。

1943年生まれで福島の酒蔵に生まれた著者は、少年時代から現在に至るまで缶詰めを愛してやまなかったことが情感たっぷりに語られている。そして「俺が愛した缶詰たち」。

うれしいのはイワシやサンマなど安くてうまい庶民の味を、これでもかこれでもかと語っていること。基本は食いしん坊を意味するグルマンだが、美食を意味するグルメまで幅広いのが缶詰の世界。

本書には言及はないが、すでにパンの缶詰めすらあるくらいだから、世の中にあるもので缶詰めになってない者はないのではと思う。

本書はレシピ本でもある。

もちろんわたしも缶詰好きであり、さっそく小泉博士推奨の「コンビーフ丼」をつくってみた(写真下)。

材料はコンビーフ缶と卵とタマネギ。めんつゆ使用。そしてご飯。意外とコンビーフとしょう油は相性がいい。けっこう贅沢な丼になるので、みなさんもぜひお試しを。

(小泉博士レシピ コンビーフ丼)


■「"俺"が愛する缶詰め」

せっかくの機会なので、この本には掲載されてない缶詰めを紹介しておこう。

「いなば チキンとタイカレー」である。いなばの「チキンとタイカレー」という缶詰がうまい。グリーンとレッドとイエローの3種類がある。販売店によって違いはあるだろうが、値段はだいたい140円前後。


缶詰に書かれた「本場のタイで製造」というキャッチコピーがまたタイ好きにとってはうれしい。

「いなば」という会社は知らなくても、このキャッチコピーで知名度は間違いなく上がることだろう。タイで製造したほうが日本で製造する安いのだが、そんなことはあえて語る必要はあるまい(笑)


わたしが推奨するレシピを紹介しよう。

ゆでた「そうめん」をお湯を切ってどんぶりに入れ、温めた「チキンとタイカレー」の缶詰をかけて食べる。いわば「にゅうめん」なのだが、このようにするとなんだか東南アジア風でエスニックな感じになってうまい。そうめん1わにつき、缶詰1つでいい。

ラオスやミャンマーにこういう麺料理があるのだが、違いは米の麺である点だ。そうめんは小麦の麺だが、米の麺は日本国内では入手しにくいので、それは目をつむっておこう。

わたし的にはグリーンカレーがイチオシですが、そうめんにかけて食べる場合は、レッドがいいでしょう。超簡単に東南アジアの味を楽しめるレシピでありますよ。


■缶詰めで人生を語る

ということで、誰にも「俺の(わたしの)愛した缶詰」があるはずだ。誰もが、缶詰めについて語りたくなるもの。そう、缶詰は人生そのものである。

缶詰は奥が深い! そんな思いにさせてくれる一冊だ。




目 次 

まえがき
第1章 セピア色のわが缶詰遍歴
 ・歩く食糧事務所、イワシの缶詰に目覚める
 ・サンマの蒲焼きで、さらに缶詰にはまる
 ・阿武隈缶太郎、サンタ印のカレー缶を食らう
 ・サバの水煮缶、クジラの須の子缶で悟る
 ・味覚人飛行物体となり、ついに大人の缶詰と出会う
第2章 俺が愛した缶詰たち [魚介編]
 クジラの缶詰
 サバ缶
 イカの缶詰
 サケ缶
 サンマの缶詰
 イワシの缶詰
 アカ貝の缶詰
 ホッキ貝
 ツナ缶
 マグロとカツオのフレーク缶
 アン肝の缶詰
 オイルサーディンの缶詰
 カキのオイル漬けの缶詰
<コラム> 缶マークの読み方
第3章 眩しき缶詰たち
 タラバガニの缶詰
 ホタテの水煮缶
 ウニ缶
 アワビの水煮缶
 ハマグリの水煮缶
 フカヒレ缶
 カニみそ缶・エビみそ缶
 ウナギの蒲焼き缶
 松浦漬の缶詰
第4章 俺が愛した缶詰たち [野獣編]
 ヒグマ缶
 トド缶
 エゾシカ観
 虫缶(ハチノコ・イナゴ・ザザムシ)
第5章 俺が愛した缶詰たち [野菜・果物編]
 アスパラガス缶
 コーン缶
 きんぴらゴボウの缶詰
 ナメコ缶
 トリュフの缶詰
 ミカンの缶詰
 モモの缶詰
 パイナップルの缶詰
 サクランボ缶
第6章 わが思い出の缶詰たち
 タガメ缶
 スッポンの缶詰
 ドジョウの蒲焼き缶
 ガン漬の缶詰
 ムツゴロウの蒲焼き缶
 火腿の缶詰
 おでんの缶詰
 すき焼きの缶詰
 コンビーフ缶
 牛肉大和煮の缶詰
 日本酒の缶詰
 地獄の缶詰
第7章 俺が愛した缶詰たち [おやつ編]
 ドロップス缶
 水ようかんの缶詰
 あずきの缶詰
 みつ豆の缶詰
 コンデンスミルク缶
あとがきに代えて


著者プロフィール  

小泉武夫(こいずみ・たけお)
1943年福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学農学部醸造学科卒。発酵学者。文筆家。東京農業大学名誉教授。現在、鹿児島大学、琉球大学、広島大学などで客員教授を務める。学術調査を兼ねて辺境を旅し、世界中の珍味、奇食に挑戦してきた「食の冒険家」でもある。著書多数。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。


<関連サイト>

『いなばのタイカレー缶レシピ』という本まででてくる。「缶詰め大好き人間」は日本にも多い。


 


 <ブログ内関連記事>

「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる
・・映画 『大統領の料理人』でも主人公のシェフは徹底的に素材にこだわる

書評 『ニシンが築いた国オランダ-海の技術史を読む-』(田口一夫、成山堂書店、2002)-風土と技術の観点から「海洋国家オランダ」成立のメカニズムを探求
・・「スウェーデン北部には、ニシンの缶詰であるシュール・ストレンミングというものがあるらしい。生のニシンの缶詰にして密封し缶内で発酵させたものであるが、缶詰をあけるときは要注意だそうだ。強烈な臭気は、とても耐えられるしろものではないらしい。 この話は、発酵学者で食文化研究家の小泉武夫氏が、『発酵食品礼賛』(文春新書、1999)など、いろんなところで書いているので有名だが、さすがにわたしは食べたことも、匂いをかいだこともない。伊豆諸島の名物の干物くさやより、はるかに臭く、絶対に家のなかで開封してはいけないそうだ。もしそんなことしたら、たいへんなことになってしまうという・・・」

『檀流クッキング』(檀一雄、中公文庫、1975 単行本初版 1970 現在は文庫が改版で 2002) もまた明確な思想のある料理本だ

邱永漢のグルメ本は戦後日本の古典である-追悼・邱永漢

『聡明な女は料理がうまい』(桐島洋子、文春文庫、1990 単行本初版 1976) は、明確な思想をもった実用書だ

『こんな料理で男はまいる。』(大竹 まこと、角川書店、2001)は、「聡明な男は料理がうまい」の典型だ

むかし富士山八号目の山小屋で働いていた (2) 宿泊施設としての山小屋 & 登山客としての軍隊の関係
むかし富士山八号目の山小屋で働いていた (3) お客様からおカネをいただいて料理をつくっていた
・・「自衛隊員は先にも書いたが、自分たちのレーション(ration)を持参しているので基本的に山小屋に食事を頼むことはない。比較的大きな缶詰にはいった加工食品である。シールも何もはっていないので無味乾燥な缶詰だ」  陸上自衛隊の隊員たちからもらったレーションの缶詰を食べてみたが、どれもみな塩がきつくしょっぱかった。カレーなど種類はいろいろある


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2014年1月23日木曜日

ユダヤ教の「コーシャー」について ― イスラームの「ハラール」最大の問題はアルコールが禁止であることだ

(「獺祭」はコーシャー認証取得済み JETROビデオよりキャプチャ)


2014年1月16日放送のテレビ東京系列のビジネス番組 『カンブリア宮殿』で日本酒の「獺祭」(だっさい)が取り上げられた。題して「倒産寸前“負け組”酒蔵が起こした奇跡!ピンチに挑み続けた大逆転経営」。

いまでは純米大吟醸酒で一番人気の「獺祭」(だっさい)だが、倒産の危機から起死回生したストーリーには勇気づけられるものがあった。

この番組でわたしが注目したのは再生のストーりーもさることながら、「獺祭」(だっさい)を醸造する山口県の旭酒造では、なんとユダヤ教のラビが工場検査を行っていることだ。「コーシャー認証」のための抜き打ち工場検査だ。

ユダヤ教徒以外にとっても、「コーシャー認証」は「食の安全」の観点から人気があるので、先進国市場開拓のためにコーシャー認証を取得したという。「獺祭」をはじめて東京で飲んだのは、いまから十数年前のことだが。コーシャー認証のことは言われるまでまったく気がつかなかった。うかつな話である。


(KJマークはコーシャー認証取得済みの証明 JETROビデオよりキャプチャ)


イスラームの「ハラール」(Halal)については、最近よく耳にするようになってきたのでご存知の方も多いと思う。イスラーム法コンプライアンスによる認証制度のことで、イスラームにとって不浄なものが含まれていないことを証明するものだ。

関係が冷え込んでいる中国にかわって、ビザ緩和などの影響もあって東南アジアからの来日客が急速に増えているのだが、そのなかでもとくにマレーシアやインドネシアといったムスリム(=イスラーム教徒)にとって問題なのが、食事のなかにブタやアルコールが含まれていないかという心配なのだ。

そのため、日本でも食材をハラール基準に基づいて観光客を「おもてなす」取り組みが広がっている。円安傾向もあって日本旅行が手に届くものになってきたという事情もあるらしい。以前から多かったタイ人だけでなく、マレーシア人はこれから上得意になることだろう。

また、全世界に16億人もいるというムスリム人口をターゲットに、ハラール認証を取得して積極的に市場拡大を図ろうという日本企業もでてきている。2030年には世界人口の1/4に達するというムスリム向けの市場規模はきわめて大きい。ハラール認証取得済みであれば、ムスリム以外にも安心を提供できるというメリットもある。

ところが、ハラール認証には大きな問題点がある。 

それはなにかというと、原材料にアルコールが含まれることすら絶対にダメという厳しい規定があるから。消毒用のアルコールさえ不可!なのだ。そう、当然のことながらお酒はイスラーム法では禁止なのである。

そこで活用を考えるべきなのが「コーシャー認証」だ、というわけなのだ。

ユダヤ教コンプライアンスの「コーシャー」認定。イスラーム圏向けの「ハラール認定」がビジネスマターになってきた日本だが、お酒についてはイスラームは禁止なのでユダヤ教の「コーシャー認定」がいいかもしれない。

ブタを食べてはいけないという点については、ユダヤ教の食事規定とイスラームの食事規定は共通しているが、それ以外はかならずしも重ならない。



■コーシャー認証マークのついた食品は安心という消費者意識

「コーシャー」(Kosher)とはユダヤ教にもとづく食事規定のことだ。ヘブライ語ではカシュルートという。聖書のモーセ五書の一冊である『レビ記』に根拠がある。

イスラームと同様にユダヤ教もまた生活全般を規範として律する性格のつよい宗教である。してもいいこと悪いこと、食べていいもの悪いものが、ことこまかに規定されている。

ユダヤ教でも宗派によっては厳しさの度合いが異なるので、すべての人がコーシャーを遵守しているわけではないが、超保守派は厳格にコーシャーを遵守することを求めている。その点はイスラームのハラールとよく似ている。


(「コーシャー認証」済みのイスラエル産ワイン K は Kosher の略語)


この写真は、イスラエルのワイン Mount Hermon(マウント・ヘルモン)の赤。イスラエル北部のゴラン高原にあるワイナリーで醸造されているワイン。

ラベルをみると、ラビによるコーシャーお墨付き。コーシャー(Kosher)の頭文字 K のマークがある。ユダヤ教徒が育てたブドウからつくられ醸造されたワインだという証明である。

厳格に遵守する人は、ユダヤ教徒が栓をあけたワインでないとクチにしないという。


(ニューヨーク市内のリカーショップ JETROビデオよりキャプチャ)


日本ではコーシャー認証マーク入りの食品は輸入食料品以外ではほとんどみない。気になった人は明治屋や紀伊国屋、成城石井などの高級食品スーパーやコストコなどで確認してみるといいだろう。海外でスーパーマーケットにいく機会があれば、かならずコーシャーのコーナーがあるので探してみるといい。


(日本で入手できるコーシャーのピクルス)


ユダヤ教徒に限らず先進国ではコーシャ認証マークのついた食品なら安心だという意識が広がっているようだ。原材料だけでなく、機械設備から製造プロセスのすべてについてユダヤ教聖職者ラビによる抜き打ち検査が行われるからである。



■コーシャー認証を取得した日本酒もある

イスラエルのワインは「コーシャー認証」を取得しているのは当然だが、日本酒もまた対象になる。

「ブドウ以外の果実酒については特別の規定はありません。ウイスキーもコーシェルの問題にならなりません」ということだが、コーシャー基準を満たしていれば認証はもらえるので、「食の安全」意識の高い先進国市場開拓のためにコーシャー認証を取得するのは理にかなっているといえる。


(ラビによる抜き打ち検査 JETROビデオよりキャプチャ)


さきに日本酒の「獺祭」(だっさい)がコーシャー認証を受けている件について触れたが、カンブリア宮殿の放送を見逃した人も、JETROが作成しているビデオでコーシャー認証とラビによる検査の状況を視聴することができる。食品の海外輸出-コーシャ市場への取り組み- (テレビ番組「世界は今 ‐JETRO Global Eye」 2013年04月24日)。


(ラビによる抜き打ち検査 JETROビデオよりキャプチャ)


「獺祭」(だっさい)で検査を行っているのはビニアミン・エドリー師。調べてみると、ハバッドハウス(東京)のラビ・ビンヨミン・エデリ師であることがわかる。ハバッド(Chabad)はハシディズム系の正統派ユダヤ教。いわゆる超保守派である。

「日本ユダヤ教団」(Jewish Community of Japan)でもコーシャー認証を行っているようだが、ハバッドハウス(Chabad House Japan)は日本ユダヤ教団とは別組織である。「獺祭」の蔵元には、超保守派のお墨付きがあれば、「食の安全」の観点からいって無敵だろうという判断があったのかもしれない。

ハバッドハウスのサイトには、コーシャーの英語メニューがある。サンドイッチ各種、メインコース各種、サラダ各種、キッシュ、スープ、ドリンク、デザート、そのいずれもコーシャー認証ずみだ。デリバリーサービスもあるようだ。日本在住のユダヤ教徒のニーズがあるのだろう。

国内市場が縮小するなか、海外市場に活路を見出そうとする姿勢は当然といえば当然だ。「おもてなし」にくわえて、「和食が世界遺産」になったのは、その流れを促進することになる。日本酒以外でも味噌やしょうゆなどの発酵食品、またワカメなどの海藻もコーシャー認証を取得する傾向がでてきたようだ。

ただし、じっさいに認証を受ける窓口としてどこがいいのか、コーシャー認証もじつにさまざまなものがある。よく研究してからのほうがよさそうだ。



■「食の安全」と宗教やライフスタイルによる「食事規制」

たとえば日本のしょうゆには原材料にアルコールを添加することも多い。このケースの場合、ユダヤ教のコーシャー認証は取得できても、イスラームのハラール認証では不可ということになる。

2030年には世界人口の1/4がムスリム人口になるといわれており、この巨大市場を目指すためにハラールで「標準化」するのか、それともローカル市場ごとに細分化して認証を受けるのかなど、いろいろ考えなくてはないことも多い。

ユダヤ教のコーシャーを中心してイスラームのハラールについても述べたが、それ以外にベジタリアンという食事規制もある。

ベジタリアンというとインドがまず思い浮かぶが、先進国ではベジタリアンもけっして少なくはない。そのベジタリアンも厳格派から、それほどでもない人までかなり違いがある。一般的に肉を食べない菜食主義者(Vegetarian)だけでなく、ビーガン(Vegan)と呼ばれる肉類だけでなく牛乳や乳製品も拒否する人たちまである。

たとえば全日空(ANA)の場合、特別機内食(スペシャルミール)は、「宗教対応のお食事」は以下のように用意されている。事前に予約しておけば用意してもらえることになっている。

 ●ヒンズーミール(HNML)
牛肉を口にしないヒンズー教徒のお食事です。食材には牛肉の他、豚肉も避けますが、茹でた魚、鶏肉、羊肉、魚介類、米、フルーツ等を使用します。調理の際のアルコールは使用致しません
●イスラム教徒ミール / モスレムミール(MOML)
イスラム教の規定と習慣に則ってご用意したお食事です。豚肉を使用した製品、ゼラチン、お酒、アルコールより抽出された香味成分、うろこやひれの無い海洋生物の肉は使用しておりません
●ユダヤ教ミール(KSML)
ユダヤの掟によって調理され、祈りを捧げられたユダヤ正教信者の食事です。機内では必ずシールを切らずに提供します。ANAでは Passover meal(過ぎ越し期間用の発酵食品が含まれない食事)のご用意はございません

ついでに「ベジタリアンのお食事」も紹介しておこう。

●ベジタリアンミール(VLML)
肉類や魚類は調理されませんが、卵や乳製品を使ったお食事です
●厳格なベジタリアンミール(VGML)
肉、魚、卵、乳製品、蜂蜜など動物由来の食品は一切使用されていないお食事です
●ベジタリアンヒンズーミール(AVML)
アジア風のベジタリアンミールです。スパイシーなベジタリアン料理のコンビネーションになっており、肉・魚・卵は使用しませんが、乳製品は含まれています
●ジャイナ教徒用ベジタリアンミール(VJML)
ジャイナ教徒のお客様用の食事です。肉・魚・卵・乳製品など動物性のものに加え、根菜も使用していない食事です。


先にもふれたようにイスラームでもユダヤ教でも豚肉はNGだ。ヒンズー教徒は牛肉がNGだ。結局のところ宗教のいかんにかかわらず、共通に食べることができるのは羊肉か鶏肉ということになる。

ベジタリアンになると肉もNGである。いわゆる厳格なベジタリアン(=ビーガン)やジャイナ教徒用ベジタリアンとなると、牛乳も乳製品もダメである。厳格なベジタリアンを食べたことがるが、まったく味気ないものなのであった。慣れの問題もあるだろうが、以後、二度と食べないことにしている。


(全日空の国際便エコノミークラスのベジタリアンミール)


グローバル化でも国際化でも表現はどちらでもよいのだが、日本を一歩出れば、いや日本国内にも「食の規制」を受ける人たちがいることはアタマのなかにいれておくべきなのだ。「食の安全」の意味は広く捉えることが重要だろう。

いや、ほんとうのことをいえば、日本国内でもかなりの地域差が存在することにも留意しておく必要があるだろう。文化、とくに食文化というものは、きわめてローカルな存在なのである。


PS 「信と知を行として一体のままに理解」するユダヤ法とイスラーム法

「コーシャー」の根拠となるユダヤ法と「ハラール」の根拠となる「イスラーム法」については、概説書として『世界の法思想入門』(千葉正士、講談社学術文庫、2007)を推奨したい。「第二編 非西欧文化の法思想」として、それぞれ第1章と第2章でコンパクトに説明されているので便利である。

ユダヤ法はユダヤ教徒の生活の法、ユダヤ教を信じる行為の法であることである。その多くの法規の中には、純世俗的なものもあるが、純宗教的なものも、多いだけではなくむしろより重要とされ、また現代の常識からすれば両者を混交していると見られるものもある。しかしそれは、その常識すなわちキリスト教的西欧観念から見るから混交と見えるが、ユダヤ法の立場から見れば当然の一体なのである。比較して言えば、キリスト教はギリシア哲学の理性をうけついで信と知を分けたが、ユダヤ教は信と知を行として一体のままに理解している。この点においては、ユダヤ法はイスラム法と共通する。法が宗教・道徳と不可分であるのも、当然のことなのである。(P.163~164 *太字ゴチックは引用者=さとう)

キリスト教を軸にみると、「信と知を行として一体のままに理解」するという点において、ユダヤ法とイスラーム法が共通するということが重要だ。だから、細かい食餌制限が存在するのである。教義もさることながら、プラクティスという点においての世界の三大一神教についての比較が参考になるだろう。 (2014年3月29日 記す)。



<関連サイト>

コーシャー・ジャパン 公式サイト(日本語)
・・「当KOSHER.JP日本支部(本部機構イスラエル国エルサレム市)はイスラエルのコンサーバティブ派のラバイ(認定権限のある者)あるいはオーソドックス派のラバイが正式に発行するコーシャ食品、コーシャ製品の認定を行う日本向けの機構の日本支部です」(ウェブサイトより)

kosher japan 公式サイト(日本語)


食品の海外輸出-コーシャ市場への取り組み- (テレビ番組「世界は今 ‐JETRO Global Eye」 2013年04月24日)

日本産農林水産物・食品輸出に向けた コーシャ調査報告書 2014年3 月 (日本貿易振興機構(ジェトロ) 農林水産・食品部 農林水産・食品調査課) (Pdf 資料)

コーシャー・ライセンス取得のお披露目パーティ in LA & NY (2011年6月21日)
・・「獺祭」(だっさい)の公式ブログ

「獺祭」(だっさい)の認証を担当しているハバッドハウス(東京)のウェブサイトに掲載されている「ノアの七つの戒律」を読むと、かなり厳格で保守的な教えであることがわかる。

1. 神を信ぜよ 偶像礼拝の禁止
2. 神を信じ、讃えよ みだりに神の名を唱えてはいけない
3. 人間生活を尊重せよ 殺人の禁止
4. 家庭を尊重せよ 非道徳的な性行為の禁止
5. 他人の権利と財産を尊重せよ 盗みの禁止
6. 司法体系の創造 正義を追求せよ
7. 生き物を大切にせよ 生きた動物の生肉を食べてはいけない

このような厳格な戒律を日本のような世俗的な環境で遵守するのはきわめてたいへんなことであろう。

VIDEO: Kosher Wine No Longer an Afterthought (Bloomberg BusinessWeek, July 2, 2013)
・・コーシャーのイスラエルワインの紹介(英語)


日本初 米焼酎と柚子酒で、ユダヤ教食事規定をクリア(玉乃光酒造プレスリリース、2016年6月6日)
・・京都・伏見の玉乃光酒造が「ロンドンに本部を置く認 証機関の KLBD (日本代理店「株式会社ヤマミズラ」)より取得しました。KLBD は世界に 1,300 以上あるコー シャ認証機関の中でも上位 3 つに入る規模の団体で、ヨーロッパ最大最古の歴史を誇ります」(プレスリリースより)

(2015年1月11日、2016年12月3日 情報追加)



<参考> 『逆境経営-山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法-』(桜井博志、ダイヤモンド社、2014)

2014年1月16日放送の「カンブリア宮殿」での「獺祭」(だっさい)紹介とあわせて出版された、「獺祭」の蔵元である旭酒造社長の著書。この本の P.199~201 にかけて、「コーシャー認証」取得の理由が記されている。

コーシャー取得の理由は、「アメリカの富裕層にユダヤ人が多いことから、ユダヤ社会での信頼を得ため」だという。日本酒は製造工程が複雑なため、どうしても製造原価が高くなりがちなので、「獺祭(だっさい)は世界の上位5%を主要顧客層と見ている」。

取得には3年かかったという。「彼らは、何を原料に、どこで造ったか明確であることを求めると同時に、最終的に製法のはっきりしない工業生産的手法で精製されたアルコールを酒に添加する、いわゆる「アル添酒」を認めない」、と。

コーシャーにかんする記述はこれだけだが、日本酒の世界に関心のある人、日本酒とワインの関係が完全に逆転した日本市場での戦い、縮小する日本市場から海外市場で戦うためにはなにが必要か考える人は、せひ読むことを薦めたい。

(2014年1月29日 記す)

・・その後、コーシャ認定を取得する日本の食品メーカーは増加中

(2021年1月28日 記す)



PS パリのコーシャー専門の食品スーパーチェーン

2015年1月7日に発生したフランス紙襲撃テロ事件は、イスラーム過激派のトロリストたちによる風刺専門の新聞社シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)を襲撃し12人を殺害したものである。フランスのみならずヨーロッパ全体を震撼された衝撃的な事件である。

その後、犯人二人とはつながりながらも別行動をとっていたもう一人のテロリストが人質をとって立てこもっていたのがコーシャー専門の食品スーパーチェーン Hyper Cacher (イーペル・カシエ) であった。事件映像から情報を得ることができた。

(JNNのニュースサイトよりニュース映像をキャプチャ)

英語のコーシャーはイディッシュ語起源のようだが、ヘブライ語ではカシュルートである。カシュルートとはカシェル(=清浄な)という意味。スーパーチェーンの cacher(=カシェール) はそこから取っているのだろう。

おそらくテロリストはコーシャー専門スーパーだと知っていて立て籠もったたのではないかと思うが、テロリストは警察の特殊部隊によって射殺されたので真相は不明である。人質のうち4人が殺害されていたが、いずれもユダヤ系市民であったようだ。

「政教分離の世俗国家」フランスにおいて、ムスリムはいまやユダヤ系を上回るエスニック・マイノリティとなっている。

 (2015年1月10日 記す)


<関連サイト>

・・日本で「コーシャー認定」を行うハバッドハウス(Chabad House Japan)は、「超正統派のハシド派」

(2021年5月24日 項目新設)


<ブログ内関連記事>

『パリのモスク-ユダヤ人を助けたイスラム教徒-』(文と絵=ルエル+デセイ、池田真理訳、彩流社、2010)で、「ひとりの人間のいのちを救うならば、それは全人類を救ったのと同じ」という教えをかみしめよう
・・北アフリカにおいてムスリム(=イスラーム教徒)とユダヤ人は共生してきた


■「食事規制」全般とその関連

書評 『食べてはいけない!(地球のカタチ)』(森枝卓士、白水社、2007)-「食文化」の観点からみた「食べてはいけない!」

「生命と食」という切り口から、ルドルフ・シュタイナーについて考えてみる

タイのあれこれ(5)-ドイツ風ビアガーデン
・・あまり知られていないが、仏教も本来はアルコール禁止である。「タイには仏教の教えに基づいて米国以上に厳しい「禁酒法」が存在する。仏教の五戒のひとつは不飲酒戒(ふおんじゅかい)、すなわち酒を飲んではいけない、というもの」

書評 『緑の資本論』(中沢新一、ちくま学芸文庫、2009)-イスラーム経済思想の宗教的バックグラウンドに見いだした『緑の資本論』
・・いすれもユダヤ教がその起源であるキリスト教、イスラームという3つの「一神教」の経済思想について


■イスラームの「ハラール」

書評『慈悲深き神の食卓-イスラムを「食」からみる』(八木久美子、東京外国語大学出版会、2015)ー人間全体に共通するテーマを軸にしたイスラムの世界は興味深い

「マレーシア・ハラール・マーケット投資セミナー」(JETRO主催、農水省後援)に参加(2009年7月28日)-ハラール認証取得でイスラーム市場を攻略

タイのあれこれ (18) バンコクのムスリム

本日よりイスラーム世界ではラマダーン(断食月)入り
・・『コーラン』(クルアーン)に次ぐイスラームの経典『ハディース』について

書評 『日本のムスリム社会』(桜井啓子、ちくま新書、2003)-共通のアイデンティティによって結ばれた「見えないネットワーク」に生きる人たち
・この本に描かれた日本におけるハラール食品調達の苦労は、出版から11年後の2014年現在では大幅に解消されつつある

日本のスシは 「ハラール」 である!-増大するムスリム(=イスラーム教徒)人口を考慮にいれる時代が来ている
・・ユダヤ教でも「コーシャー・スシ」があることは、『回転スシ世界一周』(玉村豊男、知恵の森文庫、2004)の「スシはジューイッシュの律法にかなっているか」で取り上げられている。肉や乳製品をつかわない日本料理、とくにスシはユダヤ人にとってはありがたい存在なのだという


■ユダヤ人の食文化とユダヤ教関連

書評 『アルゼンチンのユダヤ人-食から見た暮らしと文化-(ブックレット《アジアを学ぼう》別巻⑨)』(宇田川彩、風響社、2015)-食文化の人類学という視点からユダヤ人について考える

『ユダヤ教の本質』(レオ・ベック、南満州鉄道株式会社調査部特別調査班、大連、1943)-25年前に卒論を書いた際に発見した本から・・・

きょうは何の日?-ユダヤ暦5272年の新年のはじまり(西暦2011年9月28日の日没)
・・ユダヤ教の経典『タルムード』について


■ベジタリアン

タイのあれこれ(9)-華人系タイ人の"キンジェー"(齋)について
・・ベジタリアン・チャイニーズ

エコノミー(=サード・クラス)利用で、お金を一銭もかけずに、ちょっとだけ特別扱いされる方法
・・チケットの予約段階でベジタリアン指定ができるので利用してみよう


■製品ローカリゼーション

書評 『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか-世界で売れる商品の異文化対応力-』(安西洋之、中林鉄太郎、日経BP社、2011)-日本製品とサービスを海外市場で売るために必要な考え方とは?
・・文化の内在的ロジックを知ることの重要性

(2015年2月14日・11月17日、2021年5月24日 情報追加)


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